防災カードゲーム「クロスロード」で新たな防災の知識を得よう!【防災教育実践特集〜第2弾〜】

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目次

1 はじめに

2020年3月20日に開催予定であった、NPO法人ROJE・災害と教育事業部わたげプロジェクトのイベント「防災教育実践交流会2020・春〜多様な防災教育の在り方を知り、考える〜」が昨今の新型コロナウイルス感染症の全国的な流行を受け、延期されました。そこで、参加予定だった方の防災教育実践をいくつか、EDUPEDIAにてご紹介いたします。今回ご紹介するのは「神戸クロスロード研究会」の実践です。「クロスロード」は防災に関する、どちらを選んでも何らかの犠牲を払わなければならないというジレンマを参加者が自分自身で決断し、「YES」か「NO」の判断を下し、その理由を説明します。自分とは異なる意見や価値観・他者の経験から災害対応への知恵を学ぶことができ、防災を他人事ではなく自分ごととして捉えられるようになる「クロスロード」についてご紹介します。

【防災教育実践特集】
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2 組織紹介

「神戸クロスロード研究会」(会員27名)は、2005年に神戸市職員有志により設立され、自治体・地域・学校などを中心に、様々な地域・世代・団体に対して15年間、クロスロードを使った防災啓発を行ってきました(約700回、のべ4万人)。2019年12月には、神戸市内の中学校における防災授業において、「クロスロード」を行いました。「クロスロード」の公式問題に加え、独自に設問を作成し、もし災害が起きたらどう行動するのか、震災体験の伝承について市民の方々や中学生に考えてもらいました。本記事では中学校で行った「クロスロード」について詳しく書きます。

3 「クロスロード」で他者から災害対応の知恵を学ぼう!

「クロスロード」とは?

防災カードゲーム「クロスロード」は、阪神・淡路大震災の体験を元に2003年に開発されました。災害時に難しい判断を迫られる様々なケースにおいて、どのような対応をするか「YES」か「NO」で回答することで、判断に迫られる災害対応を疑似体験するゲームです。また、子どもから大人までゲーム感覚で楽しみながら、災害対応について主体的に考え、防災行動を促すことができます。「クロスロード」の問題に正解はないため、自分とは異なる意見や価値観・他者の経験から災害対応への知恵を学べます

<ゲームの詳細>

【ゲームの流れ】

トランプ大の「YES」「NO」カードを使い、ゲームを行います。参加者は5〜7人のグループに分かれて、出題された問題に対して「YES」か「NO」を決断し、その決断をした理由を述べ合います。

【ルール・面白いポイント】

①設問に対して、「YES」か「NO」を決断し、必ず回答する。
☆答えを出しづらい問題に対しても必ず回答するので、その後の議論で話がしやすい。議論を深められる。

②「オープン!」のかけ声で一斉にカードを表にする。多数派がポイント(青座布団)をゲット。
☆表を向けた瞬間、おもわず声が出てしまう。ポイントをゲットできたのか、一目でわかる。「クロスロード」が最も盛り上がる瞬間。

③自分が出した回答に対し、グループのメンバーに必ず自分の言葉でその理由を説明する。
☆コミュニケーション力を高めることができる。お互いの意見を聞くことで、議論を深められる。

【神戸市内の中学校で行った問題の内容】

①あなたは:中学生
 地震で自宅は半壊状態、家族そろって避難所へ。だが、日頃の備えが幸いし、非常持ち出し袋には水も食糧も3日分はある。一方、避難所には水も食糧も持たない家族多数。
 その前で、非常持ち出し袋をあける?

②あなたは:中学生
 最近、家族で新しいマンションに引っ越しをした。家族みんなが新しい家を気に入っている。しかし、大地震がきたら家具が倒れるかもしれない。お父さんは、耐震金具をつけると言っているが、お母さんはそんな格好の悪いことは嫌、と反対している。
 どちらに賛成する?

③あなたは:中学生
 登校中、通学路で大地震が発生。地面に伏せて揺れがおさまるのを待った。見回すと、あたりの家は瓦や壁などが崩れている。家族と家が心配だ。
 家に帰る?

④あなたは:神戸の大学生
 全国的に災害が多発する中、神戸で震災体験を聞いたり、防災学習をしたいと修学旅行生がやって来る。しかし、震災体験の語り部が高齢化し、活動が難しくなってきた。今後も伝承活動を続けるためには若手が活動を引き継ぐ必要があるが、成り手が少ない。
 応募する?

【「クロスロード」を行った結果】

【生徒の感想(※一部抜粋)】

※4問の中で迷ったと回答した生徒が1番多い問題から順に掲載しています。
〈登校中の大地震〉
・家族が心配。自分の身の安全を優先させるのか、事前に決めておかないと、家に帰るのか中学に行くのかとても迷う。家に帰っておけばと後悔しないかも迷う。
・学校に行く方が安全だと思うが、家族が気になり、帰りたい気持ちが強く迷う。
・家の前に集合と家族で決めているが、中学に行く方が安全だと思うと迷う。
〈語り部に応募する?〉
・面倒臭いと思うが、伝承活動を続ける事で災害などの恐怖を伝えることができる。
・人前で話す事が得意でないし、地震の経験もない。だけど、誰かがやらなければ忘れられてしまう。風化してしまうことは最もいけないことだ。そう思うと迷う。
・災害の実体験がないのに伝承活動に参加していいのか悩む。
・未経験者が語ると説得力が無いのでは。しかし、若い人が受け継がなければ途絶えてしまう。
〈非常持ち出し袋をあける?〉
・多くの人が食料が無い状況で、その場で食べることはできない。でも、災害時に必要なモノなのであけるべきなのか迷った。
・あけたら、ねだられるかもしれない。全員に分配できるほどの量はない。盗難などにあう可能性があり、混乱を招くかもしれない。
・あけた時、周りから頂戴といわれると自分の分が無くなる恐れがある。

4 講師の方の感想

<神戸市内の中学校で「クロスロード」を行って>
「クロスロード」による防災授業により、楽しく防災について学ぶことができ、中学生は様々な気づきがあったようである。特に非常用持ち出し袋やハザードマップの確認などはすぐに行動することができ、アンケートにおいても家族ですぐに話をして、 準備したいという意見が多かった。今回、独自に作成した問いについて、以下の気づきがあった。通学路で地震にあった時の行動について、事前にその事態を想定しておらず、どう行動すべきか迷うという意見が多かった。事前に家族や周りと話し合っておく必要がある。また、伝承活動に関する問いにおいて、『伝承』という活動は重要であり、今後も必要であると考えている一方、自分は伝承活動には関われないという意見が多かった。神戸において、防災学習はたいてい行われていると思うが、震災経験の『伝承』には結びついていないように思う。今後も、中学校の防災授業における「クロスロード」を実施する機会を設け、中学生に災害時への備えに対して考えてもらいたい。そして普段から備えに対する行動を促していきたい。

5 講師・組織紹介

福田敬正
「神戸市クロスロード研究会」の一員。
 
「神戸クロスロード研究会」
神戸の震災体験の継承やファシリテーションツールとしての「クロスロード」の可能性に興味を持った神戸市職員有志により、2005年9月、20名からなる「神戸クロスロード研究会」が設立された。 神戸市職員の震災体験から生まれた「クロスロード」を自治体・企業・NPOの危機管理研修、地域の防災訓練等で活用することにより、震災の教訓を伝える活動を行っている。(2005年~2018年度で750回のクロスロード・ワークショップを実施、約43,000名が体験)
(2020年3月現在)

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7 編集後記

「クロスロード」は答えを出しづらい問題に対しても答えを出し、意見を交換し合うので、今までにはなかった新たな知恵を得られると感じました。「クロスロード」を通して防災の知識を増やしていただければ幸いです。
(編集:EDUPEDIA編集部 加古)

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