1 初めに
本記事は、2018年5月12日に開催されました「第1回EDUPEDIAスペシャルセミナー」での内容を記事化したものになります。現在も小学校で教員をなさっている元木幸三先生の実践内容になります。今回は、小学校の英語教育によって話せるようになる「英語即興寸劇」という実践をお聞きしました。
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2 実践内容
今回私がお話ししたいのは、「英語即興寸劇」についてです。現在はさまざまな教科書や副読本がありますが、この英語即興寸劇は教員だからこそ開発できたものです。基本的に、子どもは劇が好きです。そして、クラスの担任だからこそ、即興寸劇を人権教育の一環として子どもたちに行わせることができます。このような視点でこれからの紹介を見てもらいたいと思います。
低学年の間は、英語の歌やチャンツを通して楽しくリズミカルに学べば間がもちます。しかし、中高学年になると、これではなかなかモチベーションの維持ができません。そのため、即興寸劇のように、子どもが興味を持って英語を話せるようにする「工夫」を取り込みました。
英語即興寸劇の話をする前に知っておいてほしいことが、1点あります。それは即興寸劇と英語劇は違うということです。よく『桃太郎』の英語劇が英語の教科書に載っていますが、これは覚えたものを劇にするものです。即興寸劇はそうではなく、その場で劇を作るものなのです。
私が今から説明する「英語即興寸劇」とは、例えば、5人でグループを組み、いきなり‘airport’や‘hospital’というカードを渡され、彼らの間で15分ほど相談して劇を組み立て、発表をするという形式のものになります。
・英語即興寸劇の実践方法
①英語の表現を練習する
子どもたちに感情を表す英語を豊かに表現できるように練習させます。
例えば、 “I’m sick.”や “I’m sad.”等の感情表現は気持ちを込めて話す必要がありますので、これらの感情表現を徹底的に動作化して行いました。
感情表現が上手くできるようになれば、次に笑う・泣く・怒るなどの演技の即興表現に必修の英語を当てはめていきます。例えば、“I want be ○○.”「私は○〇になりたいです」などのよく使う動詞・文型を徹底的に教え込みます。
②相手を評価する言葉を覚える
しかしその前に、後から他のグループと見せ合うので評価言葉(良い評価から順に、the best, excellent, great, nice, good, ok)も先に教えてしまいます。
そして、評価の文章としては、
- “Please speak in a loud voice.”(大きい声でお願いします)
- “Your voice is very loud.” (あなたの声、とても大きいです)
- “ You can speak a long sentence. I think your English is good. ”(とても長い文を話せてますね、あなたの英語良いと思います。)
などと、子どもたちに英語で話させることで、子どもたちの評価言葉を鍛えます。
③お題を与える
次に、いよいよ与えられたお題で「英語即興寸劇」を作らせます。
授業などで英語に触れさせているので、子どもたちは分かりやすいお題を与えられるとすぐに頭でイメージすることができます。例えば、‘Fighting with my friend’(友達とけんかしている)、 ‘Talking with a friend at school’(学校で友達と話している)など、先に動きが分かりやすいお題を与えます。
そして、10分ほどでグループの人同士で相談しながら内容を組み立ててもらいます。劇なのでもちろん教室にあるものを小道具に使用しても問題ありません。そして10分後に、子どもたちに発表会をしてもらいます。
初めは簡単だったお題も次第に複雑になっていきます。‘in the airport’, ‘ in the hospital’ , ‘on the road’という場所を示す英語を提示された際に、子どもたちに「in とonはどう違うのだろう?」と文法的に疑問を抱いてもらうことができます。ただし、この即興劇の時間内できちんとした文法を教えることはしません。
④成長セッションを付ける
最後に大事なのは劇が終わった後に、成長セッションをすることです。
これは何かと言いますと、今回寸劇で演じたことの感想を話し、自己評価、他己評価を行うことです。そして、自分たちの成長や目標達成度を黒板に英語で書いていくのです。
即興寸劇のポイントとしては、後に詳しく説明しますが、ルーブリックを自分たちで決めているのであるべき姿をイメージできること、面白い英語を集めた自分だけの英語辞典が作成できること、そして日常生活でも誰でも巻き込み常に英語を話すことができることです。自己評価カードを使って自分の評価や友達の評価を確認することも大切なことになります。
・英語即興寸劇の特徴
英語即興寸劇の特徴としては、「その場でお題が与えられる」「その場で考える」「その場でイメージをふくらませる」「その場で配役を決定する」「その場で台詞を選ぶ」ということがあります。
特に、その場で配役を決めるときに、人権教育の要素がみられます。「〇〇くんはこんな特徴があるからこんな役がいいよ」と、子どもたちが初めて同じグループになったのメンバーで話し合うのです。
また、英語即興寸劇の中には、かならず‘punch line’が登場します。日本語で言うと「オチ」のことです。その上、短時間で劇を完成させるという縛りがあるため、子どもたちはオチを一生懸命考えます。
または、キーワードを与えて考えさせることもあります。「今日は”Here you are.”という言葉を必ず使おう」といった課題を与えることもあります。
この劇を通して身に付けたい力としては、「即応力」「発想力」「表現力」「行動力」「なんとか英語を話そうとする力」が挙げられます。最後に挙げた「なんとか英語を話そうとする力」は、今の文法と長文読解を重視している英語教育の方法ではなかなか身に付きません。
英語即興寸劇を通して子どもたちはまず知的好奇心をくすぐられます。それから、嬉々として取り組みながら、健全な人間関係を構築していきます。喜びながら人間関係作りができるのです。
授業の題名は、“Let’s Enjoy Our English Dramas!”
‘dramas’と複数形になっているのは、いろんなグループで劇をたくさん作るという意味です。目標は、感情豊かに表現しながら、英語即興寸劇を楽しむことです。
・単元の評価基準
単元の評価基準としては、「課題追求力」「情報活用能力」「コミュニケーション能力」「友だちとの協力」「生活に活かそうとする態度」が挙げられます。これは、総合的な学習の時間と重なる部分が大きいです。
「課題追求力」としては、今までに習った英語を使って粘り強く積極的に即興寸劇を作りあげることが求められます。もちろん英語の授業で、この即興寸劇だけを毎時間行っているわけではありません。基礎の英語を、英語の時間だけでなく朝の会の5分~10分程度を使って学んでいるのです。また、数学や体育、他の授業でも数字や評価を言い渡すときなどに英語を使っていきます。例えば、体育の授業で「いち、に、さん、し」を”one, two, three, four”に変えるだけでも、英語に親しむことができます。また、”Ready go.” “Make a circle.” “Make a line.” “Attention.”などの表現も体育の中で使うことができます。このように工夫をするだけで、学校生活の中でずいぶん英語を話せるようになっています。英語の時間だけ英語を使おうとするから、英語を話せるようにならないのです。このようにして、好奇心をくすぐりながら英語即興寸劇に取り組ませることが大切な目標です。
情報活用能力としては、担任やALTに尋ねながら和英辞典を自分で作ることなどが挙げられます。例えば、子どもが「なんでやねん」って英語で何と言うのですかと先生に聞いて、そこで教えてもらった言葉を子どもたちに書きとめてもらうことで子どもたちそれぞれの「自分英語辞典」を作ることができます。
コミュニケーション能力としては、誰とでも気軽に積極的に英会話を楽しむことが求められます。
友だちとの協力としては、友だちと知恵を出し合いながら英語即興寸劇を作りあげることが求められます。
生活に活かそうとする態度としては、他の授業や生活の中でも英語を使うことが求められます。
・ルーブリックの作成
続いて、子どもと共に作成するルーブリックについて話します。ルーブリックというのはお手本です。
例えば、課題追求力のルーブリックは、
- A:積極的でやる気がある
- B:やる気を出してなんとか頑張る
- C:消極的でやる気に欠ける
コミュニケーション能力のルーブリックは、
- A:全身を使って話す
- B:身振り手振りを使って話す
- C:何も言わない、何もしないでただ後ろに手を組む
これらの評価項目は、子どもたちから出た言葉です。このように、子どもたち自身がルーブリックを作っているのです。
このようなルーブリックの授業は非常におもしろいです。英語以外でもぜひ取り入れてみてください。
例えば、水泳で25mを泳ぐというとき、
- A:綺麗なフォームで速く泳ぐ
- B:綺麗なフォームで泳ぐ
- C:なんとか泳ぐ
というルーブリックを作るのもおもしろいです。
他にも、例えば「廊下や階段を静かに歩こう」という生活目標があれば、どのようなルーブリックができるだろうかと考えることもできます。
自分たちのあるべき姿を、各教科のポイントごとに問いただしてみると、かなりよいルーブリックができあがります。
・まとめ
「即興寸劇」を通して子どもたちは英語の面白さや特徴を改めて知ることができます。単に英語を学ばされているだけでは見知らぬ外国人に話しかけることは難しいです。
また、私がこの実践授業を通して成長していく子どもたちを見守るうちに、子どもたちは英語を話すことができるようになれば、性格も明るくなるということにも気づきました。
そして、子どもたちは友人と協力し合って1つのドラマを完成させる過程で友達を見つめることで、友達の長所を発見し、友達を大切にしようとする心を育てることもできました。
自身が十数年前に考案し実践した授業ですが、現在も毎日朝礼から子どもたちが家に帰るまで英語で話しかけています。その結果、4月にはほとんど英語を話せない子どもが1年後にはかなりのスピードと迫力で話せるようになります。我々教員は昔、中・高・大と10年間英語に親しみながらも英語を話せない人間を生み出していました。それは、英語の授業の主題が英文法を教えることだったからです。しかし、これからは英語を教えること、そして英語を使うことを念頭に置いて授業を進めていかねばなりません。
「英語即興寸劇」こそ、子どもたちが話そうとする英語活動の一歩となると信じています。
3 プロフィール
元木幸三(もとき こうぞう)先生
小学校教諭。兵庫県、大阪府、三重県等を中心に、英語活動や道徳、総合的な学習の時間の講師として活躍している。出版物として、単行本「子どもの興味関心を学びにつなげるカリキュラム」(学事出版)がある。「プリンシパル」「授業のネタ」等の教育雑誌にも連載していた。受賞歴は「第十七回東京書籍教育賞で優秀賞」「日本標準教育賞優秀賞」等がある。また、平成16年8月に、「NHK子ども週間ニュース」に出演した。今は特に英語を話そうとする小学生の育成を目標にして、「英語即興寸劇」や「ピンポンイングリッシュ」を開発して小学校英語の研究、開発に力を入れている。(平成30年5月12日現在)
4 編集後記
改めまして、第1回EDUPEDIAスペシャルセミナーにご参加いただいた皆様、大変ありがとうございました。
文法・構造を中心にした英語教育から話せる英語を中心にした英語教育へ転換していくことにはとても意義があると思います。そして英語の授業内で「英語即興寸劇」を行ったり、他授業を行う際に英語を取り入れることによって、今より英語を話せる人材が増えていくのでは、と思いました。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 中澤歩・津田佳歩・潮龍太・山本裕佳・風間志門・倉橋俊平)
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