1 登壇者(敬称略、肩書きはいずれも当時)
鈴木寛
元文部科学副大臣、東京大学大学院・慶応大学教授、NPO法人日本教育再興連盟代表理事
隂山英男
立命館大学教授、大阪府教育委員会委員長、NPO法人日本教育再興連盟代表理事
小林りん
学校法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢代表理事
鈴木秀康
早稲田大学教育学部2年。当日は学生代表として登壇しました。
2 フォーラム内容
第一部
第一部では、3人の登壇者にグローバル化をどのように捉えているか、お話を伺いました。グローバル化は、海外に出ていく人だけではなく、日本にいる人も含めて考えていかなければいけないということをお話していました。
「日本の社会がグローバル化により大きく変わる。」
鈴木秀康(学生登壇者):今回のテーマは「『グローバル化時代』の日本の教育」です。
現在の社会は目まぐるしく変化をしていますが、その中でも教育は社会の目まぐるしい変化の影響を大きく受けるでしょう。そこで、今回は現在の社会の流れの一側面として『グローバル化』というものに焦点を当てました。
これから『グローバル化』ということに関して登壇者の方々にお話を伺っていきたいと思います。
鈴木寛先生(以下敬称略):私が文部科学副大臣時代に、グローバル人材育成推進会議というものを作らせました。そこでのグローバル化とは、『人、物材、情報の国際的移動が活性化して、各国が他国や国際社会の動向を無視できなくなっている現象』を指します。
その会議の中で政府が非常にユニークな視点として提出されたのが、グローバル人材を『国際的な産業競争力の向上や国と国の絆の強化の基盤として、グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材』と定義付けたことだと言えます。
また別のプロジェクトで、これからの日本の産業構造、社会構造を考えたときに医療・介護、ICT(情報通信技術)関連、グローバル人材の3つが必要になる、と言われました。その中でもグローバル人材は、製造業、サービス業などありとあらゆる産業や会社に展開していくことになるでしょう。
私は2020年オリンピック・パラリンピック招致議連事務局長をしていますが、これに向けて日本は急速にグローバル化が進むと思われます。特に若い人には全員がオリンピックの受け入れボランティアになってもらって、世界中の人達と友達になって欲しいです。今日はそのような世代の人達に向けたフォーラムだと思っているので、もう一度グローバル人材というものについて考えてもらえたらありがたいです。
鈴木秀康:小林りんさんはグローバル化をどう捉えていますか。
小林りんさん(以下敬称略):グローバル化といっても短期的なものと中・長期的なもの二つがあると思っています。
今年インターナショナルスクールを開校します。このプロジェクトをはじめようと思った6年前でのグローバル化という解釈は『海外に行く人には関係するけど、国内にいるだけの人には関係のないもの』というものでした。当時の私は、それは短期的な側面に過ぎず、中長期的に見れば、これから労働人口が2000万人減少していく中で、国内でも海外からの外国人労働者の受け入れや、そこから生じる移民といった一種のタブー的な問題が必ず出てくると考えていました。そう遠くない未来、国内にもグローバル化の波がやってくることで劇的に変わってくる時代がやってきます。
私たちの学校では、英語はあくまでツールでしかないと考えています。それよりも、多様な価値観・多様性に対する寛容さが大事な時代になっていきます。そういったことからも英語教育だけでなく様々な側面から教育を考えていく必要があります。
鈴木秀康:陰山先生はグローバル化をどのように捉えていますか。
陰山英男先生(以下敬称略):日本が東南アジアやヨーロッパといった海外で何をするのかではなく、日本の社会そのものがグローバル化していく、ということをしっかりと捉えるべきだと思います。
現時点でも、多くの在日の外国人の方が日本の社会に溶け込んできていますし、それらの方々のネットワークで回っているような産業も存在しています。私たちが思っている以上にグローバル化はニュースに出てこないところまで進んできているのです。また、人口の減少により、日本人は同じGDPを維持するために、外国人を受け入れざるを得ないでしょう。その過程で日本の社会構造が大きく変わっていくのは間違いありません。
2020年を期して小学校で英語教育が始まります。3・4年で1時間、5・6年生で3時間おこないます。2020年はオリンピックによって海外から大勢の人がやってきます。その際に特に東京や京都は社会構造が大きく変わることになるでしょう。やはり、これからは今までにはなかったような大激変が始まるでしょう。これから私たちはそのことをしっかりと見定めた上で今後のことを考えていかなければなりません。
第二部
第二部では、大学生431人への事前アンケートの結果をもとに、グローバル化に対応するため学生はどのように行動すべきか、また教育現場・教師はどのように変わっていくのが望ましいか具体的にお話を伺いました。
「習うより慣れることが大切」
鈴木秀康:アンケートでは120人の教員志望の学生の中で、83人が『外国人とのコミュニケーションに不安を感じる』と回答しています。私たちはどのように対応していけば良いでしょうか。
陰山:日本の歴史上、これほど多くの外国の方が国内に入ってくることはかつてありませんでした。しかし基本的には人間と人間のふれあいなので、“習うより慣れろ”です。学生は、大学4年間のうちにとにかく海外へ行くこと。皮膚で触れる以上の学びはありません。歴史を見れば時代を開くリーダー達は常に海外に活路を見出してきています。今、海外に対してアレルギーがあるということが一番危険です。
鈴木寛:習うより慣れるチャンスはたくさんあります。心がけを変えれば、明日からでも世界を広げることはできます。留学生が近くにいても、彼らを孤立させてしまっていませんか。どんどん声をかけていきましょう。お互い言いたいことを言い、意見を戦わせて“けんか”して仲良くなる。様々な異文化の中で板挟みになる体験が人を育てます。シェアハウスは特におすすめです。グローバル化の中で、同じ体験をした仲間を作っていけるかどうかが勝負です。
鈴木秀康:次に、小学校の英語必修化について取り上げたいと思います。アンケートでは小学校の英語必修化に賛成する大学生は全体の約4割でした。この結果についてはいかがでしょうか。
陰山:日本の英語教育は失敗と言われています。まず、英語が話せるようにならない。しかしこの問題は、話す体験を増やすことで解決するでしょう。今後日本国内でも英語を話す機会は増えていくので、会話力は自然と身につくはずです。また英語嫌いにならないようにという、英語コンプレックスから来るいらぬ気遣い(教科書の文章を少なくするなど)が、授業を歪めてしまっている現状があります。
また、今の教育現場の最大の問題が“極端に問題が起こることを避けている”ことです。喧嘩がいじめの芽とされ、トラブルが起きないように友達との間に距離を置く風潮ができてしまっている。しかし、特に異文化コミュニケーションの中ではどうしても文化の違いから衝突が起きる場合があります。それを乗り越えてこそ強固な絆が生まれるのです。
「必要なのは語学力ではない」
鈴木秀康:アンケートでは教員志望学生120人中94人が、“グローバル化の中での教育の変化に、地方の現場は対応しきれない”と考えています。これについてはいかがでしょうか
小林:教員に求められるのは英語力ではありません。中長期的には、“多様性に対する寛容”“問題設定能力”“リスクテイク”の3つの能力が必要です。
多様性に触れたことのない先生が多様性を教えるのは難しいことです。国が先生方のために学習の場を設けることも必要でしょう。短期的には、外国人教員を増やすため、外国籍の方の教員免許取得・運用をもっと柔軟に行えるようにするべきです。
鈴木秀康:何かを優先すると、おのずと救われる層と犠牲になる層が出てくるものだと思います。外国人教員を採用した場合、子ども達の能力にトップ層・ボトム層が出てくるのではないでしょうか?
鈴木寛:そのトップ・ボトムは偏差値とは異なるものでしょう。グローバルコミュニケーションとは、根本的なコミュニケーション力の問題です。伝えたいことがあり、伝えたい人が存在する、そういった動機を持つことが重要。語学力よりもノンバーバル(非言語)コミュニケーションが大切になってくるのです。
また、苦手意識を認め、コミュニケーションの難しさを肯定しましょう。教師は、“教えよう“と思いすぎているのです。教師が真剣にグローバルコミュニケーションを学ぼうとしているその後ろ姿こそが最高の教育になります。
第三部
第三部では、学生に焦点を当て、グローバル化に対応するため学生はどのように行動していけばいいか、主に留学について伺いました。
鈴木秀康:アンケート結果から、学生は英語の必要性を感じていて、留学すべきと答える学生は全体の半数を上回ることがわかりました。しかし、実際に行動に移すのは一割程度です。このことについて、陰山先生はどう思われますか?
陰山:今後社会がどのように変化していくのかを念頭に置き、まずは海外に出てみましょう。現代の、海外への行きやすさを利用しない手はありません。私自身、海外経験を通じ、実は大学までの英語は高度なもので、それを引っ張り出す機会がないだけだと知りました。それに、相手は自分の英語レベルに合わせて会話してくれるでしょう。英語のレベルが低くても、なんとかコミュニケーションを取ることができるのです。これが、コミュニケーションツールとしての英語なのです。大事なのは慣れであり、英語づけになる日々を送ることが大切です。その目的意識さえあれば、短期間であっても留学には大変な意味があると思います。
鈴木秀康:では、内向きだと言われる学生がすべき行動は何だとお考えですか?
鈴木寛:学生にはたくさんの機会があるのに、海外に出ないのはもったいないと思います。懸念があるのでしょう。ただそれらはずいぶん解消されているものも多くあります。いくつか紹介します。
まず、就職について。留学することによる就職上の不利はもう一切ありません。むしろ今求められ評価されているのは、学力ではなく挑戦する力です。
また、留学生には女子学生が少ないというのも間違いです。女子留学生の数は劇的に上昇しています。
海外で暮らしてみましょう。一回目は、生活するだけで精いっぱいでしょう。だから、複数回海外で暮らしてみてください。語学に留まらずさまざまなことを学べます。
また、いきなり留学でなくてもいいのです。日本にいる留学生の友達を作ってください。その友人が、海外への興味につながります。
鈴木秀康:一方で、留学する必要がないと感じる学生も4割ほどいるとのことですが、そのような学生はどのように活動をするべきでしょうか?
小林:目的意識が重要です。たしかに、留学で知識を得るのはかなり高度な英語力が必要だと思います。しかし、目的は留学で知識を得ることだけではありません。確かに、英語のできない日々はつらいかもしれません。しかし、そのような井の中の蛙体験で学べることがたくさんあります。複数回の海外経験で初めて得られることもあります。
また、興味のあることについて学んでみるというのも重要です。学びたいと思って初めて、行く価値が存在します。今すぐに学問を究めることを目標にする必要はありません。自分の目的意識をもって海外に出れば、その経験は必ず役に立つのです。
鈴木秀康:先生方のお話を聞いて、グローバル化の進む教育現場を引き続き見ていきたいと思いましたし、私自身、海外で学びたいとも思いました。皆さんも、身の丈に合った活動をとってみてはいかがでしょうか。
まとめ
フォーラムの最後に登壇者の方々から、まとめの言葉をいただきました。
鈴木寛:グローバル化する社会の中で求められるリーダーシップとは、指揮者のように、個人の能力や意見を聴き分けることです。そして、誰よりも学ぼうとすることです。それは、まさにグローバルコミュニケーションを指します。社会の様々な存在について真摯に学ぶ過程で、多様性の理解が必ず生まれます。
陰山:これから、今持っている価値観の通用しなくなる社会が必ず来ます。それを避けるためには、国際化していくしかありません。大学生のみなさんには、そういった社会の変化を見据えた教師を目指してほしいと思います。
小林:国際化をはじめ、教育は大変革期を迎えています。その中で、先進的かつ意欲的に活動する教師がいます。皆さんも、そのような教師になってください。このフォーラムを活かして行動することも大切だと思います。
鈴木秀康:社会の変革期に教育を受ける子どもたちがいます。その子どもたちが大人になって世界の中心になるのです。だとすれば、世界を作るのは教育であるともいえます。ここでいう教育の機会は、教師だけではなく、様々な人にあります。だからこそ、一人ひとりが教育について考え、実行に移していくことが大切だと思います。
3 関連イベント情報
スペシャル・セミナー 『地域を再生・活性化する「主体的・対話的で深い学び」とは?』
日時:2018年8月18日(土) 12:30〜16:50
会場:エル・おおさか 南館 南ホール(大阪府大阪市北浜東3-14)
内容:
○菊池省三先生による講座「いの町・中津市ほかでの取組の現在」
○南惠介先生による講座「木を見て森を見て、そしてまた木を見る~全ての子供たちに小さな社会を紡ぐAL~」
○隂山英男先生による講座「福岡県飯塚市、田川市等における地域ぐるみの取組」
○講師鼎談「地域・学校を再生・活性化する、今後の教育のカタチを考える」
詳細:https://www.kokuchpro.com/event/2d7fd7f0601b587906af123eff0d4aa7
さらに、本記事にご協力いただいた隂山先生が開催されるセミナーをご紹介します。
集中速習導入講座
日時:8月19日午前10時~12時
会場:隂山事務所(京都市丸太町駅東)
講師:岐阜市立梅林小学校長 堀江秀樹校長先生
お申し込み:kage@kageyamahideo.com
4 団体紹介
日本教育再興連盟 (ROJE : Renaissance Of Japanese Education)は、「日本の教育をよくしていきたい」という強い思いを抱く各界のエキスパートたちが、全国の教職員の方々や、保護者の方々、企業や学生たちと共に立ち上げ、活動している団体です。子どもたちの豊かな成長のために、それぞれの強みを生かして行動し、それを互いに評価しあい、連動させていきます。
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