「未来の創造者」を育成する -兵庫高校創造科学科の実践から-

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作成者:清川 美空 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、シティズンシップ教育の実践を行っている窪田勉先生(兵庫県立兵庫高校地歴公民科教員)へのインタビュー取材を編集したものです。(取材は2020年2月26日(水)に実施)
 なお、本記事は兵庫県立兵庫高校創造科学科の学校設定科目「創造」(1年生:「創造基礎」、2年生:「創造応用」)に焦点を当てています。特に創造科学科の1年生が履修する「創造基礎」において重点が置かれている講義、研究、実践活動を紹介しています。

2 創造科学科とは

①「未来の創造者」

創造科学科では、未来の創造者を育成することを目的としています。未来の創造者になることは、人類の最前線に立つ人間になることです。つまり、日本だけでなく世界が直面している課題に向き合い、未来社会を創造して行くのです。人類の最前線に立つために、生徒たちには文理を超えてあらゆる素養を身に付けてもらいます。

②「未来の創造者」に必要な力

創造科学科で育みたい4つの力は次の通りです。1つ目は、社会創造力です。社会に貢献する志や信頼関係を構築する力、企画力・行動力を指します。2つ目は、科学的思考力です。最先端の科学を探究することで、論理的に物事を解決する思考力を指します。3つ目は、複眼的思考力です。国際的な視野を持ち、さまざまな角度から物事を柔軟に考える力を指します。4つ目は、自律的活動力です。何事も積極的に取り組み、自己のキャリアを設計していく活動力を指します。

③学校設定科目「創造」

創造科学科では、生徒たちは1年生で「未来の創造者」に必要な上記の4つの力を学校設定科目「創造基礎」「創造応用」「RRE(Research and Report in English)」「課題研究」を通して身に付けていきます。「創造基礎」で扱う地域課題の研究では、社会創造力、自律的思考力を身に付けることを目標としています。理系分野の「課題研究」では、科学的思考力を身に付けることを目標としています。理系の課題研究は神戸大学の大学院と連携して実施しています。「RRE」では、複眼的思考力を身に付けることを目標としています。RREでは、外国人留学生との交流や英語でのレポート作成を学びます。
 4つの力のうち、社会創造力を身に付ける「創造基礎」はシティズンシップ教育の概念を取り入れています。「創造基礎」は、講義、研究、実践活動の3つに重点を置いて構成されています。講義で学んだことを研究で深め、実践活動に落とし込むのです。

④「当事者意識」の育成

創造科学科では、当事者意識を “sense of shared responsibility”と定義付けています。一般的に、「当事者」とは社会問題の全ての責任に関わってきます。「当事者意識」とはその責任の一端を担い独自の視点で課題解決に関わろうとする意欲と意味づけています。
 創造科学科の学校設定科目「創造」の目的は、生徒に社会の形成にかかわる当事者意識を育んでもらうことです。しかし、生徒たちは生徒自身が住んでいる地域の課題を扱うのではなく、高校のある長田区の課題を第三者的な視点で研究していくことになります。そこで、当事者意識を育むために、地域課題の解決に向けての実践活動先では、教師は基本的に生徒たちの主体性に任せています。もちろん現場の大人たちも協力しますが、生徒自身から動かないと何も始まらない状況を作ることで、当事者意識を持たせるのです。

3 「創造基礎」の講義

①外部講師の講義

創造基礎では、外部講師が月に1回程度の講義を担当します。生徒たちは、講義の半分ほどの時間を使って外部講師に質問をします。
 創造科学科の生徒たちは正解のない問題の解決に向けて挑戦しています。正解のない問題の実状は、その分野の第一線で活躍している人でないと分からないので、外部の様々な分野から講師を呼んでいます。例えば、NPOの職員や外務省の職員、新聞記者などに講義を依頼したことがあります。講義のテーマとしては、そのときに社会で問題となっていることから選んでいます。例えば、過労死の問題が話題になっているときは、過労死防止に取り組んでいる団体の職員や弁護士に依頼しました。

②新聞ノートの活用

生徒たちは、講義の予習として、新聞ノートを活用しています。外部講師の講演のテーマに合わせて新聞記事を選びます。
 クラスの班で新聞ノートを1冊ずつ作っていきます。クラス内の班で順番を決めて回していくので、新聞ノートを作る頻度は2週間に1回となります。
 作り方としては、見開きのノートの左ページに新聞記事を貼ります。右ページに選んだ理由、記事を読んだ感想、感想に対するコメントを書きます。記事を読んだ感想を書くとき、記事に対して自分の立場を示し、その理由も述べていきます。また、班内で記事の担当者の次の人は、前の人の内容に対して自分の立場を明確にしてコメントをします。

③論述試験の実施

創造基礎の1学期の講義の集大成として、生徒たちは論述試験に取り組みます。例えば、1年生1学期の「創造基礎」の論述テストでは以下のような問題が出題されました。教師は、1学期の創造基礎をこの論述試験を通して評価します。

1. 創造基礎の学習のうち、あなたにとって特に関心があった分野について学んだ知識をまとめよ。また、その知識が他の教科や普段の生活にどのように関連しているかについても触れること。

2. 創造基礎の学習のうち、あなたが将来役立つと考える内容を一つ上げ、まとめよ。その際に、学習前のあなたの考えが学習後どのように変わったのか、また、その内容がなぜ役立つと考えるのかについて触れること。

3. 創造基礎の学習を通して、地域や社会を改善していくために、あなたはどのようなことをやりたいかまとめよ。なお、その目的(ビジョン)を明確にして、具体的な変化の見通しについて触れること。

4 「創造基礎」の研究活動

①研究活動の進め方

創造科学科では、研究活動も重視しています。1年生は、4月の一番最初の授業で神戸市の長田区役所で職員から長田区の課題について学びます。具体的には、長田区の高齢化や人口の減少、産業の衰退、外国人の増加などです。生徒たちは区役所でそれらの課題を学んだうえで、そこから研究テーマを探していきます。
 基本的に、教師は研究活動を生徒たちに任せます。中には、大学の教授に論文のアドバイスを求めたり、研究テーマの著作を読んだりする生徒もいます。
 研究活動の一環として、生徒たちは地域課題に真剣に取り組む人にフィールドワークとして訪問します。フィールドワーク先としては、行政機関や商店街、NPOなどです。フィールドワークを通じて、地域課題の整理や意見交換を行います。

②大学院生との連携

創造科学科では定期的に大学院と連携して、大学院生が生徒たちの研究活動のサポートに入っています。学部生ではなく、大学院生との連携を行うのは、学部生よりも大学院生の方が専門分野がはっきりと決まっているからです。
 大学院生は、1年生の理系の課題研究では、研究のサポートに入ります。2年生の文系の「創造応用」では、プレゼンテーションの指導を担います。具体的には、生徒自身がプレゼンテーションのときに、自分の言葉で発表できるようにサポートしています。

5 「創造基礎」の実践活動

創造基礎は、1年生10月から生徒たちが講義や研究を通して深めたテーマで実践活動を行います。実践活動では、生徒たちが企画したものを実際のイベントに持ち込みます。実践活動の具体的な内容は次の通りです。例えば、多文化共生をテーマにしたときは、生徒たちは日本とベトナムのコラボ料理を企画しました。地域のベトナム料理屋さんと協力のもと、生徒たちはコラボ料理である「長田フォー」と「ぼっかけバイン・ミー」を「まちの文化祭2019」に出店しました。また、高齢者と子どもたちの世代間交流をテーマにしたときは、生徒たちは地蔵盆でおもちゃ作りを通して高齢者と子どもたちをつなぐ企画を持ち込みました。
 実践活動は、連携先を見つけて連絡を取り、立案した企画を実行するまで生徒主体で行います。1年生が中心となって実践活動を行いますが、中には2年生になっても実践活動を続ける意欲のある生徒もいます。

6 プロフィール

窪田勉先生
 
兵庫県立兵庫高等学校教諭(地歴公民科)。勤務校ではグローバルリーダーを育成する「創造科学科」設置から関わり、シティズンシップ教育の概念を軸に教育実践に取り組む。“A Unique Approach to Global Citizenship Education: Research-based learning at Hyogo High School in Japan”(Journal of the Association for Citizenship Teaching,48, ACT, 2018)。『多文化共生のためのシティズンシップ教育実践ハンドブック』(共著、明石書店、2020年)日本シティズンシップ教育学会理事。ワンワールドフェスティバル for Youth 運営委員。
(2020年2月19日時点のものです)

7 編集後記

創造基礎の1年間のカリキュラムは、講義・研究・実践活動と盛りだくさんに感じました。また研究と実践活動は生徒主体の学習活動で、講義は生徒のインプットが中心となると思っていました。しかし、講義も生徒主体の学習活動になるように、質疑応答に重きを置いたり、新聞ノートの活用や論述試験を取り入れていることが印象に残りました。講義や研究、実践活動の全てを初めから実践していくことは難しいと思いますが、新聞ノートの活用など少しでも実践のためにお役に立てれば幸いです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 清川・白石)

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