「かけ算の秘密宝島へようこそ~数の不思議~」(間嶋哲先生)

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目次

1 はじめに

算数科で育てたい「実践的な態度」として,今回は、子どもが「かけ算」をする「数理的な処理のよさ」に気付くポイントに焦点をあてる。その方法として、クイズ形式のコミュニケーションを導入しやり取りを通して主体的に考える場を設定する。

2 間嶋哲先生の授業例 

引用元: http://bit.ly/ZLFYst

1.単元名 「かけ算の秘密宝島へようこそ~数の不思議~」

2.育てたい「実践的な態度」

 獲得した九九の意味を基に,身近な場面で総計を求める際,一つのまとまりのいくつ分かを見いだし,九九を使って解決したり九九が使える場面を見付け出したりしようとすること。

3.目指す姿

  • A×Bという式と,A個の集まりがB個あるという視覚的イメージとを結び付ける。
  • 様々な学習材を使い,その総計を工夫して求めたり,その求め方について交流したりする。
  • 九九表を構成したり,乗法九九について成り立つ性質を導いて九九表を確かめたりして様々なきまりを導く。
  • 確実に乗法九九を唱える。

4.本単元における「実践的な態度」を育てる働き掛け

本単元において「実践的な態度」を育てるためには,子どもが「かけ算」をする「数理的な処理のよさ」に気付くことが大切である。本単元で気付かせたい「数理的な処理のよさ」は,以下に示す二点である。

① かけ算の式
よさの内容…表現
よさの様相…簡潔性,明瞭性

例えば,3+3+3+3+3+3+3」を「3×7」と表すことができること。

② かけ算の意味 よさの内容…数学的な考え方
よさの様相…有用性

一つのまとまりを同数にすれば,総数を速く求められること。

上記で示した数学的な考え方は,内容については「単位の考え」であり,方法については「帰納的な考え」である。「帰納的な考え」とは,「~だから,~となるだろう。」という考えである。例えば,九九表を作成していく時に,乗数が1増えると,積が被乗数だけ増えることを使って,4×6=4×5+4と考えていくこと等である。

子どもは,前単元「10000までの数」において,10や100や1000を一つの単位として,総数を求めることを学習してきた。本単元では,その一つの単位(つまり被乗数)が「2」であったり,「3」であったり,時には「9」であったりするのである。

本単元での「かけ算の意味」は,一つの単位が10や100や1000以外の数になるという点で,これまでの十進位取り記数法の学習とは全く違う。12個の物であれば,「□個の集まりが△個」というように,一つの単位が□個となる自分なりの工夫した表し方を考えさせ,それを式化させていくことを通して,「かけ算の意味」を明確にさせる。

本単元における働き掛けは,次の三点である。

  • 働き掛けA;様々な学習材を選択させ,具体的操作を基に解決させる。
  • 働き掛けB1;出店方式で互いの考えを紹介させる。
  • 働き掛けB2;選択したアイディアを使い,確かめさせる。

 上記の働き掛けを踏まえ,単元の全体構想のポイントを述べる。

① どのような学習材で何を解決させるのか?

② 数理的な処理のよさに気付くために,どんな出店にするのか?

これは,出店での客側と店側のどんな考えを紹介し合わせるのかにも関係する。

③ 出店で気付いた「数理的な処理のよさ」を,どう自分の学習材で使わせていくか?

① どのような学習材で何を解決させるか?

まず学習材を選択させる。それは,様々な学習材があるからこそ,様々な数理的な処理があることを学習し,それらから一般化できる数理的な処理のよさに気付かせることができるからである。

子どもが選択する学習材は,例えば袋に入った「味付け海苔」のような物が望ましい。その学習材としての要件は次の通りである。

  1. 明らかに一つのまとまりが同数である。
  2. 総数が見ただけでは分からない。つまり一つ一つ数えられない。
  3. 総数が63(9×7)のように,被乗数がある程度大きな数字である。つまり,「一つずつ数えていては時間がかかるし,面倒だなぁ。」と思わせることができる。

また学習材を自分が選択した後,総数を求めるということは,クイズを出す側の準備,すなわち「□袋の時に合計いくつあるのか。」を数えておくことである。その中で,どう考えれば総数が簡単に求められるのかについて,自分なりのアイディアを練っておくことが必要である。その際,子どもによっては,表を使う姿を期待したい。

学習材を選択させると,通常「かけ算」で指導される「□の段」から学習していくという順序性は全く関係なくなる。すなわち,二の段から指導するわけでも,次に五の段を指導するわけでもない。学習材の選択により,「□の段」の□部分が決定されるからである。

したがって,それぞれの子どもがそれぞれの段の九九の構成をしており,クラス全体では,様々な段の九九が見られることになる。

② どんな出店か。どんな考えを紹介させるか?

出店としては, クイズ形式の「数あて屋さんごっこ」 を考えている。

クイズ形式の「数あて屋さんごっこ」のやり方は,次の通りである。なお,(  )内は想定される具体的な姿である。

① お店が問題を出し,お客が答える。
(お店が「味付け海苔」の1袋だけを開封して,1袋に入っている枚数が7枚であることを教える。次に5袋取り出して,「5袋では,合計何枚になるでしょうか。」とお客に問う。お客は,「35枚」と答える。その際は,紙と鉛筆を用いてもよい。)

② それについて,お店が正解かどうか言う。

③ 正解の場合,お客にどうしてその総数になったのかアイディアを問う。(お店が「どうして35枚と分かったのですか。」と問う。)

④ お客がアイディアを答えた後で,お店は,感想や意見を言う。

(「7+7+7+7+7と,順序よくたしていくと35になります。」とか,「7とばしで数えればいいんだよ。だから7,14,21,28,35」とか,「7+7で14でしょ。14が二つあるので14+14=28。もう一つ7があるので,28+7=35 」といった反応を示す。)

このような交流の中で,お客の立場としては,一番簡単に総数が分かる方法は,「7とばしで数えていくこと」に気付いていく。また,お店の立場からすると,できれば表があると答えの正誤がすぐに答えられることに気付く。

子どもは,こうした交流の場で,様々な段の九九の構成を自ら体験することにもなる。

③ どう自分の学習材で使わせていくか?

学習材の選択,そして出店での交流によって,「はじめのまとまりがいくつであったとしても(学習材は違っても),総数を求める時は,まとまりずつたしていけばよいことや, 表で表すと,同じ数ずつ増えていくというきまりが見えやすいこと」に気付く。

その後,自分の学習材に再び着目させる 「秘密宝島」 を行う。なぜなら ,「数あて屋さんごっこ」 を通して,子どもは,数理的な処理を吟味し,そのよさに気付くが,まだ学びを自覚しているとは言えないからである。そこで,学びを自覚させるために ,「秘密宝島」 を行う。形態としては ,「数あて屋さんごっこ」 と同じであるが ,「数あて屋さんごっこ」 での交流を生かし,まずやってみて,その結果「やってみた結果,良かった。」と自分の学習材に立ち戻って,学びを自覚する場である。

例えば 「数あて屋さんごっこ」 での期待する姿をお客側とお店側の立場で述べると,次の通りである。なお,(  )内は想定される具体的な姿である。ただし,お店側は,飴が3袋入っている小袋を8袋持っているとする。

【お客側】

①すべてたし算で解決していた子どもが,「△とび」の工夫をする。

(「3を一つずつ8回たすと,24」という考えから,「3,6,9,12,15,18,21,24」と考える。)

② 「△とび」の工夫で解決していた子どもが,たし算をまとめて計算する。

(「3を8回たすことは,6を4回たすことと一緒だし,12を2回たすことと同じことだ。12+12くらいなら,すぐできる。」という反応を示す。

【お店側】

① 他種類の問題を出す。
(小袋を8袋だけでなく,7袋だけ提示して総数を聞いたり,「12袋では合わせていくつでしょうか。」と問うたりする。)

② お客の答えに対して,正誤がすばやく言うことができる工夫をする。(3の段の答えが,すぐに分かる表を作る。)

子どもは,このようにして,かけ算の数理的な処理のよさに気付き,自分の学びを自覚する。しかし,選択する学習材すべてで九九表を網羅できるとは限らない。例えば身近な物で,一つのまとまりが9の物は少ない。したがって,9の段については,出店による交流の場を設定できない可能性が高い。

そこで,九九表の完成できない段,つまり9の段だけ空いているような九九表を見せ,埋めさせていく活動を行う。その際,ただ「9とび」で構成させるだけでなく,別のアイディアも出させたい。例えば7の段が3の段と4の段をたした数になっていることを使って,9の段も4の段と5の段とをたせばいいのではないかと考えていくことである。これは,数学的な考え方(帰納的な考え)そのものである。

こうして九九表の中に潜むきまりをさらに探してみたいという思いをもたせていく。そのことは,九九表からのきまりの発見につながる。同時に,九九の暗唱が大切であることから,練習を効果的にカードで行う。

そして,最終的には,活用の場として卒業式が近いこともあって,体育館に並べられたたくさんの椅子の総数をかけ算によって求めていく場を設定する。このことによって,獲得した知識,技能,数学的な考え方を使って活用する姿が期待できるのである。また,同時に,自分の生活の場から九九を活用できる場を考えさせていく。

(1) 主眼

「数当て屋さんごっこ」を通して,様々な学習材での総数の求め方について,その工夫を交流し合い,他者から学んだことをまとめることができるようにする。

(2) 主張

<このような子どもに>

(3) 展開(17~20Q/90Q)

(1) 主眼

前時で学んだ総数を求める際のアイディアを使って,出店パートⅡ(秘密宝島)を開く活動を通して,自分の学習材の総数の求め方をさらに工夫したり,外の学習材でも総数の求め方を教えたりできるようにし,九九表の必要性に気付くようにする。

(2) 主張

このような子どもに

  • 前時の出店での交流を通じて,総数の求め方について自分以外のアイディアを取り入れようとしていたり,自分のアイディアについて自信を深めていたりする。
  • ノートに学習感想として,□×△の時,総数の求め方がいろいろあることや,その数によって分けて考えたり,くっつけて考えていけば総数が求めやすいことを記述している子どももいる。
  • 様々な学習材で使うことのできる表(九九表)の必要性を少しずつ感じている。

このように働き掛けると

○ 説明「何人かの昨日のノートの感想を紹介します。」
このような思考が促され

  • 「昨日の最後の発表にはないけど,その考えもいいなぁ。」と,改めて自分の考えを揺さぶられる。
  • 「その考えは,ぼくが考えていたのと同じだ。」と,自分の考えについて自信を深める。

このように働き掛けると

○ 発問「お店が出す問題は,お客さんにとって簡単でしたか。難しかった ですか。またお店の時,こうやれば良かったということがありましたか。」

このような思考が促され

  • 「お店をもう一度やってみたいなぁ。その時は,もっとアイディアを工夫するぞ。」

 このように働き掛けると【働き掛けB2】

○ 発問「前の時間お店をやったことで様々な工夫ができるようになったようですね。昨日よりパワーアップしたお店(秘密宝島)をもう一度開いてみませんか。」

このような思考が促され

  • 「やったぁ。でも,そのための準備が必要だ。」

このように働き掛けると

○ 指示「お店の準備をしましょう。時間は,5分間です。」

このような活動が促され

  • 「お客さんが言った数字が合っているかどうか早く確認するために,何か物が必要だ。ぼくは,表を作るぞ。」
  • 「私は,まとめて考えられないかどうか,自分のクイズの求め方を考え直すよ。」

数当て屋さんごっこを振り返る場
このように働き掛けると 【働き掛けB2】

○ 指示「秘密宝島を開きましょう。」

  • 秘密宝島の進め方を説明し,次の進め方を黒板に貼る。

秘密宝島の進め方

  1. 一人が,一つのお店を開き,二交代(12分ずつ)で行う。
  2. お客になる時は,どこのお店を回ってもよい。
  3. まず,お店が昨日よりパワーアップしたクイズを出し,お客が答える。
  4. 次に,お店は答えが合っていた時に,総数の求め方をお客に聞く。例えば,「どういう方法で合計が分かったのですか。」等。
  5. 最後に,お客のアイディアについてコメントし,どこをどのように工夫したのか,自分のアイディアを紹介する。
  • 何番目にお店を開くのか示す。

「1番目の人は,……。2番目の人は……。」

○ 指示「それでは,一回目のお店屋さんはお店を開いて下さい。」

○ 指示「(12分経過したら)お店の交替の時間です。二回目のお店屋さんはお店を開いて下さい。」

 このような活動が促され

  • 《店》 自分の学習材を見せ,(昨日とは少し違う)総数を問うクイズを行う。
  • 《客》 総数を答える。
  • 《店》 合っているかどうか確認し,合っていた場合,工夫を問う。
  • 《客》 総数の求め方の工夫を店や他の客に,伝える。
  • 《店》 その工夫について,コメントし,自分のアイディアも紹介する。 

このような思考が促され

  • 《店》 「少し,かける数を増やしてみたよ。どうかな?」

例「7×12」…乗数が10以上の九九の範囲を越えたような式

  • 《店》 「お客が言った答えが合っているかどうか,すぐに分かるよ。」

例 自分の学習材で使う段のメモを作る。

  • 《客》 「すぐに答えられるぞ。」

例 何の段でも使えるようなメモ(最終的には九九表となる。)を作る。

  • 《客》 自分のお店でやる方法と比べながら,求める方法も多様になる。
  • 九九の範囲を越えたような問題でも,結局やり方は同じであることに気付く。

「『7×12』なら,7×10で70。あと7×2,つまり14だけたせばいい。」

このように働き掛けると

○ 発問「お客さんとして,どんなものがあると便利ですか。」

こうなる

  • 何の段でも使うことのできるメモ(九九表)があると便利なことに気付く。

(3) 展開 (21~24Q/90Q)

3 3.編集後記

クイズ形式の「数あて屋さんごっこ」を通して、子どもが様々な段の九九の構成を考えることで、合理的な数の数え方を身につけてゆくという今回の単元は、お店とお客のコミュニケーションを通して主体的に考えるという点で、子どもたちの好奇心や学習意欲を高めるのに大変効果的だと感じた。また、次に「秘密宝島」を行うことで総数の求め方をさらに工夫したり,他の学習材でも総数の求め方を応用できるようにし、九九の必要性に気付くようにするというねらいも、独自性があり、興味深いと感じた。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 金子裕美)

4 <実践者プロフィール>

間嶋 哲(Mazima Akira)
1965年,新潟県に生まれる。新潟大学教育学部を卒業。
新潟県内の小学校で活躍後,文部科学省での1年間の研修を経て,現在,新潟市教育委員会学校支援指導主事。算数授業ICT研究会理事。全国算数授業研究会総務幹事。
趣味は,海外旅行・外国語会話・スキー・ギター(フォークとクラシック)・読書・園芸・熱帯魚飼育など,多岐に渡る。
大学の卒業旅行を機に,旅行・外国語にはまり,旅行記を一冊出版したほどのエピソードを持つ。

●HP
間嶋哲のHPへようこそ…
http://bit.ly/homepage_majima

●記事の出典
http://bit.ly/ZLFYst

(HPより平成11年度附属新潟小学校第2学年1組算数科学習指導案)

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