百ます計算で人格の完成を目指す②~特訓型~(岡篤先生)

はじめに

この記事は、岡篤先生が運営されているメールマガジンから引用、加筆させて頂いたものです。岡先生のメールマガジンはこちらです。

http://www.mag2.com/w/0001346435.html

この実践は2つの記事に分かれております。前半はこちらです。
https://edupedia.jp/entries/show/994

「特訓型」の手立て

■一生懸命しているのに遅かった子に

「温泉型」とは別の年に2年生を担任したときのことです。いつものように、4月早々に、実態調査を兼ねて百ます計算をやってみました。そのときのクラスでは、計算が飛び抜けて遅いT 君という子が一人いました。他の子がどんどん終わっていくのに、自分ができないことにびっくりしているような表情をしていました。いつもなら、そこからすぐに百ます計算を始めるところですが、このときはふと別のことを考えました。「特訓」です。

■特訓を選ぶ子もいる

休み時間にT君を呼んで話をしました。
「さっきの百ます計算は、ちょっと時間がかかったよね。」
しかられると思ったのでしょうか、少し元気がありません。
「でも、絶対大丈夫。練習したら、どんどん速くなるから。」
私の目をまっすぐに見てうなずきました。
「次に、クラスで百ます計算をするのは、1週間後なんだけど、それまでに練習しておかない?ちょっと宿題が多くなるんだけど。」
先ほどよりも強くうなずきました。
ちょうど、翌日がT君の家庭訪問にあたっていたため、お母さんにこの件を話しました。遅れていることを気にされるかとも思いましたが、
「ありがとうございます。よろこんでやっています。」と感謝してもらえました。

それから1週間、毎日T君だけに百ます計算のプリントを宿題としてわたしました。2回ほど、休み時間にもやってみましたが、期待通り順調に計算力が伸びていました。

「特訓型」の成果

■1週間後のクラスで

1週間後、クラスで百ます計算に取り組む日になりました。2回目だけあって、全体的に百ます計算がスムーズに進んでいます。T君も緊張した表情で取り組んでいます。1人、2人と終わった子が手を挙げ始めました。40人のクラスの半数が終わった頃、T君がさっと手を挙げました。私の方をしっかり見つめています。周りの子がびっくりしました。
「T君、もう終わったの?」
となりの子がT君のプリントをのぞき込みました。
「ほんとだ、おわってる!」
へえーという声があがりました。T君は、固かった表情をやや和らげて、にこりとしました。全員が終わってから、T君の1週間の努力について説明しました。

■驚くクラスメートに

T君のこの1週間の努力を、クラスのみんなに説明しました。T君の急成長について、他の子たちも興味津々です。
「T君は、最初に百ます計算をしたときは1番おそかったでしょ。」
顔を見回しながら話しました。
「そうそう。」
1人の女の子がうなずいています。
「ぼくより、ずっとおそかったのに、今日はぬかれた!」
T君のとなりのY君です。素直におどろいた表情をしています。
「それでT君は、1週間みんなより宿題をたくさんしました。毎日百ます計算のプリントを自分だけやっていたんです。」
「ええー、すごい。」「なんだ、ぼくもやりたかったなあ。」

■百ます計算は努力の象徴

「たった1週間だけど、T君は一生懸命練習したんです。そうしたら、あんなにみんなから遅れていたのに、追いつくことができました。」
「おー。」
Y君がおおげさなリアクションをしてみせました。周りの子がつられて笑っています。
「今日からは、みんなでがんばります。得意な子は今よりもっと得意になるように、苦手な子は少しずつ苦手でなくなるようにしましょう。T君が見せてくれたように、練習したら絶対、タイムはよくなるからね。」
「よーし、明日はもっと速くなる!」
子どもたちは次々と百ます計算への思いを口に出しています。

■使い方次第

「人格の完成」を目指すという視点で、百ます計算を見直してみました。
T君は、百ます計算で最初は自信を失いかけました。しかし、「特訓」によってみんなに追いつくことができました。この経験は、T君の人格形成にとってプラスにはたらいたといってよいでしょう。クラスの子にとってはどうでしょう。これは、何ともいえません。私にとって、よい反応をしてくれた子の印象が強く残っているだけかもしれません。

しかし、最初はとても百ます計算が遅かったクラスメートが1週間で速くなり、その秘密が陰でこつこつと努力をしていたことだというのは、よい刺激になったのではないかと期待しています。そこからさらにクラス全体で継続的に取り組むのですから、百ます計算は、子どもたちが切磋琢磨し、互いを高めあえる場となったといえるのではないでしょうか。

まとめ

■百ます計算は計算力を伸ばすだけではない

私の場合、「温泉型」と「特訓型」という一見正反対に見える方法を使って、その子に合わせたやり方でどの子も計算力を伸ばすことを考えています。

もちろん計算ですから、算数の一部です。しかし、学級経営の中での百ます計算は単に計算が正確で速くなることだけが目的ではありません。タイムが伸びることによって得られる自己肯定感や努力を続ける根気、真剣に1つのことに取り組む集中力、友だちの成長も喜べる共感力、といったようなことを同時に育てることも大切なねらいです。

これらは、大きな視野でとらえた場合、「人格の完成」を目指す取り組みといってもよいでしょう。

■百ます計算批判をよくみると

百ます計算は一時大きな話題をよび、それとともに厳しい批判も出ました。「機械的である」「スピードにこだわる必要はない」「百ます計算がいやで不登校になった子がいる」等々です。

百ます計算を「人格の完成」を目指すという意識なしに取り組んだ場合、子どもに伸びを実感させる手立てをとらなかったり(最初のタイムを計っていない、子どもに計算力の伸びに着目させない等)、他の子との競争に追い込んだり(順位をつけて競わせる等)といったことになる危険性もあります。スピードにこだわりすぎて順位をつけていくと下位の子どもにとっては辛い経験になり、それがきっかけになって不登校になる子がいるかもしれません。

しかし、これらのことは、百ます計算自体の問題ではなく、指導者側の意識の問題です。そう考えればどんなにすぐれた指導法でも、配慮不足で、使い方を誤って行えば、同じような問題は生じてくるはずです。

■百ます計算だけではない

例えば、掃除も同じです。これも「人格の完成」を遠い先に視野に入れていれば、ただ叱ったり、強制したりということにはならないはずです。

ほうきやぞうきんの使い方をていねいに教えれば、子どもはそのやり方を活用することが楽しみになるでしょう。きれいにした場所をふりかえらせて、その気持ちよさや充実感を味わわせる場を意図的に作れば、掃除に進んで取り組む子になる可能性があります。

つまり、百ます計算であっても掃除であっても、どんな取り組みであっても、計算ができる、掃除をきちんとする、ということの向こうに「人格の完成」を意識すると、ずいぶんと指導の内容や方法が変わってきます。

教育基本法という普段はほとんど見ることのない法律の、そのまた一部に過ぎない「人格の完成」という言葉は、実は教育実践の上で有効な言葉でもあったということです。

編集後記

「温泉型」「特訓型」どちらにしても、他の子どもたちとペースが違う子どもに対して劣等感を抱かせずにいかに学習させるかということを、よく考えられた上でのやり方だと思いました。それだけでなく、周りの子どもたちへの配慮もしっかりされており「人格の完成」が目標として意識されているなと思いました。どんな指導法でもやり方次第でいかようにも変えられるということを実感しました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 杉田 彩)

講師プロフィール

岡 篤(おかあつし)
神戸市立好徳小学校教諭。
漢字と俳句の実践に力を入れている。
学力研( http://gakuryoku.info/)という研究会に所属。
●主な著書
『読み書き計算を豊かな学力へ』明治図書出版 2000年 http://amzn.to/X7QQh0
『書きの力を確実につける』明治図書出版 2002年 http://amzn.to/Y8C3Sw
『これならできる!漢字指導法』高文研 2002年 http://amzn.to/Zahyvq
『字源・さかのぼりくり返しの指導法』ひまわり社 2008年 http://amzn.to/UMmWCs 
『教室俳句で言語活動を活性化する』明治図書出版 2010年 http://amzn.to/WJQFMe
●HP
教師の基礎技術~若い先生へ
http://blogs.dion.ne.jp/aoka5/

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