1 はじめに
本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~超スモールステップ~583号~589号」から引用・加筆させていただいたものです。
注意するときに心掛けるとよいことなどの身近な話や、学校の雰囲気を変えるという少し大きな話など、教員生活でのストレスが減るような実践について書かれています。
岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm
2 実践内容
注意するときの経験から学んだ子どもの変え方「10回原則」
「何回言ったら分かるの?」
低学年で百マス計算に取り組みだしたとき、なかなかスムーズに取りかかれない子がいました。イライラして「何回言ったら分かるの?」と言ったことがあります。そのときの私は、よく言っていたはずです。
そのとき、ふと「『何回言ったら分かるの?』とは言ったが、実際は何回言ったんだろう」と思い、試しに数えてみることにしました。これが「10回原則」を思いつくきっかけでした。
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★「何度言ったらわかるの?!」と、怒り、嘆いてしまう前に
も、ご参照ください。
注意の回数
ある日から、予め、ある子に声をかけることして、何日かけ続けることになるか数えることにしました。その子に何回言うと、百マス計算のスタートをスムーズにできるようになるかを数えることにしたのです。
そのときは、問題を黒板に書き、子どもが10mm方眼のノートに写すことにしており、日付を書いたり、定規で線を引いたりといったことは言われなくてもやることに決まっていました。その子は「何度言っても」ぼんやりしたり、しゃべったりして、準備が遅れていました。
数え初めの初日に「○○君、百マス計算の前はどうするんだった?」とその子に声をかけました。いつものように、ぼんやりしていたその子は、はっとして「問題を書く」と言うと、ノートに向かい始めました。おかしなもので、それまでその子のだらだらした態度に苛立っていたのですが、いざ数え始めるとゆとりを持つことができました。
そのようにして、その子を観察すると、
- 1日目…ぼんやりしていて声をかけられる
- 2日目…ぼんやりしていて声をかけられる
- 3日目…私を見ると、何も声をかけられずに準備を始める
- 4日目…既に準備に取り掛かっている(私は「やっているね」と声をかけた)
- 5日目…声をかけるまでもなく準備に取り掛かっている
という結果が出ました。
つまり、「何回言ったら分かるんだ」の「何回」は3回だったことになります。私はこの結果に愕然としました。なぜなら、私は今までももっとたくさん「早くしなさい」「また忘れてる」と言ってきたはずだったからです。それでも、その子に変わる様子はありませんでした。
10回原則の誕生
この3回と今までの「たくさん」はどう違うのでしょう?
どうやら、今回は、意識して毎日連続して声かけをしたということがこの結果に繋がったようです。その子の態度が悪いとばかり思い込んでいましたが、今までの私の指導の仕方が悪かったと言えます。
以降、「何回言ったら分かるんだ」と言いそうになったとき、「10回やってから考えよう」と思うようになりました。すると、1つのことを教えるのに大抵10回も注意する必要はないということが分かってきました。
ただし、「教える側が意識して、連続して、子どもの状態を見ながら声かけをしている」という条件付きです。
これが、10回原則の誕生です。こうして自分の中で一つの概念ができました。すると、今度はその概念を使って考えることができるようになります。
「10回やってから、次のことを教えよう」
「このことを10回教えるためには、いつから始めたらいいか」
となるわけです。
子どもが変わるまでに100日
教室では、あらゆる取り組みで子どもが変わることを期待します。
どれくらいで変わるのかというのは、当然指導する内容と子どもによって変わってきます。
ですが、「長くてどれくらいかかるか」あるいは「長くてもこれくらい」という目安があると指導する側の気持ちの上でかなり違ってくると思います。
半年と区切ってみる
私は、子どもが変わるまで半年かかると思っています。授業日で数えると半年の授業日は約100日です。半年あれば、指なぞり(※記事『超スモールステップ~指なぞりで音読を得意に~(岡篤先生)』参照)が全くできずに音読どころではなかった子も、何とかみんなと同じように音読できる場面が増えてきます。授業中すぐに立ち歩くなど、続けて座っていられなかった子が45分間曲がりなりにも座れるようにもなります。
半年と区切ることによる効果
もちろん、何もしなくて半年ではなく、課題に対する有効な手立てがあり、それを継続するということを少なくとも半年すれば、大きな変化を期待できるということです。「半年」と腹をくくれば、指導する側も小さなことに一喜一憂しているわけにはいきません。
ときには、指示通りに生徒が行動しないときもあれば、できたと思ったことが次の日にできなくなっていることもあります。ですが、「半年先に変わっていればいい」と思えば、苛立ちが減るはずです。逆に言うと、半年後には言い訳はできないということです。
そうはいっても、クラスの子どもの何を課題と考えるのかというのは人によって違います。私にとっての課題・重視していることは、授業妨害や読み書き計算、俳句、縄跳びです。このように、何が課題かは人によって様々です。
学校が変わるのに1000日
そして、私は「学校が変わるのに1000日」かかると考えています。その根拠は漢字力調査の結果です。ある学校で、漢字力調査を続けていて、その結果を職員研修で共有していました。調査を始めて5年ほどたったとき、取り組みの成果が着実に出ていたので、結果の一部をグラフにして示したところ、きれいに右肩上がりに成績が向上していたのです。そのとき一人の職員が、
「漢字力調査の結果と学校の雰囲気が比例していますね」
と言いました。取り組みの初期からいた職員は全員納得しました。
漢字の取り組み
その学校では、漢字力調査に始まり、年間2回の漢字月間、夏休み、冬休みの宿題の統一、2学期に新出漢字を終えて3学期を総復習の期間に当てるといった取り組みを続けてきました。漢字月間では、全員がテストで9割以上取ることを目指し、合格したら校長印の押された認定証を渡しました。最初は、単に漢字ができないから漢字の力を上げようとして始めた取り組みでした。
漢字月間テストの初期
初期の頃は、テストで自分の学年の問題で9割を取ることができなかった子が、どの学年にもいました。全学年単学級で、児童数100名程の小さな学校でしたが、自分の学年の問題ではとても合格できないという子が10人位いました。つまり、約1割です。
なぜ3年目に変わったのか?
学校ぐるみの漢字の取り組みを始めると、テストで自分の学年の問題で9割を取ることができなかった子たちが毎年減っていきました。そして、漢字の取り組みを続けて、学校の雰囲気が変わったと実感をしたのは3年目くらいでした。それはなぜかというと、漢字が苦手な子が増え出すのは、3年生からであるからです。3年経てば、高学年は全員漢字の取り組みを受けています。だから、3年経つと自分の学年の問題で漢字テストを受けるのが普通になっていました。3年といえば、約1000日です。
まとめ
以上のことを整理すると方法の定着は10回、子どもが変わるのは100日、学校が変わるのは1000日ということになります。これを私は「0の原則」と呼んでいます。
3 執筆者プロフィール
岡 篤(おか あつし)先生
1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。
4 書籍のご紹介
『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年
『書きの力を確実につける』2002年
『これならできる!漢字指導法』2002年
『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年
『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年
5 編集後記
私自身も子どものころ、「何回言ったらわかるの」と言われたことがあります。そのように注意されたことは全てではありませんが、すぐにはできなかったように思います。
毎日継続して注意されると、それができるようになり、それを習慣にすることによって、その子の成長に繋がっていくのではないかと思いました。
また、この記事の「0の原則」によって、先生の生活が少しでも余裕のあるものになることを願ってやみません。
ぜひ、参考にしていただければと思います。
(文責・編集 EDUPEDIA編集部 中原瑞貴)
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