人のストーリーから経済を学ぶ(現代社会・経済のしくみ)「ティーチャーズ・イニシアティブ」

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作成者:くまかわ だいき (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

『一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブ』の「21世紀ティーチャーズプログラム」に参加された、井波祐二先生にお話を伺いました。井波先生は、明治大学政治経済学部を卒業され、株式会社リクルートジョブズで7年間勤務された後、都内の定時制高校で教鞭をとられています。

 今回は、ご自身の勤務経験や、学校で「キャリア教育」をあまり受けてこなかったという思いから、特に力を入れている公民科を通じた「21世紀スキル」や「キャリア教育」と関連する授業実践についてお聞きしました。

*『一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブ』とは、「先生こそが真に未来をつくることができる」という考えの元、一橋大学名誉教授 米倉誠一郎先生、文部大臣補佐官 鈴木寛先生らを理事に迎え、産学官が協同して立ち上げたプロジェクトです。
 「主体的かつ創発的に学び、成長する教師を支援する」をミッションに掲げ、21世紀型の学びを探求する先生向けのプログラム、21世紀ティーチャーズプログラムを全国の先生にむけて提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

2 インタビュー内容

プログラムについて

プログラムでは何をされたのでしょうか?

「21世紀型スキル」というキーワードにも反映されているように、今後の社会や未来を見据えて教育はどうあるべきかという課題について、小学校、中学校、高校の教員や社会人など多様な職種の仲間を交えて議論し、考えを深めました。

具体的には山梨県で行われた2泊3日の夏合宿からプログラムが始まりました。

そこで自分の履歴書を作成しました。
合宿では、自分の“履歴書”の作成のほか教員になったきっかけを振り返り自分自身を見つめ直すワーク、組織とはどうあるべきかをシステム思考をもとに考えるワークなど、「学びとは何か」という大きな枠組みで参加メンバーが相互の考えを深め合いました。

特に印象に残っている活動は、システム思考を身につけるワークです。
「世の中のうまくいかない原因はどこにあるのか」を正のループ・負のループに分けて図解化するワークで、「教員が自分のやりたいことができないのは何が問題なのか」という課題を列挙した際に、課題の解決は制度ではなく人間のメンタルモデルにあるという考えに行き着きます。失敗したらどうしようという思いが教員の行動を制限しているということに、システム思考のフレームによって明らかになるのです。

ペアウォークというワークも印象に残っています。
これは2人1組になって、歩きながら教育を語るのです。このとき、私はペアになった相手に、自分が教員になろうとしたきっかけなどを話すことができ、「教員としての自分」を再確認できました。

また「21世紀ティーチャーズプログラム」では全員が「ラボ(大学でいうゼミのようなもの)」に所属します。
各ラボにはメンターとして1名の先生がつき、各自研究テーマを設定し学びの形を作っていきます。私は全4つのラボのうちの1つである鈴木寛先生のラボに参加しました。

どのような経緯で「21世紀ティーチャーズプログラム」に参加したのですか?

参加したきっかけは、友人からの紹介でした。
メンターの方々の布陣や開催する場所(大学)を見て、『ティーチャーズ・イニシアティブ』の本気度を知り、信頼を感じて、最終的に参加を決意しました。

授業実践について

プログラムに参加して実現した授業実践についてお聞きしてもよろしいですか?

(井波先生は定時制高校で教えられています。)
私が受け持っているクラスの生徒は学力も国籍もバラバラで、教科書一辺倒で授業を展開するということが難しいのが現状であり、公民科の学習をしてもどうせ何も変わらないでしょ」と考えている生徒もいました。

前述のように、鈴木寛先生のラボに所属していましたが、そこでは生徒たちに主体性とワクワク感をもってもらうことを大切に、そして、私は公民科の使命は社会参画を促すものだという自らの信念のもと、新しい実践を作りました。

新たに取り入れたことは「人間のストーリーから経済を学ぶ」というものです。具体的には自分の父母を登場させて、その人の語りから経済の歴史を学んでもらおうという実践でした。

例えば、「神武景気」と言っても生徒たちは何のことか分からないと思ったので「井波じいちゃん(井波先生の父)と井波ばあちゃん(井波先生の母)」に登場してもらって、当時の経験を話してもらい、動画を作成しました。

井波じいちゃん「生まれてから戦後すぐ引っ越しました。当時はまだ生まれて間もなかったので詳しいことは覚えていません。小学生のころ、ビルなどはまだなくて、道はレンガ敷きの道が多かったです。今みたいに、コンクリートの道やアスファルトの道はほとんど無かったです。」

こんなふうに、小学生のころ、中学生のころ、高校生のころとリアルに語ってもらい、生徒たちにその当時を実感してもらいます。

井波ばあちゃん「オイルショックのときは、私は大学2年生だったんですけども、そんなに危機を感じませんでした。周りでは『トイレットペーパー買いに行かなくちゃ』と言っていました。」


(シンポジウムより)

「授業中携帯をいじる生徒たちに、SNSやゲームよりも面白いものを見せたい」と考えたところ、このような授業が出来ました。

動画作成では次の点に気をつけました。

とくに注意した点は
* 井波じいちゃん井波ばあちゃんの動画は5分以内に編集するということ
* 覚えて欲しい知識にはテロップを付けるということ
* ワクワク感を持たせるためTV番組のパロディ形式にすること
です。

そして最終段階では、「20年後、日本経済はどのような状態であって欲しいと思いますか?」という問いを生徒たちに投げかけました。

すると、生徒たちから上の写真のような様々な意見が返ってきました。「自分のこと」としての意見が出て、正解を探る生徒が多かったという印象です。
「学歴差別のない社会を作る」という意見もありました。これは井波じいちゃんが、高度経済成長期の最中に何が良かったかと聞かれ、「教育を受けられて良かった」と言ったことに影響を受けたのかもしれません。この答えも生徒が一生懸命考えて出した答えの一つです。

社会に出てからは「正解の無い問い」が多くあります。答えのない問いを「自分のこと」として考えることが大事です。過去を学ぶことは正解と不正解に分かれますが、未来を考えるときには正解と不正解がないものが多くあります。公民科を通じて、「正解のない問い」に向き合ってほしいと感じています。

参考資料(井波先生 授業使用プリント)


実践を振り返って

今回の実践でどういった点を強調されますか?

まず一つに、生徒が生の実体験に触れることが出来たということです。上記のように、父や母の体験を生徒たちに伝えることで、リアリティのある教育実践ができたと思います。

もう一つは、高校教諭ではない人たちと考えたことで、この授業がうまれたということです。自分は高校の教諭ですが、小学校の先生、大学の先生、社会人の方、すべての方と横断的に教育について考え、授業を立案していくということが出来ました。そういうことがとても大事なのではないかと考えています。

プログラムを終えて、どのように感じましたか?

校内で色々なことにチャレンジさせてもらっています。
キャリア教育の面では、今年度から教育と探求社の「クエスト・エデュケーション」というプログラムを導入しました。「10×10=□」という答えがある問いを考えるのではなく、「10をいかにして100にするか」といった問いを考えます。つまり、一律の答えを探す社会ではないことを生徒に考えさせているのです。

これからプログラムに参加してみたいと考えている方に向けて、メッセージをお願いしてもよろしいですか?

自分の中では強いこだわりをもっているのに表に出す環境にない人、こだわりに共感してくれる人が少ない人にとっては、良い仲間が出来ると思います。

高校の教師は高校で集まることが多いのですが、小学校の先生、中学校の先生とも交流をもって、今回の授業が出来ました。小・中・高の校種をまたいで交流ができ、良かったと思います。

他には、授業の細かいところをどうするかという目線ではなく、日本の教育をどうするかという大きな目線で話し合うことができました。そういう仲間が欲しい人には非常に良いものです。

21世紀ティーチャーズプログラムの中で言われた「クレイジーなやつが社会を変える」という言葉も印象に残っています。

今後の展望を教えていただいてもよろしいですか?

短い展望で言うと、クラス内の実践として教育と探求社の「クエスト・カップ」と言う大会に参加し、生徒を全国大会に出場させることです。その過程で生徒たちが自分で考えたアイデアを社会人からリアルに評価される経験をさせたいと考えています。

長い展望で言うと、外部連携のバリエーションを増やしていきたいです。これは私がずっと抱いてきた関心であるキャリア教育につながっていくことです。生徒たちが進路設計やキャリアを考えるうえで、参考になるような授業を作っていきたいです。

今日は貴重なお話をありがとうございました。

3 編集後記

井波先生の生徒に対する思いがよく伝わってきた授業実践だと思いました。先生とは言え、学校の中だけで終わるのではなく、外部と連携をするところや学校種の違いを超えて学んでいく姿勢など、刺激を受ける点が多くありました。筆者自身、視野が広がる経験が出来たと思います。

(編集・文責 EDUPEDIA編集部 熊川大貴)

4 ★第2期生募集★21世紀ティーチャーズプログラム

プログラムでは、豪華講師陣によって設計されたプログラムのなかで、能動的かつ実践的な学びを、講師や仲間とともに約半年間かけて探究していきます。

21世紀型スキルに関心がある!
志を同じくする仲間を見つけたい!
そのような先生は、参加を検討してみてはいかがでしょうか。

【応募締め切り】2017年7月24日(月)24:00

⇒プログラムの詳細はこちらをご確認ください

校内研修に使える『理想の学校』ワークショップ

協同的な授業研究(保護者懇談会・体育)

演劇的手法を用いて「モチモチの木」を読み解く~21世紀型教育への挑戦~

ティーチャーズ・イニシアティブが主催する「21世紀ティーチャーズプログラム(第1期)」を受講された先生へのインタビュー記事です。
参加のきっかけ、プログラムから生まれた実践や自分の変化などを伺いました。

21世紀の教育・教師・学び『先生から変えるニッポンの未来』(一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブ)

シンポジウム『先生から変えるニッポンの未来』のパネルディスカッションⅡの内容を編集した記事です。
 学校現場や官民など、それぞれ教育に関わる立場から、教師の専門性や学校現場を囲む社会課題、それを打開するための方策などが話されました。

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