タブレット導入段階で留意すべき3つの点

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作成者:竜哉 野本さん

タブレットの学校導入を実現した学校の多くは、導入時に様々な困難に直面している。本稿は主に全国各地のタブレット導入時に直面した「教員・現場の誤解」や「導入推進の障壁となる考え方」を紐解き、さらにその解決にあたって「押さえておきたい基本的な考え方」を3つのポイントに絞って紹介する。
(執筆: iOSコンソーシアム 野本 竜哉)
 

1.タブレットは紙と鉛筆/黒板とチョークを置き換えるものではない

学校にICTを導入するときに最も多い「誤解」がこれだ。これまで100年以上にわたって継続してきた「黒板とチョークによる一斉授業」が、タブレットの登場により駆逐されると考えている教職員は多い。だが、これは誤解である。筆者は実際に多くのタブレットを導入した学校現場を取材してきたが、すべての学校においてタブレットや電子黒板と従来型の黒板とチョーク(生徒においてはノートと鉛筆)は共存していた。これは「現在がアナログからデジタルへの過渡期だから」起きている現象というわけではない。ICTは黒板とチョーク、紙と鉛筆では出来ないことを補う、いわば「名脇役」という位置付けだからだ。

ICTのメリットについては、文部科学省が2014年の8月に発表した「ICTを活用した教育の推進に関する懇談会報告書(中間まとめ)」で以下のように説明されている。

ICT の活用により容易となる学習場面の例
1.距離や時間を問わずに児童生徒の思考の過程や結果を可視化すること【思考の可視化】
2.教室やグループでの大勢の考えを、距離を問わずに瞬時に共有すること【瞬時の共有化】
3.観察・調査したデータなどを入力し、図やグラフ等を作成するなどを繰り返し行い 試行錯誤すること【試行の繰り返し】

つまり、時間的・距離的制約を超えたり、双方向性を活用して協働学習を行ったり、瞬間的に情報を共有したりといった性質がアナログよりも優れていると言える。音声や動画などを扱えることや、それらをうまく使うことで授業時間の大幅な「時短」が実現することもある。逆にこれらを必要としない授業は、今まで通りアナログで良いとも言える。

児童生徒から見た場合は、アナログに加えデジタルという「選択肢」が増えただけだ。先進校ではあたかもコンパスや分度器のような文房具の一つのように、シーンに応じて使い分ける生徒の姿を見ることができる。しかし、有ると無いのでは効率が大違いなのだ。


 東京都 広尾学園中学高等学校の公開授業で生徒がiPadに表示した資料を元に作図をしている様子。
 紙とiPadが共存していることがわかる。
 
なお、タブレットやICT導入であらゆる情報にアクセス可能になり、不明点もネットなどを通じてその場で調べられることから「教師が不要になる」という声も聞かれるが、これも誤解である。実は、タブレット導入の成否は教員にかかっていると言っても過言ではない。というのも、そのまま生徒児童がタブレットを渡すことはいきなり情報の海に投げ込むことと同義に近いからだ。

webサイトや、アプリの組み合わせによりタブレットからは無限とも言える情報にアクセスできる反面、最初からあまりに多くの情報があっては、生徒児童はそれを処理しきれずに情報の海に溺れてしまう。学習指導要領や学習単元の考えを元に、効果的な情報を適切な順序で示せるのは、その環境で経験を積んでいる教員にしか出来ないことだ。タブレット導入と同時に配置されることが多いICT支援員も、授業のデザインや、学習単元ごとの効果的な情報提示方法にまで言及できる人はほんの一握りでしかない。「授業のこの場面でタブレットを使うと、授業時間内に収まらなかったこういうことができるようになる」といったICTの利点を真に理解できるのは教師だけと言える。

ただ、これは教員に「膨大な情報の海を泳ぐ生徒児童たちの水先案内人になる」という役割が求められているとも言える。そういう意味で、教室における教員の役割は今後変化していくことにはなると思われる。
 

2. 教員が必ずしもICTのプロになる必要はない

先の記載を見ると、「教員は皆、情報の海を先導できるような高い情報リテラシーが必要になる」と読めてしまうかもしれないが、必ずしもそういうわけではない。確かに、教員がSNSやWebツールなどインターネットサービスの最新動向を知っていれば、「その時点において」の効果的な誘導や指導ができると思われる。だが、ICTの世界の移り変わりは非常にめまぐるしく、その時点での常識が1年後には書き換わっていることも少なくない。

むしろ意識すべきことは、そうそう内容が変わらない学習指導要領や学習単元の内容を、如何にわかりやすく、かつ担当学級に適切な順序と表現で伝えるかという「授業力」を磨くことだと筆者は考えている。前述の通り、この領域は教師にしか出来ないことだからだ。各単元の「狙い」を充分に踏まえた上で、その指導の中で課題となるポイントにうまくICTを使うと、絶大な効果を発揮できる。つまり、授業力の高い先生ほど、ICTを効果的に活用出来る可能性を秘めているとも言える。

また、生徒児童は教員よりもタブレットや電子黒板などのICT機器の使い方に慣れるのが早い。 このため、ICT機器がなんらかの問題や、制御不能な事態を引き起こす(ひいては授業が成立しなくなる)ことを恐れ、ICTの利用を制限したくなるケースも多いだろう。そういう意味で、常に生徒よりもICTに詳しくなければいけない、という強迫観念に苛まれる教員もいるかもしれない。

だが、多くの導入成功校では「生徒の裁量にかなりの部分を委ねている」ことが多い。生徒が自由に端末を利用できる環境下では、時には教員が想像もしなかったような使い方が編み出されることもある。一例として千葉県の袖ヶ浦高等学校(情報コミュニケーション科:2011年より一人1台のiPadを導入)での出来事を紹介すると、同校では生徒がiPadの利用ルールをクラスごとに決めており、アプリの導入も生徒が自由に行える。iPad導入後間もない頃、理科の「受粉により花粉管が伸びていく様子を観察する実験」で、ある生徒が顕微鏡の接眼レンズにiPadのカメラを当てると、班のメンバー全員でその様子を一緒に見られ、さらにそのまま写真や動画を撮影出来ると気づいたという。以後、教員はこの手法を取り入れ、生徒達は実験中に撮影した写真や動画をレポートや実験結果のプレゼンテーションに利用するようになったそうだ。


 袖ヶ浦高等学校の”生徒が発見したiPad活用法”として有名な事例”顕微鏡の像をカメラで撮影”した
 画像を使用したプレゼンテーションの模様
 

重要なのはこうした生徒の良い使い方を教員が取り入れたり、それを編み出した生徒児童を認めてあげたりすることだ。あくまでICTは「各単元ごとの目的を実現するための補助ツール」と捉えておくと良い。その目的が満たせるのであれば、ICTを活用する主体が生徒にあっても問題なく、生徒から先生が教えて貰えばいいし、場合によってはよく使うICT機器の操作を生徒に任せても良い。ここでもう一つ袖ヶ浦高校の事例を紹介すると、同校のある社会科教員は、地理の授業中にGoogle Earthを使うことで海外の土地のイメージが一気に膨らむという事実を知っているものの、Google Earthでその場所を探したり、操作したりするのは生徒に任せているという。この事例は教員が必ずしもICTに詳しくなく、操作が苦手であったとしても、生徒に任せた方が授業が滞りなく進み、かつ目的が果たせているのであれば、必ずしも教員が全てを掌握する必要がないことを示している。

よって、ICTが学校に入ってきても従来の「授業力」「学級運営力」「生徒との信頼関係」などの力は引き続き重要だ。教務的な知識や学習指導要領、学校の指導方針や理念などを念頭に置いた上で、その目的のためにうまくICTを活用する。
ただ、ICTについて全く知識が無いと「このシーンでこういう機能を使う」という着想は得られないので、地域や学校内の研修、自身でのトライ&エラーを経験することは重要だ。また、「生徒に任せる」という発想をより強くすることも重要となっていくだろう。
 

3. 使うことが目的ではない

タブレットに限らず、ICTの導入で良く指摘されるのが、本来であれば授業や学級運営を円滑にすることを目的に導入された機器が、いつしか「期待したほど使われていない」「期待したような成果が得られていない」という指摘から「もっと活用しなさい」という方向性にすり替わってしまう問題だ。

前出の2つのポイントはいずれも本項目と密接に関係している。電子黒板やタブレット端末が紙と鉛筆、黒板とチョークをもし置き換えると考えていれば、教員は相当な労力を費やしてその使い方や、利用が前提となる授業設計を一からやり直さなければならないと考えるだろうし、かつそれを「プロ」並みに扱えるようになるまで熟練が必要となれば、その習得には相当な時間がかかると認識する。それは多忙を極め、自分の時間が時間外以外で確保しにくい今の現場では到底無理であると考えるだろう。だが、前者二つの誤解を解き、ICTは必要に応じて効果的な場面でうまく「使える」状態であれば良い(場合によっては、得意な生徒に操作を任せても良い)となればその心理的障壁は大幅に下がるだろう。つまり、ICT機器を使うことは目的ではなく、より良い授業や学級運営を実現するための手段の一つだという認識が共有されていることが重要だ。

実は、電子黒板が導入されてしばらくした後、想定した通りに活用されないという課題が発生した。もちろん、活用が進んでいる学校も全国には多数あるのだが、一部の学校ではしまわれたまま埃を被った状態だった。かなり大型の資金が投入されたにも関わらず活用が進まず、関係者は頭を悩ませたという。ところが、近年のタブレット導入を契機として電子黒板が再注目されたケースが見られる。タブレットの画面に映っている教材や写真・動画を大きい画面で見せるという目的に合致したからだ。

特に、iPadの場合は受信機である”Apple TV”を電子黒板に取りつけると、無線経由でiPadの映像を電子黒板に飛ばせる「AirPlay」が使えるという事もあり、一部の学校では電子黒板が「再活用」される切っ掛けになった。「無線」だと、教員が授業中に行う机間巡視を制約しないのだ。有線での映像出力や電子黒板だと、操作をしている間は必ず教室の前方に張り付きになってしまう。だがiPadとAirPlayを組み合わせると、机間巡視をしながら写真を拡大したり、映像を表示したりといった操作が可能になる。
つまり、ICT機器を活用することで「今までの授業スタイルを変えずに付加的なことが可能になる」「授業の効率が向上する」「授業中の問題が解決する」といった「現場の教員にとって明確なメリット」が実感され、理解された学校では自然と活用が進んだのだ。
(勿論、ICTの価値を正しく伝えようと奮闘した先生たちの努力や熱意によるところも大きい。

だが、 もし管理職や教育委員会など上層から頭ごなしに「使いなさい」といった指示が出てしまうと、現場での「まずはできるところから使ってみよう」という気概が削がれてしまう。「ICTを使うこと」が目的ではなく、授業や学級運営を豊かにすること、時短や効率化など日々の課題解決に寄与することを明確に伝えるべきだ。こうしたICTの活きた事例は、文部科学省が全国から収集したものが小・中・高・特別支援学校ごとに分類されてホームページで公開されている(http://www.eduict.jp/jireishu/)ので、現場への提言に活用してみてはいかがだろうか。

余談だが、前述のAirPlayは生徒がiPadを持つ際にも強力な武器になる。筆者は以前、とある学校で行われた発表会の際に、生徒がAirPlayを使って報道陣や来賓の前で発表を行っている様子を見た。会場内のプロジェクタにはAppleTVが接続されており、生徒が入れ代わり立ち代わり、AirPlayで自分のiPadの映像を飛ばして発表しており、その入れ替えが極めてスピーディーであった。もし有線だと、プロジェクタ付近まで移動しケーブル接続、発表、終わったらケーブル抜去、次の人がまたプロジェクタに向かい…と、かなり時間を要していただろう。同様の事例は全国で多数ある。


 iPadとAppleTVによるAirPlayのイメージ

 
なお、ICTを使う目的は足元の「授業や学級運営の改善・効率化」というわかりやすいものを定めることも重要だが、 本当に重要なのはもっとその先の「児童生徒のどのような力を育成したいか」という、学校の教育理念や目標とICTの効果をリンクさせることだ。

例えば、現在進行している高大接続を目的とした大学入試改革に関連して、初等中等教育でも「答えのない課題に対して仮説を設定し、自分たちで考察して、一つの解決策を考案するといった”アクティブ・ラーニング”」の大幅増大や、「英語を読む、書く、聞く、話すの4技能で評価すべきである」といった答申が中教審より出されている。タブレットを使って個々に教室内で調べ物や、調べた内容のまとめが行えることはアクティブ・ラーニングの敷居を大幅に下げることにつながる。また、タブレットは語学とも相性がよく、英語のリスニングやスピーキングのトレーニングを容易にするアプリも存在する。これは紙のテキストでは絶対にできない芸当だ。もちろん、一人ずつのスキルを教員がつぶさに確認できれば理想的だが、時間的な制約からそれは難しいだろう。

こうしたICTの利点をある程度把握した上で、「こういう目的のために活用して欲しい」「そのための参考資料はこれだ」といった情報をうまく現場と共有できれば、「ICTを使うことが目的」と受け取られずに、まずは導入しやすいところから段階的に活用が始まっていくことだと思う。

以上、3つのポイントに絞って、学校へのICT導入初期段階に留意しておくべきことを紹介した。本章の内容は、多くのタブレット導入校への聞き取り内容から執筆しており、これから学校にタブレットを導入していこうと考えている担当の教諭や管理職の方、教育委員会の方に活用していただけると幸いだ。
 

筆者プロフィール


野本 竜哉(のもと たつや)
一般社団法人iOSコンソーシアム文教ワーキンググループ 共同リーダー。
「企業と教育者を繋げる」をモットーに、毎月コンソーシアム会員企業と学校の先生や教育委員会関係者を集めた「月例会」を都内で主催(教育関係者は無償で参加可能)しているほか、一人1台のiPadを用意し教育系のサービスを体験できるイベントの開催、講演、メディア寄稿などを実施中。
iPad等のタブレットを始めとした持続可能な教育のICT化の方策を日々追求している。
お問い合わせ、月例会に参加希望の方は :nomoto@ios.or.jp

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