本当にやりたいことを仕事にするという生き方【第13回EDUCAREERイベント】NPO就職のリアル~生の声を聞いてみよう~(NPOカタリバ編)

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目次

はじめに

 この記事は、2022年10月12日にNPO法人ROJE EDUCAREERが主催した「【第13回EDUCAREERイベント】NPO就職のリアル~生の声を聞いてみよう~」の内容を編集したものです。本イベントでは、「認定NPO法人カタリバ」「NPO法人 Chance For All」で正職員として働く方々に、学生生活・キャリアについてのお話を伺いました。

 本記事は、 認定NPO法人カタリバ(以下 カタリバ)について記載しています 。カタリバからは、中途入職の藤本雅衣子さん、新卒入職の古野香織さんが登壇してくださいました。

 NPO法人 Chance For All については、こちらの記事をご覧ください。

認定NPO法人カタリバとは

 カタリバは、2001年に設立された教育支援を主軸として活動する認定NPO法人です。設立者のひとりである代表理事の今村久美さんは、設立当時から「きっかけを生み出すこと」と「ナナメの関係を子どもたちと築いていくこと」を非常に大切にしています。「意欲と創造性をすべて10代へ」というミッションのもと、さまざまな教育事業を展開しています。

 カタリバには現在15の子ども支援事業があります。小さなNPOが15個集まってカタリバになっているとイメージするとわかりやすいと思います。事業ごとに行っていることは異なりますが、「すべての10代へ意欲と創造性を届ける」という共通のことを目指しているのです。

カタリバ教育事業の2つの支援領域~DISCOVERRESILIENCE

 15事業あるカタリバの教育事業は、大きく2つの支援領域に分かれています。

 1つめは “DISCOVER(ディスカバー)”分野です。日本中のすべての子どもたちを対象に、日常から自分の探究テーマを見つけてワクワクするような毎日を送れるよう、探究的な学びの機会を提供する事業を展開しています。すべての事業は、子どもたち自身が主体的にアクションをすることで得られる学びを大切にしています。全国の教育支援団体・自治体・学校と連携したり、オンラインを活用したりしながら全国の子どもたちに伴走しています。

 2つめは “RESILIENCE(レジリエンス)”分野です。環境的なハンデがある子どもたちや、学校に行けない状況にある子どもたちを対象に、学びの機会や居場所をつくる事業を展開しています。例えば、オンライン不登校支援事業では、「room-K」というメタバース上の教室を用意して、不登校傾向がある子どもたちにオンラインで居場所や学びの機会を提供しています。

 そういったDISCOVERとRESILIENCEの両輪の支援によって、意欲と創造性をすべての10代に届けることを目指しています。

どんな未来を作りたいのか

 カタリバは、「自律」「共生」「イノベーション」という3つの考え方を非常に大切にしています。職員一人ひとりに自分自身が事業の作り手であるという意識があり、「どんな未来を作りたいのか」というところから事業を考えていく指向性が非常に強い組織です。

 これからは、現場をもっているという強みを活かしながらも研究機関となってありたい姿を追求し、現場で行った教育事業からどのような視点が見えてきたのかをきちんとノウハウに落とし、それを行政や国の政策提言といった仕組みにまで結びつけたいと考えています。

藤本雅衣子さんのキャリア

プロフィール

藤本雅衣子(ふじもと まいこ)
認定NPO法人カタリバ みんなのルールメイキング事務局スタッフ。
1993年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、ベンチャー企業にて医療・介護人材の人材紹介派遣事業に従事。1000人以上の転職・キャリア面談をするなかで、将来に意欲を持てないことや、自身の生き方・働き方を自己決定することに難しさを抱える人の多さに課題を感じ、教育分野への挑戦を決意。「イキイキと働くこと」には、10代から自己決定し、自身の価値観について考え学んだ経験が重要と考え、2021年5月にカタリバへ参画し、みんなのルールメイキング事務局に携わる。
https://www.katariba.or.jp/outline/member/37611/

(2023年2月現在)

水族館での仕事と自分が本当にやりたいこととの差異への気づき

 大学では比較認知科学を専攻し、動物に関する研究をしていました。毎日のように大学に行き、実験室にこもって実験をして4年間を過ごしました。その頃は、学芸員として水族館の職員になりたいと考えており、生物の解説のボランティアや水族館の住み込みアルバイトなども行っていました。

 学芸員ではなく民間企業に就職するという進路を選ぶ契機となったのは、日本の鯨漁の問題に関心をもって、2016年に和歌山県に行ったことです。ここで水族館で働くことのリアリティに触れ、この働き方では一人ひとりの関心に深くアプローチをすることが難しいと気づきました。私は、社会教育施設が持っている資源を100%活用して、生きものの面白さを伝えたり学びを届けたりしたいという思いが強くあったのです。であれば、社会教育施設をより魅力的にして、それが教育のためにきちんと活用される社会を作りたいと思い、学芸員ではなく就職する道を選びました。

社会教育施設を魅力的にする会社を起業したい

 そこで、社会教育施設をより魅力的にするような教育イベント・展示を企画をする会社を立ち上げたいと思うようになりました。そのためにはまず、ベンチャー企業など、自分自身が学んで成長できるような環境に身を置き、作りたい教育事業の具体的なあり方を見つけたときにそれを実現できる自分になろうと考えました。それが、就活の軸となりました。

教育業界への興味の再燃

 そして、新卒では、人材紹介・派遣事業を軸にしたベンチャー企業に就職しました。この会社は、職員が1000人ほどの、ミドルベンチャーと呼ばれる規模でした。そこで私は、医療・介護業界の専門職の方と企業とをマッチングし、就職につなげる仕事をしていました。対個人、対法人の両方を経験したことで、さまざまな領域の営業のあり方を学ぶこともできました。

 人材紹介の仕事の中で感じたことは、自分の価値基準や意思をなかなかもてない人の多さです。転職を支援するだけでは、この課題を根本的に解決することはできないと感じ、10代の頃からきちんと自分の関心に向き合った経験をすることが重要だと考えるようになりました。この課題意識と、もともと探究学習やキャリア教育に興味があったこともあり、カタリバへの転職を決めました。

現場の実践が未来を作っている

 基本的な社会人スキルが身についた状態で入社できたことは、中途で入ったメリットだと思っています。また、カタリバで働いていてよかったと思うのは、現場の実践が未来を作っているという実感をもてるところです。このように実感をもって働けることは大きな魅力で、これはサービスを売る営業の仕事との大きな違いであると感じています。

古野香織さんのキャリア

プロフィール

古野香織(ふるの かおり)
認定NPO法人カタリバ みんなのルールメイキング事務局スタッフ。
1995年生まれ、東京都出身。大学在学中に「18歳選挙権」が実現したことがきっかけで、同世代の若者の投票率向上や政治参加を推進するための活動をスタート。大学院では「外部人材と連携した主権者教育」について研究・実践を行う。学校の中の「民主主義」と「対話」の実現こそが主権者育成のための第一歩になるのではないかという思いから、2021年4月、新卒で認定NPO法人カタリバに参画。みんなのルールメイキング事務局を担当。さらに2022年4月からNPO職員の傍ら、国立中高一貫校にて社会科の非常勤講師を担う、教育界でのパラレルキャリアを実現している。
https://www.katariba.or.jp/magazine/article/interview211001/

(2023年2月現在)

大学時代に見つけた「マイテーマ」

 大学は法学部の政治学科で、教育について深く学んでいたわけではありませんが、若者の政治参画には興味があり、大学時代はそれに関する活動に打ち込んでいました。

 マイテーマは主権者教育で、若い人に政治参加などの機会を広げるためには、教育からアプローチできるのではないかと考えていました。そこで、大学院に進学し、主権者教育についての研究や、海外への視察などを行いました。

大学卒業後は「教員」か、「NPO」か。

 2020年に、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、全国一斉休校が行われました。そのときに私は大学院に通っていたこともあり、一斉休校による学校現場の混乱を目の当たりにしました。既存のものについて新しい発想で新しいアプローチをすることの難しさ、1人の力でできることの限界を感じました。

 教育実習で学校教員という仕事の面白さを実感していたため、学校現場で働きたいという気持ちもありました。しかし、よりよい学校にしようと模索している先生方に対して間接的な支援をする形で学校現場に関わりたい思いの方が強いのだと気づきました。そういった中間支援的な関わり方を探していたときに見つけたのが、カタリバでした。

マイテーマをもっている方へ

 NPO就職をおすすめしたいのは、マイテーマをもっている方です。私にとっては「主権者教育」が19歳の頃からのマイテーマです。18歳選挙権によって若者に与えられた政治参加の機会を活用するために、若者をどのようにエンパワーメントしていくか考えています。自分の関心や問い、大学院などで得た専門性などを大切にしながら就職できる道を模索した結果、NPO就職を選ぶことにしました

 私は今、 ルールメイキングという、校則の見直しや、子どもたちの意見表明権の保障を目指して活動している事業に携わっています。学校の中に対話の土壌や民主的な風土を取り入れていくために、外部支援として関わっていく特殊なポジションです。ここで、マイテーマに直結した事業に携わって仕事をしながら、自分自身の問いや実践知がより深まっていくことを日々感じることができています。

質疑応答

【藤本さん】Q.現在、どういった人材が欲しいと考えていますか? たとえば子どもや教育に対する思いと経営的な能力の両方が求められるのですか?

 これは、カタリバの採用基準ではなく、あくまで私個人の考えとして受け取っていただきたいです。

 まずはきちんと、カタリバの理念を自分自身で解釈して、それを言葉にできることが大切であると思っています。ご自身のマイテーマや生い立ち、あるいは何らかの気づきが、カタリバの理念や目指す方向性と重なる部分があるのか、どうして自分がこの理念に共感しているかをじっくりと考えてみてほしいです。教育に関する基本的な知識より、教育に対する想いを重視して採用していると思います。実際に私も、情熱はあるものの教育のことは全くわからない状況でしたが、採用されました。

 また、社会人になってからもなお、学びに対する意欲が高い職員が多いと感じます。自分の関心領域以外にも、より広く物事を学び、考える機会が増えます。例えば、私たちが今担当している校則見直しのプロジェクトでは、校則の問題に関することだけではなく、今の日本情勢や教育行政、学校組織の理解など、非常に幅広いステークホルダーへの理解が必要になります。このように、もともと専門ではなかった領域のことまで考え、協働する業務も増えるため、自身で学習領域を広げていくことが大切です。そういったことに楽しさを感じられる人は、カタリバでの仕事を楽しめると思います。

【古野さん】Q. 新卒でのNPO就職について、将来を考えたときに経済的な不安はなかったですか?

 たしかに大手企業や教員などと比べれば給与面では引けを取る場合もあります。しかし、私は「自分が一番したい仕事を、自分が一番したいときにやれるか」というマイテーマを大切にすると決め、その軸をもってカタリバを選択しました。私にとっては、マイテーマを追い続けることが経済面よりも優先したいことでした。

 最終面接ではカタリバは比較的若い職員が多い組織で、新卒で定年までいるのではなく、子どもの居場所づくり事業で独立する人や、カタリバで得た学びやスキルを使い、自身でマイテーマを追う人が多いと聞きました。そのため、カタリバにいる間にスキルや経験値を身につけて、その先のキャリアを考えようと思いました。自分に負荷をかけて成長するという観点で、20代にカタリバで働く選択をしたことをよかったと思っています。

【藤本さん】Q.民間企業からNPOに転職して、何か感じたことはありますか?

 私は民間からNPOに転職しましたが、働いている感覚はほぼ変わりませんでした。NPOと企業の規模にもよると思いますが、比較的大きなNPOと私が働いていたようなベンチャー企業とでは、感覚の大きな違いはありませんでした。

 ただ、仕事の評価軸は大きく変化したと思っています。私は民間企業では、営業職をやっていたこともあり、どのくらいの売り上げをあげることができるかという軸があったので、自分の商材・サービスをいかによくするかではなく、既存の商材・サービスをいかにお客さんによいと思ってもらうかという思考をしていました。現在おかれている環境での思考方法とは大きく異なります。

 また、営業ではユーザー数や金額等で評価をします。一方で、カタリバでは、どれぐらいの子どもたちに支援が届いたかとか、どのくらいの行政に対してアプローチできたかという、社会に対してどれだけインパクトを与えたかで事業の善し悪しが評価されます。働いている感覚は変わりませんが、このような評価の仕方の違いを感じることは多いです

 私個人の考えとしては、20代の今だからこそ、やりたいことにチャレンジすることを優先して、NPOに転職するという意思決定ができたのだと思います。30代、40代とライフステージやキャリアステージが変わったときに、今と同じ条件でNPO業界に飛び込むことはしなかったかもしれません。年齢やライフステージに見合った条件が提示されたとしても、今だからこそ、民間企業からNPOへの転職に挑戦することができました。

【藤本さん】Q.ベンチャー企業で身についたスキルが役に立っていると感じることはありますか?

 理念を意識するだけではなく、きちんと数字を追いかけて成果にこだわるということに関しては、ベンチャー企業で身につけ、今に生きていると思っています。もちろん、この子のためにこうしたい、この方がサービスとしてよくなるなどと考えることも大事です。しかし、例えば、そのサービスが届く相手が1人しかいなかったとき、果たしてカタリバとして社会を変えるインパクトを出せたかは、評価が難しい部分があります。

 私は、きちんと事業を形にして、インパクトを出すまでやり遂げる精神や、ビジネスを通じて培った数字を意識して仕事をする感覚を持っているため、他の職員とは違う視点で事業推進ができると感じています。その点は、ベンチャー企業を経験していてよかったと思います。

学生へのメッセージ

藤本:就職活動において、「こうあるべきである」「こうしたほうがよいとされている」などという、あたりまえだと思っている価値観を疑ってみてください。NPO就職か、民間就職か、あるいは教員か、色々な方向性があると思います。就職活動を、自分が何をしたいのかということに改めて立ち返る機会にしていただけたらと思います。

古野:私としては、新卒でNPOに就職するというキャリアが一般的になったらよいと思っています。教育系の就職先として、NPOを選択肢の1つとして考えてくれる学生が増えたら嬉しいです。

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主催団体

NPO法人ROJE EDUCAREERプロジェクト(旧:教育と仕事フェスプロジェクト)
「一人一人が納得して自身のキャリアを決められる」ことを目標に、大学生向けイベントの企画・運営を行っている、大学生によるプロジェクトです。
私たちは教育業界のキャリアの面白さを広く発信し、多様な教育キャリアと出会う機会を創出することで、教育業界でのキャリアを歩みたいと思う学生を増やし、納得のいくファーストキャリアを選択してもらうことを理念に掲げています。詳細はこちら▷https://kyouikusaikou.jp/eduwork/

編集後記

自分が本当にやりたいことを実現できるということを大切にして就職先を選ぶことは、とても素敵なことであると感じました。長い人生を見通し、さまざまな選択肢に目を向け、自分の進路について考えていきたいです。

(編集・文責:並木未菜)

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