学級ワンダーランド計画(古川光弘先生)

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目次

1 はじめに

みなさんは学級ワンダーランド計画という言葉を耳にしたことはありますか?教育新聞の連載でご存知の方もいらっしゃるかもしれません。本記事では、名前を聞いただけでわくわくしてくる学級経営の提唱者・古川光弘先生のお話をまとめています。様々な制約があり学級経営が難しい中での指導方法を、横糸と縦糸をうまくつむいでいく織物に喩えて話してくださいました。

2 子どもに寄り添う −横糸を紡ぐI −

横糸とは子どもたち同士の関係です。担任はそれらをできるだけ正確に把握したいと思いつつも、ただ見ているだけではなかなかわからないものです。そこで3つのアイデアがあります。それぞれ説明の文章の次に写真を入れました。

  1. ソシオメトリックテストで人間関係をつかむ
  2. 文章完成法で子どもたちを観察する
  3. 今、再び、「ひとりぼっちの子」調査を!

1. ソシオメトリックテスト

これは子どもたちに「休み時間に一緒に遊んでいる人を5人、あまり遊んでいない人を5人」などと書かれた質問用紙を渡し、その回答を図解化することで、直接様子を見ていてもわからない関係性を分析するものです。図にしてみると、中心児や周辺児、孤立児といった子どもたちの立ち位置が浮かび上がってきます。かつては「好きな友達」「嫌いな友達」という質問だったこともありましたが、これだと排斥する人を尋ねないし、子どもの普通の遊び友達を聞くだけなので、抵抗なく回答できます。ゆえに教室の実際に近い結果を得られるでしょう。

2. 文章完成法

これは先生から見て、子どもたちにとって大切だと思われること、例えば学校・友達・おうちの人・先生などを主語にして、子どもに続きの文章を連想して書いてもらう方法です。あまり説明しないで自由に書かせるのがポイントで、そうすることで何気ない本音が出ることがあります。主語を「先生は」としたときの意見は謙虚な気持ちで読みましょう。気になる意見があれば、そっと書いた子を呼んで話を聞いてみるといいでしょう。

3. ひとりぼっちの子調査

この方法は様々な指導法を提案しておられる向山洋一先生によって開発された方法の1つで、1週間ほど継続して「休み時間にどこで誰と遊んでいたか」を聞いてみるものです。5日間のうちで4,5日も1人でいる子がいれば、ひとりぼっちになりやすい子かもしれないので気にかけて見ているようにしましょう。

3 人間関係力を向上させる−横糸を紡ぐII −

人間関係力とは人と人とがうまくやっていく力のことですが、遊びの変化や社会全体のコミュニケーションの減少のため、今の子どもたちには乏しいと感じられます。大方の子どもたちが休み時間に先生方のところへ飛んできてするのは、トラブル関係の話ではないでしょうか。そんな彼らが自然にほめ合い、自尊感情を高めるのに教師が一役買うことができます。そのための実践には以下のようなものがあります。

  1. 友達の長所を見つけるトレーニング
  2. 円形型・長所発見システム
  3. 心はウキウキ! ハッピーレター
  4. ほめ言葉の「シャワー」

1. 友達の長所を見つけるトレーニング

「出席番号1個後ろの子のいいところ書いて」などと言ってやってみます。「わからん」と答える子がしばしばいますが、PTAで「ご自分のお子さんの長所を5つ書いてください」と言っても「わかりません」とおっしゃる保護者の方がいらっしゃるくらいです。そのままでは自尊感情など育っていきません。このような簡単なトレーニングで自分もほめられる経験をすることで、他の人がどのように褒められると嬉しいか、ということにも敏感になることができます。

2. 円形型・長所発見システム

まずは、机を丸く並べます。そして、子どもたちの名前を書いたプリントを順に回しながら、回って来た人の長所をそのプリントに書き込んでいくという方法です。それから回収した用紙をシャッフルして1枚ずつ読み上げ、それが誰のことを言っているのか考えさせます。そうすることで、その気になって探せば誰にでもいいところがあるということや、短所は長所にもなりうるというとらえ方が子どもたちに身についてきます。けなされるよりほめられる方が子どもも嬉しいもので、喜んで取り組んでくれます。

3. ハッピーレター

これは、最もおすすめの実践で、1時間の学級指導や道徳の時間に、友だちに良い所や好きな所を手紙に書いて届けてあげるというものです。肝心なのがもらった人は必ず返事を書くことです。書けば書くほど返事が来るので嬉しくなってたくさん書きたくなります。そうすると自然ともらえる子も増えていくのです。特に嬉しいのが、先生にもくれるようになることと、ずっととっておいて宝物にしてくれることですね。保護者に対しては、ほめることで優しくなれる、という意識喚起になることも大きいです。

4. ほめ言葉の「シャワー」

この方法は、「熟議」でも知られる菊池省三先生によって開発された方法です。「ほめほめタイム」を作って日替わりで1人の子のいいところを全員で発表しあう。上履ききれいにしてきたね!など小さなことからとにかくよくほめる。「拍手で盛り上げよう係」などをもうけて拍手の習慣をつけるようにする。このようなことを続けていくと、ほめようという雰囲気が自然と子どもたちに浸透、定着していきます。自分や他人の価値観に気づくいい機会にもなるでしょう。

4 子どもの実態に合った授業展開をしていますか?−縦糸を紡ぐI −

縦糸とは教師と子どもたちとの関係です。教師はまじめなのであれやこれやといろいろと考えがちですが、考えてよくなること以外は考えず、自分なりにリフレッシュする方がずっと有意義です。ですがただ1つ考えなければならないのが、授業をうまく組織して成立させることです。教科書に書いてある授業の進め方が常識だとは思わないでください。授業展開は目の前の子どもに合わせて変えていくものです。ここで授業構想づくりの7つのポイントをご紹介しておきます。(『子どもの考えを引き出す山本昌猷の算数の授業の作り方』山本昌猷 黎明書房 2012より)

  1. 指導のねらいを明確に
  2. 課題(問題)を明確に(学習のまとめとの対応)
  3. 子どもが飛びつく学習素材
  4. 理解を深める楽しい学習活動
  5. 子どもが燃える発問作り
  6. 子どもの力に合った授業展開
  7. 子どもの思考の流れに対応した授業づくり

5 授業をパーツで組み立てる−縦糸を紡ぐII −

落ち着きのないクラスや全体が疲れている時などには、小さな発見を繰り返すパーツ構成の授業が有効です。伝えたいことを伝えるためには、つかみで子どもたちの気持ちをぐっと引き寄せることが大切なのです。

算数であれば、なんでも正解を出してくれるはてなBOX→フラッシュカード→目と耳と口で覚える100玉そろばん→カニさんを使っての引き算の指導→たし算メイロ→たし算ビンゴなど、手を変え品を変え生徒の集中力を持続させるよう努めます。
国語であれば既習漢字の空書き復習(5分間)→新出漢字(5分間)→教材文の視写(10分間)→「あいうえお」の口の体操(2分間)→「声のメガホン」の抑揚訓練(5分間)→教材文ではない短い詩の繰り返し暗唱(10分間)→国語クイズ(8分間)のように分割することができます。  
 

授業参観などで工夫をちりばめた授業を見せれば、保護者も味方についてくれて一挙両得です。しかしこれらはあくまで子どもたちに席に着く習慣をつけてもらうための手段にすぎません。ですから始業後最初の3日間などの要所で全身全霊の授業を作ることが大切で、落ち着いて聞いてくれるようになれば従来の授業に戻して構いません。10分間パーツ教材がすべてではありませんから。

6 日記を書かせる−縦糸を紡ぐIII −

 これも継続と返事を欠かさないことが重要です。時々書かせるから不満になるのです。習慣化してしまえばだんだんと書く力もついて、本音を漏らすことも増えてきます。学級の子ども全員とコミュニケーションがとれる貴重なツールです。「文は人なり」と言われるように、本当に個性がよく見られます。

7 横糸・縦糸を強化しよう!

横糸と縦糸をいくら紡いでも、それらがよれよれではよくないですから、強化する必要があります。ポイントは大きく3点です。

  1. みんなで楽しいことをする
  2. みんなで1つのことに取り組む
  3. 全員達成の事実を作り出す

簡単な手品や、連休明けのスライムパーティーといった小さなイベントは子どもに登校意欲をわかせます。時にはみんなで汗をかいて大きなイベントを成功させれば達成感と忘れられない思い出を与えられます。若い時だからこそできる事もあるのです。第三者から見ると少々「冒険的」な実践を、子どもたちのために具現化する熱い志と実行力を、若い先生方は持たなくてはならないのではないでしょうか。子どもたちの自主性を育てるきっかけにもなります。実際子どもたちがパーティーのために自ら15枚もの企画書を書いて来たり、交渉に来たりするのです。
 
そして大きなイベントに限らず、逆上がりでもテストの点数でも全員達成は大切です。みんなで一つの目標に向かって頑張っていくのは楽しいですし、期待以上の成果が得られることもあります。場合にもよりますが、まず先生自身が「習得が自分の仕事」という強い気概を持って、諦めずに達成を目指してください。

8 編集後記

明日にでもすぐ取り入れられる小ネタから、子どもの心にずっと残るような冒険的なビッグイベントの例まで、様々なことを教えていただきました。メモを取らなければ、と思いながらも、次々飛び出す小道具に心を奪われてしまう瞬間が多々ありました。さらに古川先生の実践に触れたい方は、先生の著書やブログ、教育新聞をチェックしてみてください。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 横光明子)

9 紹介した文献

『子どもの考えを引き出す山本昌猷の算数の授業の作り方』山本昌猷 黎明書房 2012

『1年生の授業 10分間パーツ教材で集中力を高める』古川光弘 明治図書 2003

『6年生の学級経営・絶対成功する年間戦略』古川光弘 明治図書 2006

『子どもの心をどうつかむか』古川光弘 明治図書 1997

10 実践者プロフィール

古川光弘(ふるかわみつひろ)先生

教職経験年数は28年目。『子どもの心をどうつかむか』を生涯のテーマとし、日々の実践にあたる。著書多数。2013年2月、新著『学級づくり成功の原則−魔法のアイデア60選』(明治図書)を発刊。現在、教育新聞(教育新聞社)に、古川流・学級経営の真髄「教室ワンダーランド計画」を連載中。

古川光弘の教師修行
http://www1.winknet.ne.jp/~furu1962

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