1.1 はじめに
この記事は、日本マイクロソフト社の「学習に困難のある子どものテクノロジー活用」という資料を記事化させて頂いたものです。
最新情報はこちらのサイトをご覧ください。
http://www.microsoft.com/ja-jp/enable
1.2 身体的な困難のある子どもとテクノロジー
身体的な困難がある子ども
日本の身体的な障碍がある18歳未満の子どもの数は93,100人おり、そのうち視覚障碍が4,900人、聴覚・言語障害が7,300人、肢体不自由が50,100人、内部障碍(心臓機能障碍等)が20,700人、重複障碍が15,200人となっています(推計・厚生労働省、平成18年身体障碍児・者実態調査)。
身体的障碍をもつ18歳未満の子どもは特別支援学校・学級のほか、通常学級に通学していますが、けがによる一時的な困難、病気による長期の入院など、統計に表れない子どももいます。
見ることの困難と役に立つテクノロジー
見ることに困難のある子どもが学習面で抱える難しさとして、次のようなことが挙げられます。
- 黒板や教科書の字を見るのが難しい
- 紙の教科書や教材がまぶしくて見にくい
- 文字や紙を全く見ることができない
これらの困難は、テクノロジーの活用で改善することが可能です。
- 自分の読みやすい大きさに文字を拡大・縮小したりコントラストを変更したりして、デジタルの教科書・教材を読むことが可能
- 全く文字が見えなくても、デジタル教科書や教材を読み上げさせて内容を理解することが可能
- 点字が必要な場合もデジタルデータがあると変換が容易
Windows8では、画面の一部や全体を拡大させたり、
コントラストを見やすくしたり、
画面の情報や自分が入力した文字を読み上げさせたりすることが可能です。
音声での読み上げ
ナレーターを起動します。
キーボードショートカットでも起動できます。
読み上げなどの細かい設定も行えます。
タッチなどで選択したところや入力したキーを読み上げます。
画面の拡大
拡大鏡を起動します。
キーボードショートカットでも起動できます。+キーを押すごとに拡大されます。
タッチやマウスで拡大させたいところを移動させます。
画面全体だけでなく一部分を拡大させることもできます。
聞くことの困難と役に立つテクノロジー
聞くことに困難のある子どもが学習面で抱える難しさとして、次のようなことが挙げられます。
- 先生の話していることや友達の発話が聞こえづらい、聞こえない
これらの困難は、テクノロジーの活用で改善することが可能です。
- 機器を使い、先生の声を耳元で聞く
- 音声情報を文字に自動変換したり、文字に変換してもらったもの(PC要約筆記)を見たりして学習する(音声認識機能で音声を文字に変換できます。)
手足が思うように動かせない困難と役に立つテクノロジー
手足を動かすことに困難のある子どもが学習面で抱える難しさとして、次のようなことが挙げられます。
- 鉛筆で文字を書くことが難しい
- 教科書のページをめくるのが難しい
- 重い教科書を持ち歩くのが難しい
これらの困難は、テクノロジーの活用で改善することが可能です。
- 障碍に応じたスイッチなどの入力機器や画面上のキーボードタッチ操作で、PCに文字を入力
- 紙の教科書のページめくりが難しくても、デジタル教科書や教材なら、タッチやクリック、スイッチでページめくりが可能
- 一台のPCに教科書や資料を入れることで移動が容易に
Windows8に標準でついているスクリーンキーボードを使うと、スイッチしか使えなくても、文字を入力することができます。
2つのキーを同時に押すことができないなど、押し間違いを防ぐ機能も標準でついています。
マウスがうまく使えない場合は、キーボードのテンキーでマウスカーソルを動かすことができます。
困難に合わせてタッチでもパソコンが使えます。
パソコンと一緒に使えるスイッチなどの入力機能が数多くあります。
1.3 発達障碍の子どもとテクノロジー
通常学級に通学する発達障碍と思われる子どもの数
通常学級に通学する発達障碍と思われる子どもは、全国の小中学校に66万人と言われています。これは小中学生1055万人のうち6.3%に当たります。このうち学習障碍(LD)と思われる子どもは47万人(4.5%)、注意欠陥/多動性障碍(ADHD)と思われる子どもは26万人(2.5%)、高機能自閉症、アスペルガー症候群と思われる子どもは8.5万人(0.8%)となっています。(文部科学省2002年「通常の学級に在籍する特別な教育支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」より、知的発達に遅れはないものの学習面や行動面の各領域で著しい困難を示すと担任教師が回答した児童生徒の割合)
読むことや書くことの困難と役に立つテクノロジー
読むことや書くことに困難のある子どもが学習面で抱える難しさとして、次のようなことが挙げられます。
- 紙に書かれていること、視覚からの情報を理解することが苦手(読字障碍)
- 考えていることを鉛筆で書き表すことが苦手(書字障碍)
これらの困難は、テクノロジーの活用で改善することが可能です。
- 音声で聞いて内容を理解する
- パソコンに自動的にふりがなを振る
- 行間を変える、構造化するなど、理解しやすいレイアウトに変更する
- 不要な部分を隠して、注目がいきやすいようにする
- 画面のコントラストを調整する
- キーボードでパソコンに文章を書く
- 文字を学ぶツールで、間違えやすい部分を目立たせて学習する
- 音声認識機能で、音声を文字に自動的に変換させる
集中やこだわりの困難と役に立つテクノロジー
集中するのが難しかったり、こだわりを持っていたりする子どもが学習面で抱える難しさとして、次のようなことが挙げられます。
- 集中するのが難しい、不注意がある(行動の問題)(ADHD)
- 得意なことがある一方、極端に不得手なものがある、集中しすぎることで忘れてしまう、感覚が過敏(対人関係やこだわりの問題)(アスペルガー症候群、高機能自閉症)
これらの困難は、テクノロジーの活用で改善することが可能です。
- アニメーションなどを使ったデジタル教科書や教材で集中させる
- 間違えやすい部分をデジタル教科書・教材で目立たせて学習する
- 不要な部分を隠して、注目がいきやすいようにする
- 繰り返しが容易なデジタル教材で学習する
- 録音して後で確認できるようにする
- 授業の内容をデジタルノートなどで構造化して学習する
- 何度も確認ができるように口頭だけでなくメールなど文字で説明する
- 画面のコントラストを調整する
プレゼンテーションソフトのパワーポイントを、教材として活用
アレンジ可能な文字を学ぶためのスライドや教材として使えるスライドを無償提供
試験時のパソコン利用を支援するため、IMEの変換候補をすべてログとして保存するアプリケーションを無償提供
パワーポイントの文字スライド
文字のフォントサイズを大きくするだけでなく…
実はバラバラのパーツでできているので、アレンジして使用できます。
書き順ごとにアニメーションになっているので、そのまま書き順の勉強もできます。
パワーポイントなので色やサイズの変更も簡単です。
発達障碍のある人が学習にテクノロジーを活用した事例
【事例1】A君
アスペルガー症候群、文字を書くことが苦手
20歳(当時)で、漢字の書き取りは小学校2年生レベル
↓
しかし、教諭の勧めで、大学受験を決意
↓
マークシートには入力できるが、小論文や筆記試験は頭の中に答えがあっても書くことが難しい
↓
入試でパソコンを使用することを申請
↓
見事 志望校に合格
「合理的な配慮」があれば、進路が開けます。
【事例2】B君、C君
読むことに困難のある小学校5年生(当時)
↓
授業において「聞けば理解できる」という場面が多かった
↓
試験についても、先生が巡回時に問題文を読み上げて支援すると回答できた
↓
授業中にデジタル教科書をヘッドフォンで聞いて学習し、デジタル化されたテストを耳で聞いて受けたことで、テストの点数が5点、10点から平均点に近い点数にアップ
1.4 一般的なテクノロジーの活用
オンラインコミュニケーションサービスの活用
オンラインコミュニケーションサービスは、通学が難しい肢体不自由がある子どもや、病気による長期入院の子どもの学習に活用することができます。
例えば、オンラインコミュニケーションサービス「Microsoft Lync」で、先生や教室の様子を見たり、資料を共有したり、質問をしたりしながら、リアルタイムで授業に参加することができます。
録画も容易で、授業後も繰り返し学習することが可能です。
重度障碍児の活動支援
重度の障碍のある人の手や体、顔(目や口)のわずかな動きを「Microsoft KINECTセンサー」で検出し、キーボードの入力や家電の操作などを行うことができます。KINECTセンサーとWindowsパソコンはUSBで接続できます。利用する人の動かせる部位、動きの特徴により、容易に調整が可能です。
学習に遅れがある、学習をするうえで困難がある子どもにこそ、テクロノジーを活用して、可能性を拡げることが重要です。
同じ土俵にのってフェアな勝負をするためにテクノロジーを活用することは、合理的配慮といえます。
最新情報はこちらのサイトをご覧ください。
http://www.microsoft.com/ja-jp/enable
1.5 編集後記
障碍があっても、テクノロジーを活用することで困難を乗り越えて学習することができます。様々な理由で学習に困難を抱える子どもには、相応の配慮が必要だと思います。どんな子どもの可能性をも広げるために、こういったテクノロジーを積極的に導入していくべきなのではないでしょうか。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 安井愛弓美)
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