社会科の教材開発 2

1 ケース2 ~未来の教材も、先を見通して、レッツ、チャンレンジ!~

扱う教材を,例えば,現在,過去,未来という分け方にしてみます。
社会科の教材開発ケース1では,「ため池づくり」という過去の事例を取り上げました。

今回は、当時(平成18年度)から見ると未来の「裁判員制度」について教材開発をした経験を紹介します。

平成21年5月から開始された裁判員制度、平成17・18年度の頃は,裁判所や法務省などが広報活動はしていましたが、一般的には裁判員制度の概要自体も十分には浸透していなかったように記憶しています。

学校教育については、学力低下が叫ばれる中、新指導要領の改訂に向けて、中教審の話題がよく出ていました。社会科教育においては、時数増、都道府県の名称や位置、自然や文化伝統、法やきまり等の追加が伝えられていました。
 
次期改訂で「法やきまり」が追加されることについて,文科省の安野功教科調査官がよりよい社会の形成者としての資質や能力を育てる観点から入ったと書かれていました。

私は社会形成論の立場から実践研究をしていたので、社会科教育の動向に注目しながら、特に「法やきまり」に関心をもちました。また、個人的に裁判員制度に大変興味をもっていました。裁判に一般人を入れるという非常に画期的な制度だと思ったからです。外国には陪審制などがあることは知っていましたが、日本では想像できませんでした。私は、「法やきまり」で裁判員制度を扱うことが、新学習指導要領の先取りになり、提案性のある教材になるのではないかと考え、模索するようになりました。

(教材開発の手順)※「裁判員制度」の場合

まず、裁判員制度そのものを調べることにしました。裁判員制度の関連の本は雑誌まで含めると7~80冊程ありました。また、DVDや映画にもなっていることをはじめて知りました。私は片っ端から借りて(学校用貸し出しだと個人的でも3、40冊貸し出し可)、教室に裁判員制度コーナーを設けました。裁判員制度に関する新聞記事も収集しました。 

当然のことながら、裁判員制度に対しては、賛否両論があります。中にはかなり激しい反対論もあります。世論調査によると75%の国民が裁判員になりたくないというデータもありました。多数の国民が望んでいないような制度が果たして必要であり、うまくいくのかという気持ちが私の中にもありました。そこで、このことを子どもたちはどのように考えるのか、一緒に考えてみるとおもしろいだろうと思いました。

次に、裁判員制度の位置づけです。教材化する以上、当然、どういうねらいで、どの単元で、どんな学習活動を行うのかということを明確にする必要があります。諸説を参考にしながらも、「裁判員制度は国民主権や民主主義につながる考え方が本質である」と論じられていたことを援用し,学習指導要領社会科6年の2内容(2)及び、社会の形成者としての資質や能力を育てるという視点から教材化をはかりました。

裁判員制度

裁判員制度そのものについては、

  1. 法律の専門家ではない一般国民の感覚が裁判の内容に反映され、その結果として国民の司法に対する理解と信頼がより深まることが期待されていること
  2. 選挙権をもつ国民から事件毎に6名の裁判員が無作為に選ばれ、刑事裁判を担当し、被告人の有罪無罪の認定とその量刑を決定すること
  3. 裁判員制度は国民主権や民主主義につながる考え方がその本質であり、三権に対する参加民主主義への転換が目的であること

以上3点をおさえるべき点としました。もちろん、制度に対して賛否両論あること、今後も新たな動きが出てくる可能性があることを確認しました。

学習活動

そして、学習活動です。
模擬裁判などのロールプレイや討論、町の人へのインタビューなどを取り入れることで、子どもが主体的に考える学習をめざしました。様々な情報を収集し、根拠をもとに多面的に話し合い、判断するという学習活動はまさしく、今求められる活用型の授業イメージです。

実際の授業では、裁判員制度に対する様々な立場や見方、考え方をもとに、子どもとの対話、特に、事象に対する意味や価値について交換したり共有したりする学び合いの場を重視しました。

具体的なテーマは「裁判員制度は必要か?」になりました。

そして、子どもの意見から

  1. 裁判の短縮で、判決がいい加減にならないか?
  2. 裁判員制度は国民主権を無視しているか?

という2つの論点で討論することになりました。
結局、最後まで合意にはいたりませんでした。(それが目的ではありません)
討論の落としどころは、制度の必要性を考えることで、選挙同様、政治に我々国民がかかわっていくことが大切であるとまとめました。

未来の教材については、教師が子ども達との学び合いの中での意味形成の場を重視し、楽しむ事が大切だと思いました。結論の見えない教材を子どもとともに考える楽しみがあります。6年生という感受性豊かな子どもたちからは,賛否両論ある大人の意見とほとんど遜色ない意見が出てくるなど、私は大変、驚きました。

子どもの意見

以下は子どもの意見の一例です。

(裁判員制度に賛成のAくんの感想より)

「安心してくらせる社会には何が必要か考えるきっかけになる。いろいろな人の様々な経験から判断できる。判決が甘くなったり厳しくなったりするということは、そこに国民が入った意義がある。外国では、裁判に国民が参加するのは当たり前のようだ。」

(裁判員制度に反対のBさんの感想より)

「仕事が忙しいし、人を裁く自信がないという人が商店街のインタビューではとても多かった。裁判のことを知らない人が多いからプロに任せればいい。大人と自分たちの意見とそんなに変わらないと思ったので、今のままでは強制的で反対である。」

社会科の教材研究のケース2は、未来の事象の教材開発にチャレンジした事例を紹介させていただきました。結果的には、この教材は多くの方から関心をいただきました。

※本記事の詳しい実践は「授業づくりネットワーク(2009年9月号)」(学事出版)をご覧ください。

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