英語でも辞書引き!英語学習の柱「語彙力」を楽しくつける(教育技術×EDUPEDIA スペシャル・インタビュー第23回 深谷圭助先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われた、深谷圭助先生へのインタビューを記事化したものです。

「辞書引き学習」を考案した深谷圭助先生が、英和辞典でも辞書引きするために「英語ふせん」を開発しました。インタビューでは、ふせんの秘密や実践法、そのエッセンスについて、日本と海外の英語教育の現状や課題と関連させてお話していただきました。

『小一教育技術』~『小六教育技術』1月号にもインタビュー記事が載っていますので、そちらも合わせてご覧ください。
教育技術.net

2 インタビュー

・英語で辞書引き

−−英語で辞書引き学習しようと思ったきっかけを教えてください。

初めは私が小学校の先生をしていた時に国語辞典を使った辞書引き学習を開発しましたが、今から8年くらい前から、海外の子どもたち、特に英語圏のシンガポールやイギリスで辞書引き学習の紹介をすることが多くなってきました。英語教育の現場や海外での実践でも評価が高く、満を持して開発されました。


 (辞書引き学習をする海外の小学生。写真は深谷先生より提供)

日本の小学校で外国語活動がスタートした時は、オーラルコミュニケーションが中心だったので、辞書を使って単語を調べることは主な活動にはなりませんでした。しかし現在では、ライティングやリーディングの指導が入ってきて、ボキャブラリーも注目されるようになりました。語彙力を付けることは学校教育の課題でもあるので、今後は英語のボキャブラリーという視点も注目されていくでしょう。

日本の学校でも本格的に英語教育が始まり、現場の先生方は不安に思っているかもしれませんが、辞書引き学習は先生が英語が得意とか、うまく話せるかどうかとは全く関係がないので、多くの先生にも導入してもらえると思っています。

・学校のカリキュラムにどう組み込むか

−−学校では辞書引き学習をどの時間にやればよいでしょうか?

この質問は学校の先生にもよく聞かれますが、これはカリキュラムが容易に変更できない日本に独特な質問です。私が紹介したイギリスやシンガポールでは良いと思ったものはすぐにカリキュラムに取り入れられます。タイのインターナショナルスクールでは、紹介した次の日からカリキュラムが変更されました。

実際問題として、いつやればいいのかという話になると、朝の帯時間、休み時間、国語の授業最初の5分などが考えられます。学校によっては「朝先生を待っている時間帯や給食を食べた後の時間などに辞書を読むようにしたらどうですか」とか「国語の授業の最初の5分間は辞書を読む時間にしましょう」などと提案しますが、子どもが自分で時間を見つけてやるのが理想です。

また、辞書引きは個人学習のようにみえますが、学校で全員でやることにも良さがあります。他の子がどうやって学習しているのかを見たり、他の子どもが発見したことについてお互いに話したりすることも重要な学習ですので、全員で毎日辞書引き学習の時間を設けるのが望ましいです。ただし、辞書引き学習をすると休み時間も子どもが夢中になって外で遊ばなくなるので「学校の休み時間は外で遊びなさい」という先生もいますね。笑

習慣化が大切なので、毎日取り組むために家庭との連携も有効です。家庭の中で10分でも良いので支援してもらうことなども効果的です。

・辞書引きのエッセンス

現代の日本は欧米的な文化を持っているので、英語由来の言葉がカタカナになって日本語の中にたくさん入っています。デスク、チェアでも通用しますよね。そういった言葉を英語の辞書引き学習で拾いだすことで、英語に親しむきっかけになります。自分の経験や知識からかけ離れたことに子どもが関心を示すのは難しいですが、日常の周りの物や経験から学びを広げていけば、難しさを感じずにスタートできます。自分が既に知っている語彙に意識を持たせ、そこから新しい語彙獲得に繋げます。

・英語学習へのモチベーション

−−ふせんが増えると子どもも嬉しいと思うので、楽しく取り組めそうですね。

言語教育で見過ごされがちなのが学習者のモチベーションの問題です。日本の英語教育はCEFR(セファール:Common European Framework of Referenceの略)というヨーロッパの教育を参考に作っていますが、ヨーロッパと日本は言語環境が異なります。ヨーロッバは多言語の世界なので、他の言語を学ぶ必要がありますが、日本は他の言語を学ぶ必要が少なく、学習へのモチベーションが低いと言えます。

そのため、外国語に対してモチベーションを持たせることが大切です。辞書引き学習には継続して英語を学習できるよう、ふせんが1000枚、2000枚と増えていく楽しさや達成感があり、興味深い仕掛けになっています。また、調べた言葉をふせんに書くことは、学びのハードルを下げます。ノートに何回も書くのは嫌だけど、ふせんだと楽ですよね。

このように、学びの蓄積が自分でも見えますし、周りからもふせんがたくさん貼られた辞書を見てすごいと思われます。これは、紙の辞典だからこそできる学習です。

−−『英語ふせん』が今の形になるまでに改良はされましたか?

初めは日本語用の辞書引き学習のふせんを持参していましたが、細長いため横書きで書くと書き辛いんですね。「幅が広く、辞書に貼っても不自然じゃないものがあるといいね」と海外の先生と話をして今のものになりました。

市販品には無地のふせんしかなかったのですが、英語用の4線があったらよいと提案されたのは、私立小学校で長年小学生に英語を指導されてきた相田眞喜子先生です。アルファベットを書くのが初めての小学生は、文字の形や位置を意識して書く練習をしないと、大文字と小文字がごちゃごちゃになってしまいます。4本線の間隔を何パターンも作り、現在はちょうどいい幅になっています。完成したふせんは、きちんと丁寧に書こうとする日本人に適していると思います。

日本語の辞書引きでは、ある程度意味を知っている言葉を探しているので語釈(言葉の意味)を書く必要はありません。一方、英語の辞典は国語辞典と比べて語釈がシンプル(「desk=つくえ」「apple=りんご」)ですし、外国語なので語釈を書いても違和感がありません。ですから、ふせんの空いているスペースがあれば語釈を書きなさいという指示をしています。

また、ふせんに番号を書く場所がありますが、特別支援学級では、数字があると分かりにくいのでナンバリングしない方がよい、という声もあります。先生や子どもたちに応じて柔軟に活用してもらいたいと思っています。

・言語教育と辞書引き

日本では普段の読書で辞書を使うということはあまり行われず、主に教科書の内容に沿って辞書を使う、つまり辞書は副教材です。日本の国語教育は日本語を習得するためではなく、日本人らしさを身につけるための教育という視点が大きく、言葉の意味や文法の学習はあまり好んで行われません。

一方、イギリスではイギリス人にするための教育ではなく言語を追究しており、ボキャブラリーや英語の文法的な教育を小学校からしっかりとやります。ゆえにイギリスでは辞書がメインの教材になり得ます。

言語教育において、文法と語彙は大きな柱です。日本人が英語を学ぶ時に語彙の力が不足しているのは、このような考え方の違いに要因があるのかもしれません。

・言葉への気付き

英語の辞典を小学生に渡すと難しそうと言われますが、「知っている言葉を探してごらん」と言うとすぐに見つけられます。「英語の辞典に、こんなに知ってる言葉があるとは思わなかった」という感想も多いですね。

辞書引き体験の感想を読むと、子どもたちは、こちらが気づいてほしいと思うところに自ら気づくことが多く、大人が気づかないことにも気づきます。辞書引き学習をすることで英語の意味を知る以外に、さまざまな発見があります。

(親御さんの声)

・子どもがこんなに集中してるのは初めて見た。

・英語の辞書の中に知っている言葉がこれだけあるということが、これからの学習の自信になる。

・はじめての英語で苦手意識があり、英語はあまりやる機会がないが、辞書引きをやると、英語の勉強も大丈夫そうだと後押ししてくれる。

(体験した子どもの声)

・知っていることがいっぱいあった。発音が違った。

・likeは「好き」という意味だと思っていたが、違う意味もあった。

・ハンカチがhandkerchiefだとは知らなかった。楽しかった。

・日本語と英語の両方で辞書引き学習を

英語の辞書引きは、ルームやアップルなど、英語由来の日本語になっている単語からスタートしますが、日本語になった時に本来の英語の意味や発音ではなくなることがあります。例えば、「Apple」と「りんご」は似ていますが、厳密には同じではありません。辞書引きを通して、日本語と英語は別のものであると知り、和製英語に対する正しい理解をしてほしいですね。

さまざまな国や環境で辞書引き学習を導入すると、それぞれの現場が抱えている言語教育の課題が見えてきます。言語教育の理論と実践を、現場での反応をみながら結びつけて広めていきたいと思います。

3 著者プロフィール

深谷 圭助(ふかや けいすけ)先生

1965年、愛知県生れ。愛知教育大学卒。名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程満期退学、博士(教育学)。公立小中学校教諭、立命館小学校校長を経て、現在、中部大学教授。

辞書引き学習を文字指導と同時に始めることで、子どもたちの興味関心を広げ、自主的な学習態度を育てる効果があるという考えのもと、現在、学校では小学3年生から行っている辞書指導を小学1年生から導入することを提唱。

また、子どもの学び方だけでなく、大人の学び方やグローバル社会における教育技術の共有化についても関心を広げている。
(2018年11月時点のものです)

4 著書、辞書引きページ紹介

辞書引き 英語ふせんBOOK | 小学館

英語でも辞書引き!公式ホームページ(小学館)

辞書引き学習の深谷圭助公式ホームページ

5 関連ページ

教育技術.net

『小一教育技術』~『小六教育技術』1月号に掲載のインタビュー記事も合わせてご覧ください。

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【教育技術×EDUPEDIAコラボ】スペシャルインタビュー

第1回からのインタビューまとめページはコチラ

コラボ企画・特集ページ

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