1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
http://homepage1.nifty.com/moritake/
2 実践内容
いじめは思いもよらないところに発生する。いじめはいじめる側の気持ちの問題ではなく、いじめられる側の気持ちの問題であることについて考えた。また授業を通して、自分たちの生活を振り返ってみた。
今まで「いじめ」を受けたことがありますか。あるという人は手をあげてください。
3~4人の子どもの手が上がった。
「遊びに入れてもらえなかった」「友達に無視された」などの話が出てきた。
そんな話を聞いた後、資料を配り、一通り読ませた。
あなたは次の話を読んで、どう考えますか?
ぼくは小学校3年生です。名前を智といいます。ぼくの同級生に殿間(とのま)くんという子がいます。殿間くんは背が低くて、おとなしい子です。殿間くんは、その名前から「とんまくん」というあだ名があります。クラスのみんなは「とんまくん、とんまくん」と呼んでいました。ぼくは、殿間くんとそんなになかよしではなかったのですが、何か用事があるときには「とんまくん」と呼んでいました。ある時、担任の先生から、殿間くんが「とんまくん」と呼ばれることによってつらい気持ちになっていると知らされました。ぼくは殿間くんに「いじめ」をしていたことになるのでしょうか?
智くんは殿間くんにいじめをしていたことになるのでしょうか。
子どもたちの考えは、みごとに二つに分かれた。
いじめか、いじめじゃないか
< いじめ > 15人
•「とんまくん」は、あだ名をいやがっているからいじめだと思う。
•顔の表情で、つらい・かわいそうと感じるならいじめだと思う。
•殿間くんはみんなから「とんまくん」と呼ばれていてつらい気持ちだったからいじめだと思う。
•小さないじめだと思う。人のいやがることを気軽に言っているから。
•殿間くんが心の中でいやがっているから。
< いじめではない > 19人
•智くんは「とんまくん」という名前がいじめにあたるつらいこととは知らなくて言ってしまったことだから。
•智はみんなが言っていて、つらい気持ちになることも知らなかったから言ったと思う。「とんまくん」がつらい気持ちになることをもっと早く言えばよかった。
•智はつらい気持ちだと知らなかったから呼んでいただけで、つらい気持ちだと知っていたら呼ばなかったと思う。
•みんなが言っているとついつい「とんまくん」と言ってしまっただけ。
話し合いが膠着している中で、キラリと光る意見が出された。
智くんは悪気があって言ったわけじゃないんだから、それはいじめじゃないと思います。もし智くんがふざけて「とんまくん」と言ったならいじめだと思う。だからそれは智くんが殿間くんに対して、どういう気持ちで言ってるかで決まるから、この場合はいじめじゃない。
そこで、私が次のように尋ねました。
誰の気持ちの問題?
結局、「いじめ」かどうかの決め手は、あだ名を言われた殿間くんの気持ちの問題なのですか。それともあだ名を言った智くんの気持ちの問題なのですか?
この質問は少し難しかったようである。
つまり、言う側に悪気があるときに「いじめ」というのか、悪気があるなしにかかわらず言われた側が「イヤだな」と思ったときに「いじめ」というのかについて、尋ねた。
•おとなしい子はイヤと言えないかもしれないからやっぱり「いじめ」だと思う。
•「とんまくん」をよく思わなかったから、いじめだと思う。
•言っているあだ名のわけ(悪気があるかどうか)までわからないのだから、いじめではない。
このように両方の考えが出されて、なかなか一つの方向にまとまっていかなかった。そこで自分たちの生活の様子ともう一度見つめ直すことにした。
このクラスの中にも、このケースと同じように悪気はなくても知らず知らずのうちに言われている本人が傷ついていることはないですか?
班ごとワイワイと話し合っていた。「おめー、そうじゃねえのか」と言った声も聞こえてきた。最後に、
では、もう一度尋ねます。
「いじめ」は殿間くんの気持ちの問題なのでしょうか?それともあだ名を言った智くんの気持ちの問題なのでしょうか?
< 殿間くんの気持ちの問題(これはいじめである) > 15人→28人
< 智くんの気持ちの問題(いじめではない) > 19人→6人
のように大きく人数の変動があった。
最後に教師自身の考えを説明して授業を終わった。
先生の考えは、いじめだと思います。もちろん智くんに悪気はありませんが、殿間くんはイヤだと感じていました。人が嫌だな・気分が悪いなと思うことはいじめになるのです。
(先行実践 浜松ジャルダン・高橋先生)
3 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
4 書籍のご紹介
「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)
「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)
「係活動システム&アイデア事典」「学級開きルール&アイデア事典」
(いずれも明治図書2015/2、発売予定)
5 編集後記
変なあだ名で呼ぶことに悪気がなかったとしても、相手がそれでいやな思いをしていたらそれはいじめになるの?ということを子どもたちに考えさせる授業です。子どもの意見を尊重しつつ、教師はファシリテーターとして議論をまとめていきます。いじめというと陰口や仲間外れにするなど、意図的に相手の嫌がることをする行為だと想像してしまいがちですが、自分は何の気なしに言っていることも実はいじめになっている可能性があるのだ、ということに気づかせるのがこの授業の眼目です。「これを言ったら相手はどう思うかな。」と、目の前の相手の気持ちを考えることの大切さを伝える指導案です。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 内藤かおり)
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