想いを起点に「つなぐ」仕事 教育魅力化コーディネーター【第14回EDUCARRERイベント】教育×地域×コーディネーター〜社会教育士って何してる?〜(宮野準也さん)

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目次

1 はじめに

この記事は、2023年2月25日にNPO法人ROJE EDUCAREERが主催した【第14回EDUCAREERイベント】「教育×地域×コーディネーター〜社会教育士って何してる?〜」の内容を編集したものです。

本イベントでは、2名の方に登壇していただきました。この記事では、隠岐島前教育魅力化コーディネーターとして、また島根大学社会教育士講習講師としてご活躍されている宮野準也さんのお話の内容を記載しています。

もう1人の登壇者であり、社会教育士として中高生の探究的な学びを支援する仕組みづくりを行っている加藤拓馬さんのお話の内容は、こちらの記事をご覧ください。

2 教育魅力化コーディネーターになるまで

大学時代に出会った一冊の本

大学生になると高校生の頃のような充実感をあまり得られず、大学卒業が近づくにつれて「今後自分は何をしていきたいのだろう」という漠然とした思いを強く持つようになっていました。そのように自分探しを続けている中でふと手にした「流学日記」(文芸社)という本を購入しました。著者が大学生の時に1年間休学をして世界を回った経験などが書かれている本で、その本を読んでみると「面白い人だな」と印象に残りました。実はその本の著者である岩本悠さんは今、僕が働いている隠岐島前教育魅力化プロジェクトを立ち上げた方です。そのため、この本との出会いが15年後の今に繋がっていると感じています。

企業からの転職

大学生の時から教育に興味を持っていたこともあり、学校の先生になろうと思っている時期もありました。しかし、いずれ多くの教え子が企業に関わることになると考え、まずは自分も社会人経験を積もうと考えてインテリア用品小売業の企業に就職をしました。そこで4年半ほど勤めた後、今いる島根県隠岐島前で発足した隠岐島前教育魅力化プロジェクトに転職しました。

3 コーディネーターとしての実際の取り組み

僕の取り組んでいる隠岐島前教育魅力化プロジェクトは地域で唯一の高校が生徒数の減少から廃校の危機に陥ったことをきっかけに、魅力的な学校づくりを通じた地域の活性化を目指して始まりました。「この地域の学校ならではの教育とはなんだろう?」と考えると、この地域には保育所や病院、建設会社など多様なキャリア教育を学ぶ機会やいろんな魅力的な地域の人がいることに目が留まりました。その地域の特性を生かし、そこから「島まるごと学校」というコンセプトで地域をフィールドに学ぶ教育づくりに挑戦しました

実際にこの地域で体験できることを教育の一環として取り入れ、また生徒が他のフィールドに学びに出たり、海外にも広く接点を持てたりする機会作りもしました。他にも離島である隠岐島は入学する学校の選択肢が都会に比べて少ないため、ひと学年の中でも学力にばらつきが生まれます。その子どもたちの個別最適な学びのサポートを目的として島に公立の塾をつくるプロジェクトをしました。他にもこの島でできることを全国の子どもたちにも経験してもらえるように島留学の制度を整備することもしました。

地域とそこに根ざす学校の魅力を引き出す取り組みをさまざまな角度から行っているのがここに挙げた例からもわかると思います。これが教育魅力化のできることです。

4 グローカル人材の育成を目指して

グローカル人材を育てる、これは島前の学校、そして地域で掲げている目標です。グローカル人材とは都市部で大事にされている価値観と地方で大事にされている価値観双方を理解することでどのような場所でも活躍できる人のことを指しています。自身の例を挙げると、僕が以前働いていた都市部の企業では競合店調査をしながら、いかにして他社よりも自社の売り上げを伸ばせるかと考えて勤めていました。しかし、その後島に来て全く違う価値観を目にしました。島にあるガソリンスタンドはどこも同じ値段であり、地域全体で利用が一箇所に偏らないような工夫と話し合いが行われていることを知りました。他社とも同じ地域内で協力していこう、という考えが地域ではみられました。このように都市部では早い、安い、便利といった競争に価値を置いており、一方で地域では安心、安全といった共創に価値を置いているため、考え方が大きく違います。

都市部(グローバル)の環境、地方(ローカル)の環境、それぞれの場所で大事にされている価値観を知ることで、どちらが良い、悪いではない視点で違いを認めることができます。互いの価値観を尊重し、それぞれの視点を行き来しながら関わっていける人を育てて行きたいと思っています。

5 「思い」を起点につないでいく役割

地域に根ざしたコンセプトとグローカルな人材像を持って進めた教育魅力化を通じて、今では隠岐島前高校は国内外からも生徒が集まる学校になりました。元々生徒数の関係で1クラスだったのにも関わらず、念願の2クラス化も叶いました。この地域で取り組んだ島留学や地域全体をフィールドに行う取り組みは今では「地域未来留学」として全国に今年度の時点(2023年度現在)では98校で実施されています。

このように地域や島などの教育の魅力化を促す中で、起点となってきたのがコーディネーターという職種です。コーディネーターという立場は学校の先生とも、行政の職員とも違います。学校と地域が共同して教育を作っていく中で双方にはそれぞれの視点と想いが生まれてきます。例えば、学校側は「地域と共にある学校づくりを目指したい」という視点を持っていますし、地域側は「学校を核にした地域の活性化」という視点を持っています。この双方の願いや気持ちを理解し、調整する立ち位置にあるのがコーディネーターです。学校の先生と地域の人の間を行き来して、想いをつなげながら取り組みを推進していくことがコーディネーターの大きな役割と考えています。

そのほかに、生徒と地域をつなぐこともできます。「実はこんなことをやってみたくて」と話す生徒がいれば「それならば地域のこの人は近いことをしているよ」と紹介してみる。「もっと違う視点で学びたい」という生徒がいれば「海外にこういうことをしている場所もあるよ」と海外ともつないでみる。「将来は教育に携わったり、学校の先生になりたい!」という生徒の気持ちに「なら中学校で出前授業をできる機会をつくってみようか」と提案して生徒と挑戦の機会をつなぐことも教育魅力化コーディネーターの役割の一つです。
そして教育の場の提供は子どもに限らず大人に対しても同じです。学校の先生と生徒、先生同士、学校の経営と地域の経営をつなぐというような活動もしています。生徒と同じように先生も先生によって得意なことが違います。好きな教科を極めている先生や、部活動の指導が好きな先生、生徒指導が上手い先生、と好きなことや興味関心がさまざまです。生徒だけでなく、先生にも「自分の好きなことはもっと活かせるんだ、挑戦してもいいんだ」と思ってもらえるようなコミュニケーションや環境づくりに努めています。経営面においても学校内の経営や地域内の経営の特徴や方法を、新任の先生や携わっている人以外に簡潔に説明することはなかなか大変です。そのような場面において見通しやすい学校経営チームの整備や体制づくりをサポートすることを行うこともあります。

ここまでたくさんの例を挙げてきましたが、教育魅力化コーディネーターは基本的にそこにいる人の「想い」を起点にしながら人、もの、こと、をつないで学びの場を共につくっていきます。今まで僕たちが取り組んできた隠岐島前教育魅力化プロジェクトも廃校の危機からは脱したものの、油断するとまたすぐに廃校の危機に陥るかもしれません。引き続きさまざまなプロジェクトを進めながら、今後は「その地域に根ざす価値」をつくっていけるように頑張っていきたいと思っています。

6. 社会教育士として

僕はコーディネーターを務めるようになった同年に島根大学でコーディネーター養成コースを始めました。このコースでは「地域と一緒にやっていくときの大事なポイントは何か」や「どのようにつくっていくといい授業ができるのか」という大切な問いから始まり、「学校経営はどのように進めるのか」「地域と学校を繋げる取り組みはどのように進めるのか」といった具体的な方法まで学んでいきます。今は「社会教育士養成講座」へと改名、発展を遂げています。

教育魅力化コーディネーターを含む社会教育士はさまざまな社会課題の解決に取り組んでいますが、その解決には「学びを通じて」という点がキーワードとして存在しています。学びを通じて多様な人とのつながり、未来を作っていく取り組みを支えるのが社会教育士であると僕は思っています。

7 登壇者プロフィール

宮野準也さん

1987年静岡県浜松市生まれ。2014年ニトリを退社し、島根県隠岐郡海士町に移住。2016年には、島前地域の中で一番小さい人口600人の知夫里島に移住し、コーディネーターとして務める。2021年から現職。草刈りと教育から島づくりをするロマンを愛する。

8 主催団体

NPO法人ROJE EDUCAREERプロジェクト(旧:教育と仕事フェスプロジェクト)

「一人一人が納得して自身のキャリアを決められる」ことを目標に、大学生向けイベントの企画・運営を行なっている、大学生によるプロジェクトです。
私たちは教育業界のキャリアの面白さを広く発信し、多様な教育キャリアと出会う機会を創出することで、教育業界でのキャリアを歩みたいと思う学生を増やし、納得のいくファーストキャリアを選択してもらうことを理念に掲げています。詳細はこちら

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10 編集後記

白か黒かではなく両者の「思い」に耳を傾け、つないでいくという姿勢はどのような場面においてもとても重要であると感じました。また一から新しいものを生み出すのではなく、そこにいる人々の「好き」、「挑戦してみたい」という姿勢や地域が持っている特徴を魅力として引き出していくことで教育の活性化を実現している姿に将来に対する勇気をいただくことができました。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 吉田柚)

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