本記事は、鳥取大学大学院の今度珠美先生が企画するWebサイト『「ゲームとのつきあい方」学習指導案』から、教材実践の概要を引用したものです。
記事の下部に、「指導の展開例」として各授業の構成例をまとめた実践記事のリンクがあります。
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1 はじめに
多くの子ども達が毎日遊んでいるゲーム。問題が多い、ゲーム時間が長いのは悪影響と言われている割には、使い方のルールもなく親も見て見ぬふりとなっているのが現状ではありませんか? さらに最近では、小学生がオンラインゲームに長時間興じているケースも増え、年齢にふさわしくないものも多くみられます。しかし、ゲームには他の遊びにはない独特の面白さや魅力があり、子ども達は知らない間に夢中になっているのに気付かない状況です。
そこで、ゲームの魅力を考え、どのようにつきあうことが必要なのか、また夢中になるしくみや開発者の意図や技法、表現内容などを理解し、みんなで協力して分析、整理し、ゲームの有用性と悪影響の両面を考え、ゲームや様々なメディアとのつきあい方を自分で決める教材を準備しました。
2 教材の概要
全体は下表のような5時間分の指導案になっていますが、子どもの実態に応じて必要な部分のみを学習することも可能です。
ゲームミクシの指導内容
高学年向け
◆第1次 ゲームの登場人物について考えよう (1時間)
ゲームの登場人物の分析を通し,なぜゲームには年齢区分(レーティング)があるのか考える。
◆第2次 生活とゲームの関係を考えよう (1~2時間)
ゲーム時間を振り返り,生活の中でのゲームとのかかわり,ゲーム利用時間を意識する。
◆第3次 ゲームを作る人のお話を聞こう (1時間)
ゲーム制作者の映像を視聴し,ゲームはどのような意図,目的を持って作られているのかを考える。
◆第4次 ゲームを作ってみよう (1~2時間)
ゲーム制作を通じてゲームが作られるしくみを考える。
◆第5次 ゲームのルールを考えよう (1~2時間)
ルールを考え,広報するポスター,チラシ等を共同し制作する。
低学年向け
◆第1次 ゲームとうじょう人ぶつのひみつ(1時間)
テレビやゲームの登場人物のアクションは、現実の暴力とは違うことがわかる。
テレビやゲームの登場人物や場面設定の、特徴やパターンを知る。
◆第2次 ゲームにむちゅうになると(1時間)
自分の思いのままに行動してしまう弱い心に打ち勝ち、よく考えて行動することで気持ちのよい生活を送れることに気付き、節度ある生活をしようとする態度を育てる。
3 教材について
教材の使い方
事前の「アンケート」等で学級や学校の実態を把握し、それに応じて教材をアレンジする等自由にお使いください。また、「授業の流れ」では、指導案を具体的に実施した場合の発問や児童の反応に応じた質問内容等の例を記述しています。授業実践の参考にしてください。
ダウンロードのリンクはこちらから
一括ダウンロード(高学年用)はこちらから
一括ダウンロード(低学年用)はこちらから
指導案
5時間分の指導内容を記述したものです。児童の実態に応じて時間数を調整しながら進めることが必要です。
◆指導案(高学年用)
◆指導案(低学年用)
指導案の展開
指導の流れを教員の発問例や児童の反応例等で構成したものです。授業の進め方が分からない場合に見ていただき、子どもの興味や関心を高める発問や教員側からの児童への質問方法等の参考にしてください。
映像教材
ゲームの作り手に開発意図や夢中になるゲームの仕組み等をインタビューしたものです。10分程度の内容2本で構成されています。児童の実態や先生の授業構成に応じて必要な部分を使ってください。
◆ネットゲームの仕組み
◆ネットゲーム会社の対策
◆ゲーム会社の人からのメッセージ
児童用ワークシート
各授業時間に児童に配布するワークシートのサンプルです。このまま使うことも可能ですが、児童の実態に応じて先生方で手を加えてご利用ください。
◆ワークシート①
◆ワークシート②
◆ワークシート③
◆ワークシート④
◆ワークシート⑤
ルール見本例
第5時間目に児童が作成するルールの見本です。実際の授業で児童が作成したものです。利用時間、守れなかった時の自ら課す罰則、ゲームの内容に関するもの等子ども達の工夫を参考にしてください。
紙芝居
小学校低学年用の教材として紙芝居を準備しています。キャラクターのみくし君がゲームとどのように付き合うかをわかりやすいストーリーにしたものです。シナリオについては、皆さんのほうで読み上げてください。
◆紙芝居①
◆紙芝居①のシナリオ
◆紙芝居②
◆紙芝居②のシナリオ
キャラクターイラスト
「ゲームミクシ」のキャラクターイラストです。各自がゲームの約束事のポスターを作成する場合等、自由に利用してください。
◆キャラクターイラスト①
◆キャラクターイラスト②
プレゼンデータ(PPTファイル)
教員が説明する場合等に利用できるプレゼンデータです。
アンケート
事前に行うアンケートの例です。集計したものを児童の実態として把握したり、授業の中で児童に提示したりすることで興味や関心を高めることもできます。
◆事前アンケート
◆事後アンケート
4 指導案
ゲームミクシの授業の目標や指導について、構想図、第1時~第5時の展開例、指導の留意点等は次の通りです。参考にしていただき、授業の流れ等の構想時に役立ててください。
1 単元・教材名
「ゲームとのつきあい方学習 〜ゲームミクシ・ゲームの秘密を探ろう〜」
(ミクシとはフィンランド語でなぜ?という意)
2 単元の目標
ゲームの物語や登場する人物、性格等について考える活動を通して、ゲームの世界と日常生活との違いに気付き、暴力表現を始めとした様々な問題について客観的に考えることができる。
3 単元の評価規準
- 自分がゲームをしていく中で、課題を見いだし、その解決を探ることができる(課題設定)
- ゲームのしくみ、工夫、表現をさまざまな資料をもとに、情報を収集することができる(情報収集)
- ゲームのしくみ、工夫、表現を分析し、制作者の意図を読み取ることができる(情報分析)
- ゲームの世界と日常生活との違いを整理し発表することができる(情報表現)
- ゲームの特性を理解し、長時間利用や価値観の偏りによる影響に気づき、自らの課題として適切なつきあい方を設定することができる(新たな課題設定)
4 現状・課題、教材の特性
本教材は、ゲームとのつきあい方を学ぶことができる教材である。教材の内容は小学校中学年~高学年で使用できるように設定した。主に小学生を対象としている。
ゲームは問題が多い、ゲーム時間が長いのは悪影響、とよくいわれる。現状では、小学生のゲーム機またはオンラインゲーム利用時間は長く、遊んでいるゲームソフトには年齢にふさわしくないものも多くみられる。しかし、ゲームには他の遊びにはない独特の面白さ、魅力があるから子ども達は夢中になるのである。この教材は、ゲームはなぜ魅力的なのか、どのようにつきあえばいいのか、しくみや技法、表現を理解し、分析、整理しながら有用性と悪影響の両面を読み解き、ゲームや様々なメディアとのつきあい方を考えさせることを目的としている。
5 指導について
具体的な指導内容としては、全5~9時間(第5時)扱いで、単位時間ごとに以下の内容について考えさせることを目的としている。
- (第1時)ゲームの複雑なしくみ、独特の技法、表現を様々な広がりから考える。ゲームはどのような価値観を構成しているのか、登場人物の描き方や表現を批判的に読み解く。課題を考える。
- (第2時)日常のゲーム時間の問題を意識化することにより、ゲームとどのような関係を築いていくべきか考える。
- (第3時)ゲーム制作者の話を聞き、ゲーム、メディアが作り手と受け手の関係性の中でどのように作られているのかを考える。
- (第4時・第5時)ゲームや、ルールを広報するためのポスターやチラシを協働して制作することで、この学習の意味や目的を考え、問題解決の方向性を自ら見出していく力を育む。
このように、1時間ごとに児童の気づきを広げることで、ゲームやメディアの特性を理解できると考えている。
6 指導にあたっての留意点
1. ゲーム利用状況のアンケートを別紙のような内容で実施し、実態把握しておきたい。
2. ゲームを持っていない児童、詳しくない児童、非常に詳しい児童等、知識、意識には差があるため、グループワークではヒントを出すなどサポートしていただきたい。(資料参照)
7 題材構想図
ゲームの特性を読み解き、つきあい方を自ら考えることができるようになる
暴力性の高いゲームで遊んでも、批判的に向き合うことができるようになる
8 題材指導計画 (全5~9時間:学校の実態に応じて変更が可能)
第3時は、3つの映像教材が用意されている。単元内容に合わせ1~3回に分けて実施することができる。
第4時のゲーム作りは、学校の指導計画にあわせて実施するか実施しないかを選ぶことができる。
第4時は実施しなくても第5時に進むことができる。
第5時のルール作りは、2~4回に分けて実施することができる。
9 本教材実践のための準備
◆第1時 指導案、ワークシート、プレゼンデータ、資料集
◆第2時 指導案、ワークシート、付箋紙、資料集
◆第3時 指導案、ワークシート、映像教材
◆第4時 指導案、ワークシート、付箋紙
◆第5時 指導案、ワークシート、模造紙、マーカー等、資料集、ルール見本例
※キャラクターイラストは、学習配布物、ルール作りなどに活用。
5 指導の展開例
高学年向け
◆第1時間目の展開例「ゲームの登場人物を考えよう」
◆第2時間目の展開例「生活とゲームの関係を考えよう」
◆第3時間目の展開例「ゲームを作る人のお話しを聞こう」
◆第4時間目の展開例「ゲームを作ろう」
◆第5時間目の展開例「ゲームをするときのルールを考えよう」
低学年向け
◆ゲームのとうじょう人ぶつのひみつ—「ゲームとのつきあい方」学習指導案①(低学年向け)
◆ゲームにむちゅうになると—「ゲームとのつきあい方」学習指導案②(低学年向け)(特別活動ver)
◆ゲームにむちゅうになると—「ゲームとのつきあい方」学習指導案②(低学年向け)(道徳ver)
6 講師プロフィール
今度 珠美(いまど たまみ) 鳥取県鳥取市在住
鳥取県教育委員会委嘱講師。鳥取県ケータイ・インターネット教育推進員。鳥取大学大学院教育学修士課程在学中(地域教育専攻発達科学分野)。「情報モラル教育」「メディアリテラシー教育」を専門分野とし、ゲームに関する教材開発や、人権・メディアリテラシーに関する研修講師を務める。論文・執筆・監修だけでなく、数々のフォーラムに参加し、新聞などのメディア掲載も多数。いじめ問題スーパーバイザー(鳥取県教育センター)、鳥取県差別事象検討小委員会委員、鳥取県人権尊重社会づくり協議会委員、鳥取市差別のない人権尊重の社会づくり協議会 2010 年 4 月~・ 法務省人権擁護委員、NPO 法人企業教育研究会会員、日本教育工学会会員、日本教育メディア学会会員、日本教育工学協会会員
教材開発に携わった方々
- 企画・制作・実践
- 今度 珠美(鳥取大学大学院)
- 制作
- 菊地 弘明(東京都八王子市立南大沢小学校 主任教諭),西尾 典洋(目白大学社会学部メディア表現学科 専任講師),原 克彦(目白大学社会学部メディア表現学科 教授)
- 監修
- 酒井 統康(東濃教育事務所),広瀬 一弥(京都府亀岡市立南つつじケ丘小学校 教諭)
- 実践協力
- 米田 浩(兵庫県尼崎市立立花西小学校),長谷川英司(京都府京都市鳳徳小学校)
- 協力
- 株式会社ディー・エヌ・エー
7 編集後記
ゲームについて、大人たちはどれほど理解できているでしょうか。今の親や教師が子どもの頃に遊んだゲームと、現在の子どもたちが日々ふれるゲームは、様々な要素が大きく異なっています。日常的にゲームに触れる機会が多い子どもたちの「発見」を導くだけではなく、大人たちの「理解」を深めることもできるのではないかと思いました。
使用教材の素材が充実しているだけでなく、現場での実践を重ね長い年月をかけて出来上がった綿密な指導案が完成しています。このまま丸ごと授業計画として使用することもできますが、日々環境の変わる高度情報化の時代、ぜひそれぞれの学校、学級に即した形で、また時事的な要素やローカルな要素を含ませた形で、充実した指導として広く活用していただきたいです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 佐竹琴奈)
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