【漆 紫穂子 氏基調講演】ROJE関西教育フォーラム2020「先生はどう働き、子どもはどう学ぶか ― コロナ禍で問う学校のあり方 ―」

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作成者:安藝 航 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2020年11月29日にYouTubeでライブ配信されたROJE関西教育フォーラム「先生はどう働き、子どもはどう学ぶか — コロナ禍で問う学校のあり方 —」内で行われた、漆 紫穂子先生の基調講演を記事化したものです。基調講演内では、漆先生が行ってきた学校改革や、これからの学校教育に必要なことについてお話しいただきました。 

※本フォーラムでは、新型コロナウイルスの感染拡大を予防するため、適切な対策を講じています。

2 基調講演

はじめに

まず、私たちの学校がどのように改革してきたかについて話したいと思います。私たちの学校はまもなく100周年を迎える、女子教育を行ってきた学校です。本校は品川にある学校なんですけれども、学校改革前は1学年が5人のこともありました。そこで学校改革をみんなでやりまして、改革を始めた年から毎年志願者が倍増して、なんとかこの学校の灯火を消さないで済みました。多くの学校が、女子校から共学校にしたり、改革の前後で先生を総入れ替えしたりする中で、私たちはこの女子教育を貫くという理念を変えずに、そして今いるみんなの力で改革を進めてきました。

教員に目を向けた学校改革

改革にあたって、まず私たちは教員に目を向けました。教員の仕事っていうのはマルチタスクなんです。担任の先生を務めながら、部活の顧問や、教務部とか進学部とか広報部というような部署担当も兼ねます。さらに、生徒だけではなくて自分より年上の親御さんとの対応、というような仕事も抱えることになります。このように、普通の会社とは異なり、教員たちはこのいくつかの仕事を一人が担当するということになります。

そのため、学校改革の一環として、まず教員たちの忙しさってどこから来てるんだろうということを多忙調査で聞きました。そこからわかったこととして、季節によって忙しさが変わるということがあります。例えば中間テストの前後は、普通に授業をしながら問題を作って採点をして返さなければならないため、とても忙しいです。一方で、夏休み中だと少し気持ちが楽になるという人がいます。そこで、私たちは変形労働時間制を導入しました。また、部活動なども自分が得意な部活だったらいいんですけど、得意ではない部活だと負担感が強いということもあります。専門性の必要な部活動にはコーチもつけました。

調査して分かったことは、忙しさそのものも辛いんですけれども、自分だけが忙しいとか、自分の苦手なことで忙しいなど、精神的なものが辛い原因として挙げられるということです。この経験から、今私が必要だと思っていることは、教員免許制度の見直しです。教員だけではなく、カウンセラーや外部指導員など様々な専門性を持つ人達で学校を助けていく体制が必要だということを強く感じています。

教育が変わる4つのキーワード

さてそれでは教育が変わる4つのキーワードを皆さんにシェアをしていきたいと思います。①ライバルは世界に個別と協働集合知非認知能力 ということを今注目しております。

ライバルは世界に

これは、私が数年前にサウジアラビアの学校を見に行ったときの話です。サウジアラビアは王国なので決断が早く、オイルの枯渇する時代を見越して人材の半分は女子だということで女子教育が突貫工事のように進んでいました。例えば、宗教上の理由で男性と女性は同じ家族以外レストランでも同じ部屋では食べられないんですけども、女性の理系人材育成のために共学にしている大学があります。どんな仕組みになってるかって言うと、1、2階が男性校舎で3、4階が女性校舎なんですよ。擦りガラスで見えなくなっていて、階段教室で教授の声だけ聞いて勉強するような仕組みでした。そこまでして、なんとか女性人材を確保していきたいということでした。

サウジアラビアでは、小さい頃から大学院まで全部学費もタダですし、女の子が留学したい場合は、女性は一人で海外に行けないので、付き添いの保護者の分まで全部お金が出ています。これは一例ですが、海外では教育にとても力を入れている国があります。

個別と協働

これは、私が数年前にオランダの学校を見に行ったときの話です。この学校では、日本の小学生にあたる頃から一人一人の端末にその子に合った教材が送られてきます。そして子どもたちは自由な場所と時間で、個別に学ぶことができます。正にアダプティブラーニングです。そのため、バカンスも自分の好きなときにとることができます。「それでは学校はいらないのではないか」と思われるかもしれませんが、そうして個人個人が深めた知識や知恵を、みんなでシェアすることで高めていく場があります。そんな個別と協働の繰り返しをしていました。

集合知

あるとき、「生徒が試験前にノートを貸すやりとりをLINE上でやってたため、30人ぐらい同じ間違いしてしまう」と言う話がでました。今はこうやってみんなに気前よくノートを貸してあげるような子がプラットホームになって、一人の知恵がみんなの知恵になる時代、つまり集合知の時代に入っていると思います。

よく親御さんにどんな風に子どもを育てたらいいですかって聞かれるんですけど、私は、気前のいい子だと思います。これからは知識もシェアの時代です。自分のものをみんなに分け与える人の流れを作っていくべきだと考えています。「教えるばっかりで損してしまわないか」ということに対しては、これはラーニングピラミッドという話もあります。賛否ある話ですが、先生の話だけを聞くだけでは定着率5%程度と一番効率が悪く、覚えたことを人に教えてあげると定着率90%で一番効率がよいとのことで、実際に教員として教えていても、これは実感しています。

非認知能力

偏差値とか IQなど数字でみられるのが認知能力と言われています。一方、偏差値や IQ に現れない、人間性やコミュニケーション能力や親切さなどを総合して非認知能力とか社会情緒的スキルと呼びます。日本ではこの研究がだいぶ遅れているんですけれども、アメリカの経済学分野などでは50年以上前からやられています。

例として、日本の研究でわかりやすいものをご紹介したいと思います。今から話す4つのしつけを全部やっているご家庭のお子さんと、1つもやっていないご家庭のお子さんだと、大人になってからの年収が86万円異なるという経済学の調査です。①嘘をついてはいけない ②人に親切にする ③ルールを守る ④勉強する 、この4つです。言いかえれば、こうした人としての基礎基本が身についている人は、信頼されて仕事を任される大人に育つということではないでしょうか。今までは知識を中心とした認知能力がとても大切でしたが、この部分は機械がある程度担える時代になっていくため、認知能力をどう使って人のために動いていくかという非認知能力が大事な時代に入ってくると思います。

デザイン思考の授業実践

そんな中で私たちの学校は、問題発見を磨くためにここ数年、デザイン思考の授業をやっています。デザイナーが頭の中で行っているプロセスを形式知化したものです。「こんなものがあったら便利だな」とか「これで困ってるんじゃないかな」と思うようなことを考え、そのアイデアを互いに持ち寄りブレストし、模型を作って分かりやすく説明するプロトタイピング、最後にプレゼンテーション、そして実行までやっています。今までは先生から与えられた問題に正解を出すということが大事な時代でした。しかしこれからは「多分これが一番良さそうだ」と思うような最適解を、みんなで作って実行してみる時代に入ってきたと感じております。

この活動の一環として、実際に実行する力を身につけるために、企業とのコラボレーションをやっています。親や教員以外の大人である企業の方々と生徒が一緒になって、「こんなものがあったらみんなが便利になるんじゃないかな」と思うような商品を作っています。これをやってみて思ったことは『世の中って100教科だ』ということです。学校は10教科ぐらいで評価しますが、10教科すべて苦手な子もいて、自信をなくしてしまうということがあります。

「牛乳に相談だ」というCM を電通さんと中央酪農会議さんと三者コラボで作った時のことです。これを審査してくれる CM クリエイターの方が私に、「あの辺の班に才能のある子がいますよ」と教えてくれました。私は「どんな才能ですか」と聞きました。そしたらその方がとても真面目な顔で、「くだらないことを次々と思いつく才能です」と言ったんです。授業中にそんなことを喋っていたら叱られてしまうことも多いのですが、クリエイターにはとても大切な才能だと教えてもらいました。そしてその子に、「あなた才能あるって言われてるわよ」と伝えました。その時点でその子の成績は振るいませんでしたが、その経験から自信がついて目標ができ、それを叶えるためにとどんどん勉強もするようになりました。結果としてその後は夢を叶えていきました。

企業体験の授業実践

高校生に向けては起業体験プログラムをしています。どんどん人が減っていくこれからの日本で大切な人材は、ゼロからイチを作れる人だと思います。そうした起業家精神、アントレプレナーシップを育てたいと思います。文化祭を活用して、1つのクラスを会社として、そして何か社会の役に立つような事業を起こすということをやっています。例えば、シャッター商店街化しつつある近所の商店街とコラボをして、米粉を使ったお菓子を作り、品川区の認定土産になって成人式の引き菓子にも使われたクラスもありました。他には、盲導犬と犬種が同じサンリオのポムポムプリンというキャラクターとコラボしたタオルを作って、文化祭に盲導犬を招いた普及活動をして、売り上げを寄付するというクラスもありました。

さいごに

このような活動の結果、私たちの学校の生徒たちは大学の名前ではなく、未来の様々な仕事から逆算した進学系統へ進んでいくようになりました。このような実践は東京の私立だからできると思われるかもしれませんが、実際このような活動を総合や探究の時間を使って、地元の企業の方々とやってらっしゃる学校は地方にもたくさんあります。

さいごに、今年オンライン授業をやってみたことについてお話しします。普通だったら3年ぐらいかかるような改革が、3週間ぐらいで進んだ実感です。そのため、やれないと諦める前にやると決めてやると、できるんだなと実感しています。これからはそうしたできないことを乗り越えて、ハイブリッドな授業をするなど学校をどんどん変えていきたいと思っています。ありがとうございました。

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4 登壇者のプロフィール

品川女子学院 理事長。創立1925年の中高一貫校・品川女子学院6代目校長を経て、2018年より現職。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科卒。教育再生実行会議委員(内閣府)。同校は1989年からの学校改革により7年間で入学希望者数が30倍に。「28プロジェクト」を教育の柱に社会と子どもを繋ぐ学校作りを実践している。近著『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』(かんき出版) (プロフィールは全て2020年11月時点のものです)

5 編集後記

学校改革の最前線で活躍されている漆先生だからこそ感じるこれからの学校教育の在り方について伺うことができて興味深かったです。私たちの団体も記事を通して『集合知』に貢献したいと感じました。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 安藝航)

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