魅力ある社会科授業の創造のために

1 はじめに

「社会科って所詮暗記科目だよね」

「テスト前に出来事とか年号とか覚えるだけだし」

学生時代、耳にすることの多い会話です。

しかし、本当にそうでしょうか。

「社会科は暗記教科ではありません。子どもたちに、思考力や将来にわたって役立つ見方・考え方の育成を行う教科です。」(立命館大学准教授 角田将士先生)

いったいどういうことなのか、社会科教育の研究を行っている角田先生にお話を伺ってきました。

角田先生は、広島大学大学院で社会科教育について研究された後、現在は立命館大学の他、同志社大学でも教職課程の授業を担当しており、教員免許更新講習なども担当されています。

今回伺ったお話の内容は、広島大学大学院の社会認識教育学研究室を中心にこれまで蓄積されてきた研究の成果や、ご自身の研究がもとになっているそうです。

(以下角田先生のお話)

2 社会科授業の目標(なにをねらうべきか)

子どもたちに思考力や、将来にわたって役立つ見方考え方の育成をする

社会科。日本においては第二次世界大戦後、GHQの指導の下で誕生した教科です。 導入元のアメリカでの名前は”Social Studies”。つまり「社会研究」という意味を持ちます。

そもそも社会科とは、社会の問題に対して自律した判断を下し、自ら社会に参画し行動することができる「民主主義を支える市民」を育成するための教科であったといえます。日々の社会科授業を作っていく際にも、この点を念頭に置く必要があるように思います。

従来社会科が担うべき役割に関して、2つの対立する捉え方がなされてきました。

社会の担い手にふさわしい資質や能力を育成するという役割(そのため地理・歴史・公民は社会を理解するための手段としてとらえる)

②歴史学や地理学など、諸学問が明らかにしてきた成果を伝える役割(地理や歴史の教授それ自体を目的としてとらえる)

①と②の立場はこれまでも拮抗してきましたが、子どもたちにとって魅力ある社会科授業を構想していくために、私は①の立場で社会科授業を捉えていくことが大切なのではないかと考えています。
 
現代社会において子どもたちの周りには、教科書や専門書籍、インターネットなどの情報ツールが溢れています。その中で社会科授業が知識の伝達に終始するならば、わざわざ学校で社会科を学ぶ意義が見えにくくなってしまいます。また、子どもたちがそれらの知識を獲得することの意味を見いだせないと、せっかく獲得した知識もすぐ頭から抜け落ちていってしまうことでしょう。

「現代を生きる私たちがなぜ縄文時代について勉強しなきゃいけないの?」

「遠く離れた外国のことをなぜ学ぶ必要があるの?」

学校で社会科を学ぶ意義に直結するこれらの問いに対する回答は、なかなか難しいのではないでしょうか。

「子どもたちに思考力や将来にわたって役立つ見方考え方の育成をする」ことを目標に社会科授業を構想していくことは、そのような問いかけに対し、社会科を学ぶ意味を示すことに繋がると思います。日々の授業の中で、その事象がなぜ起こったのか、なぜそのような結果になったのかといった問いに基づいて思考することは、子どもたちの社会認識を深め、社会に対する見方考え方を鍛えることになると考えています。そしてこのような授業の積み重ねこそが、社会科本来の目的である「民主主義社会を支える、自ら考える市民を育成すること」に繋がっていくのではないでしょうか。

3 社会科授業の内容(なにを教えるか)

与えられた教材で達成可能な目標(身につけさせたい学力)を考え、授業を構成するという考え方も大切

社会事象の全てを子どもに教えていくことは不可能です。また、教科書の内容のすべてを授業で扱ったからといって、そのすべてを子どもたちが理解しているかと言えば、現実には難しいのではないでしょうか。従って、教科書に書かれた内容すべてを網羅して教える(伝えなければならない)という発想から脱却し、「このような力を身に付けさせたい」という、目標に沿いながら適切に内容を選択し、授業を構想していくことが重要になります。そのためには「目標」→「内容」という手順での教材研究が求められますし、時にはオリジナル教材の開発が求められるでしょう。 

しかし、現実的には学習指導要領を通して教えるべき内容があらかじめ示されているため、このような発想での教材研究は、なかなか思うようにいかないと思います。そこで、与えられた内容はそれとして受け入れた上で、その内容の中で達成が可能な目標とは何かを考え、授業を構成していくという発想も大切になってくると思います。

いずれにしても、その学習を通してどのような学力を身につけさせるか、が肝心だと考えています。

4 社会科授業の方法(どう教えるか)

「なぜ?」子どもの持っている既存の見方考え方や常識に挑戦する

社会科授業を構想する際には、子どもたちの中に「認知的不協和」を生じさせるような発問・資料の工夫を意識してみて欲しいと思います。そのことが子どもたちの見方考え方を成長させることにつながると考えます。

例えば・・・

○なぜサスケハナ号(ペリーが乗ってきた蒸気船)には「マスト」があるのか?

○「天皇の神格化」を定めた大日本帝国憲法の第3条と、「天皇も憲法の条規に依る」ことを定めた第4条とは矛盾しないのか?

○なぜ水が得られにくいはずの扇状地の扇央部分に水田が分布しているのか?

・・・等々。

これらの問いは、中・高での授業を想定していますが、いずれもそれまでの学習で形成されてきたイメージ(既存の見方考え方)と矛盾する事実を提示するものになっていると思います。子どもたちにとってみれば「答えられそうで答えられない」問いであり、このような「疑問・矛盾」をうまく授業に組み込むことができれば、学習に対する関心・意欲も喚起できるのではないかと思います。このような問いを設定していくためにも教師は、子どもたちが持っているそれまでの「学びの履歴」を把握しておく必要があります。とりわけ中・高での授業づくりの際には、前の学校段階の教科書などに目を通しておくことが大切だと思います。

一方、小学校の場合は、社会科を学び始めて間もないため、子どもたちが持つ常識的な思いに挑戦していくことが求められると思います。

例えば・・・

○なぜ工夫も努力もしているのに衰退する商店街があるのか。

○消防署の人たちに火事を消してもらっても代金を支払わなくていいのはなぜか。

○なぜ一生懸命町おこしをしているのに合併される市町村があるのか。

○なぜ遠い外国からやって来る野菜は安くて、身近な地域で栽培されている京野菜の方が高いのか。 

・・・等々。

既存の見方考え方や常識に挑戦する問いは、「なぜ」「どうして」といった思考を促し、子どもたちの認識を深めていくと考えます。例えば、中・高での授業では「穴埋めプリント」を配る機会は多いと思いますが、ただ語句を書かせるのではなく、「なぜそうなるのか」を子どもたちが考えながら穴埋めをしたり、考えを書いたりするようなスペースを設けたりすることで、思考を促すことは可能だと思います。「基礎基本の定着=ドリル学習」と考えて、子どもたちを小テスト漬けにするような状況はあると思いますが、「なぜ」「どうして」と思考させた方が、知識と知識の関連付けが行われ、結局は「記憶の定着」にもつながり、効果的だと考えます。

「話し合い学習」を行う際に

「言語活動の充実」が学習指導要領でも求められるようになり、最近のトレンドとして「話し合い活動」や「表現活動」を取り入れた授業が盛んです。しかし、単に話し合いをすればよい、しゃべらせればよいというわけではありません。どんな学習課題を達成するための活動なのか、しっかりと教師自身が「意図」を持っておく必要があります。

また、子どもたちの認識を深めるような効果的な話し合いを行うためには、グループごとに異なる条件や視点を与えてみる、など様々な意見がでてくるような工夫も求められるでしょう。

テストで良い点数をとるための授業?

教科書を網羅しておかなければ受験に対応できないのではないか、という懸念があるかもしれません。

しかし、テストでいい点数をとって「○○高校に受かる」「○○大学に受かる」といった思いは、本来プライベートな領域の問題です。このようなプライベートな領域の問題に振り回されてしまうと、授業は受験対策の場となってしまい、受験しない子どもたちにとってみれば、何のために社会科を学ぶのかがますます見えにくくなってしまいます。もちろん進学実績を問われる学校現場の状況はあると思いますが、できれば日々の授業を行う際にも、社会科という教科に課せられたパブリックな目標を意識しておきたいところです。

また、昨今「問題解決能力」を育てるPISA型の学力が重視され、センター試験などにおいても思考力を問うような出題が見られる中で、「受験対策=暗記」という固定観念は、結局は「教えた(伝えた)」ことで安心したい、という教師の気持ちの表れなのかもしれません。しかし、「教師が教えた(伝えた)」からといって、それを「子どもが学んだ」ことには必ずしもつながらないことを理解しておく必要があるでしょう。そのため、授業をよりよいものにしていくためには、「教師が何を教えたか」だけではなく、「子どもたちは何を学んだか」という視点で、授業の成果を的確に捉える(評価する)ことが求められます。

5 授業改善のための評価

子どもがどうわかっているのか、どう間違っているのかを知る

授業改善のためには評価の視点は欠かせませんが、テスト問題づくりも授業づくりと同じ発想で取り組むことが大切です。思考力を鍛えたいならば、そのような思考力が実際に身に付いたのかを問うテストを行う必要があります。テストの形式が子どもの学習方略に影響するという研究結果(暗記型のテストばかりだと子どもも暗記で対応しようとするということ)も存在しますので、授業づくりとともに、テスト問題の開発にも力を注いでほしいと思います。

もちろん、すべてのテスト問題をゼロからつくることはなかなか骨の折れる作業だと思います。とりわけ小学校では業者テストの利用が一般的だと思います。ただ、業者テストを利用した場合でも、子どもたちがどう誤答しているかを知ることで授業の改善に活かすことができると思います。

6 最後に

社会科授業づくりを考えるうえで重要なこと

  • ひとつひとつの授業のねらいをはっきりさせること
  • 子どもたちが考えたくなるような、知的好奇心を刺激するような学習課題をたてること

→教師も常に知的好奇心をもつ、常に「なぜ」という目線でアンテナをはる

7 角田先生おすすめの参考文献

  • 片上宗二『「社会研究科」による社会科授業の革新—社会科教育の現在、過去、未来—』風間書房(2011年)
  • 片上宗二『社会科教師のための「言語力」研究—社会科授業の充実・発展をめざして—』風間書房(2013年)
  • 棚橋健治『社会科授業診断 よい授業に潜む危うさ診断』明治図書(2007年)
  • 森分孝治『社会科授業構成の理論と方法』明治図書(1978年)

8 編集後記

社会科は知識を詰め込む教科であるというイメージが強かったため、先生のお話で衝撃を受けました。非常に不安定な今の世の中であるからこそ、社会科授業を通して社会を主体的に生きる子どもたちを育てることができたら素晴らしいと思います。

9 講師プロフィール

角田将士先生

立命館大学産業社会学部准教授。

専門は社会科教育学。広島大学大学院修了。

博士(教育学)

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 平野愛)

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