人間力ある教師をどう育成するか~子どものこころ編~(桃山学院教育大学シンポジウム パネルディスカッション①)

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目次

1 はじめに

本記事は、2017年9月17日(日)に中之島会館(大阪市)にて開催された「桃山学院教育大学シンポジウム これからの人間教育と教師のあり方について」の内容を記事にしたものです。
 ここでは、「これから求められる教師のあり方とは~人間力ある教師をどう育成するか~」というテーマで行われたパネルディスカッションの内容を編集し記事化しています。議論を交わしているのは、片山善博氏(早稲田大学公共経営大学院教授)、白井俊氏(文部科学省初等中等教育局 教育課程課教育課程企画室長)、石井雅彦氏(堺市教育委員会教育長)、池坊専好氏(華道家元池坊次期家元)、そしてコーディネーターの鎌田首治朗氏(桃山学院教育大学 教育学部長就任予定者)です。
 パネルディスカッションの内容については三つの記事があります。この記事では、子どもとの感情の共有化や伝統文化を学ぶ機会の必要性など、主に子どものこころの支え方子どもに身につけてほしい力についてのお話をご紹介します。
 関連記事もぜひ合わせてご覧ください。
これからの教育に求められること~教育と地方自治の観点から~(桃山学院教育大学シンポジウム 片山善博氏による基調講演)
人間力ある教師をどう育成するか~授業編~(桃山学院教育大学シンポジウム パネルディスカッション②)
人間力ある教師をどう育成するか~教師の環境編~(桃山学院教育大学シンポジウム パネルディスカッション③)

2 これから求められる教師のあり方とは

◆子どもと感情の共有化ができるか

 〇いかに子どもに味方であると思わせられるか

石井:私が小中学校の担任を持つ教師のみなさんにお願いしたいことは、人間力を育てるうえで大事な「子どもと感情の共有化ができるか」について考えてほしいということです。具体的にいうと、子どもが頑張ったときには一緒に喜び、悲しんでいるときには一緒に悲しむことができるかということです。子どもは「この先生は自分の味方かどうか」「本当に自分のことを大切にしてくれるかどうか」ということをしっかり見ています。したがって、感情の共有化こそが教師の人間力の根幹になりうるのではないかと思っています。

そのために私が重要視しているのは、赤ペンチェックがきちんとできているかということです。教師が子どもに対してたくさんコメントを付けている学校は学力が高く、生徒指導上の問題も少ないです。

また、赤ペンチェックの代わりに声かけに力を入れている学校もあります。その場合は、いかに教師が子どもと1対1の状況で声をかけてあげるかが大切です。

片山:私も赤ペンチェックの話に同感です。自分がしたことをきちんと評価されることは、子どもにとって快楽になると思います。さらに、次もまた頑張ろうという動機づけにもなります。いかに子どもの動機づけをするかというのはとても大切なことだと思います。動機づけすれば、できる子は教師の手を借りなくてもどんどん自分で進んでいけるようになります。

池坊:教師からのコメントは、子どもだけでなく親にとっても重要なことです。親は教師と直接話をしていなくても、「先生はちゃんとうちの子を見てくれているのだ」とわかり、安心感につながるからです。

 〇子どものありのままを受け止める言葉を

池坊:16世紀に当時の家元が言った「枯れた花にも華がある」という言葉を紹介します。「全ての植物の全ての瞬間に輝きがあり、それぞれの一瞬一瞬に価値がある。だから生け花というのは美しい瞬間の花だけを愛でることではなくて、全ての瞬間の花を生かすことだ」という意味です。

今の時代は情報が多いがゆえに、自己肯定感が低く、自分はどう生きていけばよいのだろうと考え込んだり、周りと自分を比べて自分のあり方を模索したりする人が非常に多く見受けられます。私は、このようなありのままの自分を受け止めてくれる言葉に出会うことも、若い人たちにとっては大きな力になっていくのではないかと感じました。

◆「自分で考える力」をのばす

 〇あの人の立場だったら自分はどうするだろう?

片山:私は、教師には子どもたちに「自分で考える力」を身につけさせることを気にかけていただきたいと思っています。教育というと何かを覚えさせるということが中心になるのかもしれませんが、そればかりではなくて、自分だったらどうするかを子どもに考えてもらうことを大事にしてほしいと思います。たとえば、国語の教科書に登場する人物の立場に自分が立てばどうだろうと考えることが挙げられます。常に自分とは少し距離の離れた他者のところに身を置いて、自分だったらどうするのかを考えること。これを子どもたちが生活習慣として身につけられるとよいです。

そして、教師は目の前の子どもたち一人ひとりの立場に立って、その子はどう考えるのかを考えてほしいです。たとえば、いじめられて困っている子どもがいれば、その子の立場に立って考えてみてください。そうしたら気が気でなく、なんとかしてあげなければと思うはずです。自分だけで悩まないで、チーム学校としていろいろな方法で解決策を探ろうという気持ちになるはずです。そして問題を解決することに結びつきます。このように、教師は子ども一人ひとりの立場に立って考えなくてはなりません。

◆伝統文化を学習する機会を失ってはいけない

 〇グローバル化の中だからこそ問われる「日本人とは?」

池坊:教師のみなさんには、伝統文化を学習する機会を大切にしていただきたいと考えています。現在、小中高では授業で伝統文化を扱う時間や余裕があまりなく、より目に見えやすい学力の実績が求められています。そのため、伝統文化を学習する機会が失われつつあります。しかし、伝統文化を学ぶことは、現代においても非常に重要なことです。その理由は以下の通りです。

このように、伝統文化を学ぶことは、グローバル化が進む現代だからこそ必要不可欠なものです。

普段数字に追われている状況だからこそ、芸術や伝統文化を学んでみてはいかがでしょうか。そこに自分の居場所や、心を解放できる瞬間を見つけ出してくれたらよいと思います。目に見える学力の部分と、目に見えない根っこの部分、つまり自分を元気に保てる部分のバランスをうまく取っていけば、よい教育につながるのではないかと思います。

 〇0からつくりあげる創造力を、芸術から

片山:私も、教師のみなさんの素養の中に芸術や伝統文化を重視していただきたいと思います。今、芸術科目が邪険に扱われる傾向にありますが、美術や音楽、書道などはとても重要な科目です。なぜならば、こういった科目は子どもが0から何かをつくりあげる科目であるからです。そして、0からつくりあげるというのは子どもにとってかなり勇気のいることです。チャレンジすることや美を追求すること、創造力が重要になってくると思います。そういったものを養ってくれるものの一つが芸術や文化だと言えます。したがって、家庭でも学校教育でも、文化や芸術を学ぶ機会を取り入れることを重視してほしいと思います。

3 登壇者プロフィール

●片山善博氏(早稲田大学公共経営大学院教授)

1951年岡山市生まれ。東京大学法学部を卒業し、自治省に入省。能代税務署長、自治大臣秘書官、鳥取県総務部長などを経て、1999年鳥取県知事(2期)。2007年慶應義塾大学教授。2010年から2011年まで総務大臣。2017年から現職。合わせて、鳥取大学客員教授、日本郵船株式会社社外取締役なども務める。

●白井俊氏(文部科学省初等中等教育局 教育課程課教育課程企画室長)

東京大学法学部、Columbia Law School卒。2000年文部省に入省。大臣官房、生涯学習政策局、高等教育局、徳島県教育委員会等を経て、2015年、経済協力開発機構(OECD)アナリスト。2017年から現職。

●石井雅彦氏(堺市教育委員会教育長)

金沢大学を卒業し、1977年堺市立鳳小学校教諭。堺市立福泉中央小学校教頭を経て、2004年、堺市教育委員会事務局学校教育部学校指導課長となる。その後、学校教育部次長、学校教育部長、教育次長(指導担当)を歴任。2012年に退職し、2015年から現職。

●池坊専好氏(華道家元池坊次期家元)

京都工芸繊維大学大学院博士後期課程修了。アイスランド共和国名誉領事。小野妹子を道祖として仰ぎ、室町時代にその理念を確立させた華道家元池坊の次期家元。京都にある紫雲山頂法寺(六角堂)の副住職。いのちをいかすという池坊いけばなの精神に基づく多彩な活動を展開している。

●鎌田首治朗氏(桃山学院教育大学 教育学部長就任予定者)

広島大学大学院博士後期課程修了、博士(教育学)。京都市立久世西小学校教頭、環太平洋大学教授、奈良学園大学人間教育学部教授などを歴任。2018年、桃山学院教育大学教育学部長に就任予定。専門分野は国語教育学、教育評価、教員養成、人間教育学。

(2017年9月17日時点のものです)

4 編集後記

子どものこころの支え方や子どもに身につけてほしい力についてご紹介しました。今は受験というものを乗り切るため、テストで点を取ることばかりが重視されがちではありますが、そういった能率最優先の生き方では見失ってしまうこともあるのではないかと思います。伝統文化や芸術を学ぶことは、テストには役に立たなかったとしても、子どもの人生をより豊かにすることには大きく貢献するのではないかと思いました。

(取材・編集:EDUPEDIA編集部 宮崎・石川・津田)

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