セッティングの壁
この記事は、GIGAスクール構想以前(2017年ごろ)の様子が書かれたものですが、GIGAスクール以降にも通じる課題とその解決の糸口が書かれていると思います。学校のICT化の変遷を知る手掛かりにもなると思いますので、残しておきたいと思います。
残念なら日本の小中学校には、まだまだ教室にパソコンやプロジェクターが常設している環境がありません。自治体によると思いますが、職員室と教室をノートパソコンで右往左往しなければならない状況が多いようです。また、教室にパソコンや学校で共用しているプロジェクターを持ち込むことも、セッティングの壁があり、極めて難しい状況です。その代わりに大型テレビを設置している自治体もあるようですが、けっこう邪魔になると聞きます。
プロジュエクターは10数年前には50万円級の製品であっても性能が悪かったものですが、かなり安価で高性能になってきました(2017年現在で10万円あれば後述する様なそこそこの機能がついている)。パソコンも、同様に安価で高性能になっています。ところが、学校のICT化の進み具合を見ていると、まだまだパソコンやプロジェクターが全教室に常設されている環境は少数である状態が続くと思われます。
もし、学校に数台のプロジェクターを保有していて、それにつなぐ事が可能なパソコンがあったとしても、何人かの教員でそれをシェアしながら使うのはかなり面倒であり、うまくいきません。使いたい時間がかぶったり、使うたびにいちいちセットすることを負担に思ったり(セッティングの壁)することが多いと思います。自治体によっては個人パソコンの持ち込みが厳禁になっている場合があるし、システム上、学校のパソコンの使い勝手が悪い場合もあります。
「教室にパソコンが常設されていたら」「配線がもっと簡単であれば」・・・これらの条件が整わないことが学校のICT化の阻害要因になっています。
プロジェクター・オンリーで
.そこで、敢えてコンピュータを持ち込まず、プロジェクターのみを利用し、「プロジェクターによる実物投影とJPEG画像ファイルの投射」という簡単な準備で授業に取り組んでみました。最近のプロジェクターは安価でSDカードが読み込めるものが出てきていますので、プロジェクターが常設されているだけでも、かなり高いパーフォーマンスを実現できます。
「ICT環境整備にコンピュータを常設する分の予算がかからず」「教師のICT活用技術に依るところが少なく」「準備を整える時間も少ない」という条件を満たした上で、どのくらいの効果が得られるものかを模索しました。
ICT利用は細かいところでの不備・不足が意外と負担感や倦怠感を生んでしまいます。「悪魔(天使)は細部に宿る」という諺があります。負担感や倦怠感を丁寧に潰し、改善していく配慮が必要です。ホワイトボードマーカーに至るまで、快適な環境とは何かを考えてみました。
(もちろん、コンピュータも常設されているのがベストな環境です。)
パソコンに関してはシステム上・個人情報保護上の規制や障害が多くとも、プロジェクターであれば学校予算で揃えることが可能である場合があるのではないかと思います。教員のポケットマネーで購入する事も出来ない値段ではありません。
ICT化促進のためにはとりあえず常設可能な学校・個人が、がんばって、「うーん、これなら私も」という状況を作って実践を共有していく努力が必要だと思います。
「プロジェクターさえあれば」「どの教師にも」できる取り組みは、かなりあると思います。最近は標準で「パソコンを介さずしてUSBからJPEG・BMPファイルを読み込める機種が増えています。(パソコンも利用してFLASH教材を使っておられる方はけっこういるようですが、FLASHをプロジェクターのみで読み込める機能はまだ充実していないようです)
特に教科書の投影は効果があります。本学級では全教科の教科書をプロジェクターで投影する状況で授業を行っています。高価なデジタル教科書ではなくとも、教科書の挿絵やグラフを投影するだけで、授業はずいぶん焦点化・活性化されるように感じています。
最近の教科書は指導書にデータCD(DVD)を付けていることがあります。また、スキャナで読み込むという方法があります。ただ、著作権の問題は絡んでいますので、配慮が必要かと思います。書画カメラで写し出すという方法もあると思います。個々の環境や手間をかけられるかどうかという問題があり、どれを選択するのがベストかは、一概には言えないと思います。予算をかけられるのなら、書画カメラで映し出すのが簡単・手間いらずだと思います。
ホワイトボードに映し出す利点は、映像にさらにマーカーで書き込みができるというところです。
ホワイトボード+マーカーでプロジェクター投射の映像に絵や字を書くことは、電子黒板に電子ペンで絵や字を書く場合よりもかなり融通がききます。
※最近のテレビの多くは、大型化されており、映像を映し出すだけであれば、ホワイトボードに書きこむという利点はなくなりますが、備え付けのTV画面にSDカードを差し込んで映すことでも事足ります。
デジタル教科書が入ってくる頃にはかなりの環境が整ってくるとは思いますが、どのように現場に入ってくることになるのか、現時点ではまだ見えていません。それまでの間、教科書・教材のデジタル化への第一歩として、プロジェクターを活用してみませんか?
以下、現在私が使っている(比較的)安価でシンプルな常設環境・各機器・技術についての詳細を記述します。
①プロジェクター
授業で使用するプロジェクターの必須条件として筆者が考えるのは、次の4点です。
(1)明るさ3300ルーメン・・・・・2500ルーメンでもいけますが、カーテンや暗幕がない教室でよく晴れた日には、3000ルーメンが欲しい所です。
(2)フラッシュメモリやハードディスクのJPGを読み込めるUSB端子・・・・・パソコンが教室に常備されている環境が満たされている学校は少ないと思います。その場合、このUSB端子があることで画像を読み込めるため、かなり用途が広がります。
(3)HDMI端子・・・・・今後の機器との接続を考えるとPADにしてもPCにしても、この端子は有効だと思います。
(4)光源耐久時間が長い・・・・・一日5時間使ったとして200日×5年もてばいいと考えましょう(つまり、5000時間耐久)。高原耐久時間を明記している機種(メーカー)と明記していないメーカーがありますので要チェックです。(ランプの値段はけっこう高いので購入前に調べておいた方がいいです。)
とりあえず4点にしぼりました。この他にも、短焦点や黒板投射可能やUSBからの動画読み込みや、言いだすときりがないです。短焦点のプロジェクターは10万円前後で手に入るものも出てきました。用途や環境によって必須条件は様々だと思います。機能を上げれば当然費用もアップします。
さて、あれこれ考えた上で現時点でのおススメはRICOH PJWX4241Nです。2017年で10万円で購入できました。どんどん性能は上がり、価格は下がっていることがわかります。
3300ルーメンと明るく、短焦点です。(PJWX4241NにはUSBでの画像・動画ファイル(静止画:JPEG形式、動画:MPEG2、MPEG4形式)読み取り機能がついており、PJWX4241より少し高いです。)
教室据え置きにすることによって、使用時の負担感は大きく軽減されています。
②プロジェクター設置
子供がぶつかって落下したり、プロジェクターの置き場に困ったりすることはありませんか。私も、できれば天井から吊り下げたいと思いました。ところが、天吊り金具のメーカー純正品はたいてい3万円以上で高価です。その上に、天井に穴を開けて金具で留められるだけの強度が必要なので、普通教室では場所によっては補強工事をしなくてはならず、これには大変な額が必要となり、費用面で個人負担は現実的ではありません(毎年付け替え工事費が発生します)。そこで、机やキャスター付きの台に設置してみました。
コードは児童がひっかけてもよいようにしたうえで、落下防止のため釣り糸で固定しています。常設であるためにいちいち落下の心配をする必要がないことは、プロジェクターを使用する上で、ぐっと負担感が減ります。盗難防止の鍵付きワイヤーも付けています。
HDDも、最近は無電源(USBから供給)のもので300GB以上の物が5000円以下で購入できます。画像ならこれで十分な量を保存することができます。
③プロジェクター投影用のホワイトボード
何に投影するかということも、問題です。ディスプレイ型・キャリブレーション型で投影すると高価な上に、電子ペンではきれいな字・細かい字は書けません。マーキングすることが精いっぱいです。教科書を投影したとすると、そこに電子ペンで書き込むことができるのは丸や△の形、や矢印程度です。例えば算数の教科書を投影して、そこにある線分図に矢印を書き込むことができるのが精いっぱいで、その矢印が何を意味するのかを字で書きこむことはできません。
そこで、
黒板に貼りつけやすいように「マグネットホワイトボード」(900×1800mm・約10000円で購入可)を使用しています。チョークとマーカーを使い分けるには面倒であり、できれば全面ホワイトボードであってほしいです。
費用を抑えるために薄手の物で「セーラー万年筆 セーラー どこでもシート」(W600mm×20m巻き→約3000円で購入可)を貼っているケースも見かけますが、これについては汚れが取れにくく耐久性は低いです。
幅180cmのものを買えば、2枚で黒板全面がほぼ埋まります。黒板の1部だけがホワイトボードであると、チョークとマーカー(あるいは電子ペン)を持ち変えなくてはならないので、不便です(この持ち替えが、面倒なのです)。できれば、全面を「マグネットホワイトボード」で埋めてしまうのがいいと思います。
実に安価、かつ、ストレスを感じない環境です。
実際、映し出した画像そのものに書き込みができますので、板書そのものが変わってきます。
④ホワイトボード用のマーカー
児童に見えやすくするには、太字のマーカーを購入した方が良いでしょう。「パイロット・ボードマスター中字平芯」(黒・赤・青・オレンジ・緑・各約150円で購入可)を使用しています。補充インクと替芯を購入可能なので経済的な上、使い捨てのマーカー独特のかすれが少ないのがうれしいです。
⑤実物投影機(書画カメラ)
市販の書画カメラは、高価です。5万~10万が相場でしょう。
最近はビデオカメラの価格の下落が激しく、3万円程度で高機能のものが購入可能になっており、これを実物投影機として使用するのもいいかもしれません。あるいは、デジタル化が進み、使わなくなった旧機種のDVカメラを利用するのもいいかもしれません。フレキシブルアーム(下左:8000円前後)に取り付ければぶれも少ないと思います。
今回はプロジェクター・オンリーの前提で書いていますが、パソコンがあったとすれば、USB接続の書画カメラが安価になっています。1万円前後で購入できるようになっており、興味深いです。
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また、驚きの価格でHDMIケーブル接続可能の機器も発売されています。これがあればパソコンレスで教科書の拡大表示ができます。テレビにもつながるので、当面はプロジェクターなしで使っていられます。
実物投影機についてはもう少し詳しい記事にしていますので、下記リンク↓をご参照ください。
⑥パソコンによる教材作成とその共有
教材作成には、勿論、それなりに時間はかかるものの、技術自体は少し慣れれば習得できるレベルのものです。
デジタルカメラを直接つなげるので、下記のように、「雑巾をのばして、きちんと洗濯バサミでとめる」ということを大写しで訴えることもできます。
また、ひとたび誰かがデジタルデータとして作成すれば、ネットワーク上で共有が可能になってきています。著作権上の問題がないものについては、どんどんネットワーク上で共有する習慣をつけていけばよいと思います。
この記事では、かなり細かいことまで書きましたが、それは、ICT環境は細かいところまで配慮して初めて誰もが「便利だ」と感じることができるからです。ベターな状況に向かってどんどん改善をしていってください。
EDUPEDIAには、プロジェクターで使用できる教材をアップロードしていく予定です。
下記のページも是非ご覧ください。パソコンがなくても、プロジェクターにJPEGを読み込む機能があれば、USBにさすだけで使える教材です。
コメント
コメント一覧 (1件)
池田さん、コメントありがとうございます。だんだん広がってくるといいですよね。そうして、ノウハウや機器の評価、教材も共有していけるといいと思います。OHPやOHCに比べると格段に便利なのに、普及率が悪いのが不思議です。