次世代の教育の在り方とは?~田村学先生による「深い学び」~

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目次

1 はじめに

この記事は、2018年11月3日に行われた、第8回問い立てラボ「対話・探究・協働をキーワードに学びあう次世代教育へのSTEP」での國學院大學教授の田村学先生の講演内容を記事化したものです。
今回は、具体例を交えた「深い学び」の枠組みや実際の授業でのポイントなどについてお話いただいた部分をご紹介します。

2 「深い学び」とは

新しい学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」という言葉が提示されましたが、「主体的」「対話的」「深い」の中で、大事なのに分かりにくいのが「深い」ですよね。ですから今回は「深い学び」について光を当てながら考えていきたいと思います。もちろんこの3つは関連し合っているので、「深い学び」を考えることで「主体的な学び」「対話的な学び」にも結びつくはずです。

「深い学び」の定義…「知識・技能」が関連づいて構造化されたり身体化されたりして高度化し、駆動する状態に向かうこと
(参考文献:田村学 著「深い学び」

私が視察したいくつかの実践例とともに、「深い学び」のタイプを4つご紹介します。教材研究をするときに、知識構造がどのタイプにあてはまるか考えることが授業づくりに関係してくるのではないかと思います。

ネットワーク型Ⅰ—宣言的な知識がつながるタイプ(知識・技能等)

ある小学校のまち探検で、2年生の児童がいくつか店をまわった後にこんなことを言いました。
「いろんなお仕事があることが分かりました。どの仕事も違うけれど似ていることが2つあります。1つはほとんどの仕事が大変だということ、もう1つは誰かのためにするということです。」
いろんなお仕事があることを知った上で、それらがつながって「大変だけど人のためにすることだ」という彼なりのお仕事観のようなものができたわけです。

この学びは次のようなイメージです。

知識が一個一個つながって、より上の階層の認識概念を作るイメージです。

ネットワーク型Ⅱ—宣言的な知識がつながるタイプ(知識・技能等)

既に上の階層の概念を持っていて、これに個別の事実がつながってぶら下がるイメージの学びもあります。

上の階層の部分を「鍵概念」「中心概念」と表現することもあります。

例えば小学5年生の家庭科では「寒い季節の暮らし」について学びます。
「厚着、重ね着をすると暖かい」「マフラーをすると暖かい」といったことを学ぶのですが、家庭科の教科書にはその鍵概念として「空気の層」と書いてあります。
つまり最初に「空気の層」という知識を獲得してから、そこに「厚着する」「マフラーをする」といった個別の事実をぶら下げていき、概念化しているのです。

パターン型—手続き的な知識がつながるタイプ(知識・技能等)

例えば小学3年生の音楽ではリコーダーを学びます。
専門の先生はリコーダーを吹くときのポイントとして「お腹に力を入れなさい」「姿勢も大切です」「指の腹で穴を押さえなさい」と様々なことをおっしゃいます。これらも実はつながっているのですが、これまでのつながり方とは少し違います。

ネットワークというよりもパターン化するということです。音楽や体育などの技能的な教科では、パターン化された知識が身体と一体になることで、技術の再現性が期待されます

知識が場面とつながるタイプ(思考力・判断力・表現力等)

ある中学校の柔道の授業で、「支えつりこみ足」という技を上手くかけるにはどうすれば良いのか生徒どうしで考えていたとき、ある生徒が「軸足が大事だ」と言い始めました。「サッカーでも軸足が大事だし、そういえば野球でも軸足が大事。なるほど。」

彼は「軸足」という知識がサッカーでも野球でも、今取り組んでいる柔道でも使える、ということに気づきました。つまり、知識構造が異なる場面や状況ともつながり、違う場面でもその知識が使えるようになったということです。このことを「汎用的になる」「転移する」と表現します。

知識が目的や価値、手応えとつながるタイプ(学びに向かう力・人間性等)

小学5年生の総合的な学習の時間の例です。
外来生物についての授業で、近くにヒアリがいないか調べ始めました。もちろん見つからなかったのですが、児童たちが再調査したいと言い出したので、先生が理由を聞くと、「ここでヒアリが見つかったら大発見になって、有名になれるかもしれないから」と答えたのです。さらに児童たちはこう言い始めました。「いないってことも大事でしょ」「この地域が安心安全って分かることは、地域を守るってことでしょ」

つまりヒアリの調査が徐々に地域のため、公共のため、といった暖かい目的に結び付き始めたのです。知識を目的や価値と結びつければ適切で適正になる、ということです。

以上が知識構造のタイプの紹介です。
なぜこのように知識の構造の枠組みを整理したかというと、「深い学び」のイメージが人によって違う可能性があるからです。

やはり我々は実際の授業から「あの子の発言から、これは深いといえる」という風に考えています。そのときにこのような枠組みを持つと、目の前の生徒の姿が違って見えてくるかもしれません。おそらくよく見える教師ほど「深い学び」の実現可能性は上がると思います。
さらにこれらの枠組みを学習指導要領で提示された「身につけさせたい資質・能力」の三本柱と重ねて捉えることができれば、「深い学び」というもののイメージがより確かになるのではないでしょうか。

3 「深い学び」を実現するポイント

実際の授業で起きている問題として、主体的・対話的に見える話し合い活動で、生徒が前のめりに話をしていてもその中身の質が期待しているほど高まっていない、教科としてふさわしく学びが深まっていないという場合がよくあります。この点は丁寧に考えなければなりません。

「深い学び」にいたるためには、生徒が真剣に自分で問い続ける状況を作ることが重要なポイントです。そしてこの「問い続けること」には3つの構成要素があります。それは「学習活動」「教師の働きかけ」「生徒どうしの関係性」です。

生徒自身が身の回りのことに対して「なんか変だぞ」「おかしいぞ」と疑問を持って「なぜだろう」「どうしてだろう」と考えているとき、例えば教師からの適切な発問や生徒どうしの良好な関係性があることで、生徒はさらに考え続けるようになります。
これらが連続することで生徒は別の場面でも問い続けるようになり、「深い学び」につながるのではないかと思います。

4 インプットとアウトプットのバランス

この図の男の子が多くの情報をインプットして自分で考え、アウトプットしていくのが学びの一つのプロセスですが、これまではこのインプットとアウトプットの比率が8:2くらいでした。この子の思考を活性化し自ら学ぶ状況を作るためには、アウトプットの部分にもっと重きを置く必要があります。言い換えれば暗記再生型から発信型に変えていくということです。このような能動的な学び方を「アクティブ・ラーニング」と呼びます。ですから「アクティブ・ラーニング」は決して動的に活動する学び方を指しているわけではありません。

さまざまな実験から、知識はアウトプットすればするほど長期記憶に残るという結果が出ています。だからといってインプットが必要ないというわけではありません。ここで大切なのはそのバランスです。教師が説明したり、繰り返し反復したりするインプットにおいては日本の多くの教師が優れた実践をしてきました。その部分は大事にする一方で、それだけでは記憶に残りにくいので、生徒自身が獲得したものを活用発揮することでひとつひとつの知識をつなげ、使い勝手の良い知識にしていくというアウトプットの部分も必要になるのです。

5 なぜ「探究」か

高等学校の新しい学習指導要領の中には「探究」というキーワードがたくさん出てきていて、これまでの牧歌的な活動や体験とは違う「探究」へのシフトチェンジが始まっています。
「何を学ぶか」ということも大事ですが、新しい学習指導要領では3つの資質能力を身につけさせること、言いかえれば「何ができるようになるか」ということを最重要項目として宣言しています。そのことに着目すると、「どのように学ぶか」、つまり学びのプロセスがより重要になるのです。

知識の活用発揮のためには学びのプロセスの充実が欠かせません。そしてそのために「探究」が極めて重要になります。

ダイナミックな社会の情報を取り入れるような総合的な探究の時間もあれば、個別の教科における探究もあるかもしれません。どちらにしてもその学びのプロセスが充実することで知識が活用発揮され、生徒の資質能力が育成されるといえると思います。

ここにさらに「インタラクション(話し合い)」「リフレクション(振り返り)」を上手く取り入れることでより質が高まります。

6 田村学先生のプロフィール

國學院大學人間開発学部初等教育学科教授(文部科学省現学委員)。昭和37年新潟県生まれ。新潟大学教育学部卒業後、昭和61年4月より新潟県公立小学校教諭、新潟県上越市立大手町小学校教諭、上越教育大学附属小学校教諭、新潟県柏崎市教育委員会指導主事を経て、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官。文部科学省初等中等教育局視学官として新学習指導要領作成に携わる。平成29年4月より現職
(2019年1月7日現在)

7 著書紹介

8 編集後記

この後さらにインタラクションやリフレクションを効果的に行うためにどうすれば良いか、という質疑応答が行われました。授業の目的と手段、そして「深い学び」のモヤっとしたイメージが、「つなぐつながるつなげる」という田村先生のキーワードによって少し明確になった気がします。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 平原由羽)

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