【日野田直彦先生インタビュー】学ぶべきは生徒だけではない!? 教員や保護者が学び続ける必要性【学校教育だけでは終わらない〜日常に新たな学びを!〜】五月祭教育フォーラム2022


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1 はじめに

 当記事は、2022年5月15日に東京大学本郷キャンパスで実施、YouTubeでライブ配信されたNPO法人ROJE主催五月祭教育フォーラム2022「学校教育だけでは終わらない~日常に新たな学びを!~」後に行われた、日野田直彦先生へのインタビューの内容を記事化したものです。

 今回のインタビューでは、主に、教員が生徒に対して果たす役割、保護者の果たす役割、教員自身の学びについて日野田先生のお考えを伺いました。

※当フォーラムでは、新型コロナウイルスの感染防止のために適切な対策を講じています。

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パネルディスカッション

真坂さんインタビュー

2 教員が生徒に対して果たす役割

 —— 生徒に対して教員が果たすべき役割についてお聞かせください。

 大きく分けて3つの役割があると思っています。教授者としての先生、学校の組織をまとめる先生、カウンセラーとしての先生です。キャリアカウンセラーも含めて、生徒の話を聞いてあげる人の存在は重要です。私は校長を勤めていますが、生徒が頻繁に校長室を訪ねてきます。20人ぐらいが訪れるときもあります。そして、多くの生徒が文句や自分の近況を言い出します。思っていることを口に出すとすっきりするので、話を聞く相手になることは大切だと思っています。今はインターネットのおかげで授業をYoutubeでも見られるので、昔のような名物先生による授業は終わりつつあると思います。だからこそ教員が、生徒自身がファシリテーションを行ったりモチベーションを持ったりするきっかけを作ることが重要です。もちろん、厳しく指導するときは指導すべきです。

生徒・教員が話し合える環境づくり

 —— 生徒が自主的に学んでいけるようにするためにはどのようにすればよいでしょうか。

 学校で教員と生徒が話し合いを出来る環境を整えることが大切です。学期の初めは職員会議がたくさん行われますが、後半になると職員会議の回数が半分以下になります。そのためみんなで、困っていること、やりたいこと、生徒の問題などのブレストを行う機会を設けています。そしてそこに、生徒や保護者も一緒に入っています。本当は職員会議にも生徒を入れたいのですがそれは難しいので、ブレストには生徒が参加しやすいようにしています。

 教員と保護者は黒子であって、生徒が主人公です。そのため、生徒が暴走したときは注意しますが、基本は惚れ惚れして見ています。春休みに哲学のワークショップを開催したときには、夏もやりたいと生徒が言い出しました。そこで私は生徒に企画書を書かせ、さらに生徒が作った未熟な企画書を破り、再度考えるように言いました。あえて不条理な大人役を演じることで、生徒にもっとよいものを作らせています。生徒も企画が簡単に通らないことをわかっているため、「あいつをどうやって説得しようかな」と考えているでしょう。この方が楽しいと思いませんか。いわゆる教科学習だけではなくて日々の生活にも学びがあると思っています。

偏差値教育からの脱却

 ——偏差値教育ではない学びを学校内外でさせていくために、教員はどのように振る舞うべきでしょうか。

 難しいですね。私は、偏差値教育が全部駄目だとは思っていません。偏差値は、一定程度の価値の基準にはなります。私の学校では社会貢献性やチームに対する優しさなどの人間性をはかるようにしています。ペーパーテストだけでは判断できないことについても評価することが重要です。

 偏差値は全体における位置関係しか示していません。それよりも伸び率や過程を評価しようと私の学校では取り組んでいます。例えば、テストで20点から40点に上げるためには膨大な努力が必要でしょう。しかし、偏差値ではほとんど変わらない。以前と比べてどれほど頑張ったかがその子の行動の変化であり、そこを評価すべきだと思います。

 偏差値の高い人は根回しや下ごしらえをする能力が高いことが多いですが、それはリーダーシップの能力とは異なります。しかし、日本では偏差値が高ければ偏差値が高い大学に行き、その後リーダーシップを発揮するような構造になっています。このような構造では、雑用担当がリーダーシップを発揮することになるため、本人もどうすればよいか困惑するような事態が起こり得ます。偏差値で測れる能力とリーダーシップは別のものなので、評価の対象を変えていかなければなりません。

3 教員自身の学びのために

教員自身が学び続けるための外部からの働きかけ

 —— 教員自身が学び続けるためには何が必要ですか。

 外部の人の最高のワークショップのあとに生徒が劇的に変わると、教員も学び続ける必要性を否定できなくなります。そしてやはり教員は生徒のためになることをしたい、新しいことに挑戦したいと思っています。だから私はいつも外部の人たちに来てもらって一緒にワークショップをやってもらいます。どんなにネガティブな教員でも生徒が変わると味方になってくれるので、そういう風に外部を上手に使うことは大事だと思います。

異年齢交流の必要性

 —— 異年齢交流は生徒にとってどういったよい面がありますか。

 基本的には同じ世代にいると価値観が固定化されます。そのため、あの世代は古臭いなどと思い込んでしまいますが、実際は意外とそうではありません。さまざまな気づきや発見、常識の差こそが、異年齢交流によるイノベーションの種です。イノベーションはカオスが起こったときに初めて起こります。そのため、異年齢交流以外にも、場所や文化、言語が違う人との繋がりは強制的にでも作った方がよいです。

 箕面高校に勤務していたとき、有名なベンチャー企業の社長20人、京大生20人、箕面高生20人でワークショップをしました。テーマは地域の社会課題解決で、今まで自分が持ってきたものは全部捨てることをルールとして伝えました。しかし、社長たちは、自分の今のプロダクトを説明し始めました。それに対して、「既存のものになってしまい、ユニークになれないでしょう」「自分の過去に囚われていつまでも変わらないことは『トラウマ』ですよね」と箕面高生が言ったため、ベンチャー社長が泣いて帰ってしまうこともありました。偉くなってしまったから、箕面高生のかけるような率直な言葉を社員にかけてもらえないからでしょう。

 高校生や中学生は遠慮しません。そのため、異年齢交流は大人にとっても大事だと思います。子どもが大人から学ぶことよりも、大人が子どもから気づかされることの方が多い場合もあります。お互いに学び続ける姿勢や、そのための空間作りが大事だと思います。

 大人にとっては、新しい気づきとか常識を疑うようなことが得られること、子どもにとっては、既存のものを受け取って捉え直す経験を得られることが学びとして挙げられます。加えて、子どもは大人から「それはどういうこと?」「根拠は?」「目的は?」などと質問されます。実は教員や生徒が普段から行っているような、頭の中にあることを言葉にするという行為をし続けることそのものが最大の学びです。それを積み重ねることで、言葉を大事に使うようになるでしょう。相手のことをもっと知ろうとするでしょう。

 教員が、問いかけに対して言語化して答えようとする生徒を手助けすることが重要です。生徒は、根拠や目的といった深く考えたことがないことに関して、踏み込まれると辛いでしょう。しかし、それを超えたときに初めて世界は変わります。

4 保護者の果たす役割

 —— 子どものために、保護者はどのように振る舞うべきでしょうか

 私は、保護者の方に「危機感を抱いていたり、危機感はないものの話を聞いて興味を持ったりした保護者以外は来ないでください」と言います。加えて、「成績の保証や進学のサポートを求めるならば私の学校に来ないでください」と伝えています。

 難関大学の合格を目指すことが駄目だとは思いませんが、それだけに価値を見いだして偏差値を見て安心することはやめた方がいいでしょう。保護者の方も今の会社で生き抜くことしか考えていない場合もあります。そもそも何がしたくてどのように世界に貢献したいのかを保護者自身も考えなければなりません。そして、世界に貢献するためにはどのように行動したらよいのかを一緒に考えることが、子どもにとっての最大の学びです。できる選択肢を増やして自己決定をさせるようにもっていくことが大切です。
 

 コロンビア大学のシーナアイエンガー教授の唱える「自己決定論」のように、選択を自身で行った子とそうではない子では、その後の自我の強さや選択したことの成功率が違います。

 また、失敗こそが最大の経験であり、自我の明確化に繋がるでしょう。だから、親ではなく本人が決めた場合、よほどおかしくない限りはやってみるようにと背中を押します。親は黒子ですからね。

5 保護者への働きかけ方

 —— 教員は保護者の皆様にはどのように働きかけていくことができますか。

 主人公は生徒で、保護者と我々はその子たちの黒子で、チームであるために、「クレームを言うのであれば企画書を持ってきてほしい」と、私はPTAで必ず言っています。

 また、「我が子でも親からすると、世代が違うから考えていることはわかりません。親も教員も一緒に困っているので裏で相談しませんか」ともよく言っています。

6 教員自身の学びとは

 ——教員が教授とカウンセラーの役割の両立を実現するために意識すべき点はありますか。

 個人で行うことには限界があります。やはり教員にとっては学び続けることが一番大切なので、研修やワークショップなどに積極的に参加していろいろな刺激を受けるというアウェー体験をすることが大事です。しかし一方で、システムとしての学校や仕事量の増加が問題になっています。

 私の学校では法律の範囲内以外のことはしていません。中学では既に部活を廃止し、インターナショナルスクールのように有償でアクティビティに参加してもらう形にしました。その代わり空いた時間は勉強してくださいと教員に伝えました。

 教員は余裕を持ち、仕事をできるだけ減らすことが重要です。余計なことをしない代わりに勉強することが自身のアップデートに繋がります。3割ルールのように、仕事は6割にとどめて、3割は遊びなさいと言い続けています。私が進めているのは、単なる快楽的な遊びではなく、学びが伴った遊びです。

 また、学校のデザインを考え直さなければならない時代が来ていることを先生自身が認識しない限りは問題は解決しません。学校のシステムは結構よくできているので、それに従えばよいのですが、オプションを付けすぎています。シンプルに基本に戻すことが大切です。教員1人では無理があるので、学校が一体になり足並みを揃えることが重要です。
 
  ——管理者は教員の学びをどのように促していけばよいでしょうか。

 教員は忙しく、時間がありません。 

 公立の箕面高校の校長をやっているときは、外部の方に来てもらって一緒に企画書を書いたり、新しい事業を作ったりしていました。学びに行く時間もないので、来てもらった人たちとコラボで一緒に作っていたのです。

 もっと学びたいと思うきっかけを管理職や学校が作り、教員の負担をできるだけ小さくするように改革を続けていくしかありません。基本的に日本の教員は頭がよく優秀です。しかし、本物を見たり、インスパイアされたりする経験は大人になるとほとんどないので、学校が体験の場を設計して感じてもらえるようにもっていくことが一番大事です。

 心的に安全な環境と学び続ける環境を保障してみんなで合意にもっていかない限りは、学ぼうと思ってもそれを外に出すこともできません。そして結局シュリンクして授業が終わってしまいます。

 私は半分アメリカ人みたいなものなので、日本人はすごいと思います。だからその凄さを日本人のみんなに再認識してほしいです。

 学ぶ力があるからこそ学びの出発点を作ることが重要です。そのため、一度プライドなどを全部捨てた方がよいです。みんなで協力することでチームになり、パワーを発揮します。

7 教員自身が取り組んでいける学び

 —— 教員自身が取り組んでいける学びについてお聞かせください。

 まずは、本を読みまくることです。私は、恩師に本を年間3万ページ読めと言われました。日本語だけでなくできれば英語も含めて、本を読みまくることは大事です。読んでいくうちに、どのような本を読めばよいかもおのずとわかってくるため、まずは3万ページ読んでみてください。明日から毎日本を100ページを読み続けていくと、そもそも何を学びたかったかさえもわかるようになります。

 加えて、旅行や講演会に行くなど、さまざまな場所に顔を出してみることも有効です。

8 読者へのメッセージ

 教育現場は本当に大変だと思います。だからこそ、困っていることをみんなで1回シェアしてみることが大切です。

 私は学校で、生徒にも教員にも、失敗する人が一番偉いとよく言います。困っていることを素直に言える教員が一流ですが、みんな自分の教室を守ることに精一杯で、意外と言えません。よい職員室は「今日の授業はうまくできませんでした」と言えるところです。駄目な職員室は「今日の授業はうまくいきました」とマウンティングし始めるところです。教員同士の心理的安全安定性を保って、学び続けられるような環境にしていきましょう。

9 プロフィール

日野田直彦先生


     
武蔵野大学中・高、武蔵野大学附属千代田高 中高学園長
千代田国際中学校 校長

帰国子女。帰国後、同志社国際中学校・高等学校に入学。同志社大学卒業後、学習塾「馬渕教室」(株式会社ウィルウェイ)に入社。2008年奈良学園登美ヶ丘中学・高校の立ち上げに携わる。2014年、大阪府の大阪府立学校校長公募に応募し、民間人校長として大阪府立箕面高等学校に着任。全国の公立学校で現役最年少(36歳)の校長として改革を推進する。着任3年目には、海外トップ大学への進学者を含め、顕著な結果を出す。2018年より武蔵野大学中学/高校の校長に着任。2020年より武蔵野大学附属千代田高校の校長を兼務。2021年より両校の統括校長(中高学園長)に着任。2022年には千代田国際中学校を新設し、校長に着任予定。学校再生のプロフェッショナル。著書『 なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか! ?』。

※プロフィールは2022年5月現在のものです。

10 編集後記

 今回の取材を通して、学校教育の新しい可能性についての大きなヒント、そして自分自身も多くの学びを得ることができました。

 私は今まで学校内と学校外とはっきり分けて教育について考えてきました。しかし、今回の取材の際、日野田先生の「学校内学校外を分けずに学校内でも学校外でも全てが学びである」というお言葉に感銘を受け、考え方を変えました。学校自体を変えるためには学校内だけでなく学校外からの働きかけも必要であるということを改めて思うようになりました。つまり、教員だけでなく、生徒自身であったり、保護者であったり、学校自体を客観視できる人間の存在がとても大事だと考えています。

 教育の1番怖い所は、誰もが教育を受けた経験があるので、専門知識がなくても軽く発言できてしまう所だと私は考えています。教育を改善するためには経験にすがるだけでなく、教育に携わっている方々が実際に行動を起こして、トライアンドエラーをしていくことが重要なのではないかと思っています。
(編集・文責:安柏勲 青木門斗 武村愛雛 )

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