「地理総合」に向けてーお茶の水女子大学附属高等学校の実践ー

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作成者:Chinatsu Tsuji (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2020年1月25日にお茶の水女子大学附属高等学校の沼畑早苗先生に行ったインタビューを編集・記事化したものです。

2022年に新学習指導要領が施行され、約50年ぶりに高等学校において「地理総合」が必履修化されます。その中で地理専門の先生の不足が問題になっています。これまで、地理歴史科の中では世界史のみが必履修科目であったため、高校で地理を履修していない先生も多いという現状があります。「地理総合」を歴史の先生が教えることも少なくないと予想されています。そのため、この記事では地理を履修していない歴史の先生「地理総合」を教えることになる地理の先生に役立つ実践を紹介します。

こんな先生におすすめ!

✳︎「地理総合」を教えることになる先生

✳︎高校で地理を履修していなかった先生

2 これからの地理

◎「地理総合」の3つの大項目

「地理総合」は、持続可能な社会づくりを目指し、環境条件と人間の営みとの関わりに着目して現代の地理的な諸課題を考察する科目として新たに設置されました。

「社会的事象の地理的な見方・考え方を働かせ、課題を追究したり解決したりする活動を通して、広い視野に立ち、グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者に必要な公民としての資質・能力を次の通り育成することを目指す」

①地図や地理情報システムで捉える現代社会

地図には場所の位置を確認するだけでなく、様々な活用法があります。統計などを地図で示すことで、相手にわかりやすく伝えることもでき、課題の分析や考察にも役立ちます。このような地図の活用法を最初に学び、その後の学習全般においてこの技能を使って学習していきます。

②国際理解と国際協力

国際社会の担い手を育成するため、グローバルな地理的な観点から国際理解や国際協力のあり方について考察します。従来の学習指導要領における「世界の生活・文化の多様性」の項目では、実質的に世界地誌学習になっていましたが、今後は地域を網羅的に扱うわけではありません。事例地域の生活文化の多様性を踏まえたうえで主題を設定し問いを立てて、国際協力はどうあるべきかを追究していくことになります。

③持続可能な地域づくりと私たち

地域調査などにより、地域をよりよく理解し、持続可能な社会とするためにはどうするべきなのか、実態を踏まえながら構想していきます。特に防災については、持続可能な社会を構築するうえで、必須のこととして位置づけられています。

◎「地理総合」で求められる力

いままでは、地理は暗記科目というイメージを持っていた人もいました。

新学習指導要領では、「知識及び技能」の習得だけでなく、これらを活用して課題を解決するために必要な「思考力・判断力、表現力等」を育むこと、主体的に学びに向かう力、人間性等を育むことが重視されます。つまり、学んだ知識を活用して、生活圏、国、世界といった地域に貢献できる人材を育成することが求められます。防災などはその典型的な例であり、地図やGISなどの地理的技能を身につけた適切な防災を行うことができる人材の育成を目指します。
そのため、学習過程にあっては、作業的で具体的な体験を伴う学習をより一層重視して、様々な諸課題を日常生活と関連づけて取り扱っていくことが示されています。教室で教師と生徒が対話するだけでなく、地域の人々やグループでの対話を通して、生徒が主体的に活動し、課題を追究したり解決を図ることを試みたり、将来の構想を練ったりする授業が想定されます。
 

◎課題解決型学習の課題

新学習指導要領では、どの教科も「課題を主体的に追究・解決する」学びを行うことになります。座っているだけの授業であれば生徒は楽かもしれませんが、課題解決型の授業では座っているだけで終わりません。本を読んで調べたり、地域調査を行ったり、レポートを書いたりなどをどこまで授業内でできるかという問題もあり、生徒が本気で取り組むほど授業外の活動が増える可能性があります。そのため、教科間の連携をとって生徒の負担が大きくなりすぎないようにすることが大切です。少し負荷をかけることは生徒の力が伸びることにつながりますが、負担をかけすぎると生徒の主体性を損ねてしまいます。また、限られた授業時間の中で、確かな知識及び技能の習得とのバランスをどう取っていくかも課題だと思います。

3 お茶の水女子大学附属高等学校におけるフィールドワークの実践

フィールドワーク(地域調査)は、一貫して地理教育の中で重要だと言われてきましたが、実際には安全面の問題や時間的制約などから実施していない高校が多かったと思います。お茶の水女子大学附属高等学校では2015年度より親睦目的の2泊3日の学年合宿をフィールドワークに目的変更し、課題解決型の地理学習に活かすべく、毎年5月、入学間もない高校1年生が長野県諏訪地域を訪れています。

学習の大まかな流れは、まず事前学習において、地域の情報や地理的特徴を収集した上で、地域が抱える社会的な課題を発見し、その背景や解決に向けて実際に行われている取り組みを知ることから始まります。そのうえで、自分なりの課題解決に向けた考察を行い、生徒間で共有を行います。現地調査では実際に自分の目で観察したり、聞き取りを行うことで新たな情報を収集し、地域をとらえ直すことで新たな課題を発見したり、より地域の現状を踏まえた課題解決を模索します。事後学習では,自分の聞き取った内容や考察を班内や報告会の場で共有し、議論・発表することで考えを深めていきます。フィールドワークにおける自分の行動を振り返ること、地域の方々へお礼状を出すことや多少なりとも学習成果を地域へ還元することを心がけています。
 
  

◎学習効果

生徒の通学圏が広く共通の地域を持ちにくい高校にとっては、合宿を通じて共通の身近な地域を持つことができるというのは大きなメリットです。

高校生にとって、知らない大人から聞き取りを行うことは、はじめはとても難しいことのようですが、1回経験することにより自信がつき、課題解決型の学習の面白さを生徒自身が感じることができます。

しかし、一番大きい効果は、地域の人とのつながりの中から社会に貢献したいという思いが生まれてくる、つまり主体性が生まれることだと思います。

①地域をより本質的に捉えるようになる

文献やインターネット調査による事前学習により地域の課題がわかったつもりでも、「実際に現地を見てみないとわからないことがある」というのは、まず生徒にとっての大きな気づきです。例えば、「想像以上に高齢化が深刻である」といった地域社会の現状を踏まえ、あらためて課題解決を考察できるようになっている生徒の成長を見ることができます。

②社会に貢献する意義を理解するようになる

地域の人々との関係を築くことで、生徒は課題を自分ごととして捉えるようになり、​「地域のために何かしたい」と​思うようになります。「グローバルな課題だけではなく、 ローカルな課題にももっと目を向けなければいけない」​という生徒の気づきが生まれることもあります。地域の人々との交流や仲間との議論・協働作業が学びに向かう力の向上や人間としての成長に役立っているようです。

③多面的・多角的に課題を捉える力が身につく

地域の方々にお話を聞くと、同じ質問をしても人によって全然違う答えが返ってくることがあります。そうした経験をする中で、相手の立場や集団の中で立ち位置による違いなどを踏まえつつ、正しい情報をどう選択したらよいということ、自分に都合のいい意見だけ聞いて他の人の意見を無視してはいけないということなど、多面的・多角的に課題を捉える力が身につく効果があります。

4 地図・GISについて

◎課題解決型学習におけるGIS(地理情報システム)の役割

地図を活用して課題を解決した例は、歴史的に見てもたくさんあります。まずは生徒に地図やGISが課題解決型学習に​役立つことに気づいてもらう​ことが大切だと思っています。
そのために生徒たちには、過去の地図が課題解決に活かされた事例を紹介しています。例えばジョン・スノーというイギリスの医師は、コレラの原因がわからなかった時代に感染地図を作り原因の解明に貢献しました。日本でも、萩野昇医師の作成した地図がイタイイタイ病の原因究明に役立っています。
また、ハザードマップも有効な事例の1つです。過去の被災地域とハザードマップの被害想定がほぼ一致していることを読み取っていくと、「地図は防災にも役立つ」と実感するようです。

◎GISを探究活動に生かした例ーバーチャルウォーターから見る水問題ー

お茶の水女子大学附属高等学校では、地理Aが高校1年生の必履修科目となっているため、ここでGISや地図の使い方を学ぶことで2年生の「総合的な学習の時間」の探究活動において、課題を相手にわかりやすく伝えたり、解決する手段として「地図を使いたい」という生徒が出てきます。

私は、GISの活用を学ぶことは大切だと思いますが、必ずしもパソコンを使わなくても良いと思っています。2018年度日本地理学会秋季学術大会高校生ポスターセッションにおいて、「バーチャルウォーターと水問題」というテーマで探究を行なった本校2年生のグループが日本地理学会長賞をいただきました。これは、生徒たちが手作業で地図上に統計情報を重ねていくことで水問題の分析を行ったアナログ版GISの技能と分析結果が評価されたものです。

◎GISの実践

「地理総合」でGISを学ぶことについて、不安の声も多く上がっていると聞きます。

GISの概念を理解することは生徒全員にとって必要ですが、GISの技能をどのレベルまで身につけるかは学校や生徒の状況によると思います。本校の場合、閲覧を主目的としたGISソフトは、普通教室で4人に1台のタブレットを用いて、手軽に活用しています。一方、パソコンで地図化を行う作業については、情報科やその他教科の空き時間を縫う形でいかにコンピューター室を確保するかということから始まります。また、Excel操作のおぼつかない高校1年生を対象に40人単位のクラスでそれぞれにGISソフト(本校ではMANDARA10を使用)を操作させようとすれば、教員一人での対応には限界があります。幸い本校では情報科の教員が協力的であるため、各クラス1時間ずつサポートをお願いしています。

5 受験科目としての地理について

「地理総合」の必履修化によって、受験がどう変わるかは気になるところです。今のセンター試験を見ていても地理は知識だけで解くことができる問題ではなく、思考力が求められています。今後は資料を読み取り、考えて答えを出すといった過程がより重視されることになると考えられますので、探究的な学びは受験においても役立つと​思います。ただ、知識と思考力のバランスをどう取るか、探究的な学びにどこまで時間をかけるのかという点は正直難しいと感じます。

6 教員に向けて

「地理総合」が必履修化されることで、地理を学んでいない先生が地理の授業をすることも増えると思います。新しく地理をご担当する先生方には、まずは先生ご自身が「楽しんで学んでください」とお伝えしたいです。国土地理院の「​地理教育の道具箱」など、地理の先生をサポートするツールもたくさん出ています。
地理の教員はこれまで各学校に1人しかいないということが多く、わが身を振り返っても、自分の成果や試行錯誤を積極的に共有してこなかったのかもしれないという反省があります。新しい地理の先生がたくさん加わることで、世代をこえて協働する機会が増えることと思います。みんなで、「地理総合」を盛り上げていきましょう!

7 プロフィール

◎沼畑早苗 先生

・お茶の水女子大学附属高等学校 教諭

<論文>

(2020年1月27日時点のものです)

8 編集後記

今回、沼畑先生にお茶の水女子高等学校の事例を紹介していただき、私自身も高校地理教員を目指している学生としてとても参考になりました。2022年の「地理総合」必修化に向けて意味のある「地理総合」になるように学生の視点からアプローチしていきたいと思いました。

(EDUPEDIA編集部 辻・伊藤)

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