21世紀の社会と教育を考える~入試、働き方、職業が変わる~(平成28年度 飯塚市学力向上フォーラム)

GOOD!
682
回閲覧
75
GOOD

作成者:大和 信治 (Edupedia編集部)さん

はじめに

社会が大きく変わる中、学校や授業、先生の役割はどう変わっていくのか、また変わらないものは何か。
 本記事は、平成28年12月4日、福岡県飯塚市で行われた「飯塚市合併10周年記念教育フォーラム(飯塚市学力向上フォーラム)」の取材を基に作成しました。
 フォーラムでは、21世紀に対応した教育内容やキャリア選択の変化など、子どもだけでなく、大人にとっても立ち止まって考えさせられるテーマを基に基調講演とシンポジウムが行われました。
 

1 基調講演

「飯塚市のめざす教育~夢をかなえる子どもに育てるために~」

第1部の基調講演では「やさしさに包まれたなら(松任谷由実)」が会場に流れ、その後に、飯塚市教育委員会 片峯誠教育長が登場。参加した約600名の飯塚市民に向けて、情熱的かつ子どもを思う優しさに溢れるメッセージを届けました。

「社会の変化に伴い、学びや所得の格差が広がりつつあります。公教育が手を打たなければ、今の子どもたちが大人になった将来、家庭の教育力の違いが、そのまま子どもの職業選択の可能性の違い、所得の格差につながります。そうならないためにも、冒頭の曲『やさしさに包まれたなら』に込められた思いのように、子どもたちとその未来や夢を、優しさと愛情を持って見守り支え続けることこそ、大人の務めなのです。」

「本市での学びの底上げ、マンツーマン方式でのオンライン英会話、ICT活用力の育成は、時代に対応した取組であるとともに、格差是正の取組でもあります。」

「有志による学習支援や交流会の実施など、地域の方々に感謝しています。全国的にみても、教育先進地と自負できるようになってきました。最も大切なのはこの先。保護者、大人が社会の変化を認識し、新しい一歩を踏み出す勇気を持つことが、子どもたちの未来に繋がるのです。」

2 シンポジウム 

「社会が変わる、私たちは今・・・」~入試が変わる 働き方が変わる 職業が変わる~

登壇者(敬称略)

(シンポジスト)

隂山英男:立命館大学教育開発推進機構教授

マーク・カトウ:サニーベール姉妹都市協会会長*

石井幸子:飯塚市立飯塚小学校校長

(コーディネーター)

納富昌子:RKB毎日放送 役員待遇

*「姉妹都市」
飯塚市は平成25年、ITの世界的企業が多く集まるシリコンバレーの中心都市の一つであるサニーベール市と友好都市の提携を結び、平成28年12月、関係を「姉妹都市」に発展させる協定を結びました。両市の子どもたちがお互いの国へホームステイや学校訪問で授業に参加するなど、様々な交流事業が行われています。

以下、シンポジウムの内容まとめです。

○飯塚市の陰山メソッドについて

平成28年度全国学力調査では、飯塚市内全ての小学校において全国平均点を上回りました。シンポジウムの初めに、石井校長が作成した映像により、飯塚市にこのような成果をもたらした陰山メソッド(徹底反復学習)や、これからの社会に求められるICT活用力低学年からの英会話の指導などが、教室の中で具体的にどのように行われてきたのかが紹介されました。

学力向上

石井:私が飯塚市教育委員会に務めていた時、市内の各学校における学力差が大きく、学校任せではなく市全体として学力向上策を打たなければならないと考えました。そこで、陰山先生に学力アドバイザーとして指導して頂きました。そして、当時のモデル校である菰田小の取組が飯塚市に広がり、それが市内全ての小学校で全国平均を上回る結果に繋がりました。
 飯塚市では、新しい取組を始める時、1つのモデル校から出発し、それが市内の全学校に広がることが特徴です。

納富:映像ではスピーディな反復学習が進んでいましたが、これはハイスピードな学習効果を狙っているのでしょうか。

陰山:陰山メソッドは、「子どもたちを伸ばすには何をすればよいのか」を徹底的に追究して生まれたものです。特徴的な効果としては、ハイスピードの学習を通して、脳の情報処理能力を向上させるということです。また、1日、1週間、1年といったスパンで顕著な成果が表れるため、子ども自身が成長を自覚しやすいこともポイントです。
 さらに、百ます計算が早くなると、縄跳びやマット運動も上手になるなど、学力だけでなく身体能力も向上する成果が表れています。これは、脳の高速処理が可能になることでもたらされた結果と考えられます。
 メソッドが開発された当初は経験に頼る部分も大きかったのですが、現在では脳科学の分野で本取組の効果を裏付ける知見が出てくるようになりました。

心の教育

納富:暴力的な行動やいじめなどは、これまでの教育を振り返っても非常に根が深く、目にみえにくい問題ではありますが、このような教育問題は改善されているのでしょうか。

石井:陰山メソッドの取組が始まった菰田小学校において、当初は様々な生徒指導上の諸問題がありました。しかし、取組を始めて一年間くらいで問題がほとんどなくなりました。学習への集中力が付き、勉強ができるようになると子どもたちの行動も落ち着いてくるのです。
 今では保護者の方々は学校の応援団として協力して下さっています。今後は、保護者の方にも先生向けの研修会などにも参加して頂き、一緒に考えていきたいと思っています。

陰山:子どもたちは、自分が一生懸命努力しても、結果に結びつかないと「自分はどうせ出来ないんだ」と自己否定してしまいます。そして、出来る子にジェラシーを感じます。努力と根性で一生懸命やっても伸びない子が苦しむのです。
 しかし、努力に応じて自分が伸びているという実感があると、子どもは自分が信じられるようになります。そして、よく出来る子をみても、「自分も頑張ろう」と尊敬しようとします。
 問題行動に関して、教育委員会によると、取組の前後で問題行動が10分の1に減ったというデータがあります。飯塚市では、学力の向上が身体能力の向上や問題行動の減少にも繋がっています。ただ単に学力を上げるだけではなく、子どもの体や心も健全に伸びているのが大きなポイントです。子どもに自分の成長を実感させることが、心の教育にも繋がるのです。

いじめ問題の日米差

納富:異質なものを排除しようとする傾向がいじめなどの問題と関わっているのではないかと感じています。多様な社会と言われているアメリカでも、いじめ問題はあるのでしょうか。

カトウ:日本と比べて少ないと思います。日米の問題行動への対応の違いとして、アメリカは罰が強いことが言えます。例えば、アメリカは授業のために子どもが教室を移動しますが、入口で先生が待っています。時間に間に合った子は先生と握手して教室に入りますが、始業時間になるとドアを閉めて、それ以降は遅刻です。そして、遅刻3回でレポート、7回で停学など、数値ではっきりと基準を定め、その一線を越えると罰が待っています。
 アメリカは多様性のある社会ですので、誰が見てもはっきり分かる基準が大切です。教師によって、その基準がぶれてはいけないのです。

○変わる大学入試と外国語教育について

納富:これから大きく変わるであろう大学入試制度や教育のグローバル化についてはどう考えていますか。

陰山:これからの大学入試では、覚えた知識の量だけではなく、その知識をどう生かすのかといった思考力や表現力が問われることになります。とは言っても、いきなり応用的な学習をしても子どもがついてこられません。飯塚市では、そのような学習にも対応できる基礎学力を定着させている点が重要です。

外国語教育に関しては、日本人が英語を話す力が弱い理由として、英単語をすぐに思い出せないことがあります。徹底反復学習は、計算の答えや漢字を集中して覚え、すぐに思い出せる能力を伸ばします。この思い出す力を生かして、オンライン英会話で英語が話せる人を育てようとしています。

カトウ:日本人が外国人から英語の質問に答えられないことには、2つの理由があります。1つ目は英語力の問題。2つ目が反復量の問題です。それを踏まえると、小学校の段階から生の英語に触れている取組はすごいと言えます。英語での会話はリズムが大切になります。マンツーマンでネイティブスピーカーと会話ができることは、とても効果的だと思います。
 また、日本人は国際的な活躍が足りないと思われているかもしれませんが、シリコンバレーで最も信頼されているのは実は日本人なのです。なぜなら、シリコンバレーでは日本人がイノベーティブな力を発揮して製品を作っているからです。これから世界で活躍するには、クリエイティブなアイデアを考える力とそれを発信する力が必要不可欠です。

○これからの社会と教育

陰山:飯塚市の学力向上について、今後考えるべきことが2つあります。
 1つ目は「学力の見える化」です。子どもたちの学力をデータとして記録し、何が子どもを伸ばすのかを徹底的に考える。そして、子どもたちの力を全国トップクラスまで高めたいと考えています。
 2つ目は「長期的に安定した教育システムの構築」です。一過性のブームで終わらせるのではなく、組織や学校の文化として子どもを伸ばす仕組みをつくっていかなければと考えています。具体的に2017年から、小学校での学習の躓きのきっかけとなりやすい小学一年生と、学力テストに向けた小学五年生の先生方へ、指導力向上プロジェクトを始めていく予定です。

変わる職業

カトウ:アメリカでは「シリコンバレーで起こることが世界で起こる」と言われています。そのシリコンバレーでは、ブルーカラーの仕事もホワイトカラーの仕事も無くなってきています。
 将来は「記憶に頼り、過去の例と照らして判断する仕事」が無くなり、「考える力が必要な仕事」が残ると言われています。考える力をつけるための飯塚市の取組は将来を見据えた教育だと考えています。
 また、子どもの教育だけでなく、大人自身の意識も変えていく必要があります。保護者や先生方にシリコンバレーで世界の最先端を体感してもらい、これからの社会について子どもたちと話し合ってほしいです。

21世紀を生き抜く教育

石井私たちが目指しているのは、21世紀を生き抜く力を育てる教育の創造です。先生方や大人が子どもたちを21世紀社会へ送り出すための心構えを持つことが重要です。これからの教育を考える際に、21世紀型スキルとして「コミュニケーション・コラボレーション・イノベーション」という3つのキーワードがあります。これらの力をどのように育んでいくのか、その実現が最も大切です。

現在、飯塚小学校では協調学習やICT活用の授業研究を行っています。今後はタブレット端末、電子黒板などが市内に導入されていくことになります。これからも地域の方々のご協力を頂きながら、未来志向の学校教育を創っていきます。

優しさの教育

陰山:私の教育の全ては「子どもを伸ばしだい」という思いから始まります。社会が変わる中、教育とは何か、そもそもから考え直すことが必要になってきているように感じています。「優しい人になりたい」「人を幸せにしたい」といった根本的な人間らしさを大切にしながら、世界に通用する教育を皆様と創っていきたいです。

納富私が育った飯塚市の人々は、とても優しくパワフルです。そのような人間性が飯塚の宝だと思っています。私の子ども時代を振り返っても、少しおせっかいだけど人の心にスッと入り込む飯塚の人々の優しさや心の繋がりを今でも覚えています。
 小学校の思い出としましては、自分の作文が文集に載って、その時に初めて自分のコミュニケーション力が認められた気がしました。その喜びや嬉しさといった感情が今の自分に繋がっています。これから時代が大きく変化しますが、心の教育を忘れないIT教育を目指してほしいなと思います。

編集後記

自分が子どもの頃、勉強は「テストや入試のため」にやっていた記憶がある。一方、本フォーラムでは学校の授業を「夢へのチャレンジや心の優しさ」と繋げて考えていた。
 もちろん大人にも将来の姿がはっきり分かるわけではない。だからこそ、子どもたちと一緒に道を創っていく。それが、教育が前に進むということなのかもしれない。
(取材・編集/EDUPEDIA編集部 大和信治)

関連記事紹介

校長・教育委員会の学校改革~隂山メソッドの取組~(福岡県 飯塚市立飯塚小学校)

「徹底反復」というキーワード の記事一覧

陰山先生と飯塚小が登場するセミナーはこちら
関西教育祭りin京都 隂山英男×石川晋コラボ ~基礎基本とアクティブラーニングを繋ぐ~

コメント

コメントはまだありません

    より良い実践のためには、あなたの励ましや建設的な対案が欠かせません。
    ログインして、ぜひコメント欄をご活用ください。