丸の数で授業妨害をなくす(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~辺縁系教育8~硬筆書写とリズム~930号~943号」から引用・加筆させていただいたものです。
授業を妨害する子どもがいたときの対処方法を、硬筆書写の丸つけを通じてどうしていけば良いのかを書いた記事です。様々なときに応用ができるようなものになっています。
岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

2 実践内容

硬筆書写の始まり

大変しんどかったクラスで、比較的うまくいった実践が硬筆書写でした。うまくいったといっても、最初からではありません。書写のプリントを配るとくしゃくしゃに丸めて投げられたり、下品な落書きをされたり、注意すると「わかった書けばいいんやろ」と私の目の前で「シネシネ」と書きなぐったり、という始まりでした。硬筆書写が使えるかもしれないと感じたのは、1回目のプリントを返すときでした。

プリントをどうするか

もちろん、まじめに取り組んでいる子もいました。しかし、わざと大声を出して授業を妨害したり、暴言・暴力を繰り返す子たちが何人かいて、私は、翻弄されていました。硬筆書写のプリントもその子たちは落書きをしたり、よくて殴り書き、途中までしか書かずに出す子もいました。これをどうするか。

■1文字ずつ丸をつける

「ていねいに書きなさい」というと、また騒ぎ出すと思われます。赤で直すところを入れたらやり直すでしょうか。まじめに書き直すことはこの時点ではちょっと考えられません。では、はんこだけ押して返すか。次のトラブルを生まないためにはそれが無難なようにも思われました。ただ、これからもずっと同じことが続くでしょう。だめでもともとで、1文字ずつに丸をつけることにしました。

■偶然の字にも丸

1文字ずつ丸を入れると時間がかかります。プリントの出来をざっと見て、全体で3重丸なり、花丸なりをつければ簡単です。一方、1文字ずつ丸をつけていけば、上手な子にはかなりの数がつくことになります。これは手間がかかります。

■だめでもともと

ただし、これは実践済みだったので、うまくいけば子どもの意欲を引き出すことができることもわかっていました。ただ、このクラスでうまくいくかどうか。どちらにしろ、ほとんどのことはうまくいっていないのです。だめでもともとと開き直りました。くしゃくしゃに丸めて捨てられることを覚悟してやってみました。
とはいっても、丸が1つもつかない子がいては意味がありません。落書きやぐしゃぐしゃに書いた子にも丸を入れることができるでしょうか。確認してみると1番少ない子でも1つは丸を入れることができそうです。もちろん、手本を見て書いた字ではありません。なぞり書きの部分です。

■偶然でも

いわば、いい加減に書いた中で偶然なぞり書きがうまくいっただけです。それでも1つもないよりはましです。とにかく丸をつけていきました。では、返すタイミングです。2回目の書写プリントをするときと間が開きすぎては、効果が半減です。次の書写プリントをする直前に返すことにしました。丸に関心を示すでしょうか、それとも1つしかない子がふてくされて暴れ出すでしょうか。

返却

2回目の書写プリントをする直前に1枚目のプリントを返しました。なぞり書きも含めて1文字ずつ丸をつけたものです。まじめに書いている子はもちろんたくさん丸が入っています。意識していた暴言・暴力が頻繁に出る子たちは、いい加減になぐり書きをしているので、ほとんど丸はありません。それでも、なぞり書きも含めての丸つけをしています。どの子も最低1個は丸があります。

どうなるか

さて、これが吉と出るか凶と出るか。うまくいけば、これを励みにまじめに取り組み始めるかもしれません。だめなら、「なんで、こんな少ないねん」とキレて暴れすかもしれません。そうなれば、2枚目の書写プリントはますますいい加減になるか、悪くいけば授業妨害を続けるかもしれません。覚悟の上です。どうせ、1枚目のままの状態を続けても、乱雑な殴り書きです。休み時間にプリントを返し、様子を見ました。

■まずはふつう

配り係の子に、1枚目の書写プリントを配ってもらいました。例の子たちの反応はどうでしょうか。1人は、「ここ置いとくよ」と言うと、ちらりとプリントを見ました。「そんなもん、どうでもええんや」とそれから知らん顔です。まあ、これならいいとしましょう。

■丸が1個の子は

1番気になっていた、丸が1個の子にもプリントを返されました。自分のプリントを見ると、「えっ、丸、あるのか」と他の子のプリントをのぞいています。「1個ずつ、丸がついてるんか」というつぶやきが聞こえました。とりあえずは、マイナスにはならなかったようです。

■2回目の態度

丸が1個しかつかなかったというより、「1個丸がついた」と考えたようです。2回目の書写プリントに向かう態度は1回目よりは多少はよくなっているように見えました。少なくとも、ふつうにプリントに向かっています。いろいろなことがうまくいっていない中では、これだけでも、ほっとしました。

丸の基準は落とさない

ただ、だからといって、丸の基準は落とさないつもりでした。なぞり書きであれば、ほぼずれがなく書けている、手本を見て書くものであれば、きちんと字形がとれている、そうでなくては丸をつけないつもりでした。それまでのクラスでは、ここが厳格なほど子どもの意欲が高まるという手応えがあったからです。ただ、このクラスではどうなるかは見通しがつきませんでした。本人が「がんばった」と思っているかどうかとは別です。

2回目のプリント

暴言・暴力が続く子たちも2回目のプリントは、1回目よりはましな態度で取り組んでいました。1回目ほどは落書きや殴り書きもありませんでした。(ということは、少しはあったということです…。)

■2回目の結果

2回目のプリントの丸つけを始めました。
全体的に1回目よりもていねいに書かれているという印象がありました。となると、丸の数が増えます。それだけこちらの手間は増えるのですが、そんなことよりも私の意図した方向で進んでいることに何よりも救いを感じました。例の子たちも、きれいな字とまではいきませんが、やる気は見られました。「1つずつ丸がつくのか」とつぶやいていた子の字も明らかに1回目とは変わっていました。その子の丸の数は一気に10個を超えました。

3回目の書写プリント

2回目の書写プリントを返すのは、3回目の直前にしました。前回は、丸つけの結果を見てキレるのではないかという心配が大きくありました。今回は、どちらかというと、期待の方が大きくなっています。

反応あり

今回も例の男の子に注目していました。1番キレやすい子でしたが、1枚目は、丸が1個でも「1つずつ丸がつくのか」とつぶやいていた子です。今回は、書写プリントが返されるとすぐに手にとってじっと見ています。丸の数を数えはじめました。

■丸を数える

丸を数え終わると顔を上げて、「やった、丸12個あった」と声を上げました。ちょっと気に入らないことがあると、すぐにキレて暴言・暴力が止まらない子です。その5年生の男の子が書写プリントの丸の数が増えたと喜んでいるのです。

■他の子は

すぐ近くに他の子たちが集まって何かの話をしていました。その中にひときわ体の大きい男の子がいました。この子もなかなかのもので、私のことを「おまえなんか教師と認めない」と宣言していました。なので、私を呼ぶときも決して「岡先生」とは言いません。「おい」「おまえ」「そこの」といった具合です。丸が増えて喜んでいた子がその子に声をかけました。

■声をかける

丸が増えて喜んだ子は嬉しそうな表情で近くにいた体の大きな子に声をかけました。「おまえ丸、何個やった?」声をかけられた子は、私に向かって「おまえなんか教師と認めん」と宣言し、平気で暴言を吐くような子です。1枚目の書写プリントには、「うんこ」「シネ」と殴り書きをしていました。

■「どうでもいい」

その大きい方の子がなんと答えるかと思って聞いていました。「そんなん、どうでもええやろ」でした。それはどうです。教師と認めない人間に丸をつけられても、うれしくはないでしょう。しかし、そんなことにお構いなく声をかけた方は、「おれ、12個あったぞ」とにこにこしながら言いました。
「そんなもん、どうでもええやろ」という返事は(そうだろうな)と思いました。暴言・暴力をいくら私が注意してもまったく聞く耳を持たず、「キショいねん、よるな」「うるさい、シネ」などと挑発するような子です。

この子には、書写プリントの丸などまさに「どうでもええ」ことなのでしょう。丸を喜んだ子がいることだけでもよかったと思うべきです。ところが、その子の次の言葉には驚きました。「おれ、12個あったぞ」への返事です。

■俺は12個

その子は、書写プリントの丸を尋ねられ、「そんなもんどうでもええやろ」と答えました。それを気にせず、相手の子が「俺は12個あったぞ」とうれしそうに続けました。すると、相手の子は「俺は、20個や」と小馬鹿にしたような言い方で答えました。

■実は数えていた!

私に面と向かって「お前なんか教師と認めん」といい、散々、暴力暴言を繰り返してきた子です。1枚目の書写プリントには、「シネ」などと落書きをしていました。2枚目は落書きはなかったものの、まさか丸を気にしているとは思っていませんでした。上のやりとりは、書写プリントが返されてすぐのことです。いつの間に数えたのでしょう。

「俺は20個」と、相手を小馬鹿にしたような表情でその子は言いました。ということは、書写プリントが返されるとすぐに丸の数を数えたということです。そして、(20個だ!)と思っていたのでしょう。

■どうでもいいやろ、といいながらも

だから、「どうでもいいやろ」と言いながらも、相手が「俺は12個」というのに(自分の方が多い)と思い、つい、「俺は20個」と口から出てしまったのでしょう。「どうでもいい」とは裏腹に、丸の数が気になっていたということです。とにかく、書写プリントの1文字ずつの丸つけは続けることにしました。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
 1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。(2016年月日時点のものです)

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記 

授業を妨害するような子どもでも丸をつけて褒められるということによって少しずつ改善していこうとするということがこの記事からわかります。
褒められることは子どもにとって良い体験でありますので、この丸をつけるということだけでなく、学校生活のなかでも「褒める」ということを意識していくことが先生に必要ではないのかなと感じました。

(文責・編集 EDUPEDIA編集部 福山浩平)

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