1年生の朝の準備 後半(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術~【教師の基礎技術】1年生は超スモールステップで~朝の準備~」から引用・加筆させていただいたものです。児童が手間取ってしまう朝の準備をてきぱきとやってもらうための指導法を紹介します。
岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

1年生の朝の準備 前半(岡篤先生)
も、ご参照ください。本記事の前半はスモールステップで行う朝の準備の方法を紹介しています。

2 実践内容

転入生への指導

朝の準備が、くり返し、掲示、マグネットでの確認の3つでほぼ定着したころ、1人の転入生がありました。体が小さく、いつも笑顔を絶やさない男の子です。1日目からみんなの人気者になりました。朝の準備についてもやっと他の子が定着してきたところなので、

「朝のこと、みんながおしえてあげて。」と言うと、どの子も喜んで親切にしていました。特に女の子たちは、すっかりお姉さん気分で、
「はい、教科書はこっち」
「筆箱はこうやって」

と手取り足取り教えています。その男の子も安心して周りに身をゆだねているようで、にこにこしながら時々頷いています。 

自分でできるために

転入から2週間もすぎたある朝のことです。その男の子がランドセルを机に置いたまま遊んでいました。
「ランドセルかたづけなさいよ。」
と声をかけました。その子は、ぼんやり私の顔を見ています。
もう1度、「ほら、ランドセルかたづけて、宿題出さなきゃ。」と言ってもまだ同じようにぼうっと座っています。隣の女の子が、「はいはい、やってあげる。」と、ランドセルを開け始めました。
 
(そうか!)

と、私は心の中で思い、手伝っている女の子に、「もう、自分でできなきゃ、こまるからね。」と制しました。転入してきたばかりのときは、何も分からなくて当然です。そこで、周りの子が親切にすることは全く問題はありません。ところが、この男の子はそこから、自分でやるべきことを理解して自分でできるような段階には進まなかったということです。

個性としての可愛らしさもあり、周りの子がずっと赤ちゃん扱いをして、手伝い続けて来たので自分で出来ることが全く増えていなかったわけです。

超スモールステップの指導の必要性を感じる

その男の子が朝の準備をどうするのか観察してみました。すると、まず、こちらが声をかけなくてはランドセルを開けようともしません。何度か声をかけるとようやく、ゆっくりランドセルをあけて中をいじり出します。

筆箱に目が止まると、中を開け、改めて、消しゴムを眺めたり、鉛筆を触ったりし出します。

宿題のプリントが目につくと、ランドセルの中はそのままでプリント1枚を手に前に持ってきます。そうこうしているうちに、周りの子が遊んでいるのが気になり、そちらに行ってしまいます。

この調子で全く朝の準備は進みません。途中、何度か声をかけましたが、同じです。数日、様子を見ましたが、やはり変わりませんでした。普通に声をかけているだけでは、ずっとこのままだろうと判断しました。

超スモールステップで教える

4月には、掲示、くり返し、マグネットによる確認で朝の準備がほぼできるようになりました。しかし、6月に転入してきた男の子は、このやり方では2週間経っても、全く何もできるようになりませんでした。スモールステップでは足りず、
超スモールステップとでもいえばよいような指導をすることにしました。

まず最初にやることに集中する

この男の子を見ていると、やっていることが途中でとまったり、不正確だったりということもあるのですが、まず作業を始めていないということに気づきました。登校して教室に入ってくると元気な笑顔で「おはようございます!」というのですが、その後ランドセルを背負ったまま、また教室を出て行って、隣の2年生と話をしていたり、ランドセルを下ろしてもそのままで教室に置いてあるヨーヨーを始めたりしています。性格的には、素直な子なので、指摘を受けてふてくされたり、無視ししたりというようなことはありません。そこで、まずは最初にやる作業を定着させることを目指しました。

「ランドセルから全部出す」

色々言わず、「教室に入ったら、ランドセルから全部出します」とだけくり返しました。前日、さようならをして帰ろうとするときに、
「朝、来たらどうするの?」
「ランドセルの中、全部出す」
「そうだったね。よし、ちゃんと覚えてた!」

登校してきた姿を見たら、教室に入る前に、
「どうするんだった?」
「ランドセルの中、全部出す」
「そうそう、えらい!ちゃんとやれよ。」

と、しつこく、しかし軽い感じで声をかけ続けました。実際に、ランドセルから中身を出しているときも、できるだけ見ているようにしました。途中で、宿題のプリントを見つけるとすぐに前に出しに行こうとします。

それを止めて、
「どうするんだった?」
「全部出す。」
「そうそう、やっちゃおう。」
と声をかけました。

「ランドセルの中を全部出す」で流れが出来る

色々言っても結局中途半端になることは簡単に予想できました。そこで、まず1番最初にやることだけをくり返し強調することにしました。

「ランドセルの中を全部出す」です。この場合、「全部」というところが、ポイントです。全部出してしまわないうちに、宿題や提出物を持って行ったり、他の子と話をしたりしてと気がそれてしまい、もう、きちんと朝の準備を終えることは難しくなります。大抵、別の宿題を出し忘れたり、途中で止まったりということになってしまいます。

とにかく、「ランドセルの中を全部出す」ことに指導を集中しました。前日から声をかけ、朝も声をかけ、ランドセルを下ろしたときも声をかけました。ランドセルの中を出している途中にまた、他の子としゃべりだすと
「どうするんだった?」
「全部出す」
です。全部出すことができたら、そこからはこちらが手を貸したり、ときには完全にやったりして進めました。

次は宿題の提出

1週間もすると、ランドセルの中を出すことは定着してきました。やっぱり、「朝の準備をきちんとしなさい」では、ほとんどできていなかったのが、そのハードルを10分の1くらいに下げ、集中・継続すれば、かなり苦手なこともできるということです。

他の面でも通用するかと思います。とはいえ、最終的には全部1人で出来てもらわないと困ります。次は宿題の提出に重点をおくことにしました。ランドセルの中を全部出したら、ランドセルはロッカーにしまいます。机には、ノートや教科書、宿題などが積まれています。

今までの様子を見ていると、3種類宿題があるときでも、音読カードを見つけたらそれを出し、戻ってきて、漢字ノートがあったらまたそれを出すということをしていました。よく、やってきているのに宿題の出し忘れがあったのは、このためです。そこで、宿題は全部揃えて出すことを言いました。

1つ目の山が1番高い

前段階は、「ランドセルの中を全部出す」ということだけに集中して指導していました。とはいえ、その後宿題を出したり、連絡帳を書いたり(朝書かせていました)といったことも当然、毎日やっていたわけです。

「宿題を出す」に重点を移動したときに感じたことは、「1つ目の山が1番高い」ということでした。あれだけ声をかけつづけ、毎日つきっきりでやっと1週間でできたことが、次の宿題を出すは、最初から比較的スムーズで数日もすれば自分でさっとやるようになりました。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
 1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記 

本記事では転入生向けの朝の準備の指導を紹介しています。児童に対して丁寧に声掛けをしていくことで、習慣を身に着けることが出来ると感じました。
(文責・編集 EDUPEDIA編集部 宮嶋隼司)

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