「初雪のふる日」で安房直子は何を伝えたかったか

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作成者: matsui (Edupedia編集部)さん

この記事に関連する記事をいろいろとアップしておりますので、
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★「初雪のふる日」で安房直子は何を伝えたかったか
★「初雪のふる日」 ~ 少女の足跡をたどる
★「初雪のふる日」 ~ 白うさぎが連れていこうとした世界とは?
★初雪のふる日 ~ よもぎの葉によってもたらされた世界
★国語のノートを絵を中心にしてまとめさせる

等も是非、ご参照ください。

最初は気分が乗らない教材だったが・・・

私がはじめてこの教材を光村出版の国語教科書で見かけたのは平成23年頃でしょうか??正直なところ、変な物語教材が教科書に載っているなあと思いました。なんだかわけがわからない、面白くない話だと思いました。異界へ引き込まれそうになり、帰還するというモチーフは、多くの物語の中に見られるものであり、この童話がそれほどよくできているというようには思えませんでした。「不思議な国のアリス」みたいだな、という程度の印象でした。正直に言って、あまり興味を持つことができませんでした。

指導書は、「この物語を読んで、『読後感』を話し合おう」という設定をしています。教師がしっかりと物語を読み取れていてこそ、子どもに読後感を話し合わせられます。安房さんがどういう方なのかをつかんでおく必要があります。

ところが、光村図書の指導書に載っている指導案や解説を読んだだけでは、この作品を理解できた気分にはなりませんでした。準備不足で気分がのらないまま授業をはじめてしまい、そのままあまり盛り上がることもなく単元が終わってしまいました。年度末に配置されている単元なので授業時間にも余裕もなく、さらっと授業を終えてしまいた。実際、この物語についてはほかの教員からも「何だかわからない」「あまり興味を持てない」との意見を聞きます。

次の年、うれしいことに、再び4年生を担当することができ、この物語に再度挑戦する機会を得ました。前年にあまりにも力なく空振りをしてしまった反省から、今年はもう少し正面から取り組んでみようかと考えて読み込んでみると、けっこう面白いキーワードが見つかり始めました。

安房さんの作品は国語教科書(光村図書)でこの単元の最後に「花のにおう町」「雪窓」などが紹介されていますので、これらも読んでみました。「きつねの窓」(教育出版の国語教科書(小学6年生)に収録されていたそうです)も読んでみました。安房さんについても、ネット上にいくつかの情報が載っていましたので調べみました。どうやら、「異界に迷い込む」というパターンを安房さんは何度も使っているようです。現実世界→異界→現実世界という流れを経て、主人公に何らかの変化をもたらします。

そうしているうちに2回目の授業の時には少しは自分なりにこの物語「初雪のふる日」の理解ができたかもしれません。

以下は、私の私見です。この作品について、あまり人の意見を聞いたり読んだりしていない状態でこの原稿を書いていますので、これから書くことはかなり的外れであるかもしれません。私の想像(妄想に近いかもしれません)が含まれている可能性が高いですので読まれた方のイメージを歪めてしまうかもしれません。この物語について、自分で考えてみたい人は、一度自分で考えてみてからこの記事をお読みください。ちょうどこの単元の目標が「読後感をくらべてみよう」ですから、私の読後感と、みなさんの読後感を比べることができるといいですね。ぜひ、みなさんの読後感も教えていただきたいです。

0.少女

物語は一人ぼっちの少女が石けりの輪っかを見つけるところから始まります。少女は一人であり、名もなければ背景の説明もありません。それは、どこにも所属しないというイメージを喚起し、思春期の孤独を表しているようにも思えます。少女に背景や名前がないのは、少女のイノセンスを示しているのかもしれません。(この物語が載っている教科書を読む4年生は10歳の子どもで思春期の始まりです・・・と言っても、阿波さんが10歳の読者を想定していたのかどうかは知りません)

1.異界への入り口

この物語は少女が異界へと引きずり込まれ、そこを脱出して現実世界に戻ってくるまでを描いているようです(後述しますが、異界も現実社会を示しているのではないかと思います)。前半を秋から冬へと引き込まれる世界と読み取れば、後半は冬から春へと戻ってくる世界と考えることができるでしょう。
少女が輪っかを飛び始め、町を出る際に「タバコ屋のおばあさん」が「おや、元気がいいねえ」と、声をかけます。おばあさんは、少女にとって味方なのか、敵なのか?物語全体に流れる不気味な雰囲気の延長線上で読み取ると、敵と考えるのも面白い気がします。おばあさんは、異界へ引き込まれていく若者を何人も見てきたのかもしれません。異界へのナビゲーターとしてその入り口に位置しているとすれば、けっこう怖いです。

犬はどうでしょう。歯をむき出して吠えることを考えると、少女に警告を発していると解釈してよいかもしれません。または、その逆で、イノセントな少女に対して敵愾心を表しているのかもしれません。

現実世界と異界を分ける目印として、おばあさん(番人)や犬(番犬)が配置されているようです。異界の始まりは、バス停からでしょうか、橋からでしょうか…
同じく安房直子の、「きつねの窓」も猟師が異界に迷い込む話です。

おばあさんと犬が何を言いたかったと思うのか、敵なのか味方なのかを子供たちに自由に述べさせると面白いです。
==== 2.片足、両足、とんとんとん
この言葉が繰り返し使われることが物語全体にリズム感を与えています。実際、少女の足取りをピックアップしていくと、かなりの距離を歩いたことになり、この言葉は少女の歩みを推し進める力となっています。

一人でなんとなく始めた石蹴り遊びがいつの間にかこのリズムに乗っかってくるウサギに取り込まれます。この言葉はまるで、少女を異界に取り込むためのコマーシャルソングのようです。

3.異界は何のメタファーか

ウサギは少女の周囲を取り巻いて進むのではなく、直線となり少女の前後に並びます。ではこの直線の先にある異界とは、どんな世界なのでしょうか。単純に「自然が厳しい冬」「自然の厳しさ」ととらえるというのも一つの解釈だと思います。ただ、もう少し踏み込んで、「冬=厳しい世界」と考えた時、私は、この物語の表す「異界」は「現実世界」を暗喩しているのではないかと感じました。

コマーシャリズムやアジテーション、あるいは同調圧力によって否が応にも引き込まれてしまう現実世界。いじめ、就職、ラッシュアワー、働き蜂、バブル経済、消費社会、金満社会、洗脳的宗教、勝利至上主義、数の論理、戦争・・・現実社会も十分に厳しく怖い世界です。無垢な田舎育ちの女の子がいつか大人になる時にさらされる現実社会の厳しさを物語っているような気がするのです。

4.白うさぎの正体

白うさぎは画一的な動きをし、画一的に歌を歌います。そして、進むスピードをどんどん速めていきます。おばあちゃんの話では「巻き込まれた人間は雪の塊になる」ことになっています。雪の塊は、冷たく冷えてしまった人間の心を表しているようにも思えます。そして、雪の塊になってしまった人間は、白うさぎとして甦り、列を作ってさらに他の人を巻き込んでいくのではないでしょうか?考えすぎ?(ヨモギの葉で白うさぎは消えるだけで、人間に戻るわけではないので、考えすぎかな)

白うさぎは横一列ではなく、縦一列に並んでいます。少女を列の中に取り込んでいつの間にか、「止まっちゃいけない、後がつかえる。かた足、両足、とんとんとん。」と、長い列になっています。縦の列で並んでいるのは軍隊の行軍のようにも読み取れます。歩を緩めることもできず、列をはみ出すこともできない。軍隊であれば強圧的な力に洗脳され、思考停止のままに進むイメージ。現代社会に例えれば、ただひたすらにコマーシャリズムに乗せられて前へ前へと、行きつく先もよくわからずに進んでいくイメージ・・・・そんなイメージを持ちました。

5.「初雪のふる日」はどんな日か

なぜこの物語の題名が「初雪のふる日」であるのかを考えるのも、ひとつのアプローチ方法だと思います。「雪のふる午後」「森にふる雪」「雪と白うさぎ」などなど、他の題名も考えられるなかで、なぜ、「初」なのか。それは、前述したような少女のイノセントが初めて試練にさらされるから「初」であるのではないかと私は解釈しています。

異界へと引き込まれる日?

就職が決まった日?

宗教に入信した日?

ノートに落書きをされて、いじめが始まる日?

経済破綻や戦争の始まりなど、悪い世の中が始まる日?

思春期の厳しい選択を迫られる日?

思春期に入り、人の孤独を感じ始める日?

初雪のふる日は、人が何か「逃れられない場、組織」に入ってしまう日、あるいは(いつの間にか)場に、組織に取り込まれ始める日ではないかと思います。(就職や宗教が悪いと言っているわけではないですよ。悪しからず。)

初雪は「厳しい世界がそこから始まる日」を示しているような気がするのです。そして、自分は世界の果てに連れていかれ、「小さい雪のかたまり」となりとなり(もしかしたら、それは白うさぎ?)、自分は自分ではなくなる。つまり、何者かに取り込まれて自分を見失ってしまうのでは?

6.少女が脱出した要素

少女は意に反してウサギの行列の中に取り込まれ、前進を続けざるを得ない状況からなかなか逃れることができません。最終的に呪文を唱えて脱出ができるものの、葛藤には時間がかかっています。

父母や教師、友達が助けてくれるというストーリにはせず、おばあちゃんの話の中からヒントを見つけています。人生の先輩(あえて両親ではなく)、おばあちゃんからの温かいつながりが少女を脱出へと導きます。それも、自分でなぞなぞを考えたところで、脱出への道が開け出します。あくまでウサギの列が乱れるのは「自分の力」を発揮できた時ということが言えます。安房さんは立派な大人になるためには自己判断力や独立心が大切であることを訴えているのではないかと思います。

物語中で「昔、たった一人だけ、白うさぎにさらわれて、生きて帰れた子供がいたっけねえ。」という記述があります。おばあさんはもしかすると、その「異界に取り込まれなかった人」であるかもしれません。先人の「知恵や同調圧力に負けない強さ」を少女は引き継いだということになります。

7.テーマについて

0~6までのことを考え合わせて、安房さんはこの物語の中で、思春期の入り口に立つ子供たちに、「同調圧力に負けて自分を失ってはいけない、巻き込まれてはいけないよ」ということを語りかけているのではないかと思います。単に自然の脅威を語っているのではなく(それなら白うさぎの列やそれが持つ不思議なリズムは不要)、いつの間にか同調圧力、コマーシャリズムやアジテーションにのせられて、自分の思考を失い、自分では意図していない場所へと誘われてしまうことへの警告。

異界、つまり、厳しい現実社会に取り込まれ、自分が自分ではなくなってしまいそうになった時には、自分の意識を呼び戻すこと。そのためには取り込まれずに生き抜いた先人(おばあさん?)に倣うこと。そして、最後は自分の力を振り絞って苦境を乗り越えることが必要である、というのが安房さんがこの物語を通して訴えたかったメッセージではないかと思います。考えすぎでしょうか??

みなさんの読後感、ご意見も聴かせていただきたいです。

コメント
  • このお話はねぇぐいぐい魅き寄せられて魅き込まれるお話だよね。教材研究たいへんかな、とは思うけれど歌うように楽しんでね、歌うように、歌いながら楽しんでね。

  • 春野 よもぎ (1/2 23:33)

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