1 はじめに
*こちらの記事には前編(「地域に留学する」という選択肢〜串本古座高校の取り組みから①〜)がございます。
公立高校への進学を考えるとき、中学生の皆さんには、都道府県の枠を越えて高校受験をし、特色ある地方の高校で高校生活を送る「地域みらい留学」という選択肢があります。
本記事は、2019年10月8日に「地域みらい留学」を実施する高校のひとつ、和歌山県立串本古座高校を訪問し、全国募集制度や半島留学での生活について、校長先生、教頭先生、地域協議会の方々、全国募集で入学した生徒の方にインタビューを行ったものです。
①では先生方及び地域協議会の方々へのインタビューを、②では全国募集で入学した生徒の方へのインタビューを掲載しています。
*「地域みらい留学」の詳細は、「地域みらい留学」公式HP(「地域みらい留学」公式HP)で確認していただけます。
2 生徒へのインタビュー
①串本古座高校に入学するまで
「半島留学」を決めた理由は何ですか?
周りに海があるような自然豊かなところで高校生活を送りながら、硬式野球部で野球もしたくて、この学校を見つけて、来させていただきました。
「半島留学」の制度を知ったきっかけは何ですか?
中学校の時、中学校のチームではなく校外のチームで野球をしていました。どんなところで高校生活を送り、野球をやりたいかをそのチームの会長と話したところ、この学校を探して紹介してくれ、自分も気に入って、入学しました。
受験に向けて中学校の先生からのサポートはありましたか?
僕はチームの方で進学の話を進めていたので、担任の先生などはあまり通していませんでしたが、先生方からは「頑張って来いよ」とか、「なんかあったら電話して来いよ」と言ってもらいました。
②串本古座高校での高校生活
中学3年生の時の自分の決断を今どのように思いますか?
良かったと思っています。
どのようなときに「良かった」と感じますか?
都会だったら人がとても多いですが、串本は人も少なくて、静かな環境の中で、休日やクラブのない日に心穏やかに過ごせるときです。
留学生活の中で一番印象的だったことは何ですか?
交通機関。電車が1、2時間に1本なことが一番びっくりしました。
どこかに遊びに行くときは商業施設のある田辺か新宮に行くので、どちらも時間がかかりますが電車を使います。その時いざ使おうと思うと本数の少なさに驚きます。
地元は大阪でも若干田舎の方ですが、電車などは普通に何分かおきに来るところでした。串本には路線バスがなく、町のコミュニティバスがあります。そういった交通の便はギャップが大きかったです。
放課後や休日はどのように過ごしていますか?
放課後は部活をしていました。
クラブがなかったらいろいろ行こうと思っていたのですが、部活がないときは家でのんびりしたり、休んでいましたね。
引退してからもどこかに出かけたりはしないです。今は受験の準備で忙しくしています。
野球部は学校の中でも盛んなクラブなのですか?
唯一大会に吹奏楽部や他の生徒が応援に来てくれるクラブなので、学校の中でも盛んな部活だと思います。僕の代はあまりですが、1年生の終わりにはベスト4くらいまで進みました。
小規模なところで野球をやる良さは何ですか?
1年生から活躍の場はたくさんあります。強豪校では1年生は基本的に球拾いからですが、この学校では1年生からバッティング練習などをさせてもらえます。
人数が少ない分、1年生から練習に参加できる点は良かったです。部活の面でも充実していました。
学校生活で驚いたことはありますか?
方言とかですかね。中学校もそうですけど、クラスの人数は少ないですね。
出身中学校では僕らの代が6クラスで、上と下の代が7クラス。基本1クラス38~40人でした。この高校では全校で266人なので、中学時代の1学年の生徒数のほうが多いかもしれません。
先生との距離は近く、その点は都会の高校とは違うところだと思います。クラブと同じように学校行事でも、全員何かやらないといけないのは、都会の学校とは違うところかなと思いますね。
(先生)大体普通の高校では1クラス40人前後ですが、ここでは1クラス大体20人になりますね。もう慣れてしまってその辺りの感覚が分からなくなってしまうのですが(笑) 手厚く見てもらえて、先生と生徒も友達みたいな所があります。
地域の人との関わりはありますか?
台風などが来たときには近所の人が「雨戸閉めなあかんでー」と声をかけてくれたり、農家の人が「これできたから食べてみー」とくれたりします。
都会の人は通る人に挨拶をしませんが、ここでは基本誰とでも挨拶をするので、人付き合いがあると思います。
(先生)大阪から1人で出てきている生徒ということで、近所の人が気にかけてくれている部分もあるんだろうね。
留学生同士の関わりはありますか?
留学生みんなで集まってバーベキューをする激励会で関わりがあります。
学校で会ったらしゃべったりします。
(先生)激励会は仲のいい地元勢の子も少し呼んだりしながらやります。1年生はまだ友達も少ない中でさみしい思いもするだろうし、ご飯を食べるのも大変だろうからということで夏休みにやっています。
それぞれクラブなど忙しいので集まったりする機会もあまりないだろうし、寮がなく、住まいがそれぞれ離れているので、これ以外にはなかなか集まる機会はないと思います。あまり集まる機会を作りすぎると今度は留学生同士で固まってしまうとも思っています。
「地域留学生だから」という区別を感じることはありますか?
留学生であることの区別を感じることは全くないです。最初の頃はみんなに興味を持たれましたが、今は全くなく、普通です。
実家が恋しくなることはありますか?
心配なことはないし、友達ともラインや電話で連絡は取れるので、僕は特にないですね。
学校独自の科目の中で印象に残っているものはありますか?
グローカルコースで、2年生の時に授業の一環でみんなでダイビングのライセンスを取る「マリンスポーツ」というのがあるのですが、それは結構印象深いですね。
自分でライセンスを取りに行こうとはあまり思わないので、授業で取れたのはとても良かったです。
グローカルコースでは「海洋環境」という授業で外部の方に講師として来てもらうのですが、仕事に関する専門的なデータや知識など他の普通の授業では学べない専門分野を学べてすごく良い経験になりました。
「串本デュアル」(*)では何をしましたか?
「串本デュアル」ではインターンシップをして、学校近隣で働いている方のところに行き、一緒に作業などをさせてもらうのですが、僕は毎週金曜日の5・6時間目に潮岬にある県の潮岬青少年の家へ行き、薪を割ったり、イベントで使う飾りを一緒に作らせていただいたり、施設の飾り付けをやらせていただいたりと、施設の業務を一緒に行った生徒と手伝わせてもらいました。
お昼ご飯を急いで食べて、昼休みに移動しました。学校から施設までの距離が遠く、間に合わないので先生に送ってもらっていました。場所によっては、先生やタクシーの方に送ってもらいます。
*「串本デュアル」*
「串本デュアル」は、全国募集の生徒が所属するグローカルコースにおいて、2年次に開講される串本高校独自の科目。2学期の間、毎週金曜日の5,6限に地域の事業所でインターンシップを行う。
留学生活の中でどのような変化がありましたか?
変わったことは遊びに行かなくなったことです。
また、大阪では泳ぐ人はいないし、泳ぐなら白浜に来たりしますが、串本では海がすぐそこにあるので、海で泳ぐようになりました。
卒業後のことはどのように考えていますか?
大学進学を目指します。
機会があれば串本にも戻ってきたいとは思っています。住むかはわかりませんが、町おこし協力隊などがあるので、そういったものを活用して、戻ってくるのではないかと思います。
③読者へのメッセージ
全国募集に挑戦しようと考えている中学生に伝えたいことはありますか?
遠いところに来るのは勇気がいりますが、来たらそれだけのいい経験になる、自分自身にプラスになることがとてもあると思います。
中学校の先生や、地域留学を考える生徒に関わる人に伝えたいことはありますか?
先生方にとっては留学を薦めるのは勇気がいることだと思うし、親御さんは自分の子どもに一人暮らしをさせるのは心配になることだと思いますが、生徒や子どもが「行きたい」と言うのならば、是非行かしてあげた方が良い経験が出来ると思います。本人の意思が大事だと思います。
制度自体を知らないこともあると思うので、紹介してもらえることは大事だと思います。先生が話を振ってみて、本人が興味を持って、「行きたい」となってくれるのがベストだと思います。
*先生方、地域協議会の方々へのインタビューはこちらから(「地域に留学する」という選択肢〜串本古座高校の取り組みから①〜)
3 学校紹介
和歌山県立串本古座高等学校
本校は、本州最南端の和歌山県串本町にある全校生徒266名の全日制普通科高校です。
昨年度は創立百周年記念事業を行い節目を寿ぎました。今年は101年目となりますが、前身の旧串本高校と旧古座高校の伝統を引き継ぎ、新たな世紀を歩み始めています。
平成29年度からは、「串本古座高校魅力化プロジェクト」と名付け、グローカル・クリエイティブ・アドバンストの新たなコースの立ち上げ、全国募集の開始、地域包括支援部(CGS)の設置、など、様々な改革に取り組んでいます。
また「地域まるごとキャンパス構想」のもとに、地域の教育資源を活用した特色ある授業を展開しています。「地域と共に歩む学校」として串本町・古座川町と連携・協力に関する提携を結んでいます。両町の支援も受けながら、これからも豊かな心と確かな学力を身につけ個性の伸長をはかることにより、地域の活性化に資するとともに、国家や社会の形成者として貢献できる人間の育成を目指します。
4 関連書籍
5 関連記事
『島の未来をプレゼン~大島中学校でのキャリア教育授業実践~』
6 関連サイト
7 編集後記
お話を伺う中で最も印象的だったのは、“「留学生」であることを先生も生徒も意識していない”ということです。串本古座高校には、先生方や地域の方と近い距離で関わりながら、地域の1人として、生徒の1人として、豊かな自然の中で友人たちと共に学ぶ高校生活があるように感じました。
この記事が、「地域に留学する」という選択肢を知るきっかけや、高校生活とその先の将来を考える一助となれば幸いです。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 内藤、中澤)
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