池島徳大先生に聞く!いじめ防止に役立つピアサポートの実践・そのために大切なこと(いじめ対策実践特集③)

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目次

1 はじめに

いじめに立ち向かうためにはどんな取り組みが有効なのか。奈良教育大学大学院でいじめについて研究されている池島徳大先生に現場で使える実践を取材しました。

なお、本企画は2016年11月20日(日)開催の、NPO法人ROJE「関西教育フォーラム2016 いじめ問題をもう一度~行政×学者×遺族で創る『新しい教育フォーラム』~」(詳細はこちら)とのコラボ企画となっております。

このインタビュー記事は三部構成となっております。

関連記事は以下の4記事です。

2 インタビュー

①「斜めの関係」について

Q.先生は、何かのことで悩んでいる子どもにアプローチする実践を行っていますか

私の研究室の院生たちがピアサポーターとして不登校の中学生の支援で関わっています。先生と生徒という「縦の関係」でもなく、生徒と生徒という「横の関係」でもない、いわゆる「斜めの関係」を築いているのです。また、高等学校のスクールカウンセラーの相談室にも、院生をピアサポーターとして派遣して、スーパービジョン(助言)もしています。中学生にも高校生にも、効果が出ていると感じています。
中学生は、ピアサポーターの院生に対して、「お兄ちゃん・お姉ちゃん」と呼んで、勉強以外にもファッションの話等もしていますね。高校なら受験という問題もあるので、年齢が近いからこそできる相談をしたり、1対1で勉強したりしています。

Q.信頼関係の中で難しい相談も受けそうですが、そのときはどんな対応をすべきですか

例をあげるとすれば、時々、「なんで高校に行く必要があるのか?」と聞かれることがあります。難しい質問です。院生もどうすればいいのか、悩んでいました。そこで、私は院生に「答えを出そうと思ったでしょう?あなたは学校の先生ではなく、ピアサポーターの学生ですよ。もっと肩の力抜いて」と声をかけ、「繰り返し技法」というカウンセリングの技法を思い出させました。「そうか、君は今、なんで学校に行く必要があるのかって思っているんだね。」と返してみてはどうかという提案です。「君は、今」という点が大事です。今はなんで行かなくちゃいけないかと言っているけれど、心の底では行きたいと思っているのかもしれませんよね。
同じように、「私みたいなアホのいく高校はない」って言って、こちらを試してくるかもしれませんね。そういう場合は、「今は、私みたいなアホのいく高校はないって思っているんだね。」と返すといいと思います。

Q.最近では、中学校が小学校を巻き込んでピアサポートの実践を行うという事例もあります。その事例は、導入しやすさの面や斜めの関係の面で良い取り組みですか

いい取り組みだと思います。小学校と中学校とのギャップ、いわゆる中1ギャップというものがあります。不登校もいじめも、この時期に増えるんです。やはり、小学生たちが中学進学に対してある種の恐怖を持っている可能性があると思っています。勉強も難しくなるし、定期試験もありますからね。
ある事例を挙げると、3学期に、中学生が小学校に行って、給食を一緒に食べるという企画がありました。そこで、小学生から、勉強のことやクラブ活動のことなどの質問が飛び、それに中学生が答える。こうした取り組みを通して少しずつギャップを解消していくことができます。そして、その時に中学生の方がよく伸びます。世話をする側の自己肯定感情が高まるのです。人の役に立つことをみんなしたいと思っていますし、役に立てたと思うと自尊心が高まりますよね。
また、人に思いやってもらった経験が多い人ほど、相手を思いやった行動をしようという気持ちになります。このような「思いやり行動」には3つの要素があります。

  • 自発的行動
  • 犠牲を伴うということ
  • 報酬を求めないということ

です。学校教育において思いやり行動を促すことは非常に重要です。思いやり行動は、思いやられた側が今度は思いやる側になるという形でどんどん波及していきますから。こうして社会性を育てていくわけです。

②思いやりの心について

Q.「思いやりの心」といったようなピアサポートの成果はデータとして測れますか

データを取るというのは、要するにエビデンスを求めるということですよね。
ピアサポートのプログラムを導入するとどんな変化があるのかという点を聞いてみることで得られます。要するに、尊重的な態度でもって関わると(独立変数)、子どもたちの様子がどう変わるか(従属変数)といったところを測ってみればいいわけです。子どもたちの思いやりに関わる質問紙調査を授業前に行って、授業後にもう一度測ることで変化が計測できます。例えば、「私は人が困っている時に声をかけようと思う」といったような設問で、5段階評定で自己評価してもらうというイメージです。

Q.保護者対応も見越して、取っておくと良いデータにはどんなものがありますか

ユニバーサルスタジオジャパンでスタッフ同士が行っている「グッジョブ・カード」という取り組みがありまして、それを学校現場にも取り入れた実践例があります。例えば、「思いやりのある言葉を使いましょう」といったルールを学級や学校で作っているとします。それで思いやりのある言葉を使った子どもがいたときに、子どもたちがカードにメッセージを書きます。「山田君は今日しんどそうにしていた花子さんに大丈夫とやさしく声をかけていました」みたいに具体的に書くんですね。これをポストのようなものに入れるわけです。良い行動の回数はカードの数でわかりますし、行動の内容もこれでわかりますよね。ちなみに、ユニバーサルスタジオジャパンではカードが2枚複写式になっていて、1枚は良い行動をした本人に渡し、もう一枚は本部に渡すという形を導入しているようです。
日本の教育では、人間関係の体験的な、あるいは開発的な取り組みが少ないように思います。講義形式だと前後左右の人であっても顔を向けあって関わることは少ないですよね。積極的に、かつ意図的に子どもたちを繋げる取り組みが必要だと思います。

Q.取ったデータに対する子どもたちや保護者の反応はどうでしたか

先ほどお話ししたグッジョブ・カードの実践では、保護者懇談会でカードを保護者に見てもらったんですが、わが子が友達からたくさん称賛されているのを見て涙を流す方もいました。子どもの学校での様子を知ることができ、意外な一面を知った保護者さんもいました。
子どもたちからも、カードをもらってうれしかった、カードは大切に残している、意外な友達が書いてくれた、クラスで注意が減ったといった感想がありましたね。

Q.「書いてやろうと思ったけど書いてやらない」という悪ノリや、恥ずかしさなどから、カードが書かれないこともあり得ると思うのですがその場合はどうすればよいのでしょうか

その場合を見越して先生がチェックする必要はあります。書かれた数が少ない子もいるはずですし、そうした子どもを先生がよく観察することが必要です。場合によっては先生が補完する形でカードを書いてあげるというのもあるでしょう。

③最後に

やはり、いじめ対策に一番効果があるなと先生が考えられているのはピアサポートやピアメディエーションですか?

自分が研究しているということもあり、ひいきするところはありますが、そうですね。
ピアサポートにおいて重要なのは安全指導モデルであるということです。安全指導モデルとは、子どもの心を傷つける恐れがなく、子どもの持っている自然な傾向性に着目して行っているということです。
逆に、精神分析などは、それ自体は危険なわけではないんですが、少しの知識だけで「あなたは少し抑鬱不安的な傾向がありますね」と、医者でも判断が難しいことを先生が言ってしまうということで子どもに不安を与えてしまいかねません。これは危険です。
子どもたちがピアサポート的に関わっていくように介入をして、良い行動があった場合には褒める。もし少し問題を持ち始めた子どもがいたら、なんでこれ出来なかったの?この時どうしようと思ってたの?と、聞いてあげることを通して援助をする。悪い行動を直そうとするのでなく、良い面の成長を促進していくという視点で関わっていくんです。良い面を引き出してやって成長させるというのは教育としてやはり良いものであると思っています。
ピアサポートと言わずとも、ピアサポート的な取り組みは実は日本でも昔から行われてきました。妊婦さんの会なども一種のピアサポートですし、小学校で6年生と1年生が一緒に給食を食べたりお世話したりしつつお話をするのもピアサポートです。
仲良くするばかりがいじめ対策ではありません。揉め事を解決することも新しい人間関係の始まりとなります。ピアサポートはその揉め事解決のシステムを持っているんです。

先生の理想とされるような学級を作ることができる指導者になるためには、どんな人がいいですか。それにあたって大学生で教員を目指す人にできることはなんですか。

人を思いやれる人がいいと思います。自分も思いやって、人からも思いやられる経験を沢山積むといいのではないでしょうか。人に対して感謝、労り、相手を尊重するという、人として大事な部分を、子どもと関わる活動を通して学んでほしい。そんな成功体験を大学生のうちに積んだらいいのではと思います。

3 実践者プロフィール

池島徳大先生
奈良教育大学 教職開発講座 教授 
専門は、いじめ・不登校などの学校教育臨床、生徒指導、学校力ウンセリング。
兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科博士課程単位取得退学。
博士(学校教育学)、臨床心理士、学校心理士。
奈良県公立小学校、奈良県立教育研究所、国立教育会館学校教育研修所(現、独立行政法人教員研修センター)等を経て、奈良教育大学教育学部附属教育実践総合センター助教授。現在、同大学院教育学研究科専門職学位課程(教職大学院)教授。
公立小学校教諭時代に、「いじめ克服への取り組み—学年教師による心理劇活動を通して—」で、第34回読売教育賞児童生徒指導部門最優秀賞受賞(昭和60年7月)。
現在、いじめ問題の解決に向けて、予防的・開発的生徒指導の視点に立つ、子ども同士の人間関係の形成を図るピア・サポート及びピア・メディエーション(仲間による調停)の学校教育への導入に関して、積極的に実践研究を行っている。

4 編集後記

思いやりの心をもつことによって、人も自分も幸せな気持ちになることができるのだと、この取材に関わって感じました。思いやりの気持ちをもつことによって、お互いが良いところを認め合い、幸せな気持ちになることによって、いじめも減っていくのではないかと思いました。
ぜひ、みなさんにも、この記事を参考にして、自分にも、人にも、思いやりの心を持って関わっていただけると幸いです。
(文責・編集 EDUPEDIA編集部 中原瑞貴)

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