1 はじめに
本記事は、2018年6月30日(土)に立命館大学大阪いばらきキャンパスで開催された「TOK授業研究セミナー(主催:ESN英語教育総合研究会)」内の菱山純先生の講演を編集・記事化したものです。数学教師として、数学や科学をどう考え、活用するときに気を付けるべきことは何かについてお話いただきました。
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2 「数学と科学」
数学は主に演繹的推論を使って新しいものを生み出していく論理的枠組みです。それに対し、科学は観察・仮説・検証といったプロセスで法則を生み出していく帰納的推論です。
お粗末な例で恐縮ですが、実際に科学的方法(Scientific method)を用いてみましょう。
- 十分な睡眠を取れている
- 未来に対して希望を持っている
- 昨日の夕飯が美味しかった
という項目に対し、それぞれ当てはまる方は手を挙げていただけますか?
今のは状況を確認する「観察」の例ですね。ここから立てられる仮説として、例えば「日本国民はみんな幸せな人生を送っている」というものがあります。この推論に違和感を感じる人ももちろんいらっしゃると思うでしょう。その違和感は正しいと思います。ここにいる人たちが日本国民を代表しているわけではないからですね。
では、どういう条件であればこの推論は成り立つのでしょうか。科学では、
- 再現性
- 普遍性
- 検証可能性
が求められます。例えば「神様がいる」という仮説を立てた場合、これは検証できないので、科学とは言えませんね。
3 「見えないものを見る」
科学や数学は、論理的な枠組みを使って、目に見えないものを間接的に確認することができる手段です。私は「分解→再構築」という考え方が、様々な問題解決において重要ではないかと思っています。
今年度は数Ⅱを教えているのですが、実際の例を見てみましょう。二次方程式の分類というプリントを見てください。二次方程式の解の個数を知るために用いる「判別式」の導入に用いたものです。
①解の公式を用いて計算し、答えがどうなったかメモする
②メモをもとにカテゴリーに分類する
③どういう条件でそのカテゴリーに分かれるのか考える
物事を考える上で大事なのは、何か大きなかたまりがあったときに、どう構成されているのか、どういう仕組みになっているのか、どう整理できるのかを考えていくことだと思います。判別式を考えるこのワークはその1つの例です。
同じ考え方を違う場面で使ってみよう、というのが次のプリントです。
こちらのワークは、旅行について考える時間が完全にお遊びになってしまったのでちょっと失敗だったのですが、私は数学を世界の見方・ものの見方という観点からとらえていきたいと思います。
4 「枠組みを飛び越える」
例として、複素数を考えてみたいと思います。複素数iというのは「2回かけると-1になる」特殊な数です。
【問題1】
(2x-y)+(3x+i) = 8+4i
右辺と左辺でiがついているものと、ついていないものとを見比べて、それぞれが等しくなるように計算すればよいのですが、複素数iというのは現実には存在しない値です。
これを分かりやすくするために、ハンバーガーセットを考えます。
ドリンクやハンバーガーの種類などいろいろあると思うのですが、「ハンバーガー」と「ドリンク」はあるものとします。それぞれ実部、虚部と考えることで、実部と虚部にそれぞれ何を置くのか考えやすくなると思います。
しかし、この具体例では掛け算の理解は難しいです。
【問題2】
4i×3i = 12×(i)^2 = -12
先ほども申し上げたように、複素数iは実際には存在しない値なのですが、2回かけることで存在する値になります。他の例を考えたときに、ひらめいたのが「ぶりっ子」です。
外側に見えているものと内側に秘めているもの、という面で共通点があるかなと思いまして(笑)
掛け算を扱うために、ぶりっ子が2人いる場面を考えると、1人だったときよりかわいがられなくなってしまうということがイメージできるのではないでしょうか。もう1人足してみましょう。
ぶりっ子が3人になりました。これはバトルですね。バトルが起きます。バトルが起きることで、再び内面のiが浮かび上がり、虚数に戻るのです(笑)
5 「感情の役割」
枠組みを飛び越えることで、数学や科学を通して新しいものが見えてくると思うのですが、私はそれに加えて人間の内面や感情といったものが非常に大事ではないかと思います。
何のために想像力を駆使し、新しい知識を生み出すのかという根底の部分に、感情は大きく関わってきます。例えば天気予報というのは非常に便利なものですが、「みんなが次の日や一週間後の予定を立てやすくなったらいいな」という感情が、さらに精度の高い予報を目指す研究の原動力になるのではないでしょうか。
学校の働き方改革が話題になっていますが、それに関連して教員の勤務実態調査というものがあります。週当たり何時間働いているかなどのデータが集められているわけです。数学や科学には、ある種の「力強さ」のようなものがあります。これも統計という数学の一分野の活用例ですが、勤務時間を計測して、数字として時間が減ったことを喜ぶ改革は、誰のためのものなのでしょうか。
調査をするとか、論理を活用するといったときに、その根底に「誰かのためになればいいな」という感情があることで、社会はよりよくなっていくのではないかと思います。
6 プロフィール
菱山 純(ひしやま じゅん)先生
2018年7月まで「法政大学国際高等学校」、8月よりカタールのドーハにあるIB校「SEK International School Qatar」で数学教師(MYP/DP)として勤務。
7 編集後記
数学や科学を活用する際に、その根底にあるものをきちんと考えるというのは、非常に重要な視点ではないでしょうか。ぜひ理数系科目の授業を組み立てる際の参考にしていただければと思います。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 中澤、井上、内山)
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