【第2部 後半】五月祭教育フォーラム2016『学校の役割を問い直そう~公教育が「商品」に!?~』

GOOD!
674
回閲覧
27
GOOD

作成者:Hirohisa Kawamura (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2016年5月15日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2016『学校の役割を問い直そう~公教育が「商品」に!?~』内で行われたパネルディスカッションを記事化したものです。

第2部後半は、立命館大学教育開発推進機構教授の陰山英男先生、東京大学大学院教育学研究科教授の本田由紀先生、教育ジャーナリストの渡辺敦司氏、そして、本フォーラムを主催するNPO法人ROJEの学生リーダーである佐々木快の4名が、学習指導要領改訂から見る学校のあり方について熱い議論を交わす内容となっています。

こちらの記事も合わせて御覧ください。
* 五月祭教育フォーラム2017 大学入試改革!問われる新たな能力〜現場と家庭は何をすべきか〜
* 【第1部】五月祭教育フォーラム2016『学校の役割を問い直そう~公教育が「商品」に!?~』
* 【第2部 前半】五月祭教育フォーラム2016『学校の役割を問い直そう~公教育が「商品」に!?~』
* 夏野剛氏インタビュー
* 陰山英男先生インタビュー
* 本田由紀先生インタビュー

2 第2部 後半「学習指導要領改訂から見る学校のあり方」

国の教育政策

佐々木

アクティブラーニングに代表される従来とは違う学習法は、最近急に言われ始めたことではなく、臨教審から言われていることです。これが今まで頓挫してきた背景や実現できてない背景には何があると思われますか。

渡辺

文科省はこの表に示される政策は一貫していると考えています。それは半分正しく、半分は違う。昭和43年~45年改訂と昭和52・53年改訂、ここの間にひとつの線が引けます。上はいわゆる「教育の現代化」といわれる学習内容が最も多かった時代で、下は「ゆとりと充実」という中教審答申と連動する形で出てきたものです。ただ、「生きる力」とは何なのかということが非常に抽象的だった。こういったものを具体的に書いていこうという方針自体は正しいと思いますが、現場に下ろせるような形になっているのかというのがいまだに問題です。私は単純な構造化ができるものと思っていましたし、学習内容の削減が行われるべきだと思っていましたが、文部科学大臣が「教育内容の削減はしない」と国民に向かって断言しましたので、「生きる力」を単純に構造化することは厳しいでしょう。そうすると、「生きる力」の実現について現場が考えなければいけなくなり、学校現場の負担が増え、ますます大変になっていくと思います。

佐々木

生きる力を育め、と言われつつ、従来と教える内容・量は変えるな、と言われているわけですけれども、陰山先生はどう思われますか。

陰山

現場の中で問題の認識が共有されていないのではないでしょうか。確かにここ10年間2012~2013年にかけてあったPISAショックから回復しつつあります。しかし、そこから何がよくて、何が課題として残ったのかという「過去」をしっかりと見て「未来」に進んでいかなければなりません。

ここで、学校教育費の対GDP費というグラフを見てみましょう。日本は突出した形をしているのがお分かりになると思います。国が出している教育費が壊滅的に少ないのです。それを補うために私費の教育費が多くなってしまいます。世界水準と比べると、私費の教育費はかなり高いです。教育を無償化するとはいいながらも、公立学校でも結構なお金がかかってしまうというのが現状です。また、学校だけでなくその準備段階にかける私費の教育費も積み上がっていっています。こうなってしまうと、学校に対する批判、保護者の不満というのは教育現場に向かいます。まずは、政治家、議員に行きます。議員から教育委員会にいく。学校現場の先生方は子供たちとその保護者のところまでしか知らないため、このような全体構造が見えてこないのです。最終的に自分たちの国がどんなシステムで回っているのかということをきちんと理解しなければなりません。その上で、保護者や政治家を巻き込んで「信頼」を築き上げていかなければいけないのです。それができず、予算的にも人員的にも実現ができないというのは同じような矛盾が続いていくことになります。

本田

陰山先生がいまおっしゃった、日本の教員が職人集団になっていて、自分の置かれている構造が十分に見えていないというご指摘は、当てはまる面があると思います。これは教員を対象とする調査などからも裏付けられていることです。ただ、問題の淵源は、教員養成課程や採用試験といった、教員を生み出していく諸制度にあるということを付け加えておきます。教員養成カリキュラムの改訂によって教養にあたる科目が減らされ、授業実践を如何にうまくやるかということに比重が置かれるようになりました。「教員=職人」といったメッセージが教員養成課程の中にあるのです。また、私が実施した教育学部と他の学問分野の学生を比較する調査では、大学4年生時点で、教育学部の学生は自分の専門性をとても高く評価している一方で、社会認識や教養に関しては他の学生より低い水準であることが分かりました。教育現場には様々な社会問題が流れ込んできているにもかかわらず、この認識がない教員志望者が多いのです。必死に「職人」になろうとしています。この状況を打破するために、社会認識をきちんと持ってもらうための教員養成カリキュラムや、労働者としての教員が自己主張できる場というものが必要だと考えています。

アクティブラーニング

佐々木

ここでTwitterから面白い質問が来ましたので1件ご紹介させていただきます。『現代の知識偏重といわれる教育を受けた教員が「生きる力」やアクティブラーニングを教えられるのでしょうか。』隂山先生はこれについてどうお考えですか。

陰山

アクティブラーニングは正確にやっていかなければならないなと考えています。アクティブでないラーニングというのは大学でのことを言っていました。文科省の方では国際学力調査の結果が上がったことで、義務教育の部分に関しては自己評価が高くなっています。しかし、いま大学のランキングは下がっていっているのです。大学をグローバル化しなければ、日本の大学に世界中の優秀な人材が集まってこないということを危惧して対策を打ち出しました。ここで最も重要なのは、海外の大学は予習を前提に授業を進めていくことです。それをもとにディスカッションをしたり、先生の話を聞いたりという授業スタイルがグローバルスタンダードなわけです。日本はこの流れに乗り遅れています。ただ、アクティブラーニングをいきなり大学から取り入れるというのも無理な話。それなら高校から変えていきましょう、高校と大学が変わるのなら大学入試を変えなければいけないというのが最近言われている大学入試改革が出てきた流れになります。しかし実際発表してみると、小中学校の先生が反応してしまった。さっき言ったような「職人」のDNAが変に反応してしまったわけです。

渡辺

おっしゃる通りです。アクティブラーニングというのはもともと大学教育の用語でした。高大接続改革といわれる高校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体改革の中ででてきたものです。ちょうどその時期にあった学習指導要領改訂の諮問文に「アクティブラーニング」という言葉が出ました。これは主に高校をターゲットとしたものだったのです。しかし、一番反応したのは小学校でした。もちろん高校も大学入試に関係することなので取り組んでいます。ただ、アクティブラーニングをすることによってどのような資質能力を育成するのかということに関心がない。どういう事例があるのかというところばっかりに目がいってしまっているのが現状です。

佐々木

なるほど、ありがとうございました。『知識偏重の教育を受けてきた教員が教えられるのか』といった質問に、失礼ながら僕の考えを述べさせていただきます。アクティブラーニングなどの知識偏重ではない教育をするには、教員が受けてきた授業に関わらず、非常に高度なスキルが求められます。このようなスキルをもった教員を現場に送り込むためにも、研修を豊かにすることや教師を魅力的な仕事に感じてもらうことが重要なのではないかと考えます。

学校の弾力化

佐々木

さて、ここからは少し話題を変えて「弾力運用」ということについてお話していきたいと思います。トークセッションで夏野さんから、時代の変化を受けて学校も変わっていかなければならない、より自由に多様性をもっていかなければならないとおっしゃっていましたが、それについて隂山先生はどうお考えですか。

陰山

キーコンピテンシーや「生きる力」というのは本来競争的なものから生まれてくるようなものではありません。その一方で高校入試が個に応じた形で変わってきている、その差を認めようという考えが広まってきているわけです。ゆとり教育の修正のためにスーパーサイエンススクールやスーパーグローバルスクールといったような高校の中での弾力化が公然と行われています。今回話にあがっている義務教育学校の小中一貫校では教育課程の弾力化を行っています。日本教育新聞にも書いてありましたが、中学2年生までに小中学校の全課程を終えて、中学校3年生を高校入試の授業に割り当てるといったことを可能にする教育課程の弾力化が発表されたわけです。中高一貫校において、高校の内容を中学校で学習していいというのは指導要領に書いてあります。ある種中高一貫校という公然とした格差がある中で大学入試という知識偏重の受験競争が行われてきたわけです。高校入試の多様化が進んでいく一方で小中一貫校はどうなっていくのか。これについてお二人の意見をぜひお聞きしたいと思っております。

本田

義務教育学校の話に入る前に、今、話に出てこなかった中学校についてお話しさせてください。中学校というのはストレスや圧力が集中している教育段階といえます。私はもっと中学校の問題が注目されるべきだと思っています。なぜこんなにも問題が集中しているのかといいますと、高校入試の存在があるからです。高校入試については高校全体が小刻みな偏差値によって区切られ、ランク化されています。人生が分かれていくひとつの大きな分岐点に立たされている中学生が、そのストレスを一身に浴びているのです。世界には高校に入る段階で入試がない国だってあります。その、高校入試の対策として義務教育学校をつくることに私は疑問を抱いています。何のために作るのか。義務教育学校という特別な学校を作って、特定の子を選んで有利な教育を施して、いったいほかの子にどうしろというのでしょうか。非常に憤りを持っているところです。

渡辺

義務教育学校というのは端的に言えば小学校と中学校をくっつけただけです。最終的な目標は義務教育段階で身に着けるべき力を9年間でつけさせるというところにあります。

先ほど入試という話が出てきましたけれども、高大接続改革の中で一発勝負、あるいは一点刻みという入試・テストのあり方ということが重要提起としてありました。しかし、それがいつの間にか曖昧になって新テストをどうするか、実現できるのかといったことに話の軸がぶれてしまっています。入試ということに対する根本的な問いかけができなかったのは問題だと感じています。ただ、公立高校の高校入試改革については教育委員会がやることですので、教育課程改革の中で改訂も図られるのではないかと期待しています。

質疑応答

佐々木

ありがとうございます。それでは、そろそろ質疑応答に入りたいと思います。

質問者1

学歴格差と教育格差が一対一でつながっていることについてどうお考えですか。またこれを是正していこうと思った場合、どのような手段が考えられるでしょうか。 

本田

親が高学歴であるというような社会階層と子供の教育機会が関連しているというのはおっしゃるとおりです。経済面に関して言えば、日本は奨学金が大変不備な国の一つです。大学の学費は高いのに、奨学金は充実していない。ですから、家庭の収入というものが、大学進学機会というものに影響してくるわけです。また、大学進学以前の教育にお金をかけられる人ほど有利になるということがむき出しな社会になっています。これは政府が手を抜いているということです。今は「しかたがない」と受け入れる傾向が社会に広がりつつありますが、これを変えていかなければならないなと考えています。

佐々木

では次の質問に移ります。そちらの方。

質問者2

テクノロジーの進化による問題に対して教師が果たせる役割というのはあるのでしょうか。

陰山

今ある職業は10年たったらなくなるという話がありますが、教師もその中の一つだと考えています。今後の教職員に問われてくるのは、コンピューターで伸ばすことのできない部分をどう伸ばすのかという所だと思います。

佐々木

ありがとうございます。以上で五月祭教育フォーラム2016を終了いたします。本日はご参加いただきまことにありがとうございました。

こちらの記事も合わせて御覧ください。
* 五月祭教育フォーラム2017 大学入試改革!問われる新たな能力〜現場と家庭は何をすべきか〜
* 【第1部】五月祭教育フォーラム2016『学校の役割を問い直そう~公教育が「商品」に!?~』
* 【第2部 前半】五月祭教育フォーラム2016『学校の役割を問い直そう~公教育が「商品」に!?~』
* 夏野剛氏インタビュー
* 陰山英男先生インタビュー
* 本田由紀先生インタビュー

3 登壇者プロフィール

陰山英男

立命館大学教育開発推進機構教授/立命館小学校校長顧問

1958年生まれ。岡山大学法学部卒業後、兵庫県朝来町立山口小学校教師時代から、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「陰山メソッド」を確立し脚光を浴びる。内閣官房 教育再生会議委員、文部科学省中央教育審議会委員、大阪府教育委員会教育委員長などを歴任。

本田由紀

東京大学大学院教育学研究科教授

1964年徳島県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程卒。博士(教育学)。日本労働研究機構(現 労働政策研究・研修機構)研究員、東京大学社会科学研究所助教授等を経て現職。日本学術会議会員。専門は教育社会学で、教育・仕事・家族という3つの社会領域間の関係に関する研究を主に行う。日本におけるその問題点と変革の必要性について積極的に発言している。

渡辺敦司

教育ジャーナリスト

1964年北海道生まれ。1990年に横浜国立大学教育学部を卒業後、「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリーの教育ジャーナリストとして、行財政から実践まで幅広く取材・執筆。

佐々木快

早稲田大学 教育学部 教育学科2年

教育学を専攻し、大学教員を目指して勉学に励んでいる。一方、幣団体では歴代最年少で学生副事務局長に就任し、組織運営や、ブランディング戦略をはじめとした様々な業務を兼任しながら、五月祭教育フォーラムの代表を務めている。

カテゴリ:

キーワード:

コメント

コメントはまだありません

    より良い実践のためには、あなたの励ましや建設的な対案が欠かせません。
    ログインして、ぜひコメント欄をご活用ください。