子どもたちが話し合いを通して考えを深める授業(小林祐紀先生)

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目次

1 はじめに

この実践は、金沢市立小坂小学校教諭である小林祐紀先生が、2013年5月「第32回メディア教育研究会in横浜」( http://www.npy.jp/htdocs/)で紹介された実践です。本記事では、「子どもたちが切実感を持って話し合いを進め、協働的な学びをしている実践」の1時間の授業にフォーカスして、小林流授業デザインの肝に注目しています。

2 授業内容

単元のねらい

「討論を通して当時のジレンマ、環境を守る大切さを真に感じる」

学習指導要領との関連

第5学年
内容
(1) 我が国の国土の自然などの様子について,次のことを地図や地球儀,資料などを活用して調べ,国土の環境が人々の生活や産業と密接な関連をもっていることを考えるようにする。

ウ 公害から国民の健康や生活環境を守ることの大切さ

内容の取り扱い
ウについては,大気の汚染,水質の汚濁などの中から具体的事例を選択して取り上げること。

単元計画

  1. 四大公害病について調べる。
  2. 写真資料から四日市ぜんそくについての理解を深める。
  3. 四日市ぜんそくの歴史を調べる。
  4. 討論を通して、当時の人々の思いにふれる。
  5. 公害病を乗り越えるための人々の努力を知る、学習のまとめ。

四日市ぜんそくを取り上げた意図

  1. 四日市市が先生のご出身の近くであり、子どもの頃から話を聞いていた体験がある。
  2. 石川県に近い富山県でイタイイタイ病の問題が今なお続いている。
  3. 児童に喘息をもっている子が多いので、自分の経験を引き出しながらなんとか自分ごととして考えて欲しい。

本時の学習(4/5時)

本時のねらい

  • 当時の人々のジレンマを理解しつつ、自分のことばで公害の害悪を表現することができる。
  • 事実をもとに解釈を加えて考えを伝える。いくつかの情報を評価吟味する。

学習過程


==== 前半(全体での討論)

◎先生が意識したこと
自分事としてとらえる姿

  • 児童の「自分だったら」という発言を復唱し、強調する。
  • 子どもたち自身は「豊かになる」ということをどう捉えているのか尋ねる。

事実から解釈する姿
①前時までの学習内容から

  • 四日市ぜんそくの写真資料、歴史、市営図書館の資料、四日市市子ども向けパンフレット。

②本時でグループに配った資料から
* 塩浜小学校校歌、四日市市歌の歌詞から事実を知る。
「港のほとりに並び立つ科学の誇る工場は平和を守る日本の希望の希望の光です
(塩浜小学校校歌)

(四日市市歌)
引用:三重県四日市市公式サイト( http://www5.city.yokkaichi.mie.jp/menu68019.html

③児童のノートから

後半(グループ討議)

◎討議を通して学びを深める。
「公害とは~である。」の枠組みに入れる言葉を班毎に考え、公害とは何か再考する。

3 先生の授業を支える信念

今回の授業では、子どもたちが活発に討議に参加する様子が見られた。

上図のアンケートからも、子どもたちが学び合いに価値を見出しているということがわかる。それには、先生のある信念に基づいた指導が活きている。

4 1年間を通しての活動

かかわり合って学ぶ価値に気付かせる

ギャラリーウォーク 


各班が意見をホワイトボードにまとめ、児童が他の班の意見を見て回ること。

国語科「場面を要約しよう」での協働学習(4月の取り組み)


* 各班で場面の要約を考える。
* 1文リレー読み→1人読み→ホワイトボードミーティング→ノートに写す。
* 難しいグループにはじっくり入る。
* まとめ方、進め方の指導。(発散→収束の流れの指導、ふりかえりの書き方指導)
→「参加しなきゃ始まらない」の実感。教科の狙い以外に信念に基づく意図がある。

話の引き出し方を身に付ける

ファシリテーションを学ぶ

今回の授業では、ファシリテーターがグループ討議において話し合いを進行し、班の子どもたちの話を引き出している。それは、4月から班で輪番で1ヶ月ごとにファシリテーターを担当してファシリテーションのスキルを身に付けていたからだ。
まず教師がモデルとなってファシリーテーションの仕方を見せた。好きなお菓子についてのエピソードなど身近な話題からグループでの話し合いに慣れるように工夫した。

5 ワークショップで出た意見 ~より良くするためには~

研究会の後半では、この実践をよりよくするために参加者全員でワークショップも行われた。その中で出た、いくつかの意見を紹介する。

“自分ごととして考える“を実現するために

  • 四日市市や四日市ぜんそくについて子どもが@<u>{自分で調べる時間}があると良い。
  • 単元構成に、産業発展の光と影両方の事実を捉える時間を@<u>{1コマずつ}設定すれば、より当時の人のジレンマをおさえられたのではないだろうか。
  • 当時の人は工業化に賛成だったか?反対だったか?を考えさせるよりも、@<u>{自分が当時の人だったら、工業化の光と影を知った上で、工業化に賛成だっただろうか?反対だっただろうか?}を考えさせる方が良い。

子どもが自分の学びの深まりを実感するために

小林先生は、単元の最後に児童に「公害とは何か?」という問いに対するそれぞれの答えを書かせている。これを単元の前にも行うことによって、単元の前と後での自身の考えの変化が感じられるのではないだろうか。

6 参考実践

北村善重先生( http://www4.kcn.ne.jp/~kitam-k/taikei5/2-syakai/8yokkaiti.htm

7 編集後記

小林先生の授業の映像を見たとき、先生が児童一人一人の意見を大切に受け止めている様子が印象的でした。また、先生が子どもの学び合う力を伸ばすために工夫を凝らした授業を4月から年間を通して展開しているというお話を聞いて驚きました。クラスの8割の児童がアンケートに「根拠とともに意見を伝える」と答えたのは凄い成果であると思います。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 五十嵐未来)

8 実践者プロフィール

小林祐紀先生 金沢市立小坂小学校教諭
金沢大学中川研究室卒業後、金沢市で教職に就き、数々の実践を重ねてきた。
D-project金沢実行委員長。 ( http://www.d-project.jp/2013/

9 団体紹介

メディア教育研究会in横浜

2008年1月に発足し、隔月1回金曜日開催で進めています。
趣 旨:学校現場におけるメディアと授業の関わりを軸に、互いの実践を交換し合い、お互いの授業づくりに生かしていく。(メディア=ひと・もの・こと相互をつなげる媒介)
代 表:中川一史(放送大学教授)
事務局:小中学校教員5名、市民ボランティア2名
参加者:学校現場の先生、ICT企業の方、学生、教育行政の方、保護者、時には子どもたちも。
会員制度はなく、MLによる情報共有でつながっています。希望者は、研究会当日メールアドレスを受付にお知らせください。様々なコラボが生まれていくのが楽しいです。
http://www.npy.jp/htdocs/

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