米カリフォルニア州公認心理カウンセラーが語る「コロナ禍の子どもたち・親へ。学校の先生ができること」

3
目次

1 はじめに

本記事では、カリフォルニア州で心理カウンセラーをされている荒川龍也先生よりいただいた原稿をもとに、コロナ禍の子どもたちや子どもたちの親に対して学校の先生がどのように関わることができるかについて説明しています。子どもの自殺者数が急激に増加しているとされるコロナ禍の時代において、子どもに対して先生や親などの身近な大人が何ができるかを考えるための手助けとして、ぜひお役立てください。

コロナ禍によりどのように子どもたちが心理的影響を受けているかについては「コロナ禍の子どもたちにはどのような心理的悪影響がおよんでいるか」をご覧ください。

2 先生ができる子どものこころのケア

新型コロナウイルスが子どもに与える影響は深刻です。それでも先生が子どものこころのケアのためにできることは多々あります。ここでは先生が子どものこころの健康のためにできることについてご紹介します。

2.1.傾聴すること

子どもと関わるうえで最も重要なことは、先生が子どもの話を聞いてあげること、つまり「傾聴すること」です。一口に傾聴といっても実はかなり難しく、傾聴のプロである心理カウンセラーでもできていない人が多くいらっしゃると思います。その中で、よくある間違いが「〇〇した方がいい」「〇〇じゃだめ」などのアドバイスを与えてしまうことです。子どもの話を傾聴するのではなく、アドバイスを与えても「理解されていない」と感じてしまい、逆効果です。そうではなくて、子どもが何を考え、感じているのかを言葉にしてあげることに一点集中しましょう。

また、話を聞いてあげることができる環境づくりも大切です。どれほど先生が意気込んで話を聞いてあげようとしても、そのような機会が無ければなかなか先生に助けを求めづらく感じている子どももいることでしょう。たとえば、家庭訪問をZoomで行うなど、子どもと1対1の時間を増やしていくのはいかがでしょうか。

2.2.セルフ・ケアを教える

セルフ・ケア(自分自身のケア)の大事さを教えることも、子どもが心の健康を保つために大変重要なことです。子どものセルフケアには友達と遊ぶ、運動をする、好きな本や漫画を読む、好きな音楽を聴く、好きな映画を見る、好きな食べ物やおやつを食べる、話(悩み等)を聞いてもらう、瞑想をする、何もしない時間を作る、家族と楽しい時間を過ごす等々、様々な方法があります。その方法を子どもに教えることがこころの健康に繋がることを教えてあげましょう。

2.3.感情に気づき、話す

心の健康にとって最も重要なことの一つが、「自分の感情に気づき、それを誰かに話すこと」です。そのためには、感情を言葉で表すことができなければいけません。日本では感情を言葉で表すことがあまり推奨されていないため、大人でも苦手な人が大勢います。まずは、先生自身が感情を言葉にできるようになり、それを子どもに教えていくといいでしょう。

2.4.SST(ソーシャルスキルトレーニング)

ソーシャルスキル(他人と良い関係を築き、社会に適応するために必要な能力)を教えることも効果的です。非常に生きづらい今の世の中、イライラしている親は大勢います(イライラして当然です)。親がイライラしていれば子どももイライラしやすくなり、その結果として子ども同士の喧嘩も増えていることもわかっています。まずはこのような状況ではイライラして当然だと、子どもを理解してあげましょう。その後に、どのようにすれば友達との問題が起こらなくなるか、また、起こってしまってもどう解決できるか、先生が考え得る状況を設定して、それをどう解決していくかをロールプレイや例題等で練習させてはいかがでしょうか。

2.5.子どもとの関係を良くする

親と子どもとの関係を良くすることも子どもに良い影響を与えてくれるでしょう。親は信用できないけれども先生なら話ができるという子どもは少なくはないでしょう。どの年齢であっても親以外の信頼できる大人の存在というのは想像以上の力になってくれます。

必要に応じてこころの専門家に繋げる

そして子どもの心の病の可能性を示唆するサインを見逃さず、必要であればこころの専門家に繋げることができるのも先生ができることです。子どもの心の病のサインに関して、詳しくは見逃さないで!子どもの「心の病のサイン」をご覧ください。

先生ご自身の心のケアも

子どものためにも先生自身の心のケアを怠ってはいけません。前述したように、先生は子どもにセルフケアを教えなくてはいけません。しかし、そのためには先生がセルフケアを率先してやっていかなければ説得力に欠けてしまいます。日本人の文化として、我慢することが美徳というものがあり、働きすぎることが当たり前になってしまっています。最近では学校の先生の多忙化について問題視されてきていますが、それでもまだまだ根強く残っています。我慢は必要ですが、我慢のしすぎは心の健康に良くありません。普段からセルフケアをこころがけることにより心の健康の管理をしましょう。

3 こころのケアのために先生が子どもの親に対してできること

子どもの心の健康を守るためには、親が率先して子どもの心の健康のケアに努めなければなりません。以下、先生が親に教えられる、子どもに対して親が気を付けるべき点です。

3.1.子どもの話を聞いてもらう

最も重要なことが、「子どもの話を聞いてあげること」です。大人でも今の状況は不安や心配を抱えるので、子どもはもっと不安を抱えています。話を聞いてあげることで、子どもは「不安になってもいい」「親に守られている」という感覚を得ることができます。話を聞く際は、何かを指示するのではなく、子どもの話を聞いてあげましょう。相槌を打つこと、そして話を要約することのみを心がけましょう。

また、子どもの心の健康に良くない最近の親の行動の傾向として、親がスマホを見すぎていることがあります。これでは子どもの心の健康が良くなるどころか、「関心をもってもらえていない」という感覚になり、「自分は親にとって重要な存在ではない」と思わせてしまっても不思議ではありません。子どもといる時は、子どものみに集中することをお勧めします。

3.2.生活をルーティン化する

子どもの生活をルーティン化させることも重要です。決まった時間に決まったことをすることで、子どもは毎日何が起こるのか予測することができます。これは子どもの不安の減少にもつなげられます。

毎日のルーティンの中に、体を動かす時間を作りましょう。また人間は、体を動かすことで気分が良くなるようにできています。その際に、有酸素運動(ランニング、スイミング、バイク、ウォーキング等)が望ましいでしょう。

3.3.人との繋がりを保つ

人との繋がりは心の健康に必要不可欠です。確かに新型コロナウイルスの恐怖はありますが、マスクをつけることや、ソーシャルディスタンスを保つ等、社会的に推奨されていることをしっかり守れば、子どもが他の子どもと遊ぶことは可能です。

4 おわりに

残念ながら、新型コロナウイルスの脅威は今後も続いてしまうことが予想されます。だからこそ、先生の存在は子どもにとって、自身が思っていらっしゃる以上の大事な存在であることでしょう。学習を心配することももちろんですが、心と体の健康がなければそもそも学習どころではありません。これを機に、まずは子どもの心のケアを第一に考えて頂くことで、子どもも大人と一緒に新型コロナウイルスと向き合っていくことができるでしょう。

本記事では、学校の先生が子どものこころのケアのために何ができるかについてご紹介しました。

新型コロナウイルスが子どもに与えている悪影響について説明している記事「コロナ禍の子どもたちにはどのような心理的悪影響がおよんでいるか」もありますので、そちらも合わせてご覧ください。

5 プロフィール

荒川龍也/カリフォルニア州公認心理カウンセラー(LMFT #82425)

富山生まれ、名古屋育ち。10代でいじめや教師からの体罰に苦しむ。中学時にはいじめが原因で一部クラスを不登校。小学校高学年頃から精神的な病を患い、16歳で高校中退。2年間のカウンセリングのおかげで、定時制高校に入学。愛知県の大学院教授からアメリカの心理学は日本より100年先を進んでいると聞き、心理カウンセラーを目指して渡米。カリフォルニア州立フラトン校大学院カウンセリング専攻卒業。大学院卒業後、3000時間のインターン時間を終え、国家試験を二つ合格し、現在のカリフォルニア州公認心理カウンセラーの資格を取得。子どもとその家族、重度の精神障害者とその家族、薬物中毒のクライアント等、多岐にわたり経験を積む。

現在はカリフォルニアのロサンゼルス近郊で開業し、カウンセリングを提供。専門は、子どもとその家族、不安とうつ病。

↓荒川先生のHPについてはこちらをご覧ください。

https://japanlatorrancecounseling.com/
(本プロフィールは2020年12月22日時点のものです。)

6 編集後記

本記事は、子どものこころのケアのために学校の先生は何ができるかの実践方法について、具体的に知ることができるのではないかと思います。こころのケアの実践方法を知ることで、日常的にお忙しい先生方が子どもに指導する際の一助となれば幸いです。
(編集:EDUPEDIA編集部 加藤)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次