池島徳大先生に聞く!いじめ防止に役立つ対策実践特集①

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目次

1 はじめに

いじめに立ち向かうためにはどんな取り組みが有効なのか。奈良教育大学大学院でいじめについて研究されている池島徳大先生に現場で使える実践を取材しました。

なお、本企画は2016年11月20日(日)開催の、NPO法人ROJE「関西教育フォーラム2016 いじめ問題をもう一度~行政×学者×遺族で創る『新しい教育フォーラム』~」(詳細はこちら)とのコラボ企画となっております。

このインタビュー記事は三部構成となっております。

関連記事は以下の4記事です。

2 インタビュー

——先生がいじめ問題を意識されるようになったきっかけや経緯を教えてください。

公立小学校での教員生活の中で、東京都で鹿川祐史君がいじめを苦に自殺するという事件が世間を揺るがしました。学校の中でいじめが発生し子どもが自殺するというのは、教育の世界ではあってはならないことです。いじめ問題に関してどういった対応ができるのか、私も思案しました。

大学では教育学を専攻していなかったのですが、教員になってから臨床的な教育心理学が重要だと考え、兵庫教育大学の大学院で臨床心理学を学びました。その後現場に戻ったのですが、その2・3年後に世間ではまた愛知県でいじめを苦にした自殺事件が起こりました。今でこそいじめっ子やいじめられっ子だけでなく観衆や傍観者も含めた四層構造の考え方が浸透していますが、当時はそうした臨床研究は全く進んでいませんでした。

——そんな中出会われ、研究されているピアサポートという実践の概要を教えてください。

いじめ問題を解決する上で、つらい時に相談できる友達の存在が大きいといわれています。悩みを持ったとき友達に相談することが多いというデータもあります。これがピアサポートのベースにあります。

ピアサポートとは、同輩・仲間による支援活動、助け合い活動です。子どもの発達上、最初はお母さんやお父さん、とくにお母さんに悩み事を相談しますよね。先生に相談するようになる子もいます。そして、小学校の中・高学年や中学生になると、友達を相談相手にする子どもが増えてくるんです。その友達こそが「ピア」、つまり仲間です。

ピアサポートでは、仲間が悩んでいる場合に親身に相談に乗るといった、思いやりのある行動を促していきます。人の役に立つ行動をすることで、相手も心地よいし、自分も感謝されることによって自尊感情が増していきますよね。双方に良い関係が生まれます。そして、思いやりのある行動をされるという体験によって思いやりの心が育まれ、今度は自分が思いやりのある行動をしようとする、そんな自発的活動となりますね。

——思いやりのある行動を通し子どもたちがお互いに思いやり思いやられる関係を作っていくことが、次の自発的な思いやり行動につながっているということですね。

そうですね。そして、思いやりの体験活動を作っていくためには、人を思いやる心と良質なコミュニケーションが必要ですよね。それを具体的に学校のカリキュラムの中で教えていくということが今日求められています。欧米では、社会性・情動性の学習(SEL:social emotional learning)の中で、カリキュラムとして組み込まれています。特にイギリスでは市民性教育(citizenship education)というものの中で具体的な取り組みがされています。

——実際にイギリスではどのようにピアサポートを取り入れているのでしょうか。

イギリスでピアサポートが本格的に取り入れられるようになったのは、1980年代初め、中学生が自殺してしまったいじめ事件がきっかけとされています。イギリスではいじめ対策の手立てとして、ピアカウンセリングと呼ばれる仲間による相談活動をしようということになりました。ロンドン市内のアークランド・バーリー校という公立の5年制の中学校での取り組みは特に大きく取り上げられました。

実際にいじめで悩んでいる生徒の相談を、有志の生徒からなるピアカウンセラーが受けて、いじめられている子どもと、いじめている子どもを相談室に集めて調停するという実践です。ただ、いじめの問題というのは先生でも介入するのが難しい問題ですよね。子どもの対立問題が起こったとき、それがいじめかどうかはっきり分からない場合がありますから。

実際、イギリスの実践において、いじめ被害の相談を受けたピアカウンセラーの生徒がいじめを解決するというのはなかなかハードルが高いものでした。なので、①事前にトレーニングをして、②実際に活動して、③活動の後にスーパービジョンという機会を設けます。この3段階すべてにスクールカウンセラーがついています。
 

ピアカウンセリングを導入するあたっては、まずピアカウンセラーになりたいと言って立候補した生徒に対して、話の聞き方などの大切なスキルをトレーニングしないといけません。イギリスでは専門のスクールカウンセラーがピアカウンセリングを指導するシステムになっています。そして、活動の後に、関わったピアカウンセラーを集めて、「ピアカウンセラーとして関わってどうでしたか?」といった話をスーパーバイザーであるスクールカウンセラー等が聞いてあげるわけです。これを事後のスーパービジョンと呼んでいます。なので、スーパーバイザーとなるカウンセラーには、専門的な臨床の知見を持った人、資格を持っている人がなります。

相談を受けるピアカウンセラーの生徒を守ることも大切です。相談内容がドラッグや暴力と関わっていて、生徒だけで対処するのが難しい場合もあり得ます。ピアカウンセラーの生徒が悩みを抱えないように、あらかじめピアカウンセリングで扱えない事柄を明確にし、そうした内容の場合はスクールカウンセラーをはじめとする大人に伝えられるというシステムを整えておくことも重要なのです。そして、ピアカウンセラーの生徒が悩みを抱え込まないように、スクールカウンセラーを交えつつピアカウンセラー同士で話し合って解決する方法を取る必要があります。ピアカウンセラーが落ち込んでしまって危険な状態にならないようにするのは、我々教師の責任といえます

こうしてピアカウンセリングという取り組みがイギリスでなされましたが、カウンセリングというとやはり専門家が行う領域を意味するということで、最近では同様の取り組みをピアサポートという言葉で表し、ピアカウンセラーの生徒についてはピアサポーターと呼ぶのが一般的です。

——「事前のトレーニング」という話がありました。ピアカウンセラーになることを希望した生徒には傾聴スキルをはじめ様々なトレーニングがされると思うのですが、他の生徒に対しても、先ほどお話にあった市民性教育などの正課の授業でトレーニングが行われているのでしょうか。

ピアサポーターやピアカウンセラーは希望制で特定の子どもがなるもので、放課後に傾聴や調停のスキルを学びます。一方で、正課のカリキュラムへの導入ですが、イギリスではPSHE(人格、社会、健康教育)というカリキュラムの中で、支援活動をする上で必要な傾聴や調停のスキルを勉強をしようというカリキュラムが国レベルで体系的に位置づけられています。

日本では、希望制というよりはむしろこうした傾聴スキルなどのトレーニングはクラス全体で行った方がいいのではないかと私は考えています。日本でも色々な取り組みが行われてきました。例えば、保健委員会などで、保健室へ来た生徒に対して保健委員が受け止めてあげるという実践です。この実践では保健委員の生徒に対して、受容的な態度や、繰り返して尋ねる聞き方(繰り返し技法)、感情を明確にする方法といった傾聴スキルをトレーニングします。しかし、やはり日本の場合は今のところ、学級全体でやった方がいいんじゃないかと考えています。日本ではまだ発展途上ではありますが、実践例は増えてきているように感じます。

——日本は学級単位で実践すべきだというのは、日本がまだピアサポートに関して発展途上だからですか。それとも日本の特有の性質によるものでしょうか。

森田洋司先生が1990年代にいじめに関する国際比較調査を行いました。オランダ、イギリス、日本の小学5年生から中学3年生のいじめの傍観者と仲裁者に関するデータを集めたものです。ここでいじめの4構造のお話をしておきましょう。学校内でいじめが起こるといったとき、いじめっ子といじめられっ子の一対一の関係だけで成立してるわけではないんですね。周りの子どもたちや、学校が大きな影響を与えいるんです。第一層目はいじめられっ子、二層目はいじめっ子、三層目は観衆(面白がってはやしたてる子)、四層目は傍観者(見て見ぬふりをする子)です(図1)。

(図1.森田洋司編 2001 いじめの国際比較研究⁻日本・イギリス・オランダ・ノルウェーの調査分析- 金子書房)

そして見て見ぬふりをする子たち、傍観者と呼ばれる子どもたちが実は大きな影響力を持っているということが森田洋司さんの研究によってわかったのです。観衆がいじめを認める是認行動を起こすわけですね。そしていじめっ子は、観衆がいて、「わーおもしろい」とか拍手が起こるわけだから、ますますつけあがるんです。そして傍観者と言われる学級の大多数の子どもたちは何するかというと、黙って見ているだけ。これを黙認の体系と呼んでいて、これもいじめを助長しているんです。こういう構造が分かってきた。観衆と傍観者がいることによって、ますますいじめがエスカレートしていくんです。一方で、いじめが発生した時にいじめを止める生徒を仲裁者と呼びます。

それで、図2のとおり、オランダもイギリスも中1の時点で仲裁者の割合はぐっと減ります。ところが、オランダもイギリスもその後中2にかけて仲裁者の割合は増えるんです。一方、日本は右肩下がりで仲裁者の割合はずっと下がりっぱなしです。傍観者は逆に日本だけ右肩上がりに増え続けます。なぜイギリスやオランダでは仲裁者の割合が下がった後、下げ止まり、増加に転じたかについてですが、おそらく、市民性教育が普及しだしたからだろうと言われています。もし普及していなければ日本と同じように仲裁者は下がっていたかもしれません。日本の場合は今日まで、調停のスキル、すなわちケンカやもめごと問題が起こった時にどう対応するかといったことを、小・中学生の時にあまり学んでないですよね。勝手に自然に学びましょうということになっている。先生が知らないんです。メディエーションのスキルに関して、知見がないんですね。

(図2)

そもそも、いじめの問題は日本固有の問題だと言われていた時代がありました。日本では、1980年代半ばのいじめの第一期頃から研究が始まったばかりです。それまで日本では、「いじめというのはどこにでもある。いじめによって人間が鍛えられる。」という考え方が主流でした。「ちょっとぐらい、それが何だ。いじめられる方にも原因がある。辛抱しろ。頑張れよそれぐらい」といった具合です。ところが自殺が増えてくるにつれて、その考え方はあらためられていくことになります。そうしたことから対話を中心としたシステムを導入しないといけないという流れが生まれてきました。

——日本では学級単位で行うべきだという話に関連して、それでは担任の先生に期待される役割とはどういったことでしょうか。

小学校、中学校、高校、特別支援学級それぞれに特性がありますが、担任の先生は学校に来ている子どもたちに何を重点的に指導したり援助したりしていくかという点で役割が2つあると考えます。
 
1つは、教育の「教」いわゆる「教える」という部分です。英数国といった、教科の内容を教えるという行為です。教科の内容という文化的価値をきちんと教えるということは重要な役割です。

そして、それ以上に大事な点が、子どもたちの人間関係を含めた、いわゆる社会性の育成です。社会の一員として、子どもたちが立派な人となるために、人のことを思いやることができる、対人関係能力のある人を育成するという大切な役割を担任の先生は担っています。

人の社会性について、人の一生という視点から見てみましょう。
 ①アノミー状態
 生まれたての赤ちゃんはなにも分からない状態で、いわゆるアノミー状態です。この状態では本能が行動を支配しています。おなかすいたら泣き、おむつぬれたら泣き、誰かに改善してもらえればにこっと笑う、そんな状態です。
 ②他律の段階
 トイレットトレーニングをはじめとするしつけの段階です。親や先生との関わりが重要な時期です。
 ③社会律(ソシオノミー)の段階
 幼稚園・保育園の頃からはじまり、学校教育を受ける期間がこの段階に該当します。この段階では友人がきわめて重要なキーパーソンとなります。友達関係があらゆる面に影響を与える時期です。ごっこ遊びなどを通して、人との関わり方を勉強し、仲間というものを強く意識するようになります。友達を裏切るのはよくないという意識や思いやりも育まれる時期です。
 ④自律(オートノミー)の段階
 最後に、ピアジェの言う自律(オートノミー)の段階に入ります。

③の社会律の段階は、まさに学校教育の期間に該当します。次の自律の段階に向かっていく点においても、社会性の育成の面で非常に重要な期間です。学校教育では、教師がこの段階の子どもたちの人間関係づくりの支援者となることが重要です

また、社会性の育成を通して、友人と一緒に遊べるようになると、学校が楽しくなりますよね。学校楽しくなければ勉強しません。つまり、社会性の育成が学力に大きな影響を及ぼすといえます。学校に行きたくなくなる理由として、友人関係によるものが大体5~6割を占めるとも言われています。

以上、教科指導を通して文化的価値を教えるという部分と社会性を育てるという部分。この2点が教師の持つ大切な役割だと思います。

——担任の先生は子どもたちの自主性を保ちながら介入していく態度が必要ですね。

必要ですね。なんでもかんでも先生がするべきじゃない。成長していくにしたがって、子どもたちが子どもたちを支援する。Kids helping kids。もっといえば、students helping students。学生が学生を支援するというのは、いまでいうアクティブラーニングですね。子ども同士で考え、体験したり、一緒に学んいったりするわけです。先生がいつも上から目線でこうしろああしろっていってる状態では、自発性や自主性は伸びないですね。

ピアサポートの物の見方・考え方というのは、子どもたちを可能性のある存在として、持っている力を最大限に引き出してあげるというものです。そこが、救済(resucue)ではなく支援活動(support)であるゆえんです。もちろん、救わなければならない事例はありますよ。自殺しようとしている場面では「やめとけ!」と言ってやめさせなくてはなりません。危機対応ですね。でもやっぱり本来は子どもたちの持っているよい面を引き出してやって、肯定的な面を引き出すしましょうというのが、ピアサポートの考え方ですね。子どもの力を借りるといってもいい。ピアサポートとは呼ばずとも、良心的な先生はすでにこうした考えに基づいて指導されています。

——そういったスキルを、いろいろな先生方に広めないといけないといけないのでしょうか?

そうですね。数年前まで生徒指導で厳しくやっていた方にとっては、急に肯定的な面を引き出すという考え方で指導を行うのは難しいかもしれません。ただ、中学生でもいうこと聞かない子はいるから、私は「あかんものはあかんていっていいよ」と言っています。これを現実原則の対応と言います。「世の中そんなに甘くないよ。ちゃんと勉強しよう!」という具合です。現実原則の対語は、快楽原則。好きなことをするっていう意味。現実原則では「いまこの時期、勉強したほうが良い。ちゃんとやろう」と指導します。そうしたことを言うのを恐れないことは重要です。

でもやはり、子どもたちの力を生かすっていうのがまずは本領でしょうね。本当に勉強がよくできる子は、例えば高校で選択制の科目を設けていて自由な発想で研究テーマを作ることができるというのが、京都の堀川高校などでされていますね。やっぱり自由時間があたえられるのはいいですよね。

そうした子どもたちが自由な発想で、自分の力を発揮できるような指導を開発しようとされている良心的な先生が今増えてきていますよね。例えば、修学旅行。昔はバス一台に乗せられて、一斉についてきなさいというもので。でも今はちがいますよね?グループ活動があるでしょう?

——そうですね、修学旅行では各班で一台タクシーかりて、自由に各班でルートきめて、行ってこいって言われました。

おぉタクシーやったんか!どこいったん?

——沖縄です!

沖縄はタクシーじゃないとね(笑)。一定の枠だけ決めて、ほったらかしにはならないようにしますが、そうした体験が非常に自己指導の力を発揮させるんですよ。自己指導能力です。また活動のなかで話し合いや相談も一緒にしますよね。それが自発性を伸ばし、創造性を育てるんですよね。

十分話し合うなかで、対立したりケンカするときもありますよね。そのときにピアサポートはいいモデルを持っているんです。仲間づくりは昔から言われてきたけど、仲間づくりをしたらそのまま対立もなくそのままいくなんてことはない。仲良くなったらケンカもおきます。

——ケンカするほど仲がいい、ですね(笑)

うまいこというな(笑)。ところが学校の先生は、ケンカすることをものすごく嫌います。「仲よくしよう!」と。ケンカが起こったら怒りますね。そこをピアサポートのプログラムでは、ケンカ起こった時にどう対応するかという枠組みをもっているんです。これがいじめ問題の解決に役立ちます。学校教育においてこれは非常に重要なことです。なので、ピアサポートを普及させるべきだと考えています。

いじめが起こる前の段階のもめごと等、対立問題が生じるのは自然なことだという認識を持って対処するようになれば、「怒る」ことをしなくなります。その対立問題からクリエイティブなものを引き出し、解決していく道筋をみんなで考え合って、当事者同士で解決していく(win-win法)ということが整備されているなというのが、欧米の事例を見たときに私にとって非常に大きな衝撃でしたね。

3 実践者プロフィール

池島徳大先生
奈良教育大学 教職開発講座 教授 
専門は、いじめ・不登校などの学校教育臨床、生徒指導、学校力ウンセリング。
兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科博士課程単位取得退学。
博士(学校教育学)、臨床心理士、学校心理士。
奈良県公立小学校、奈良県立教育研究所、国立教育会館学校教育研修所(現、独立行政法人教員研修センター)等を経て、奈良教育大学教育学部附属教育実践総合センター助教授。現在、同大学院教育学研究科専門職学位課程(教職大学院)教授。
公立小学校教諭時代に、「いじめ克服への取り組み—学年教師による心理劇活動を通して—」で、第34回読売教育賞児童生徒指導部門最優秀賞受賞(昭和60年7月)。
現在、いじめ問題の解決に向けて、予防的・開発的生徒指導の視点に立つ、子ども同士の人間関係の形成を図るピア・サポート及びピア・メディエーション(仲間による調停)の学校教育への導入に関して、積極的に実践研究を行っている。

4 編集後記

「ピア・サポート」という考え方では、いじめの前段階となる対立を自然に起こることだと認めることで、子どもたちの力を借りて対立問題の解決に向かわせることができます。

(文責・編集 EDUPEDIA編集部 宮崎俊一)

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