1 はじめに
社会や職業に大きな影響を及ぼすIT・テクノロジーの急激な進歩に伴い、「21世紀型スキル」「STEAM」「プログラミング」といったワードが教育を大きく変えると言われています。そこで本記事では、教育・学習とICTについて考えます。
ロボットと同じく、ICTは学校を困らせるものではなく、授業や学習を豊かにするためのものであってほしいと願います。
(記事内の写真は、新しいタブで開くと大きく表示されます)
(写真は「STEAM ラボ」より)
2 目次
- 学校の先生のICT活用
- 中高生のICT利用の実態
参考資料・調査
3 本文
1、学校の先生のICT活用~調査からみるICT活用の実情
先生の活用率は伸びているが
初めに文部科学省の調査より、教員のICT活用指導力について考えます。図1は、『平成28年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査(文部科学省、平成29年3月1日)』を基に作成したものです。
(図1 教員のICT活用指導力の推移 )
H19からH29の10年間で最も伸びたのは「B:授業中にICTを活用して指導する能力」。52.6から75.0へ22.4ポイントアップ。他に、先生のICT活用の項目A(授業準備)、E(校務)もそれぞれ約14.6、17.5アップ。
一方、伸び率が低かったのは「C:児童・生徒のICT活用を指導する能力」。56.3から66.7の10.4アップで、H29では5項目中、最下位になっています。
結果から、先生は自分が授業や校務でICTを使うことはできるが、児童・生徒に活用させることは難しいと感じていることが分かります。
情報処理と適応学習
次に、活用率の低かった「C:児童・生徒のICT活用を指導する能力」について詳しくみてみます。下の図2は、調査で使われたチェックリストを基に小項目と校種別の割合で表したものです。
(参考)教員のICT活用指導力のチェックリスト(小学校版)、(中学校・高等学校版)
(図2 「C:児童・生徒のICT活用を指導する能力」の項目・校種別の回答 値は政府統計の総合窓口「e-Stat」のデータより)
項目について、C-1.2.3は「情報処理」に関すること、C-4は自分のペースに合わせて学習を進める「適応学習(アダプティブ・ラーニング)」に関することに分類しました。
項目別にみると、C-1(情報取集)が74.3%(全体)と最も高くなっています。
校種別にみると、小学校と高校の割合が高く、中学・特別支援学校では、子どもにICT活用を指導できていないと考える先生が多いようです。
活用が難しい理由は?
なぜICTを活用した授業が推進されにくいのでしょうか。調査(JAPET2011、文部科学省2017、旺文社2018)からは、端末や機器等の不足や校内LAN環境といった「設備の問題」を初め、授業に使えるソフトウェア・コンテンツや障がいがある児童・生徒に操作しやすい機器が少ないといった「ソフトの問題」、現在のカリキュラムでは活用場面が少ない、教員の活用スキル不足といった「指導側の問題」などの要因が挙がっています。
中高ではICT活用が難しい?
文部科学省の調査では、高校のICT指導率は高かったですが、ベネッセ教育総合研究所が2016年に行った調査では、中学・高校における生徒のICT活用の指導について、小学校よりも低い活用率を示しています。これは、学校によって活用の差が大きいことを表しているのかもしれません。
* ベネッセ教育総合研究所 第6回学習指導基本調査 DATA BOOK(小学校・中学校版) 2016年
(写真はDATA BOOKp16.17より)
文科省の調査と同じく、インターネットで調べるために活用する割合が高く、考えを整理・発表したり、個別学習に活用したりすることは少ないようです。
教科別にみると、中高ともに、生徒の活用に関する全ての項目で数学が最も低くなっています。「アルゴリズム」や「統計」など、社会では数学はコンピューターとの関連が大きい教科に思えますが、学校教育では上のような現状です。
(参考:下の動画はスーパーコンピュータと「組み合わせ爆発」の紹介アニメーションです。『フカシギの数え方』 おねえさんといっしょ! みんなで数えてみよう! 企画・制作 – 日本科学未来館、JST ERATO 湊離散構造処理系プロジェクト)
ここまで1章では、先生の視点からICT活用についてみてきました。先生は、自分が授業や校務でICTを使うことはできるが、児童・生徒に活用させることは難しく、なぜそう感じるのかについては様々な要因があることが分かりました。
それでは、次章では、特にICT活用の低かった中高生とICTの関係についてみていきます。
2、中高生のICT利用の実態~インターネットを使って何をしているの?
学習とICTについて考える前に、中高生が普段どのようにICTを利用しているのかをみてみます。ICTメディアが、コミュニケーション、学習、趣味、情報収集など、中高生の生活や文化にどのような影響を与えているのかを調査した『ベネッセ教育総合研究所 中高生のICT利用実態調査 報告書 2014年』を参考にします。
下の図は、中高生のインターネットの利用内容と頻度です。
(写真は報告書p10より)
調査結果から、メールやチャットなどのコミュニケーションと動画サイトやゲームなど趣味に関する利用が多いことが分かります。中学生は約半数、高校生では約7割が毎日LINEやTwitterなどでコミュニケーションをとっていることが分かります。
インターネットを使って「勉強をする(学校の授業を除く)」生徒は、「ほぼ毎日」と「週に1~4回くらい」を合わせて中学で約4割、高校で35.1%です。
ICTの3利用
上の結果を基に、中高生のICT利用をまとめたのが下の写真です。
コミュニケーションと趣味が多く、勉強も半分くらいですね。社会人になると、勉強が「仕事」に変わり、割合も大きくなるように感じます。
では、次に、学習中どのようにICTを使っているのかについて、同じベネッセの調査と国立青少年教育振興機構の国際調査からみていきます。
学習時のインターネットの利用内容
下の図は、ベネッセ調査2014の中高生のICT学習利用の状況です。
(写真は報告書p28より *数値は「よくある」+「ときどきある」の%)
比較的多いのが、下の項目です。
- 英語や国語、古典の辞書を使う(電子辞書は除く)(中45.6、高48.3)
- メールやチャットで友だちにわからないところを質問する(中26.4、高48.3)
- 調べ学習やレポートをまとめるために情報収集をする(中30.2、高45.0)
- 授業のノートや定期テストの過去問題を友だちと交換する(中8.0、高27.2)
最後の「ノートやテスト問題を友達と交換する」について、高校生の利用は中学生の約3倍になっています。
ICT利用の国際比較
次は、日本・米国・中国・韓国の4か国の普通科高校を対象に、学習意識やICTの活用、学校生活の実態、将来への展望などを調査した『高校生の勉強と生活に関する意識調査報告書-日本・米国・中国・韓国の比較-平成29年3月(国立青少年教育振興機構)』の結果をみてみます。
下の図は、高校生のICTの活用と学習活動です。
(写真は報告書p14.15より)
日本をみると、Excel、PowerPoint、プログラミングなどのパソコンスキルは、すべての項目において4か国中、最も低くなっています。(図3-1)
インターネット活用(図3-2)では、「インターネットでニュース関連の情報をみること」が最も高く71.0%、「インターネットで学習の情報や資料を調べたり、収集したりすること」は61.3と、情報収集に使う割合が高いのが特徴的です。
次いで高いのが、「メールやチャット(LINE を含む)で先生や友だちにわからないところを質問すること」で52.3%。先にみたコミュニケーションという視点からも活用頻度の高さが納得できます。
一方、日本は特に以下の4つの項目で他国と比べて低くなっています。
- 「学習ソフトやアプリを使って勉強すること」29.2%
- 「塾のホームページや動画サイトなどで講義や授業の動画をみること」19.7%
- 「インターネット上にある練習問題や試験対策問題を解くこと」13.7%
- 「インターネット上の質問サイトにわからないことを質問すること」7.0%
先に見た、「授業に使えるソフトウェア・コンテンツが少ない」といった先生の声とも重なります。また、最後の項目から、勉強が分からない時は、インターネットという世界と繋がる頭脳ではなく、身近な友達に助けを求めるといった特徴が伺えます。
生徒のICT活用の分類
下の図は、中高生の学習時のICT利用について分類したものです。項目は上の2調査を参考にして、内容を「情報処理」「コンテンツ」「アシスト」「学習調整」の4つのカテゴリに分けました。
(バーの長さは2つの調査結果を基に、おおよそで表しています)
日本の中高生は、調べ学習のために情報収集する、辞書を使う、友達に質問、といった活用法が多く、これは学習の「知る・考える・使う」の「知る」(インプット)の段階だと言えます。
これは、使えるソフト・アプリだけでなく、学習の成果が「知識を正しく覚え、再生できること」だという学習観や学校での課題の特徴に因るのかもしれません。
(参考:小学生・幼児のICT活用について)
学研教育総合研究所「小学生の日常生活・学習に関する調査」2017年、「幼児の日常生活・学習に関する調査」2017年
4 おわりに
本記事では、先生と生徒の立場から、ICTと学習の関係について考えました。ICT活用の難しさについて、先生にとってはICT機器の不足やカリキュラム設計、生徒にとっては使いやすいソフトが少ない、という声が多いことが分かりました。
また、ICT活用と言っても、様々な使い方があります。学習の目的・段階に応じて、適切な活用ができれば、より学習を深められるでしょう。
次回の記事では、ICTを活用したアクティブラーニングや世界から注目されている学習共有サービスなど、ICT活用事例を紹介したいと思います。
*記事末に一部、事例紹介しています↓
5 関連資料:ICTと学習
「ICT」というキーワードの一覧 | EDUPEDIA(エデュペディア)
EDUPEDIA内のICTに関する学習指導案・教材一覧ページです。教科の授業だけでなく、校務での活用事例など多様な実践が紹介されています。
教育の情報化の推進(文部科学省)、コンテンツ集
学校教育分野・社会教育分野における情報化の推進のため、様々な取組について、分野別にわかりやすく紹介しています。
学びのイノベーション事業(文部科学省)
文部科学省は平成23年度より、1人1台の情報端末、電子黒板、無線LAN等が整備された環境の下で、ICTを活用して子供たちが主体的に学習する「新しい学び」を創造するための実証研究を実施し、報告書をまとめました。
フューチャースクール推進事業(総務省)
フューチャースクール推進事業では、ICT機器を使ったネットワーク環境を構築し、学校現場における情報通信技術面を中心とした課題を抽出・分析するための実証研究を行い、ガイドライン(手引書)としてとりまとめました。
総務省「教育ICTガイドブック Ver.1」(平成29年6月30日公表)
プログラミング教育について
未来の学びコンソーシアム
文部科学省、総務省、経済産業省は、学校におけるプログラミング教育を普及・推進するため、教育・IT関連の企業・ベンチャー、産業界と連携し、平成29年3月9日に「未来の学びコンソーシアム」を設立しました。
サイトでは、「発達段階(発達障害も含む)に合わせた異年齢協働プログラミング教育モデル」「2020年必修化を見据えたオープンで探求的・総合的なプログラミング学習実施モデル」など、学校と多様な団体との協働実践が紹介されています。
なぜ小学校でプログラミング教育が必修化?「プログラミング的思考」を文部科学省の資料から読み解く(EDUPEDIA for STUDENT)
「なぜプログラミング教育が必要なのか」「何を目指しているのか」「実際に先生は何をするのか」、文部科学省の「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について」を基にまとめています。記事末にはプログラミング教育の関連情報も紹介しています。
コメント