「初雪のふる日」 ~ 少女の足跡をたどる

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物語の全体像をつかませる

光村図書「初雪のふる日」は何だか不思議な話で、教員からも「つかみ所がない」「面白くない」といった声がけっこうあがっています。私もどちらかというとそう思っていたのですが、よくよく読んで考えてみると、けっこう面白い話です。
この記事に関連する記事をいろいろとアップしておりますので、
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国語のノートを絵を中心にしてまとめさせる

等も是非、ご参照ください。

どんな書物を読むときにも、話の中に入り込んでいる立ち位置から、やや俯瞰ができる立ち位置に立って物語の全体像をつかみとる作業が大切だと思います。そうすることによって作者の伝えたかったことや物語の要点、最も言いたい段落、キーワードが見えてきます。

(更新日:2024/02/24)

視覚的に捉える

少女は出発地点から、ひとりぼっちです。誰もいない状況から、暇にまかせて、歩き始め、石けりを始めます。この出発地点からひとりであるということと、実質的な登場人物は彼女ひとりであるということはこの物語の大切な部分ではないかと思います。そして、一人で山を超えているという事実も、彼女の足跡をたどることによって見えてくるかもしれません。
足跡は、簡単にワークに書かせました。下に添付している図は、ある児童の書いたものです。授業中に時間を取る、あるいは宿題である程度の書き込みをさせるといいかと思います。
絵の下側が、「見たもの、あったもの」上側が「女の子のさらわれる様子」です。上下が混ざってしまう子供もいました。

こうして見ると、旅路の出発地点に「たばこ屋のおばあさん」と「おかし屋の犬」が配置されていることが分かってきます。また、足跡のどの地点で「初雪」が降り始めているのかもわかってきます。
こうして何がどう配置されているかを大雑把につかませることによって、それぞれに何の意味があるかを考えるきっかけを与えます。時間的に余裕があれば、それぞれのアイテムを教師や児童が書いて、黒板に並べてみるのもいいかもしれません。

村の一本道 ~ 石けりの輪 ~ 橋 ~ キャベツ畑の細い道 ~ たばこ屋 ~ おかし屋 ~ 犬 ~ バスの停留所(初雪) ~ どんよりとした暗い空 ~ 後ろから追いかけてくる白うさぎ ~ 前にも白うさぎ ~ もみの森 ~ こおった湖 ~ 谷間の村 ~ さざんかのさく小さな町 ~ 工場のある大きな町 ~ よもぎの葉 ~ 知らない町の知らない道 ~ 町 ~ 食堂}

また、うさぎの群れに取り込まれ、森や山や湖や小さな町といった光景の中を誘われていった事が視覚的に捉えられます。最後にたどりついた「町」がいくつも山をこえた遠い所であることも押さえておくといいでしょう。

また、ここまできて(ラストで)やっと名前や住所があったことも示されています。安房さんは女の子が名前を取り戻すことができたことをほのめかしているのではないでしょうか。

この次の日の板書では、少女の前後にうさぎが増えて、少女を運んでいくアイテムを教科書の挿絵からカラーコピーして作りました。うさぎはコピーして増量しました(笑)。板書の中を「少女を取り込んだうさぎの行軍」が進んでいきます。素直なクラスであれば、「かた足、両足、とんとんとん」と、子供たちに声を出させながら行軍を進めるのもいいかもしれません。

女の子のさらわれる様子

女の子は、最初は何となく石けりの輪の中に入ってあそんでいました。ところが、いつのまにか白うさぎが増えてきて、どんどんスピードを上げ、最後は抜け出そうとしてもどうにもならない状況になります。この状況の変化も、図の上に表すと「強引さ」や「思考の停止」が浮き彫りになってきます。

「ゴムまりみたいにはずみだし」
「女の子は、急いで耳をふさぎました。が、うさぎの歌声はどんどん大きくなり、ふさいだ指のすき間から、つむじ風のように入り込んできて・・・」
「人々はだれも、うさぎのむれと女の子に気づきません」

などの記述は、抜き差しならない状況(いじめ?戦争?)を暗喩しているように私には思えます。人の心が、知らぬうちに少しずつ蝕まれていく弱いものであることに安房さんが警告しているのではないでしょうか。

さらっと読むと見逃しがちな文章中のの記述を、少女の足跡にそって、どのように表現されているかをしっかりと読みとらせることには意義があると思います。

世界の果て

少女の足取りをたどると、そのままよもぎを拾って脱出するわけですが、上の図の矢印の方向、つまり「世界の果て」に連れていかれて小さな雪の塊にされた可能性があります。

「ではその『世界の果て』はどんな世界なのか」

が、次の発問として、立ち上がってきます。この発問については、

「初雪のふる日」 ~ 白うさぎが連れていこうとした世界とは? | EDUPEDIA

で授業展開を示してみました。

余談

私の世代で、「雪の塊にされる世界の果て」と言われると、昭和の怪曲?「氷の世界」(By井上陽水)が思い浮かぶ人もいるかもしれません。この記事を書きながら久しぶりに聴いてみました。YOUTUBEにapbank版もありますので、若い世代にも聞いてみてほしいです。

「人を傷つけたいな、誰か傷つけたいな、だけどできない理由は、やっぱりただ自分が怖いだけなんだろ その優しさを秘かに 胸に抱いている人は いつかノーベル賞でも もらうつもりで頑張ってるんじゃないのか」

陽水さんは安房さんと同世代。「氷の世界」は1973年の作品で日本史上初のアルバム販売100万枚突破の作品、「初雪のふる日」の初収録は「遠い野ばらの村」(筑摩書房、1981年)とネット情報にありましたので、何か関係があるような気もします。安房さんは1993年に亡くなられているので、確かめようもないですが・・・・

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