「遊びこそ最高の学び」学童保育の可能性を信じ、やりがいを求めてNPOで働く【第13回EDUCAREERイベント】NPO就職のリアル~生の声を聞いてみよう~(Chance For All編)

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目次

はじめに

 この記事は、2022年10月12日にNPO法人ROJE EDUCAREERが主催した「【第13回EDUCAREERイベント】NPO就職のリアル~生の声を聞いてみよう~」の内容を編集したものです。本イベントでは、「認定NPO法人カタリバ」「NPO法人 Chance For All」で正職員として働く方々に、学生生活・キャリアについてのお話をうかがいました。

 本記事は、 NPO法人 Chance For All について記載しています 。CFAからは、設立者の中山勇魚さん、新卒入職の廣瀬陽香さんが登壇してくださいました。

 認定NPO法人カタリバについては、こちらをご覧ください。

NPO法人 Chance For All とは

 Chance For All は、「生まれ育った家庭や環境に関わらず誰もが幸せに生きていける社会」の実現を目指して活動しているNPO法人です。

Chance For All の主な事業

 事業領域は大きく分けて5つあります。小学生の放課後の居場所づくりや、生活保護を受けている人や外国籍の人が多い足立区で、人々を地域の支援や行政とつなげるためのメディアづくり、子どもたちが自分たちでやりたいことをやる探究的な学びの塾の運営などを行っています。

 全ての事業を合わせると、年間のべ8万人以上の子どもたちが参加しています。昨年度は、正規職員25名とボランティア1837人が活動しました。

子どもたちの幸せのために

 CFAの特徴は、既存の補助金や委託などの制度がなくても、子どもたちにとって必要であれば自分たちでお金を集めて実施していくということです。自分たちでお金を稼いだり、お金がある人からお金をもらったりすることで、お金がない家の方は無料で通えるというようにしています。お金の有無にかかわらず誰もが一緒に参加できるということを大切にしているためです。

 一番大事にしていることは、子どもたちが今も将来も幸福であることです。日本では、将来幸せになるために今がんばりなさいと言われることが多いですが、今幸せでないと将来の幸せのためにがんばることはできません。まずは、子どもたちが今を楽しんで毎日を幸せに生きられるように、という思いで活動しています。

遊びこそ最高の学び

 また、子どもたちが一番成長するのは、子ども同士の関係性の中で、自由に自分のやりたいことをやっていくときだと私は考えます。「遊びこそ最高の学び」なのです。遊びのなかで新しいものに触れたり、新しい人と出会ったり、自分が今までやってこなかったことに挑戦したりすることが、大きく成長するチャンスなのです。

自分たちの暮らしは自分たちで作る

 子どもの社会参画としては、自分たちの暮らしは自分たちで作るということを大切にしています。例えば、学童では、予算の管理は子どもたちが行っています。

 以前、子どもたちが部屋の中で遊んでいて壁にぶつかり、穴があいてしまったことがありました。それを直すかどうか、直す場合どのように直すか、いくらかけるかなどを、子どもたちが話し合って決めるのです。このときは、直したいけれどお金が足りないから安い大工さんを紹介してほしいと言われました。そこで私は、子どもたちと大工さんをつなぎました。子どもたちは大工さんに、直すのを手伝ったら安くしてあげると言われ、一緒になって修理をしていました。このように、大人が全部提供するのではなく、自分たちで自分たちの暮らしを作っていくことを大事にしています

何のための評価なのか

 今の学校教育で一番よくないのは、学年で比較評価をすることだと思っています。例えば、かけ算九九は小学校2年生で覚えることになっています。塾に通っててもう既に九九を覚えている子は、そのときには何の努力もしないでよい評価を得られます。一方で、学校の授業で初めて九九と出会った子が、苦労しながら半分まで覚えてもよい評価は得られません。そこからがんばって、半年後に九九を全部覚えたとしても、その頃には学校ではもう割り算をやっているので、やはりよい評価は得られません。このような評価により、子どもたちはどんどん自信を失ってしまいます。また、よい評価を得られたとしても、感じるのは自己を肯定する力ではなくて優越感です。

 CFAの居場所では評価をされません。居るだけでいいのです。来ただけで100点で、そのなかで一人ひとりが、昨日より今日、今日より明日、自分らしく成長していくことが大事なのです。

ごちゃまぜで過ごす

 今の福祉では、基本的に、貧困の子や障害がある子を、他の子どもたちと分断して支援しています。そうではなく、誰もが同じ場所で過ごし、お互いの違いを感じながら生活することが大切であると私たちは考えています。それはある意味残酷かもしれませんが、それによって、皆が同じである必要はないということを、子どものうちから学ぶことができるのだと思います。

 また、子どもたち一人ひとりが世界で唯一の存在であるということも忘れずに、一人ひとりと向き合うことを大切にして活動をしています

中山勇魚さんのキャリア

プロフィール

中山勇魚

早稲田大学教育学部卒業。18歳の時に家庭の事情で家族が夜逃げ。東京都内のホテルやウィークリーマンションを転々とする。環境によって人生が大きく変わってしまう経験を経て「家庭や環境で人生が左右されないためにはどうしたらよいのか」を考え始める。大学在学中に様々な環境のこどもたちや教育のあり方について学んだり、学童保育の指導員として現場で勤務したりするなかで放課後の可能性に着目。卒業後は保育系企業にて修行を積んだ後、2014年に「こどもたちのための学童保育」CFAKidsを開校。とことんこどもたちの成長と向き合う姿勢が保護者の共感を生み、2020年現在、足立区、墨田区で9校舎を運営。毎日300名以上のこどもたちが通う。

複雑な子ども時代と気づき

 私は、複雑でトラブルが絶えない、大変な家庭で育ちました。中学生のときは荒れ果てた家にいたくないという思いが強く、そのときに居場所になっていたのが塾でした。毎日塾の自習室に行って、大学生のアルバイトの先生と話をしたり、勉強したりしていました。勉強時間が確保されたことで成績が自然と上がってきて、高校受験には成功しました。しかし、高校生のときに家庭がさらにひどい状況になり、家にもいたくない、学校にも行きたくないという複雑な気持ちを抱えていました。その頃によく関わっていたのは、家庭環境がよくない人たちで、皆学校にも行っておらず、勉強が苦手な子ばかりでした。一方で、通っていたのは偏差値の高い高校だったので、学校に行くと、お金持ちの家の子どもが幸せいっぱいに生きている姿を目の当たりにしました。そのときに、勉強ができるできないというのは、本人の努力ではなくて、家庭環境によるところも大きいと感じました。

学童保育の可能性

 大学の教育学部で学ぶなかで、幼い頃から虐待や貧困で大変な思いをしている子どもがたくさんいると知り、これはよくないなと思い、課題意識を持ちました。だんだんと教育にのめり込んでいくなかで、学童保育に出会い、ボランティアを始めました。私は、そこでの子どもたちや保護者の方との関わりのなかで、学童保育は勉強ではない大切なことを学べる場であると気づいたのです。そして、大学時代にも一度、友達と一緒に学童を作ろうとしたのですが、学生に場所を貸してくれる人はおらず、お金もなく、そのときは失敗してしまいました。

 そして、新卒で認可保育園や児童館を運営している企業に入り、新しい園を作りました。その後、エンジニアとしてITベンチャーで働き、29歳でCFAを作りました。

廣瀬陽香さんのキャリア

プロフィール

廣瀬陽香
1997年生まれ、東京都出身。日本大学生産工学部建築工学科に入学し、子どもやまちづくりをテーマにした設計に没頭。大学で建築を学ぶ傍ら、岩手県陸前高田市を拠点とするNPOで、町の人と大学生でまちづくりを行う企画のプロジェクトリーダーの1人として活動。大学生、高齢者、子どもなどと多くの人と関わり向き合う中で「子どもたちが一人ひとりが輝くために力になりたい」という思いから2020年にCFAへ入職。入社後、校舎の子どもたちの保育、子どもたちが社会課題の解決にチャレンジする企画や動画づくり、CFAKidsのサマーキャンプのリーダー、子どもたちの成長と門出を祝う企画を担当してきた。現在は、CFAKidsの1校舎の施設長を務める。

人と人とのつながりの価値

 私は、子どもの成長につながる幼稚園を作りたいという思いがあって建築工学科に入りました。建築も非常に楽しく、やり込んでやり込んで建築工学科の4年間を過ごしました。NPO法人SETでの活動も、今の活動につながっています。

 NPO法人SETは、岩手県陸前高田市にある広田町で活動しています。そこは、東日本大震災で被災した地域です。私が行ったのは、震災からある程度の時間が経った2017年だったので、高台に家が建っているなど、ものの復興はある程度なされていました。しかし、こころの復興は未だに進んでいませんでした。人と人とがつながりをもてる場所や時間がなくなってしまい、人々の心の中に希望が減っていっていることを、町を歩きながら感じました

 私はここで3年間活動し、町の人と一緒にさまざまなプロジェクトを行いました。

やりがいを大切に

 私が人生を通して大切にしていきたいことは、やりがいを感じ続けることです。小学生のときには、具体的な将来の夢は特にはないけれど人のためになりたいという願望はもっていました。また、中学生のときには、周囲に圧倒され自分は何をしたらよいのかわからなくなってしまい、高校生のときには、漠然とした不安の原因を探って思い悩んでいました。そして、大学生のときに、建築を学んだりまちづくりのプロジェクトに自分から積極的に関わったりして、人を愛することの楽しさを知り、今、CFAで働いています。

大学時代の3つの気づきとCFAとの出会い

 大学生のとき被災地に行き現地の人と話をし、目の前にいる人の心に向き合うことの難しさと、人のためになることをすると自分の心に響くものがあるということを知りました。人のためになることは大変ですが、それが私にとって何よりもやりたいことであると気づきました。

 大学時代は、どうしたら幼稚園や小学校の空間がよくなるのか、町としてのつながりを作っていけるのかを、模索し続けていました。そのなかで、私はものを通して人とつながるのではなく、人と直接関わりたいのだということに気づいたのです。

 自分を大切にすることの大切さに気づいたのも大学生のときでした。SETでの活動のなかで大学生と話をして、家族や周囲の人との関わりのなかで自分をないがしろにしていたり、さみしい思いをしていたりする人の多さを知りました。そして、これはきっと大学生だけではないと考えました。

 人のために何かしたいと思いつつもどうすればよいかわからないというもどかしさを感じていたときに、CFAと出会いました。CFAは子どもたち一人ひとりを見て、子どもたちの成長を喜び、保護者とも目線を合わせて活動しており、素敵だと思いました。今でも、子どものために何かしたいという気持ちをもって働いています。

質疑応答

【中山さん】Q.現在、どういった人材が欲しいと考えていますか? 子どもや教育に対する思いと経営的な能力の両方が求められるのですか?

 やはり子どもたちに対して熱い思いがあるかが一番大事であると思っています。能力や技術などは、入職してから、研修やミーティングで先輩や上司から教わったり、ピアーエデュケーションというような形で同期や年齢層の近い人たちと研鑽し合ったりすることで身についていきます。

 CFAで常に尊ばれるのは「子どもたちのためになっているか」ということで、これはありとあらゆる場面で言われます。CFAは、お金のことはあまり気にせず、よいと思ったら赤字になるとしてもやろうという組織です。もちろん、経営のことも考えなければならないポジションもありますが、多くの職員やボランティアは、子どものためにとにかく全力でやっています。職員の場合は仕事としてやっていくので、子どもたちにとって自分たちの活動はどのような意味があるのか、今の子どもたち、そして10年後、30年後、50年後の子どもたちにどのような影響を与えていくのかを、今の子どもたちを見つめながら考え、自分たちの活動をよりよくしていくことが求められます。子どものことばかり考えることになるので、子どもに対する熱い思いは非常に大事で、それがあるからこそ働いていてやりがいを感じられるのだと思います。

【廣瀬さん】Q. 新卒でのNPO就職について、将来を考えたときに経済的な不安はなかったですか?

 私は、どこでどんな仲間と何をするかを大切にしていました。また、生きていける程度の給料はしっかりあるとわかっていたので、そこに対して不安はありませんでした。しかし、新卒でのNPO就職については、家族にも友達にも非常に驚かれました。そのような反応をみて、本当にNPOに就職してよいのかと、自分自身が不安になってしまった時期もありました。そこで、改めて調べて、NPOは株式会社とお金の集め方や使い方が異なるだけだと知りました。NPOでは、教育というやりたいことに対してお金を注ぎ込めるため、多くのことにチャレンジしてやりがいを感じられそうだと考え、NPOへの就職を決断できました。

【中山さん】Q. なぜ一度システムエンジニアとしてベンチャー企業で働こうと思ったのですか?

 その理由は2つあります。1つは、ビジネス感覚等を身につけたかったからです。私は、学童保育に関連する団体を立ち上げたいと思っていたのですが、そのためには、ビジネス感覚やITの知識が必須であると思いました。もう1つは、起業するためにお金が必要だったからです。ITのベンチャー企業での仕事は非常に大変で、1週間のうち家に帰れるのは数日という状況でしたが、20代のうちから1000万円近くもらっていました。ベンチャー企業でハードワークをし、色々なことを学ばせてもらいながらお金をもらい、学童保育という自分がやりたいことに向かっていきました。NPOで働くという意味では、民間企業で働いておく必要はあまりないかもしれませんが、自分で団体を立ち上げるのなら、経験をしておくことで成功の確率は上がると思います。

学生へのメッセージ

中山:学生から、NPOへの就職やNPOの立ち上げにはリスクがあるのではないかという質問を受けることが多いですが、私は、チャンスの方が大きいと思っています。

 私がNPO業界で一番面白いと思うのは、比較的若い人が多く、意思決定の仕方がいわゆる「日本企業」と違い、皆で話し合ってよいと思える方に向かっていけるということです。これは、昔のIT業界に近いと思っています。かつてIT業界に就職した人の大半の動機は、儲かるからではなく、パソコンやインターネットに関わることをやりたいからであったと思います。その結果、業界としても発展し、日本経済も牽引してくれたのだと思います。NPO業界は、そうなる可能性を秘めていると思います。

 NPO業界には今、若くて優秀な人たちがたくさん入ってきています。確かにリスクもありますが、NPO業界にあるチャンスや希望の大きさに目を向けて、興味があったら飛び込んできてほしいです。

廣瀬:数年前は就活していたと思い返すと、懐かしい気持ちになります。今、学生の皆さんは、自分の将来がどうなるのか、ドキドキしていると思います。

 私は就活のときに、色々な所を見て、世の中に面白い団体がたくさんあると知りました。そして今、働いていて、世の中には面白い人がたくさんいると感じます。やはり、どこの誰とどんなことをするかは非常に大切です。ぜひたくさんの団体を探して、就活を楽しんでいただけたらと思います。

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主催団体

NPO法人ROJE EDUCAREERプロジェクト(旧:教育と仕事フェスプロジェクト)
「一人一人が納得して自身のキャリアを決められる」ことを目標に、大学生向けイベントの企画・運営を行っている、大学生によるプロジェクトです。
私たちは教育業界のキャリアの面白さを広く発信し、多様な教育キャリアと出会う機会を創出することで、教育業界でのキャリアを歩みたいと思う学生を増やし、納得のいくファーストキャリアを選択してもらうことを理念に掲げています。詳細はこちら▷https://kyouikusaikou.jp/eduwork/

編集後記

自分や社会に対する気づきを得るためにも、さまざまな経験をしていくことが大切だとわかりました。私は将来どのような形で教育や子どもと関わっていきたいのか、広い視野をもって模索していきたいです。

(編集・文責:並木未菜)

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