鈴木寛氏インタビュー【関西教育フォーラム2019】

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目次

1 はじめに

この記事は、2019年11月24日に開催された関西教育フォーラム2019「人生のコンパスを子どもたちに — 社会につながる学びとは」後に、パネルディスカッションの登壇者の一人である鈴木寛氏にお話しいただいたものです。

鈴木氏は、長らく行政に携わってこられ、同時に大学での学生の育成等幅広い活動をされています。

そんな鈴木氏に、変化の激しい社会において働き方はどのように変わっていくのか、そして、これからの時代のキャリア教育として必要な視点とはどのようなものなのか、お聞きしました。
  

2 フォーラムの概要

本フォーラムでは、『メモの魔力』で話題のSHOWROOM株式会社代表取締役社長の前田裕二氏と、陰山メソッドによる基礎学力向上を提唱している教育クリエイターの隂山英男氏と、教育行政に造詣が深い東京大学教授、慶應義塾大学教授鈴木寛氏が登壇しました。

フォーラムは隂山英男氏の基調講演に始まり、つづいて前田裕二氏と学生登壇者の対談が行われました。

その後のパネルディスカッションでは、前田裕二氏と隂山英男氏と鈴木寛氏と学生登壇者の四名をパネリストとして、変化の激しい時代を生きるにはどうすれば良いかについて議論がされました。

前田氏は、自分のキャリアコーチングをするうえで二つ大切な観点があるとおっしゃっていました。一つ目は自分の「コア」となり得る、自分の好きなことが何かという観点です。二つ目は、市場という観点です。自分の持っているコアが世の中のマーケットに照らし合わせたときに本当に変わっているのか、価値があるのか、という目線のことです。

隂山氏は子どものキャリア形成に二つ大切なことがあるとおっしゃっていました。一つ目は、極限まで脳の働きを高める経験を持つために、1~2年の過酷な勉強をすることだそうです。徹底的に脳味噌を使い果たすためのツールとして、教科、教科書、言語、計算を使うべきとのことです。二つ目は、教わった単語をひたすら覚えるのではなく、そのうえで様々な体験をする時間と場を設けることで言葉に重みを持たせることだそうです。

鈴木氏は、商業的な視点を持つよりも「自分はこれが好きで、これをやっていたら幸せだ」と思うことをこれからの子どもたちはやるべきで、さらには子どもが見つけた「面白い」と思えるものを大人が助長すべきだとおっしゃっていました。本気で子どもがそれにはまれば、基礎学力の向上につながるのだそうです。そのために、勉強することと好きなことをトレードオフで考えさせるのではなく、それをどうシンクロさせるかを考えることが重要なのだそうです。
  

3 インタビュー

  

パネルディスカッションの中で、商業的な視点よりも自分が好きだ、これをやっていたら幸せだ、と思うことを大事にすべきだ、とおっしゃっていましたね。

これからは商業的なことが商業的に成立しない時代になりますからね。今稼げているものは10年後20年後には陳腐化します。それに依存していると、どんどん稼げなくなります。だから、「好き」のコミュニティを作ることです。そこにいれば幸せになれるはずです。好きなことがお金になる時代になれば、それで生きていけますしね。

  

共感してくれる友達を見つけることや、コミュニティを作ることの大切さにも言及されていましたが、それは経済的な話以前に、友達やコミュニティの存在自体に価値があるということでしょうか?

そのとおりです。コミュニティがあること、友達がいること自体に価値があると思います。

人間の幸せについての研究によると、年収800万円ぐらいまでは幸せと年収の間には相関関係がありますが、それ以上になると相関関係は無くなります。

お金を稼ぐために自分の好きなことを抑えて仕事をする、そうすると疎外感が募る。その悪循環にはまって逃れられなくなって、メンタルを崩してしまう人も多くいます。

  

その点において、自分の好きなことを仕事にできた人は悪循環に入ることはなく、メンタルを崩すということもないと思うのですが。

その通りです。彼らは忙しそうにしていますが、好きなことをやっているのでメンタルを崩すことはありません。自分が好きでないことを無理矢理させられているからメンタルにくる。つまり、システムに負けてしまっているのです。システムを越えていかないといけませんよね。
  

そのような働き方ができるようになるためには、子どものときに何かに「ハマる」ことが大事だというお話がありました。

僕は「夢中力」と言っていますが、子どものときに、夢中になる時間をどれくらい深く、かつどれくらい多く経験しているかは大事だと思います。子どものときは必ず好奇心があります。それを大人が潰している場合があります。子どもは必ず何かを好きになるので、そのときにハマらせてあげるのが大事です。そこを止めてはいけないと思います。

小学校のときに「夢中力」ができているかはとても大事です。もしそれを削がれたとすると、中学校や高校でもう一度何かを好きになるのはとても大変で、リハビリが必要になってきます。そのせいで、勉強自体が嫌いになってしまうケースも多いです。

でも、中学生や高校生になると、友達とのコミュニケーションにハマる子は増えてくる。それはそれで良いと思います。友達を作ったり人と仲良くなったりすることは、将来社会に出たときに能力以上に大事なことですから。
  

子どもが「ハマる」ためには、親はどうすれば良いのでしょうか?

ワンテンポかツーテンポ我慢するべきだと思います。今は、早く介入しすぎている親が多いように感じます。

例えば、ゲームばかりしている子をすぐに止めてしまいます。しかし、子どもは飽きるので、ゲームだけをずっとやっていることはありません。3ヶ月、半年と待つと、飽きて、漫画を読み始めるでしょう。それにも飽きたら、次は本を読み始めるでしょう。だから、ゲームにハマっているときに「ゲームはだめ」というのではなくて、逆にどんどんハマらせるのが良いと思います。少し待っていれば、結果的にいろいろな経験をさせることができますから。

漫画やゲームにハマること自体にも意味はあって、「ハマる」という脳の状態を経験させることが重要なのです。脳科学的にも、夢中になっている脳の状態、体の状態を経験させることは子どもにとって非常に重要だとされています。

その状態を途切れさせることは、子どもの成長にマイナスに作用してしまう場合もあります。だから、親は子どもが夢中になっているときに邪魔をせず、我慢して見守ることが大事です。

  

鈴木先生もお子さんがいらっしゃいますが、そのように子育てをされているのですか?

しています。やっぱりものすごくバランスの悪い子になっていますよね(笑)。そのときそのときでハマっているものが違います。そして、やはりすぐに飽きる。飽きて、次に行きます。

ゲームにしろ漫画にしろ、中毒になるということは普通にやっていれば無いはずです。逆に親が変に介入するから、子どもは中毒になったり親に反発したりするのだと思います。

  

なるほど。家庭教育についてお伺いしましたが、今度は学校教育に話を移します。パネルディスカッションで、教師が好きで授業をしていたら、生徒もその教科にハマるかもしれないというお話がありました。授業を楽しんで行える教師を増やすには、大学の教員養成課程はどうあるべきだとお考えですか?

教師自身が教える教科を好きか嫌いかということはたしかに大事ですが、それ以前にそもそも教えることが好きなのかという問題もあります。私は、子どもに教えることが好きな人、あるいは好きになった人に教師になってほしいです。ただ、一般的に大学に進学する18歳の時点で、子どもを教えるのが好きな人とそうでない人がいると思います。だから、教職課程の4年間、あるいは教職大学院も含めた6年間を通じて、教えることが好きになるような機会があると良いと思います。例えば、学校ボランティアなどをやっていると、子どもと関わるのが好きになってくるはずです。NPO法人ROJE(関西教育フォーラムの主催団体)の学生もそうではないでしょうか。教えることに限らず、子どもと関わること、子どもと共に歩んでいくこと、子どもに寄り添っていくことが好きになるような経験や環境が大事だと感じます。

一方で、なんでもかんでも学校教育だけでやるのはやめたほうが良いと思います。ROJEのようなNPO法人で活動したり、自分自身で何かやったり、学校教育以外の学びの場も積極的に利用すべきです。大学生にもなれば、「大学が提供するカリキュラムは大切ではあるけれど、自分の学びのごく一部だ」というスタンスを持ってほしいと思います。
  

親や教師の心構えについてお聞きしてきましたが、最後に、キャリア教育は最終的に目指すべきものは何でしょうか?

私は、能力を磨くことよりも環境が大事だと思います。だから、子どもたちに幸せな経験をどれだけさせてあげるかが重要です。

経済学者のヴェブレンによると、近代国民国家で見られたような競争と略奪は人間の本能です。それ以外にも人間の本能は3つあると彼は述べています。

1つめは親性性向(parental bent)。親身な愛を人に注げるときは幸せだということです。

2つめは製作本能(instinct of workmanship)。何かを職人気質で作っているときは幸せだということです。

3つめは好奇心(idle curiosity)。好奇心のままに探求をしているときは幸せだということです。

この5つをバランスよく身につけることが重要です。競争や略奪を楽しめる人は今の世の中も楽しいと思います。市場というのは要するに競争と略奪の場だからです。ただ、それ以外の性向が中心にある人は生きにくいと思います。どんな性向を持つ人も楽しめる場を作っていくのが大事なのではないでしょうか。
  

ありがとうございました。

4 プロフィール

鈴木寛氏(Kan Suzuki)

東京大学公共政策大学院・慶應義塾大学政策・メディア教授
東京大学法学部卒業。通商産業省、慶應義塾大学助教授を経て参議院議員(12年間)。文部科学副大臣(二期)、文部科学大臣補佐官(四期)などを歴任。教育、医療、スポーツ、文化、科学技術イノベーションに関する政策づくりや各種プロデュースを中心に活動。現在、大阪大学招聘教授(医学部)、千葉大学医学部客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、神奈川県参与、神奈川県立保健福祉大学理事、OECD教育スキル局教育2030プロジェクト役員、World Economic Forum Global Future Council member, Asia Society Global Education Center Advisor, Teach for All Global board member, 日本サッカー協会理事、ユニバーサル未来推進協議会会長なども務める。
  

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6 編集後記

子どもがハマると良くないと思われがちなものの代表例である漫画やゲームに、逆にハマらせるべきだというお話は新鮮でした。大人がいかに一歩引いて見守ることができるかが、子どもの興味を引き出し、「夢中力」を育てるカギになるのだとわかりました。

(取材:EDUPEDIA編集部 石川、千葉、横田  編集:EDUPEDIA編集部 石川)

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