【鈴木寛先生インタビュー】小・中学校、高校での公正な個別最適化と協働的な学びとは【変わりゆく時代、変わりゆく大学〜問い直そう!大学の役割〜】ROJE関東教育フォーラム2021

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作成者: 吉田 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

この記事は、2021年5月15日にYouTubeでライブ配信されたNPO法人ROJE主催ROJE関東教育フォーラム2021「変わりゆく時代、変わりゆく大学~問い直そう!大学の役割~」後に行われた、パネルディスカッションの登壇者の一人である鈴木寛先生へのインタビューの内容を記事化したものです。

ROJE関東教育フォーラムのパネルディスカッションでは大学におけるデジタル化の話が中心となっていましたが、本記事では主に小・中学校でのデジタル端末導入についてのお話をご紹介します。また、教育改革に伴って必要となるマインドチェンジについてもお聞きしました。ぜひ一読ください。

※当フォーラムでは、新型コロナウイルスの感染防止のために適切な対策を講じています。

☆ROJE関東フォーラム2021のアーカイブ配信はこちらからご覧ください。

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2 義務教育レベルでのデジタル化

現在、日本は諸外国に比べてもデジタル化が圧倒的に遅れており、差がついています。また、GIGAスクール構想導入前はパソコンや学習端末を購入できる家庭と、そうでない家庭との差が大きくなっていたという実態もありました。そのため、一人一台端末を導入することによって、経済的に裕福でない家庭の子どもでもデジタル端末にアクセスができるようになったことは大きな意味があります。

デジタル端末の活用

教育管理者にとってのメリット

デジタル端末が普及するということはネットワークとハードウェアが広く使用されるということです。これによって過去の人、未来の人、遠く離れた人、要は時間と空間を超えて、学びというものがシェア・コラボレーションできるようになります。これに加えて学習記録・成績をアーカイブすること、これらをAIによって様々に分析・解析することができるようになります。これを学校で実践すれば、子どもの学習を記録し蓄積することにより、学年が上がり担任が変わってもシェアが容易になります。またそれだけではなく、学校のカウンセラーや保護者とも簡単にシェアができるようになります。これらがデジタル化の最大のメリットです。

学習者にとってのメリット

端末使用によって、管理者だけではなく子どもたち自身が時間と空間を超えて学びをシェアし、協働で学べるようになります。また、過去に自分で学んだものをリフレクションすることもできるようになります。学びというものは学ぶ側と管理する側の相互作用によって成立するものなので、デジタル化によってその幅が広げられるということになります。まず子どもにとって一緒に学ぶ教員を選べるようになるという利点があります。また、時間と空間を超えた人と学べるようになったり、ティームティーチングのように複数の教員が協働で1つの授業を作ることも容易になったりもします。これは公正な個別最適化につながります。つまり、教員、学友との相性を尊重できるようになり学ぶ環境の多様化が広がります。今までは固定されていた担任・クラスが、デジタル化によって自由に選べるようになり、教室外の人とも繋がれるようになります。つまり、公正な個別最適化と協働的な学びが実現するプラットフォームとしてデジタル化が必要だということです。
 

具象物に触れる中での学びとデジタル化

具象物に触れる中での学びはとても大切なことだと思います。そういった時間はもっとも大切にしなければなりません。しかし、具象物に触れることとデジタルを排除することは別問題です。つまり、具象物から学ぶ時間の確保は、デジタル化を排除することの理由になり得ないということです。共産主義でない限り、デジタル化を排除することは時代性からしてもう不可能になっています。なぜなら、中学生の大半、小学生の一部はスマートフォンを持っているからです。

もしもこれをゼロから議論できるのであれば、子どもから携帯を奪う目的で、子どもに対する携帯販売の厳しい法律を作ることができるかもしれません。しかし、それはこの自由主義の国では不可能です。だから、そういった具象物に触れる中での学習が大事だという考えは当たり前ですが、先ほどから述べている通りデジタル化をやらないこととは別のことです。既に子どもたちはデジタルの無法地帯にも放り込まれてしまっているということを前提にすれば、その中でより安全かつ有効にデジタルライフを送るということを考えるのが、現場の人たち・政策を考える人たちがやるべきことだと思っています。こういった状況下で非常に悪質なのは、例えば子どもたちがゲームにはまってしまうということです。そういうことが実際に起こっているわけです。それを放置する訳にはいきません。子どもたちに具象物の交わりが重要だというメッセージを伝えても、子どもたちの行動は変わっていません。だからこそ、どのように子どもたちのリアルとバーチャルのベストハイブリッドを実行していくかということを考えていくことが必要です。子どもたちからデジタルなものを奪い取ることは、民主主義の国では不可能です。

既にデジタル化してしまっているというのが現状なので、子どもたちの成長にとってよりよいデジタル端末との付き合い方を学んでもらうことが必要不可欠です。加えて、具象物と接する時間をいかに確保するかということにもより重要な意味があります。例えば、学校というのはある意味でデジタルフリーな時間を確保する極めて大事な場所とも言えます。学校ならデジタルフリーをある程度コントロールできるからです。それを家庭にコントロールさせることが、もちろん理想ではあるのですが、家庭だけで完全にコントロールすることは不可能です。だからこそ学校にいる時間はあえてデジタルフリーにするのです。そういう意味で学校がベストハイブリッドを学ぶ場なのです。

ベストハイブリッドの教え方

だから全部の授業にデジタル端末を用いればよいという問題ではありません。私は大学の助教授をやりながら情報の教員をやっていた経験があります。最初に1ヶ月間教えたときは、子どもたちにパソコンを触らせませんでした。パソコンの苦手なこと、あるいはパソコンの危険なことをみんなでまず考えさせました。それこそがまさに教科「情報」だと思います。教科「情報」という時間があるから、そのことを考える1ヶ月というものを作れたわけです。パソコンとの付き合い方を教えず、放置しておいたら、そういうことを考える機会すらなかったと思います。テクノロジーはどのようなものであっても、必ず光と影の側面を併せ持っています。いわば、諸刃の剣です。だからデジタル端末はやはり使い方、あるいは付き合い方を正しく教えないといけません。例えば包丁は料理にも使えますが下手に使えば凶器にもなります。デジタル端末も同じです。うまく教えることが重要だということです。

3 入試内容の変化に伴う教育

今は選抜方法やそれに伴う教育内容の過渡期であり、皆さん大変だと思います。慶応義塾大学の入学試験では、クリエイティブな人材育成を完全に目指した高校の入学試験をやっています。まさに正解主義ではないのです。加えて国立大学は、3割の入学定員は、総合型選抜に変えるという方針を国立大学協会が出しました。既に今年で2割が総合型選抜になりました。今まではSFC・慶應大学の一部だけでしたが、これを一挙に国立大学が行うことになったことで、大きく流れが変わります。国立大学がこのような入学者選考方針を出すことによって、高校生の学びが変わります。学校の学びだけではなく放課後の家庭・塾での学びが劇的に変わっています。あるいは、このような新たな入試に向けて、脱正解主義を意識した塾も出てきています。入試をきっかけに大きく世の中が変わっていきます。そして、2020年4月に小学校、2021年4月に中学校、2022年4月に高校の学習指導要領が変わります。

例えば高校の学習指導要領の改訂に伴い、理数探究、総合探究という答えのない問題課題に取り組む授業が入ります。あるいは公共という、板挟みと想定外の中で最適解を見つけていくような授業も入ってきます。更には暗記の代表だった歴史・地理が歴史総合・地理総合に変わり、社会という教科も思考力が必要になっていきます。高等学校の学習指導要領も変わるということで、もちろん知識技能は引き続き重要ですが、思考力とのバランスがかなり変わっていきます。1990年から慶應義塾大学のSFCはこのようなことに取り組んできましたが、それは非常に少数派でした。あるいは高校の中にも、マイプロジェクトなどに一生懸命取り組む生徒や教員もいましたが、それも少数派でした。現在に至り、ようやく市民権を得ました。しかし今、学校による格差がつきすぎて、こういった探究ということに対して、ものすごく積極的な学校と、未だにそういうことについての理解の低い学校との格差が、最大の社会問題になっています。そういう意味では校長、教員のマインドセットをどのように変えていくのかが非常に重要です。今、47都道府県の地域差は深刻です。現在、以上に言ったようなことの過渡期にあります。

4 教員の過労問題への対応

教員の過労問題の要因

もっと教員の教え方を効率化していかなければなりません。やはり要領がつかめない人も正直多いと思います。教え方の要領をつかむために必要なことは教員自身のメタ認知です。要するに何が本当に重要で、何のためにこの学びをしているのかを考えることです。闇雲に下りてきた学習指導要領を全部やろうとするのは厳しいと思います。新しい学習指導要領の導入に適応するために苦労する教員は少ないはずです。本当に問題なのはモンスターペアレントへの対応といったことだと思います。要するに教員の多忙感はもっと別のところにあると思っています。

デジタル教材を活用した授業の展開例

学習指導要領は今後もアップデートされていきます。新しい内容を勉強するためにも、モンスターペアレント等の様々な問題に対処していかねばなりません。教員が子どものために使う時間が増やせるように、対処を考えなければなりません。ただ、学習指導要領に従わなくてもよいというような考え方は本末転倒の議論です。それではAIに取って代わられるような能力を引き続き学び続ける方向になってしまっています。子どもがかわいそうなことは教員もやりたくないからこそ、基本的に子どもの未来にとってよいと思うことを一生懸命やることが重要です。

しかしそれに対して一部のマスコミや保護者が騒ぎすぎている現状があります。だから、教員に対してタスクを減らすのではなく自由に動ける裁量を増やしてあげてほしいと思っています。例えば、既存の学びであればQubenaNHK for schoolは非常に有効です。これらを活用すれば既存の授業の就業時間は圧倒的に減ります。要するに知識技能の収容部分については多くの研究があるため、そこを真面目に教えすぎず、QubenaやNHKforschoolで代替したらよいと考えています。その分で空いた時間を探究に使うことができます。あるいはそれらのデジタル教材で対応できてない子どもの個別学習にあたることもできます。それが実現できればよいのですが、そういう発想に至らなかったり、その教育法に対して心無いことを言う保護者がいたりします。

保護者や管理職に求められる姿勢

保護者や管理職は教員をもっと信頼し、任せてほしいと思います。そうすれば教員は、ここは便利なデジタル教材を使おう、あるいはここはデジタル教科書でみんなで自習しといてもらおうと切り替えることができます。大事なのは教員が教えることではなく、子どもたちが能力を付けられることだからです。さらに研究では、へたに自分が直接教えることに熱心になりすぎて、教えた気になっているよりは、しっかりとした補助教材を子どもに与えて最適化を図る方が時間も習得度も高いと出ています。しかし、それが実行できないのは「あの教員サボってるよ」と保護者や管理職に言われてしまう恐怖があるからです。だから、これを「サボってるよ」と責めなければよいということです。もう新しいものはどんどん使って下さい。それによって生じた時間を教員でしかできないことに研究・研修に充てて下さいという様に、保護者や管理職が応援してあげれば多忙の問題は解決できます。

5 変わりゆく教員の役割

やはり教員の役割は、子どものモチベーションを向上させること、子ども一人ひとりと対話することだと思います。これは、一人ひとりのモチベーションは異なっているので、人間でなければできない仕事だと思います。濃密な人間関係がなければ意欲や関心はわかないのです。意欲や関心が湧いた人に対しては今はよい教材がたくさんあります。実際に千代田区立麹町中学校の工藤校長はQubenaを使うことで、学習時間が7割に減って習得率が上がり、その余った3割を探究の時間にあてています。このような実践はたくさんありますが広がっていきません。なぜかというと、皆知らないからです。 

6 人間の役割

多くの人に学びとマインドチェンジが必要になってきます。そうすると、結局教員とはどんな役割なのか、学校は何のために行くのかという疑問が湧いてくるかもしれません。しかし本当に大切なのはモチベーション・動機づけ・関心づけです。例えば、友達が数学や理科に興味があったり、教員がある教科の面白い点を教えてくれたりといったありふれたことです。
 人の心を動かすところはやはり人間でないとできません。心が動いたら今や学べる環境はいくらでもあります。特に日本はコンテンツ大国ですから無料で素晴らしい教材を見ることができます。ぜひ活用してほしいと思います。

7 教育の核

今回のフォーラムでもお伝えしましたが、やはり大切なことは「未知との遭遇」をしたときにビビらないことだと思います。たとえ未知と遭遇しても、あるメソッドと、共に学ぶ仲間とそれを指導してくれる教員がいれば、必ず未知なるものだと理解し、それをマネージし、向き合うことができるようになります。このような力を身に着けていけば未知なるものは怖くありません。もちろんリスクもあるけれど、チャンスもあります。要するに、学べば無用な不安に駆られることはないということです。リスクはリスク、チャンスはチャンスと捉えられるようになり、心理的安全性を持って人生を生きていけるようになります。それによって、自分の幸せの再定義が非常に重要になってきます。人間の真の幸せとはなにか考える力を身につけるのも、教育の仕事です。そしてその幸せを掴むためにどうすればよいのかを教えるのも教育の仕事です。

まさに個々人のwell-being、これを高めるために必要な知識と技能と能力、態度、価値を学び続けてほしいです。一人では挫折してしまいますが、先輩、同輩、師匠など、みんなで学べば必ず乗り越えられます。それが教育の価値であり、安心地で失敗を続けられることにつながると思っています。

8 プロフィール

鈴木寛先生

東京大学公共政策大学院教授/慶應義塾大学政策・メディア研究科教授/NPO法人日本教育再興連盟代表理事

東京大学法学部卒業。通商産業省、慶應義塾大学助教授を経て参議院議員(12年間)。文部科学副大臣(二期)、文部科学大臣補佐官(四期)などを歴任。教育、医療、スポーツ、文化、科学技術イノベーションに関する政策づくりや各種プロデュースを中心に活動。現在、そのほかに大阪大学招聘教授(医学部)、千葉大学医学部客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、神奈川県参与、神奈川県立保健福祉大学理事、OECD教育スキル局教育2030プロジェクト役員、World
Economic Forum Global Future Council member、Asia Society Global
Education Center Advisor、Teach for All Global board member、日本サッカー協会理事、ユニバーサル未来推進協議会会長なども務める。

※プロフィールは2021年5月現在のものです。

9 編集後記

日本社会では海外と比較して電子マネーなどのデジタルを用いたシステムなどで遅れをとっており、それを補うために、教育でデジタルに強い人材を作っていくことがGIGAスクール構想だと思っている方も多いのではないでしょうか。しかし実際、学びの場におけるデジタル端末の利用は、子どものデジタル端末との付き合い方を学ぶことや、教員が効率的に働くために推進されているのだということが、本記事を通じて認識していただけたと思います。

子ども・教員・保護者にとってデジタル端末が効果的に導入されるために、柔軟な考え方・変化を恐れないマインドが重要になってくると感じました。この記事が多くの人にとって、今後の学校教育のあり方について考えるきっかけとなれば幸いです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 吉田、甲斐)

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