あなたも危険?部活動の「隠れた真実」に迫る(日本部活動学会第1回大会 内田良先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、2018年3月25日(日)に学習院大学で開催された、日本部活動学会第1回大会を取材し作成したものです。当日は、内田良先生(名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授)から、ご自身の研究姿勢と部活動のあり方についてご講演がありました。本記事では、部活動の現状と、それに伴う教員の多忙化に関する内田先生の見解をご紹介いたします。

EDUPEDIAにも超過勤務に関する記事がありますので、是非下記をご参照ください。
「学校の多忙化」の改善(業務改善) ~「残業の見える化」から始める

2 内田良先生のご講演

 〇教員の多忙化と部活動

(内田先生の当日配布資料を参考にEDUPEDIA編集部が作成)

内田先生:このグラフは、公立の小中学校教員における一週間あたりの学校内での勤務時間数を表したものです。このグラフの①より右側は、週60時間以上の勤務、つまり月80時間以上の時間外勤務にあたっている教員です(注1)。小学校で33.5%、また中学校で57.7%の教員が該当しています。また、②より右側は、週65時間以上の勤務、つまり月100時間以上の時間外勤務にあたっている教員です(注2)。小学校で17.1%、中学校で40.7%の教員が該当しています。

(注1){60-(週あたりの正規労働時間)}×4が80時間を超えている教員のことを指します。

(注2){65-(週あたりの正規労働時間)}×4が100時間を超えている教員のことを指します。

このグラフから分かることは、教員の多くが過労死ライン(過労死の認定ライン)を超えているということです。過労死ラインは月80時間以上の労働ですので、中学校だと教員の半分以上が過労死ラインを超えていることになります。

また、2016年に文部科学省が実施した教員勤務実態調査によると、2006年から2016年までの10年間で、中学校教員の休日における「部活動」の勤務時間が突出して増加していることが分かりました。

これらの現状から、教員の多忙化問題に相まって、部活動指導の実態が取りざたされるようになりました。

 〇「ブラック部活動」の実態

内田先生:私は部活動問題を中心に研究をしていますが、研究から現在の部活動の問題が2点浮かび上がりました。1つは、「自主的なのに強制される」ということ、もう1つは、「自主的だから過熱する」ということです。この2点が、ブラック部活動と呼ばれる所以です。

①自主的なのに強制される

部活動は、中学校・高校の学習指導要領上では、「生徒の自主的、自発的な参加により行われるもの」とされています。つまり、本来であれば部活動は教育課程外で行われるものです。しかし、部活動は学校教育内で行われる活動であるため、教育課程外に位置するものだということが見えにくくなっています。

教育課程外なので、部活動には学習指導要領のような大まかな枠組みがありません。しかし、部活動は学校教育内で行われています。そのため、部活動は制度設計なき教育活動となり、部活動に熱心になればなるほどその活動の幅は無限に広がっていきます。結果、生徒に部活動への加入を義務付けたり、延いては教員に部活動の顧問を強制したりといった事態が起こっています。実際に、約9割の中学校では先生全員が顧問をするよう強制されているのです。

このように、制度設計なき教育活動という部活動の性質が、先生だけでなく生徒をも苦しめているのです。

②自主的だから過熱する


(内田先生の当日資料より引用)

このグラフは、運動部部活動の活動日数(一週間あたり)を表しています。週6日以上の活動が増加傾向にあることが分かります。その中でも休日の活動時間は、近年突出して増加していることが分かっています。

部活動には、潜在的に競争原理というものがあります。勝つことの楽しさ、嬉しさ、また負けることの悲しさ、悔しさ。このような感情が、生徒の部活動に対するやる気を促進し、先生も指導に熱が入るようになります。だからこそ、先生と生徒は部活動にハマってしまうのです。そして部活動が過熱し、ブラック化していくのです。

「ブラック部活動」問題への展望

内田先生:それでは、この「ブラック部活動」問題にどのように向き合い、どのように解決していけばいいのでしょうか。実際に、部活動に熱心な先生方は、部活動には教育的意義があり、生徒にとっても先生にとっても楽しいものだと信じています。ただ、自主的だからこそ部活動がブラック化しているのは事実で、この現状はどうにかして変えなければいけません。

そこで、私は、部活動に規制をかけ、その中で教育的意義のあるものにすることはできないかと提案します。具体的に言うと、部活動の活動時間数、日数、大会への参加数を制限し、部活動に関わる先生や生徒、外部講師の活動を制限することで、持続可能な部活動を運営できると考えます。また、部活動は生徒にとってクラス以外の第2の居場所になることが多いので、そこに勝ち負けという競争の原理を持ち込むのは問題だと思います。私は決して部活動を全面的に廃止すべきと思っているわけではありません。持続可能な部活動運営を行うには、部活動に関わる人とモノの総量規制と、「居場所」の論理と「競争」の論理の明確な分離が大切だと考えています。

3 登壇者のプロフィール


内田良先生
福井県出身。名古屋大学経済学部を卒業後、同大学院に進み博士号を取得。2006年には愛知教育大学の講師となる。2011年より名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授に就任し、現在に至る。専門は教育社会学。自殺、体罰、教員の部活動負担・長時間労働などの学校リスクについて研究している。ウェブサイト「学校リスク研究所」を主催。ヤフーオーサーアワード2015受賞。著書に『ブラック部活動 子どもと先生の苦しみに向き合う』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)ほか。(プロフィールは2018年4月6日地点のものです。)

4 日本部活動学会について

日本部活動学会は、2017年12月27日(水)に設立された新しい学会です。部活動に関する学術的な研究を進めること、部活動の実践課題を明らかにし分析・考察すること、部活動の実践に資する知見を創造し蓄積することを使命とし活動されている学会です。
詳しくは日本部活動学会のページをご覧ください。

5 編集後記

私は実際に部活動に取り組んでいた時、このように先生と生徒を苦しめていることを何も理解していなかったので、今回のご講演は驚きの連続でした。もしこのような現状に当てはまっている先生がいたとしたならば、ぜひ声を上げて頂きたいと思います。部活動は生徒の成長を見られるだけでなく、一緒に喜びや悔しさを共有することのできる貴重な機会だと思います。先生にとっても生徒にとっても意義を感じられる部活動のあり方について考えるきっかけとなりました。(取材・編集:EDUPEDIA編集部 大森友暁・谷口綾菜)

6 著書のご紹介

本記事の内容をより詳しく知りたい方におすすめです。

7 イベントのご紹介

今回取材にご協力いただいた内田良先生も登壇される、ROJE五月祭教育フォーラム2018が、5/20(日)に東京大学五月祭にて開催されます。ぜひ足をお運びください。
以下、ROJE五月祭教育フォーラム2018に関する概要です。

〇テーマ:教員の多忙化

〇タイトル:ブラック化する学校~多忙の影に潜むものとは~

〇日時:2018年5月20日(日)14:00~17:00(13:30開場)

〇場所:東京大学本郷キャンパス法文1号館25番教室

〇登壇者(五十音順・敬称略):

内田良 (名古屋大学大学院教育科学研究科准教授)

隂山英男 (一般社団法人基礎力財団理事長/当連盟代表理事/隂山ラボ代表)

鈴木寛 (東京大学、慶應義塾大学教授/文部科学大臣補佐官/元文部科学副大臣/当連盟代表理事)

妹尾昌俊 (教育研究家/中教審 学校における働き方改革部会委員)

横田和也 (東京大学教養学部2年)

ROJE五月祭教育フォーラム2018のFacebookイベントページはこちらからご覧頂けます。

本フォーラムへのお申込みはこちらよりお願い致します。

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