アクティブラーニングで行う、分数の大きさと足し算、引き算(品川区第二延山小学校研究発表)

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目次

1 はじめに

この記事は、平成29年1月26日に行われた、品川区第二延山小学校の研究発表の内容をご紹介するものです。この記事ではその中でも、公開授業が行われた「分数の大きさとたし算、ひき算」についてご紹介します。第二延山小学校では、東京大学の市川伸一教授の研究室と連携し、市川教授が提唱する「教えて考えさせる授業」に基づき、授業研究を行っています。教えて考えさせる授業に関しては、こちら(市川伸一教授が提唱する「教えて考えさせる授業」とは?認知心理学から見た習得型アクティブラーニング)の記事をご覧ください。また、学校としての目標設定の内容については、こちら「アクティブラーニングで自立した学習者を育成するための目標設定」の記事をご覧ください。

2 単元内容

目指す児童像

第二延山小学校では、算数において学年ごとに、以下のように目指す児童像を設定しています。

  • 低学年…自分の考えを、ことばや式、図などを使って、他者に表現できる児童
  • 中学年…自分の考えを持ち、他者にわかりやすく表現することができる児童
  • 高学年…根拠に基づき、他者にわかりやすく表現することができる児童

この中でも、今回は中学年の実践を扱います

単元名

「分数の大きさとたし算、ひき算」

単元の目標

  • 「真分数」「仮分数」「帯分数」の用語を知り、分数の意味や表し方について理解を深める
  • 簡単な場合について、大きさの等しい分数があることに着目できる
  • 同分母の分数の加法、減法の計算の仕方を考え、計算することができる

単元の評価基準

算数への関心・意欲・態度
1より大きい分数や、大きさの等しい分数の表し方に関心を持っている。また、単位分数いくつ分という考え方で分数を捉えることによって、同分母の分数の加法、減法が整数の時と同じように計算できることに気づいている
数学的な考え方
分数の大きさを数直線や図などで表したり、分数が表された数直線や図を読み取ったりして、分数の大きさについて考えている。また、同分母の分数の加法、減法の計算のしかたを、既習の計算を基に図や式などを用いて考えている。
数量や図形についての技能
1より大きい分数を仮分数や帯分数で表すことができる。また、同分母の分数の加法、減法の計算が確実にできる
数量や図形についての知識・理解
真分数、仮分数、帯分数の意味や表し方について理解している。また、簡単な場合について、大きさの等しい分数があることを理解している。加えて、同分母の分数の加法や減法の意味について理解している

単元の方針

本単元は昨年度の「分数」の単元内容を踏まえ展開している。
昨年度の「分数」においては、分割分数(単位が付かず、あくまで割合を表すもの)から量分数(単位が付き、一定の量を表すもの)へと分数の概念の広がりを丁寧に押さえながら、基準量や単位分数を意識させつつ分数を説明できるように指導を行った。
本単元においても、その基本方針を継続し、基準量や単位分数の概念を意識的に理解させたり、説明させたりする学習活動を設定した。特に理解深化課題においては、小数と分数の関係や、分母と分子が同じの時1になるなどの、3年までの既習事項をスパイラルに織り込みながら、1より大きな分数の学習の理解をさらに深めていく。

3 本時の指導(4/11時間)

ねらい

大きさの等しい分数があることを理解する

教えること

1/3は2/6,3/9と同じ大きさであると教える 分数には、分母や分子がちがっていても、大きさの等しい分数があることを教える

考えさせること

数直線を使いながら、分母と分子のちがう同値分数を見つける

困難度査定・手立て

数直線に等分の線を入れて、同じ大きさの分数を見つけることが、児童にとっては難しいと予想される。
そこで、受容学習(教える段階)において、テープ図を実際に折ることと、数直線に等分の線を入れることが、対応する動作であることを示す活動を組み込んだ。

展開

授業の冒頭で児童にめあてを実際に言わせて、全体像を児童に意識させていた。

予習確認(3分)

分数の数直線問題を解いてくる。(プリントでの配布)
予習課題は一人ひとりに当てて答えさせ、合っていたらしっかり褒めることが徹底されていた。

教師からの説明(12分)(児童には「知っておこう」という形で提示)

  • 分数には、分母や分子がちがっていても、大きさの等しい分数があることを教える
  • 1/2は他の分数でも表せないか考える

  ⇒数直線のメモリに等分できる線を入れる手法を助言する

  • 1/2は2/4,4/8と同じ大きさの分数であると理解する

困難度査定の通り、テープ図という具体的なツールに紐づけて、大きさの等しい分数が図式的に説明されていた。図をもとに板書が構成され、児童にも板書の図に基づいて理解しようという様子が見られた。
また、児童にノートに貼る用のプリントを配布し、そこに説明に使う図も掲載しておくことで、児童がノートを取るのに必死になりすぎず、教師の説明におおむね集中できていた。

大事ポイントとして、「1の量を等しい大きさのメモリに分ければ、分子、分母の違う同じ大きさの分数が見つかります」ということを明確に黒板に提示していた。
そして、「等しく分ける」というキーワードを教師が説明の中で繰り返し用いており、理解の上で重要なポイントを何とか児童に意識してもらおうという工夫が見られた。

理解確認(10分)(児童には「確かめよう」という形で提示)

数直線から1/3と大きさの等しい分数を2つ見つけ、それをペアで説明しあう、というワークを行った。その後に、全体でいくつかのグループのやり方を共有していた。
ワークの際は、ストップウォッチで見えるように時間を測り、児童に適度な緊張感を持たせていた。また、ペアワークでは、相手の説明に対して積極的に根拠や理由を聞く姿勢が児童に見られた。この形式に慣れ、意図を理解しているからこその言動だと思われる。グループによっては、ふざけてしまったり、会話が止まってしまったり、といったケースも散見され、ワークの構成の難しさも感じた。

理解深化(15分)(児童には「深めよう」という形で提示)

ここでは、クラスのレベルごとに異なる課題を提示する。
一番上のレベルのクラスには、「8/12と同じ大きさの分数を見つけ、理由も説明しましょう」という課題を、
真ん中のレベルのクラスには、「6/8と同じ大きさの分数を見つけ、理由も説明しましょう」、という課題を、
一番下のレベルのクラスには、「3/4と同じ大きさの分数を見つけ、理由も説明しましょう」という課題を出したていた。

この説明には根拠、理由を必ずつけることが説明されていた。この説明は、各グループに配布した大きな数直線の図が書かれたプリントを用いて、グループ内で説明しあうことが指示された。ここでも、いくつかのグループが最後に前に出て、どのような説明ができたか発表を行っていた。
特に上の方のクラスへの課題では、ただ数直線を等分していけば同じ大きさの分数が見つかる、というだけでなく、逆に等分されているメモリを同じ数だけ合体させる、という考え方によっても同じ大きさの分数が見つかる、というところまでのレベルが目指されていた。ここまでの深い理解があれば、約分などの次の発展的な内容もすんなりと理解できるだろう。
ここでは、大きな図を渡して、それを基に生徒に考えさせていたが、それには大きく2つのメリットがあるのではないか、と考えられる。1つは、概念の理解を自分の言葉で表現するのが苦手な児童が、図に書き込むことで相手に自分の理解を伝えることができる、という点だ。このような事例は実際の授業の中でも見られた。もう一つとして、図への書き込まれ具合を見るだけで、教師がグループの中での議論の深まり具合を簡単に把握できる、ということも挙げられる。

自己評価(児童には「振り返ろう」という形で提示)

最後に、今日学習したこと、わからなかったことを児童ごとにワークシートに記入させていた。授業で身につけたことを最後にまとめる、ということが当たり前のように扱われていて、非常に印象的であった。一方、児童に「早く終わりたい」という気持ちが見え始め、時間も予定していた5分は確保できていなかったため、若干形式的になってしまっていたようにも見えた。

4 編集後記

「教えて考えさせる授業」の枠組みが、どのように小学校に反映されていたのだろうか、ということはとても興味を持っていたのですが、今回公開授業を見させていただいて、非常に納得する部分が大きかったです。授業で扱う内容の核を明確に絞り込み、それを目指した学習活動を工夫する、さらにそれを教師同士で振り返る、ということを繰り返す中で、洗練されてきた姿になったのだろう、と思います。もちろん、小学校の児童に考えさせるワークを入れ込んだ授業を行うわけですから、不確定要素も多くなるでしょうし、コントロールの難しさもあります。しかし、そのようなリスクを負ってでも、この形式が成果をあげられるのは、「教師が何を教えたのか」よりも「児童が何を身につけられたのか」に主眼を置いて授業が設計されているからなのだろう、と感じました。

(編集・文責 EDUPEDIA編集部 新井 理志)

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