字が汚いのはディスグラフィア(書字障害)?

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1 はじめに

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3 「書くのが苦手」はディスグラフィア(書字障害)かも?症状、原因、困りごと、対処法まとめ

○ディスグラフィアとは

ディスグラフィアは書字障害のことをさし、「読む」「書く」「聞く」「話す」「計算する」「推測する」のうち、文字を「書く」ことに困難がある学習障害(LD)です。

ディスグラフィアの定義には曖昧な部分がありますが、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では限局性学習障害のうちの1つとし、以下のように定めています。

315.2(F81.81) 書字表出の障害を伴う:

綴字の困難さ

文法と句読点の正確さ

書字表出の明確さまたは構成力

(日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』2014年 医学書院/刊 p66より引用)

出展:https://www.amazon.co.jp/dp/4260019074/

ディスグラフィアは通称であり、書字障害や書字表出障害などといったようにさまざまな呼称がありますが、この記事ではディスグラフィアという名称を用いて説明していきます。

また、「書き」の困難は「読み」に困難のあるディスレクシア(読字障害・読み書き障害)に伴って生じている場合もあります。この記事ではその場合についても紹介します。

ディスグラフィアを含む、学習障害の特徴の一つに「知的発達には大きな遅れがない」ことが挙げられます。つまり、話したり行動することはでき、文字を読むこともできるのに、文字が書けなかったり、苦手だったりするのです。

その子の姿だけを見ると、しばしば「努力していないから書けない」「苦手なら人よりたくさん練習すればいい」と本人の努力不足を責められたり、親には「子どもに勉強をさせていない」などの偏見が生まれることがあります。

これはディスグラフィアや学習障害のある子、そしてその親にとってはとても辛いことです。なぜなら学習障害の場合、周囲の子と同じやり方では、どんなに本人が頑張って努力しても字を書くのが難しい状態だからです。

○ディスグラフィアの症状

ディスグラフィアの症状の現れ方や苦手なことは、一人ひとり違いますが、代表的な症状には以下のようなものがあります。

  • 書き文字がマスや行から大きくはみ出してしまう
  • 文字を書くときに鏡文字を書く

※ただし、鏡文字は幼少期の発達段階で誰にでも起こりうるものなので、
必ずしもディスグラフィアの症状とは言えません。

  • 年相応の漢字を書くことができない
  • 文字を書く際に余分に線や点を書いてしまう
  • 間違った助詞を使ってしまう
  • 句読点などを忘れる

読字障害であるディスレクシアに伴ってディスグラフィアが生じることもあり、その場合は、字を読めないという症状もあります。

いずれにせよ、文字を書く際に何かしらの困難がある症状がみられる場合、ディスグラフィアの可能性があると言えます。

○ディスグラフィアの原因

ディスグラフィアの原因やメカニズムは、明確には明らかになっていませんが、現在、以下のような要素が「書き」の困難につながっていると考えられています。

ディスグラフィアの原因は一つではなく、人によっても原因が異なると考えられます。そのため、本人にとってなぜ書くことが難しいかの原因を考えることは、困りごとを解決する上でとても大切です。

○「文字の形がわかりにくい」視覚情報処理の不全

視覚情報処理は、文字のパーツの位置関係や大きさを認識したり、パーツから形を構成したりする働きです。英語圏などで使用されるアルファベットは比較的、シンプルな文字の形をしています。

一方、日本語の場合などは漢字のように複雑な形の文字が多いため、小学校などで漢字に出会うことで困難が表れやすい傾向にあります。「読み」には問題ないが、「書き」のみに困難が生じる場合、視覚情報処理に関連している可能性があると考えられています。

また、視覚過敏によって、紙と文字の色のコントラストを過敏に感じ取ってしまうことでノートに向き合えない場合もあります。

○「文字の読み方がわかりにくい」音韻処理の不全

音韻処理とは、特定の文字がどのような音と対応しているかを理解する働きです。例えば「た」という文字が「ta」という音であると理解するものです。また同時に、「り」と「ん」と「ご」→「りんご」のように、文字を単語のまとまりとして捉えることも難しい場合があります。この「読み」の困難が「書き」の困難につながる場合があります。

ディスレクシアに伴うディスグラフィアの場合はこのことが原因として考えられます。

○「不器用で文字がうまく書けない」発達性協調運動障害が関与している場合

発達性協調運動障害とは、日常生活における協調運動が、本人の年齢や知能に応じて期待されるものよりも不正確であったり、困難であるという障害です。別名、不器用症候群とも呼ばれていました。

発達性協調運動障害がある場合、字を書くなどの指先を使った細かな作業、または目などの感覚器官からの情報と指先の細かな作業との協調運動が同年代に比べぎこちなく、遅かったり、不正確になります。このことで、字がマスからはみ出してしまう、という症状が現れたりします。

また、筆圧の薄い原因としては、筋力が弱いことでうまく鉛筆などを握ることができない場合があります。

○ディスグラフィアの困りごとと工夫

ディスグラフィアは、たくさん練習するだけでは字を書けるようになりにくい障害です。なので、量よりも質に重点をおいた訓練をゆっくり家庭でするなど、家族の協力が必要です。では、どのようにディスグラフィアと向き合っていけばいいのでしょうか?

ディスグラフィアと向き合うには、その子の特性に合った方法を見つけていくことが大切です。ここでは6つの困りごとに対する工夫を紹介します。

○文字のバランスが悪い

文字のバランスがうまく書けない原因として、「マスの空間を捉えにくい」「細かく手を動かすことが難しい」などがあります。マスの空間を捉えることができるようにするために、マスを4色のブロック分けをして文字のどのパーツがどれくらいマスを占めるのかを教えていく方法や、その文字の各パーツの書き始めの箇所に印をつけて大きさを覚えさせる方法があります。

他にも、細かく手を動かすことが難しいお子さんには、滑り止めマットを張り付けた下敷きを使って力の入れ具合を教えたり、ひらがなのバランスが崩れやすいお子さんには、イラストを使って形を覚えやすくする方法もあります。

○文字や数字が書けない

文字や数字が読めるのに書けない理由はさまざまあります。一人ひとり、なぜ書けないのかを考え、その子に合った方法を考えることが大切です。

形として覚えるのが苦手かもしれない場合は、お子さんが楽しめるような方法で形を覚えさせていく方法があります。たとえば文字をイメージしやすくなるようにイラストを使ったり、数字の書き方をリズムに乗せながら練習することができます。また、漢字の場合はパズルのようにへんやつくりのパーツを組み合わせて1つの漢字をつくることもおすすめです。

字を書くことが苦手なお子さん向けの漢字練習教材もあるので活用してもよいでしょう。

○似た文字を書き間違えてしまう

似た文字を書き間違えてしまう場合、その似た文字の違いを区別することが難しいのかもしれません。たとえば、ひらがなの「わ」と「れ」、「め」と「ぬ」、漢字では「手」と「毛」などは形が似ているために混乱してしまうことがあります。

そうした場合、その2つの違う部分を太くしたり、色を付けて目立つようにして覚える方法などがあります。これらの方法で似た文字の違いを意識しやすくすることで、間違えにくくなります。

文字の違う部分を強調すると意識しやすいです。

○鉛筆でうまく書けない

鉛筆を使うためには「親指・人差し指・中指で鉛筆をつまんで動かす動き」と「薬指と小指の安定」が必要になります。細い鉛筆だと、より指先の力が必要だったり、手全体で支える必要があります。

細い鉛筆より太い鉛筆の方が持ちやすいので、はじめは子ども用の太いものを使うこともおすすめです。他にも、指を動かす運動をすることで鉛筆をつかむ力や安定性を得ることができます。また、この場合は筆圧が弱いことも要因とされるので、2Bや4Bといった芯が濃くて柔らかいものを使うことでお子さんの自信をつけることにもつながります。

また、市販の補助グッズを使うことで鉛筆を持ちやすくなることもあるので、使ってみるのも良いでしょう。

○視覚過敏がある場合

視覚過敏がある子は、紙の白さを過敏に感じ取ってしまいます。文字の黒さと紙の白さのコントラストに目がチカチカしてしまうこともあり、長い間ノートに向き合うことができない子もいます。

白ではなく、コントラストの激しくない色のノートを使ったり、色つき眼鏡を使ってみるなど、視覚過敏を緩和することのできる方法を探してみましょう。

○鏡文字を書くことがある

鏡文字を書く原因として、右と左の認識ができていない可能性があります。そのため、「左から書くよ」「右に伸ばすよ」などといったように書く際に左右の声かけがおすすめです。

左右がどちらなのかがすぐにわからず困っているようでしたら、まずはお子さんが左右を認識できるようにする必要があります。「右足から靴を履いてみよう」「左手でコップを取ってみよう」など日常生活での声かけを通して、定着を図りましょう。

また、左右の認識が難しかったら、薄く書かれた見本をなぞることも工夫としてあげられます。
鏡文字は必ずしもディスグラフィアのような学習障害の症状とは限りません。幼少期では脳の発達がまだ完全ではないため、左右がどちらか把握できていなかったり、利き手が分化されていないことがあります。

日本小児神経学会によると、一般的には、小学校1年生が終わる頃でもひらがな文字を書く際に困難がみられる場合や、拗音、撥音、促音の特殊音節につまずきがみられる場合は、小児科への受診をおすすめしています。

ひらがな文字に限らず、漢字や英語に困難が現れる場合もあるので、ディスグラフィアの特性があっても、それに気づく時期はそれぞれです。お子さんがどんな文字を書くことに対して困難を感じているか、まずは様子を見てみましょう。

○黒板の文字をノートに書き写すことが難しい

黒板の文字をノートに写す際には、黒板とノートを交互に見る必要があるため、焦点を移す目の動き(眼球運動)と記憶が必要になってきます。風船バレーやスーパーボールなど、目の運動を取り入れた遊びを通した訓練が有効でしょう。

また、学校と話し合うことで、マス目黒板を使用してもらったり、iPadなどで黒板の写真を撮ることができるようになる場合があります。

○ディスグラフィアに対する合理的配慮

こうした家庭での工夫だけでなく、実際の学校などの教育現場では合理的配慮が必要になってきます。教育現場での合理的な配慮とは、障害のある子どもが十分に教育を受けられるために、一人ひとりの障害の状態や教育のニーズに合わせ、本人と周りの人が話し合い納得した上で行われる配慮のことです。

以下、実際にあったディスグラフィアの合理的配慮の体験談をご紹介します。
これらの体験談のように、合理的配慮を学校が検討してくれることもあります。体験談を参考に、まずはお子さんの通っている学校に相談をしてみましょう。

1)

板書の量が増えてきて娘がついていけなくなり、サポートの先生が手伝ってくれるようになりました。
先生がノートに書いてくれている間、娘は何をしているんですか?お絵かき?と思わず聞いたら、(娘は気が散ると授業中でもすぐお絵かきをします)「黒板を読み上げてもらってます。こちらも書きやすいですし」とのことで、授業にきっちり参加しつつ、サポートを受ける体制になっているようです。
(出典:発達ナビ Q&A

2)

wiscの結果から、処理速度が低い事が分かっています。
・授業では、1人読みさせない
←音読がゆっくりで、人前で失敗させては自己肯定感が下がるから。
・連絡帳は昼の休み時間に書かせる。
←書くのに時間がかかり、帰りの会の時間では乱雑な字になってしまうから。
・板書の前に先生から合図(肩を叩く、小声で一声かける)をして貰う
←言葉だけの指示では通り辛いので。
あとは、たまに連絡帳の文言だけでは分かりづらく、口頭で児童に説明した事は、個別に付箋に詳細を書いて頂いたり、漢字連絡の課題は先生が赤字で書いて貰っていたりします。
(出典:発達ナビ Q&A

3)

5年になっても作文や漢字、読書などが、本人の頭の中や会話の能力と比べるとあまりにレベルが低く、訓練でどうにかなるものでもないと思い、授業中のノートテイクと作文のために、持参したiPadを学校で使わせてもらうよう交渉しました。
担任との交渉がうまくいかず、時間がかかりましたが、6年になってから通常授業と、通級の個別授業でiPadを使い、カメラで黒板を撮ったり、音声入力で作文をしてみたりと実績を作りました。
授業の内容は理解しているだけに、中学校のノートや、定期テストができないと、成績が落ち込み勉強意欲がなくなるだろうと思われたので、入学前に支援会議を開いていただき、小学校の通級担任、中学校校長、学年主任の先生などにできない部分を何度か説明して、授業へのiPad持ち込みと、定期テストでの配慮(現状は時間延長)をしていただけることになりました。
(出典:発達ナビ Q&A

○ディスグラフィアの治療法はあるの?

現在、ディスグラフィアの医学的な治療法は確立されていません。一般的には対症療法として読み書きのトレーニングが行われます。

ですが、ディスグラフィアも含まれる学習障害は、知的発達の遅れがないことから発見が難しいとされています。そのため、小学校入学後の、実際に読み書きなどの学習が始まる時期に気づく場合が多くなっています。

また、日本での認知度も低いため、まだまだ対応が遅れがちなのが現状です。

○気になる症状があれば専門機関へ

子ども本人が「書き」に困難を感じていたり、同年齢の子どもと比べて著しく書字の習得に遅れが見られるなど、子どもの様子からディスグラフィアかもしれないと感じた場合は、まず学校や地域の保健センター、児童相談所などで相談してみましょう。

子どもだけではなく、大人になってから気づく場合もあります。その際、子どもと大人で専門機関が変わってくるので以下を参考にしてみてください。

【子どもの場合】

  • 保健センター
  • 子育て支援センター
  • 児童発達支援事業所 など

【大人の場合】

  • 発達障害支援者センター
  • 障害者就業・生活支援センター
  • 相談支援事業所 など

ディスグラフィアに対する専門的な支援は、上記のような相談機関を経て、専門家による検査・診断を受けてから行われることが一般的です。

しかし、医師による診断がつかなかった場合や検査を受ける前であっても、その子に合った環境を整え、学習方法を見つけてあげることが大切です。親が子どもにあった学び方を見つけるケースもありますが、難しい場合は専門機関に相談したり、学校の特別支援教育を担当する先生に相談してみるとよいでしょう。

○まとめ

ディスグラフィアは、書くことに困難がある学習障害です。そのため、書くことを努力してもなかなか上手くいかず、先生や周囲の友達から「努力不足」とされ、障害だと理解されないことがあります。そのことから「自分は字が書けない」と自信をなくしてしまい、うつ病や不登校といった二次障害になってしまう子どももいるのです。

練習が足りないからとたくさん書かせたり、叱ったりするのではなく、周囲の人がその子に合った方法を考え、ゆっくりと向き合っていきましょう。

4 編集後記

障害への理解は、その子の人生から障害をなくすための第一歩だと思います。書字障害は学習障害の中でも知名度が高いものかと思いますが、依然として知らない人もいるのではないでしょうか。教育に携わる人が、障害についての知識をもっておくこと、理解を深めておくことはとても大きな意味を持ち、子どもたちの可能性を狭めないことにもつながります。
どんな人にとっても生きやすい社会が来る日は、私たちの手でつくっていくしかありません。この記事がその日への力になればと思います。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 岡本笑)

(2022年7月25日 タイトルを「ディスグラフィア(書字障害)とは」より変更)

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