映像から広がるパラリンピック教育の可能性 (特集企画 #05)

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作成者: I’mPOSSIBLE 日本版事務局さん

1 はじめに

コロナ禍で先生方も子どもたちも時間に追われる中、パラリンピック教育をどう進めたらよいのでしょうか。

第5回は、WOWOWコンテンツ制作局制作部 パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』チーフプロデューサーの太田慎也さんと、国際パラリンピック委員会教育委員、⽇本財団パラリンピックサポートセンターのマセソン美季さんが、限られた時間でも子どもたちを引き付ける映像コンテンツの可能性に迫ります。
ぜひ、『I’mPOSSIBLE(アイムポッシブル )』日本版公式サイトから実際の教材や映像も合わせてご覧いただきながらご一読ください。
公式サイト

パラリンピックの魅力や意義を伝えようと奮闘するマセソンさん(写真左)と太田さん(写真右)

2 対談について

パラスポーツの迫力はもちろんのこと、パラアスリートの魅力が詰まった言葉、そしてパラリンピックの価値を感じ取ることができるパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』をご存知でしょうか。

『WHO I AM』は『I’mPOSSIBLE』日本版(以下、『I’mPOSSIBLE』)にも映像が採用されているので、すでにご覧いただいている先生方もいるかもしれません。

この度、新ユニット<東京2020スペシャル②>「東京2020パラリンピックのレガシーについて考えてみよう!」のコンテンツとして、『WHO I AM』を編集した映像資料『選手たちの想い〜スポーツ以上の役割をもつパラリンピック』が登場します。
そこで、今回は、『WHO I AM』制作を通して世界中のパラアスリートに会ってきた太田さんと、『I’mPOSSIBLE』普及などのために世界を回ってきたマセソンさんの対談をお届けします。

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☆パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』とは?
パラリンピックを主催する「国際パラリンピック委員会」と、スポーツや映画をはじめとする上質なエンターテインメントを放送・配信している「WOWOW」の共同プロジェクト。
東京パラリンピック開催とその先の未来社会を見据え、世界最高峰のパラアスリートに迫る大型シリーズで、国際エミー賞にノミネートされたのをはじめ、科学技術映像祭・文部科学大臣賞、⽇本⺠間放送連盟賞 特別表彰部⾨・⻘少年向け番組の優秀賞に選出されるなど国内外から多大な評価を得ている。
『WHO I AM』についてはこちら:https://www.wowow.co.jp/sports/whoiam/
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「パラリンピアンを応えんしよう!」(授業No.2-8)ではタチアナ・マクファデン選手(アメリカ/陸上)、リカルド・アウヴェス選手(ブラジル/5人制サッカー)、木村敬一選手(日本/水泳)の映像が活用されています(リカルド選手は小学生版のみ、木村選手は中学生・高校生版のみ)。

若い世代に訴えかける映像の力

太田さん:

『WHO I AM』は最初から、教材化を見据えて制作していたわけではありません。WOWOWとして、東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まるとしたら何をやろうかと話し合った末に、パラリンピックをテーマにオリジナルドキュメンタリーを制作したいということになり、『WHO I AM』のプロジェクトが始動。とにかくいい作品を作りたい一心で、必死に走りました。明るくて親日家の片足のスイマー、エリー・コール(オーストラリア)、卓球でパラリンピックを4連覇し、オリンピックにも3大会連続出場を果たしているナタリア・パルティカ(ポーランド)など……取材を通して多くの魅力的なアスリートたちに触れるにつれ、なにか心が洗われていく感覚になりました。共生社会の実現を目指すうえで、社会を変えるには、一人ひとりの意識が変わることが大事だと考えています。しかし、やはりどうしても多くの大人はいろいろな経験をしているからか、なんでも予定調和を前提に“できない”と思いがちです。だからこそ、『WHO I AM』を教育現場で使ってもらい、子どもたちに何か感じてもらいたいと願うようになりました。

マセソンさん:

実は、『WHO I AM』の評判は、国際パラリンピック委員会(IPC)の教育委員の集まりで聞いていました。その後、素晴らしいコンテンツを教材として活用させていただきたいとWOWOWさんに連絡を取りました。

私たち、I’mPOSSIBLE日本版事務局では、教材に活用する映像にはこだわっています。「パラリンピック」というのは言葉で聞いたことがあっても実際は知らないという子どもたちは少なくありません。その点、映像があると子どもたちが一気に前のめりになりますし、従来の文字と写真の教材だけでは伝わりにくい雰囲気とか競技の映像が与える鮮明なイメージも持ってもらえます。また、先生の力量だけでなく、映像のインパクトのお陰で効率的に授業を進められるのも映像コンテンツの長所です。ぜひ活用させていただきたいとお願いしました。

特に『WHO I AM』がパラリンピック教育の教材としてふさわしいと感じたポイントは、“障がいのある人を特別扱いしない目線”です。『WHO I AM』は選手たちをリスペクトした上で等身大の姿を伝えています。これまで障害のあるアスリートを扱った映像の中には、撮影する側の戸惑いやぎこちなさも映像ににじみ出ている場合、ときにパラアスリートの物語が美しくつくられすぎることに違和感を持つこともありました。その点、『WHO I AM』は元アスリートとして、また障害当事者の私が見ても、とてもすっきり気持ちよく描かれていると感じます。

特別扱いしなくていい。それを子供たちに伝えていかないと、いつまでたっても偏見などなくなりませんし、インクルーシブな社会の理解など到底進みようがありませんから。

太田さん:

有料放送であるWOWOWでは、注力してオリジナルドキュメンタリーを制作しても、広く世間に知っていただく前に放送を終えてしまうというジレンマがあるんです。それもあって、IPCや選手たちからは、放送以外の用途でも映像を活用できるよう協力を得られる形にこだわって制作しました。だから、映像を基軸にできることは何でもやってみようと、イベントを開催したりコミックを作ったりと幅広く展開させていきました。その一環として、大学で講義をさせていただいたら、想像以上に映像への評判がよく、関連するパラアスリートの話にも興味深く耳を傾けてくれました。それで、若い世代への訴求力に大きな手ごたえを感じ、いろんな大学を回りながら、思い浮かぶあらゆる関係者に「教材になりませんか」と触れ回っていたんです。それが実を結んでか、I’mPOSSIBLE日本版事務局から教材化相談の連絡をいただきました。

マセソンさん:

『I’mPOSSIBLE』の全国無償配布が始まったのは2017年です。公式ホームページには実際に教材を使った先生からお寄せ頂いた活用事例も掲載しています。小学校から高校まで幅広い事例が紹介されています。教材がいろんな形で利用されている様子が伝わってくるので、事務局の私たちもすごくやりがいがありますし、こういう工夫もあるのだと逆に先生たちから私たちが教えられています。

また、新年度になり、パラリンピックが近づいてきていることもあって事務局への問い合わせが急増している感覚もあります。ただ一方で教材の存在を全く知らない人がいるのも事実なので、できるだけ多くの人に教材の存在と魅力を届けたいと思っているところです。

太田さん:

以前、映像が実際にどのように活用されているかをフィードバックしていただき、それを選手たちに伝えたら、すごく喜んでくれました。とくに海外の選手たちは、トップアスリートとして自分たちが社会の中で果たす役割というのを常々考えて活動しています。「多くの子どもたちが見てくれてインスパイアされたと聞いたよ」と話したら「いいね!」「とっても嬉しい!」と返してくれた選手もいて、私たちもうれしかったです。

WOWOWとしては、東京2020大会以後も『WHO I AM』プロジェクト活動を続けていきたいです。続けることを威張るのではなく、当然のようにできたらいいなと思うので、現在いろんな議論を重ねているところです。

一方で、真の多様性を考えるのであれば、パラスポーツだけを取り上げるというのが逆に何かを型にはめてしてしまっているのではないかという感覚があって、継続するとすれば、これからは広くスポーツや、あるいはエンターテインメント全般などに領域を広げて、より多様性のある方向に発展させていくのはどうかなどと議論しながら考えています。その中に、パラアスリートが入っていることは、ごく自然なことだと考えています。

新教材の映像で伝えたいメッセージとは?

マセソンさん:

さて、『WHO I AM』の映像で構成していただいた授業用の映像「選手たちの想い ~スポーツ以上の役割をもつパラリンピック~」が、新教材の一部として公開を迎えました。私たちから太田さんたちにリクエストしたオーダーはすごく漠然としていて、1つは授業のオープニングで使用することから、パラリンピックの興味関心を引き出せるようなインパクトのあるもの、もう1つは、IPCがめざす「パラリンピックを通じた共生社会の実現」を選手自身が願い、語っているのならば、それを見せたいというものでした。そしたら……ものすごくかっこいいものを作り上げてくださったんです。

太田さん:

最初に事務局の皆さんと打ち合わせをしたとき、「パラリンピックのレガシー」や「社会変革に影響を与えたいと考えているアスリート」について映像で発信したいというお話をいただいたのですが、私たちのやってきたことと近しいと感じました。それで、今回の映像は「選手たちの言葉」を主役にして作ったらかっこいいんじゃないかと思って、さっそく打ち合わせ後にこれまで会った選手たちの印象的な言葉を書き連ねて事務局に提案させていただきました。また、映像の冒頭には「スポーツの祭典パラリンピック」とタイトルを入れています。「パラスポーツの祭典」ではなく、「スポーツの祭典」というところがこだわりポイントです。

これまで『WHO I AM』では32人のパラアスリートを取り上げてきましたが、彼らは「障がいがあるのに頑張っている」、「目が見えないのに頑張っている」わけではなく、とにかく物事を前向きに考え、生きる人の人生は輝くんだということを示してくれました。

マセソンさん:

パラリンピックの魅力を伝える言葉、アスリートとしての強さを感じる言葉、観る人の価値観を変えてくれるようなインパクトのある言葉……映像に採用したい言葉がたくさんあって選ぶのに苦労しましたが、最終的に、イギリスの陸上競技のヒーロー、ジョニー・ピーコック選手、車いすテニスで日本の女子をけん引する上地結衣選手ら5人の言葉を入れて完成しました。

太田さんたちには映像に登場する選手の順番などプロの視点でいろいろ提案していただきました。たとえば、パラリンピックを「パラスポーツの祭典」ではなく、「スポーツの祭典」と表現するアイデアなどは、当事者としてとてもうれしかったです。子どもたちに「パラスポーツの祭典」と伝えると、何か別枠のように思われてしまう懸念もありますから。

東京パラリンピックはぜひ現地で見てもらいたいけれど、いろいろな事情で観られる人は限られると思います。それでも映像の力を借り、パラリンピックを感じてもらう機会を届けられるなんて、素晴らしいことです。

コロナ禍だからこそ活用してほしい教材

太田さん:

昨年、新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まり、世界中が困難に直面しました。私も最初は正直、途方に暮れていましたが、こんな時こそ、皆でシェアできることもあると考えるようになりました。『WHO I AM』を活用してもらい、「前を向く大切さ」や「小さくてもいいからポジティブな要素を見つけて大事に育てる大切さ」などを感じてもらいたいと思ったからです。

さらに、東京パラリンピックの延期が決まった後、取材したアスリートに連絡を取って彼らからのメッセージを集めたのですが、選手たちのメッセージはコロナ前とそう変わらないんだと発見がありました。「東京パラリンピックが延期になって大変なのはみんな一緒、トレーニングできる1年をもらった」という選手もいれば、「人生をより大切なものに感じる1年になるんじゃないか」と話したり、「感染拡大が深刻な他の国のこと考えると延期はいい判断だと思う。舞台に立つ選手みんながフェアであるべき」と考えていたりする選手もいました。

マセソンさん:

2020年3月に日本の学校も緊急事態宣言が発出され、宣言解除後学校が再開してからは、現場の先生方は授業の時間を確保するのにすごく苦労されていると聞きました。また、パラリンピック教育に時間を割くことが難しいという声もたくさん届きました。ですが、不安とか不満とか不便とかいろんなことでストレスが溜まる状況だからこそ、パラリンピックの選手たちが持っている強さやしなやかさ、理不尽な困難に立ち向かう力を、「子どもたちの生き抜く力」にしてもらいたいと考えました。

教育現場でもデジタル化やオンライン化が急速に進み、オンラインで対応できるコンテンツという需要も湧いてきたので、短時間でパラリンピック教育ができ、先生たちに手間をかけない<15分版>の映像コンテンツを作成しようと事務局で話し合いました。そこで既存の『WHO I AM』を再編集した映像を活用する新たな教材を『I’mPOSSIBLE』のホームページでダウンロードできるようにしたのですが、今やすべてのコンテンツの中でも特に人気のコンテンツとなっています。これまでは教材用の映像もDVDに収録して紙の教材と一緒に全国の学校に配布していたのですが、この<15分版>はWEBページにデータをアップしただけにもかかわらず、短期間で多くの現場に届けることができました。映像コンテンツの力に驚くとともに、今回の新教材と映像もより多くの皆さんに活用していただきたいと願っています。

3 おわりに

 お二人の対談からは、パラリンピックやパラアスリートの映像は、子どもたちの興味を引き付けるだけでなく、教育で伝えたいメッセージをしっかり伝えられる貴重な素材だということが読み取れます。ぜひ映像を活用してパラリンピック教育に取り組んでみてください。
 新教材も、『I’mPOSSIBLE』日本版公式サイトで公開されています。ぜひ一度ダウンロードしてみてください。
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