「つぶ書き」で楽しむ漢字学習 〜漢字学習を通したコミュニケーション〜(教育技術×EDUPEDIA スペシャル・インタビュー第26回 久保齋先生)

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作成者:石川 桃子 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2019年3月6日に雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われた教育アドバイザー 久保齋先生へのインタビューを記事化したものです。

新刊『つぶやき漢字ドリル』の出版にあたり、書き方をつぶやきながら漢字を書く「つぶ書き」だとなぜ漢字を覚えやすいのか、そして、子どもたちが楽しく漢字を学ぶためにはどうすれば良いのかについてお聞きしました。

なお、『小一教育技術』~『小六教育技術』5月号にもインタビュー記事が載っていますので、そちらも合わせてご覧ください。

教育技術.net
  
  

2 「つぶ書き」について

●「つぶやいて漢字を覚える」とはどういうことでしょうか?

漢字を覚えるのは大変な作業です。そのため、昔から子どもへの漢字の教え方の研究が重ねられてきました。

その一つに、漢字を部首の集まりとして捉える覚え方があります。ただ、この覚え方では、書き順を覚えることができません。また、小学校のうちは部首になっている漢字自体をまだ習っていないので、部首を教える方法が必要になってきます。

そこで、一番わかりやすいのは、書き順を語る覚え方です。これは、民間によく伝わっていた方法で、伝承文化として根付いています。

  


  

問題は、その語り方が小学校で習う全ての漢字で系統的には無かったことです。

それを、一定の法則性に従って1年生から6年生までの漢字を全部語りながら書けるようにしたのがこの『つぶやき漢字ドリル』です。いくつかの基本的な書き方、すなわち部首よりも前の段階である「部分」の書き方が言葉になって出てきているのが特徴です。
  
  

●「つぶ書き」の利点は何ですか?

①きれいな字が書けること②しっかり覚えられること③みんなで楽しんで取り組めることの3点だと考えています。
  

①きれいな字が書ける

書き順が間違っているときれいな字は書けません。習字の運筆と一緒です。違う書き方をすると形が変わってしまいます。だから、運筆にぴったり合った唱え方をすることが大事なのです。

1,2,3,4……と画数を数えながら書いても、細かい曲げ方などは分かりませんよね。そうすると、いわゆる「子どもらしい字」になってしまうのです。これは漢字だけでなく、ひらがなを書くときも同じです。例えば「ろ」という字は、長い横棒を書き、短い斜めの棒を書き、大きな輪を書くような字になってしまいます。それを、「横棒短く、斜めが長く、平べったい “つ” を書く」というふうにきちんと語って教えると、最初から大人の字、すなわち本来の字が書けるようになります。
  

  

②しっかり覚えられる

高学年になると、よく似ているけど少し違う字を書く子が増えます。そういう子は書き順や唱え方がぐちゃぐちゃで、形を何となく覚えているのです。一生懸命練習しているのにテストで良い点が取れないのはかわいそうですから、覚えたからには完璧に書けるようにしてあげたいですよね。

そのためには、言語化して教えることが必要です。映像で覚えるだけでは不確かなのです。幼稚園生・保育園生でも、漢字を見て判別することはできますが、自分では書けませんよね。知っている漢字を自分で書けるようにするのが小学校での課題です。つぶやきながら書けば、その漢字は再生可能なものとして記憶されます。書くこと以前に、つぶやけることが大事です。

今までどおりの教え方から「つぶ書き」での教え方に変えたらテストの平均点が14点上がった、という追実践の報告もあります。「つぶ書き」を使えば、同じ努力で正確な漢字が覚えられて、徒労になりません。漢字を覚えるのが苦手な子にぜひ使ってほしいです。

  

③みんなで楽しんで取り組める

従来のやりかたでは、漢字練習はひたすら一人で書くだけの孤独な作業です。すると、例えば漢字テストをするときにも、自分だけがいい点を取れればいいというスタンスになってしまいます。

それが、みんなでつぶやいて覚えると、漢字を覚えるという行為が共通の文化になるのです。漢字テストの際にも、友達同士でどのように書くかを言い合って覚えることができます。書くことは孤独な作業なので共通文化になりにくいですが、「つぶ書き」だとみんなで歌のように楽しめる共通文化にすることができます。

これは九九と同じようなものです。九九も、例えば「7×8=56」ではなく、「しちはごじゅうろく」というのが教室みんなのもの、日本中のものになっています。それによって、声を出して覚えたり、「しちは」という問いかけに対して「ごじゅうろく」と答えたりすることが行われます。漢字でも、そういう勉強の仕方を子どもたちにさせてあげたいのです。
  

  
  

●漢字を覚えるということが、文字言語だけでなく口頭言語を通じてできるようになるということですね。

その通りです。

そして、『つぶやき漢字ドリル』が狙っているのは、教室の中で一緒につぶやく、ということだけではありません。

例えば、お母さんが家事をしているときに、「〇〇という漢字はどんなふうに書く?」と子どもに問いかけ、子どもが書き方を唱えて答える、という練習の仕方ができます。お母さんと子どもとのコミュニケーションが、漢字を覚えるということを通して成立するのです。

さらに、唱えて漢字の覚えるのは昔ながらの方法ですから、おじいちゃんおばあちゃんはこういう覚え方に慣れています。孫が「つぶ書き」で漢字を覚えれば、おじいちゃんおばあちゃんと漢字のクイズをすることができます。

先生と子どもの間で、友達同士の間で、お母さんと子どもとの間で、おじいちゃんおばあちゃんと孫との間で、漢字を覚えるという文化を通したコミュニケーションが生まれる。それが「つぶ書き」の魅力です。

 
  

●漢字が苦手な子どもにも、「つぶ書き」を通して漢字に興味を持ってもらえるでしょうか?

漢字に興味がないということは、自分が漢字を覚えられない、覚え方も分からない、ということです。しかも、孤独な作業は楽しくないですよね。

それがこのやりかただと、漢字を覚えることによって、漢字を覚えるという価値だけではなく、みんなと繋がれるという価値があります。だから、苦手な子どもほど面白くなるのです。

例えば、算数でも、「7+8=15」という問題それ自体には興味がわかない子どもも、それを歌で覚えると、リズムが面白くて歌っているうちにそれが自然と頭に入っていきます。やはり低学年のうちはみんなで声を合わせて覚える、というのが一番有効だと思います。

  

●低学年は確かにつぶやくこと自体が楽しいという子どもも多いと思いますが、高学年になると恥ずかしさを感じる子もいるのではないでしょうか? 同じように教えるのですか?

高学年に対しては、自分なりの漢字の分解の仕方で覚えるように言います。4年生まででほとんどの部首は習ってしまいますから、部首単位でまとめる覚え方もできるようになります。

例えば、「晴」という字は、低学年であれば「たてぼう書いて、かぎ書いて、に書いて、よこたてよこよこ、とめつきを書く」というふうに教えます。それを、高学年だと「日へんと青」というふうに覚える子もいます。大事なのは自分が一番覚えやすい分解のしかたで覚えるということです。先生は例として一つのつぶやきかたを教えるだけです。

高学年は友達同士で違う唱え方をしていたとしても、できあがる漢字を想像して正解かどうかを判断できますから、友達同士でクイズを出し合う際にも問題はありません。また、漢字の分解のしかたの違いを楽しめるようにもなります。それだけのコミュニケーション能力もついていますしね。

覚え方を自分で考えたり、他の人との覚え方の違いを感じたりすることで漢字を覚えることが文化となり、楽しく漢字学習ができるのです。先生も教える際に、あるものは部首でまとめ、あるものはつぶやき、とアレンジをつけていくと、教室の漢字文化が面白くなります。さらに、漢字の成り立ちや覚え方のコツなどのこぼれ話を交えると、子どもたちが漢字に興味を持つようになります。最近ではこのような漢字を楽しみながら覚える文化が失われていると感じます。私は昭和の教師からの小さな贈り物のつもりで、そういった話を教室ですることを目指しています。『つぶやき漢字ドリル』では「うさゆび先生」が私の代わりとなり、覚える時のポイントや漢字のこぼれ話を解説しています。

  

3 『つぶやき漢字ドリル』について

●他にも、従来の漢字ドリルにはない『つぶやき漢字ドリル』の特徴はありますか?

①ひらがな・カタカナの習得を重視

「漢字ドリル」といいながらも、1年生版には、漢字だけでなくひらがな・カタカナの練習ページがあることです。きれいな字を書くためには、ひらがな・カタカナも書き方をつぶやきながら書くことが必要です。

また、カタカナは漢字を覚えるのに非常に大事です。ひらがなは漢字の崩しですが、カタカナは漢字の一部分を取り出したものです。つまり、カタカナをきちんと教えてあげれば漢字もきれいに書けるのです。明治、大正初期の人が漢字を書くのがうまいのは、その時代にはひらがなよりもカタカナを先に教えていたからです。今はひらがなから習うので、カタカナの教え方がいい加減になっていると感じます。例えば、「ツ」と「シ」の区別のつかない子がいますよね。ツは「たてぼう、たてぼう、の」、シは「てん、てん、はねあげる」というふうに言語化せずに教えるので、子どもはなんとなく形で覚えて書いてしまっているのです。漢字に入る前に、カタカナもつぶやいて書くやりかたできちんと身につけさせることが必要です。

  

②網羅的

ドリルは全体的に新出漢字を1文字ずつ練習していく形式ですが、「覚えているかな」というコーナーが下に付いていて、新しい漢字を1文字学習するごとに直近に学習した4文字を復習できるようになっています。

また、まとめて復習するためのテスト問題も用意してあります。その学年で習う漢字を、全て「つぶやく」ことができれば、完璧に覚えているということです。問題のページを何度もコピーして、繰り返しテストしてあげれば定着します。

  

●画期的なドリルですね。

漢字を覚えるという文化を通したコミュニケーションで、日本の教育を変えてやろうという壮大な計画です。家庭学習向けですが、学校でも使ってほしいと感じます。

私は民間の教育力を大切にしていて、おばあちゃんが孫に書き方を教える、といった文化が見直されるべきだと思っています。このドリルが、そのきっかけとなれば幸いです。

4 先生のプロフィール

久保齋(くぼいつき)先生


元京都市公立小学校教諭
学力研(学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会)特別講師
「先生のための学校」校長
寝屋川市立点野小学校ほか数校の教育アドバイザー
(2019年3月6日現在)

5 著書紹介

6 編集後記

書くことでなく唱えること、歌うことを漢字学習の主軸としたり、漢字学習それ自体を「文化」と捉えたり……目から鱗のお話ばかりでした。「漢字学習=孤独で辛いもの」でなく、「みんなで楽しんでやるもの」というふうに認識が変わっていけば良いなと感じます。

(取材: EDUPEDIA編集部 石川・中澤 編集: EDUPEDIA編集部 石川)

7 関連ページ

教育技術.net

『小一教育技術』~『小六教育技術』5月号に掲載の久保先生インタビュー記事も合わせてご覧ください。

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