プログラミング教育をすべての小学校へ~試行錯誤で育つ創造力~(佐和伸明先生 教育技術×EDUPEDIA スペシャル・インタビュー)

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われたインタビューを記事化したものです。

2020年11月に小学館より発刊された『即実践!小学校のプログラミング授業』の監修者である柏市立手賀東小学校校長の佐和伸明先生に、プログラミング教育の目標や初めての授業のポイント、組織的に行うための管理職の役割などを伺いました。

(2020年10月15日取材)

2 インタビュー

どの学校でもできるプログラミング教育

本書を執筆した柏メディア教育研究会あるいは柏市教育委員会は、2016年度に国が新学習指導要領でプログラミング教育の導入を検討している段階から、どの学校でも実施できる授業を実践検証し、2017年度には市内全42小学校でプログラミング教育がスタートしました。そこでは、本書の特色でもある、授業プランを実際に授業して、その結果を見てブラッシュアップするという、エビデンスベースの研究を行ってきました。

そして、「こういう授業であれば、どの公立学校でも実施できそうだ」という柏市のスタンダードプランが固まり、研究会と教育委員会で共同して本書が出来上がりました。

継続的・系統的な取り組み

本書は、単に実践事例を紹介するだけでなく、各校の教育課程に系統的にプログラミング教育を位置付けてもらえるような構成になっています。プログラミング的思考力は、年に数回の授業で身につくものではないので、育成のためには全学年における継続的な取り組みが必要です。

具体的には、4年生以上で最低各学期に1回はプログラミングを扱っていたり、指導要領の例示にある算数・理科だけではなく、多くの教科でプログラミングを取り入れた授業例を示したりしています。また、柏市では正規カリキュラムとしてプログラミングが始まっていない3年生や特別支援学級の事例も入れているので、学校の年間指導計画へ取り入れるためのたたき台にも使ってもらえたらと思います。

先進的な事例は少ないかもしれないですが、できるだけ無料ソフト「スクラッチ」を使い、どこの学校でも費用的な負担がないように配慮しました。全国の学校と目標や実践を共有し、日本中の子どもたちにプログラミング教育を普及させることに寄与できたら嬉しいです。


 (本書目次)

教科授業でのプログラミング

プログラミング教育の導入の壁になるのが、授業時数の確保でしょう。そこで本書では、プログラミング教育を系統的・体系的に行いやすい教科学習の中において、教科のねらいを達成でき、かつプログラミング学習ができる授業の提案をしています。

ただし、これには「プログラミング教育は教科の目標を達成するためにあるのでない」と反対する人もいると思います。確かに、そのような考えもありますが、最初に申し上げたように、本書では「どこの学校でも、どの先生でも行えて、かつ効果を感じられるプログラミング教育」に絞った提案を重視しました。

もちろん、プログラミングと親和性の高い教科や単元にこだわりすぎると、実践の可能性を狭めてしまうかもしれません。そのため、本書の実践を土台にスタートして、そこから各学校や先生の創造性が出てくるとよいなと思います。

(4年生 社会科の実践 本書より)

プログラミング的な思考力

Society5.0に向かうこれからの社会では、自分で課題を発見し、論理的に思考し、試行錯誤しながら解決していこうとするプログラミング的な思考力・創造力や態度が求められます。これらの育成がプログラミング教育の目標です。具体的な学習としては、プログラミング上でこういうものを作りたいという課題を子ども自身が設定し、それを自分で解決しなければなりません。ブロックを動かしたり、コーディングを考えたりして、それを実行させてみて、うまくいかなければ試行錯誤しながら解決に向かっていくという学習です。

スタートは「プログラミングって楽しい!」から

初めてのプログラミングの授業では、子どもに「プログラミングは楽しい」と思ってもらうのが大切です。そのため、授業が始まっていきなり「今日はプログラミングをやるよ」と言うのではなく、「日常生活でいろんなロボットが動いてるよね。どんなふうに動いてるんだろう? 実はこういうもの(プログラミングソフト)があって、みんなでも作れるんだよ!」のように話すと、子どもは「ほんとに!?」と驚いて活動にスムーズに入っていけます。

そして「今日はこれができたらクリア」という評価基準を初めに伝えて、全員に達成させます。実際に自分にもできたという経験をさせて、「次もいろんなことができるかもしれない」と思って授業を終わらせられるとよいですね。そうやってプログラミングの学習に慣れてきたら、授業の終わりにワークシートを書いて、活動中の思考を整理することもできるようになるでしょう。

試行錯誤できる場面をつくる

授業の難しさとして、先生が子どもの試行錯誤を待っていられず、正しいやり方を説明しすぎてしまうことがあります。それでは、子どもはどうして解決できたのかを理解できませんし、そのような授業が続くと、子どもたちは自分で考えなくなり、試行錯誤しなくなってしまいます。

そのため、授業のどこが教える場面なのか、どこで時間を取って試行錯誤させるのかを事前に計画することが大切です。そこで大事な視点になるのは、プログラミングにおける課題解決の方法は1つではないことです。例えば「暗くなったら電気がつく」「明るくなったら電気が消える」というプログラミングの作り方は1通りではありません。「だんだん暗くなる」「一斉に明るくなる」など、いろいろな工夫が考えられます。

いろいろな子が活躍できる

ある授業では、わざわざ電気の手動スイッチを付けた子がいました。「なぜ手動スイッチを作ったの?」と聞いたら、「家のキッチンの電気は僕が立ってるのに時々消える。だってセンサーが動かないとダメなんだよ。だから手動もあると安全です」と答えました。他には、外が暗くなる時間はだいたい決まってるから、その時間に明るくなったり、天候によって暗い日は早くつくプログラミングを追加した子もいました。このように、解決の方法は1つの正解だけではないので、工夫すればいろいろな創造力も育まれます。

また、プログラミングの授業では、普段は突拍子もない意見を言う子が活躍することもあります。以前そのような子に、プログラミングの授業中に、「あなたはすごいアイデアを考えられるよ」と褒めたことがあります。すると、運動会の前日にテントいっぱい水が溜まったとき、その子が「先生、僕がこれをプログラム思考で解決するから任せてください」と言って、傾斜を利用して水の通り道を作り、テントを綺麗にしてくれたことがありました。

「ちょっと難しいから面白い」のがプログラミング教育

学習に慣れてきたら、課題のレベルとして、子どもが「ちょっと難しそうだ。でもチャレンジしてみよう」という気になる設定が重要です。この「チャレンジしてみたら、やっとできた」というレベルが、課題解決の意欲を生み、学びの面白さにつながるのです。

例えば、4年生の最初の事例に『猫とネズミのゲーム』があります。「猫がネズミに触れずにチーズにたどり着く」というのが全員に与えられる課題ですが、早くクリアした子には、「猫を増やしたら?」「もっと早くクリアするには?」「チーズが動くようにしてみたら?」などのヒントを伝えると、子どもは自分でいろいろな工夫を思いつきます。

しかし、実際の授業では困っている子を支援する必要もあるので、早く終わった子には先ほど言ったようなヒントカードを準備して配ることもあります。

特別支援教育とプログラミング

クラスのプログラミングの授業には、特別支援学級のお子さんも一緒に参加していますが、プログラミングすることに対して高い興味・関心を持っていて、技能を十分身に付けられる子や自分のアイデアを追求する活動が得意の子もいます。

本書の事例にもあるように、特別支援学級の劇発表を見て、周りの子たちが、普段は知らなかった面に驚いたり感心したりすることもあります。そういう個々のよさを伸ばすきっかけになるとよいなと思います。


 (特別支援学級での実践 本書より)

不安な先生へのサポート

現在、書籍やインターネット上に情報がたくさんありますので、どういう授業をしたらよいのかという大まかなことは分かります。

しかし、先生方が一番不安なのは実際に授業をしたことがないことだと思います。学校によっては外部人材を招いて授業をしてもらい、担任の先生は後ろで見ているだけのような状態もあるようですが、授業をする自信を持つには、やはり自分で授業をするしかないです。そこで、最初の授業をするために、本書を参考にしていただけたらと思います。

また、柏市教育委員会の協力で、委員会のホームページから本書の実践資料データを無償でダウンロードできます。途中までプログラミングされているファイルや授業で使うワークシート・スライドなどがありますので、それを見て授業のイメージを持って、ぜひ最初の一歩を踏み出してみてください。

柏市プログラミング教育スタンダードカリキュラム – 柏市教育委員会沼南庁舎より

ティーム・ティーチング(TT)における担任の役割

柏市の場合は、担任はICT支援員と一緒に授業をしますが、担任の役割を明確に持たせています。機器の操作などは支援員が中心にサポートしますが、子どもに考えさせたり、発表させたりといった授業の進行は担任がするのです。そうやって部分的にでも授業をしてみたら、意外に他の教科と変わらず授業できると実感できるかもしれません。

学校マネジメントと管理職の役割

学校の教育課程の編成において、校長の役割は大きく2つあります。

1つめは、子どもたちが大人になったときの社会において必要な力を考えることです。本校は、数年前までは自然体験活動が特色でした。しかし、子どもが大人になった時に自然を大事にする体験活動だけでなく、プログラミング教育も含めた情報活用能力もますます重要になると考え、現在はプログラミング教育にも力を入れています。

2つめは、現状の学校や子どもの課題を解決する実践が行える環境をつくることです。例えば、今回のコロナ禍における学力保障に向けて、本校では2020年4月中旬から全学年でオンライン授業を実施しました。

しかし、このような全学年での取り組みは、残念ながら1人の先生の発言だけでは実現できない現実があります。そこで、管理職がリーダーシップを発揮して組織を動かすのです。まず、現状の課題をどうすれば解決できるかを組織全体に周知します。そして、具体的な取り組みに向けた講話やオンライン授業の実技研修をしました。

子どもの学習環境において、端末は企業から借りたものを配布しましたが、Wi-Fiはどうしても全員分を確保できなかったので、家庭に準備をお願いしました。メールでオンライン授業の目標や家庭に準備していただく必要性などを説明すると、皆さん準備してくださいました。

このように、周囲への協力の呼びかけや予算の確保を含め、すべて責任を取るのが管理職です。学校が目指すことをきちんと説明して、周囲の理解を得ることもすごく大事です。

*参考「佐和校長のオンライン学習日記<準備編>」

今後の展望

プログラミング的な思考力・創造力は、将来どんな仕事に就く際にも必要な力です。なかには、プログラミングそのものを作り出す仕事の割合も増えるでしょう。

そのような社会に進むとき、プログラミングの学習を、小学校だけではなく小中高大を含めた教育界全体が、その意義を共通理解して推進していくことが大事になります。さらに言うと、教育界だけでなく企業や社会全体で、子どもたちの将来を支えていく動きがますます必要になると思います。

いま、プログラミング教育はスタート地点に立ったところです。これからどの小学校でもプログラミング教育を充実させ、それを中学・高校につなげていきましょう。これからの社会で子どもたちに必要な資質・能力を育むという情熱を持って、継続的・組織的にプログラミング教育に取り組むことが求められます。プログラミング教育は、これからが正念場なのです。

3 先生のプロフィール

佐和 伸明(さわ・のぶあき)先生

柏市立手賀東小学校 校長。
長年にわたり、情報教育や情報モラル教育に関する先進的な実践事例を多数発表。千葉県柏市教育委員会指導主事・副参事を経て2018年度より現職。文部科学省「小学校プログラミング教育の手引」「教育の情報化に関する手引」協力者。全国で、プログラミング教育やタブレット端末を活用した教育等の研修会講師を務めている。令和2年度視聴覚教育・情報教育功労者表彰(文部科学大臣表彰)
(2020年10月 時点)

4 著書紹介

『即実践!小学校のプログラミング授業』

監/佐和伸明  編/柏メディア教育研究会、柏市教育委員会

本書は、単に実践事例を紹介するだけでなく、各校の教育課程に系統的にプログラミング教育を位置付けてもらえるような構成です。

4年生での「はじめてのプログラミング」をスタートに、学んだことや身に付けたことを生かしながら、継続的・系統的に実施できる事例を12事例紹介しています。

試し読みはこちら

5 編集後記

プログラミング学習における試行錯誤の大切さを伺い、初めて取り組む先生が授業を試行錯誤する姿を見せることも、子どもにとって大事な学びになるのではと思いました。これから、未知へのチャレンジ心と遊び心を持っていきたいです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 大和信治  撮影:教育技術 編集部)

6 関連ページ

柏市立手賀東小学校

柏市プログラミング教育スタンダードカリキュラム – 柏市教育委員会沼南庁舎

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