心と向き合う体験が子どもの未来を創る(松原あけ美先生)

1 はじめに

この記事は、2013年8月25日に滋賀県甲賀市で行われた甲南中学校区人権教育地域ネット研修会での、松原あけ美先生の講演をもとに作成しています。

「自分の心と向き合う時間を設けることによって、自己を客観的に見つめる習慣を身に付け、自己肯定力を高めてほしい」そんな願いから生まれた、絵本を使った道徳授業の実践をご紹介します。

2 「自分の心と向き合う体験」が心を育む

子どもたちを取り囲む環境の変化

昨今の日本では、自分が何を考えたり感じたりしているのかわからない子どもが増えていると松原先生は感じるそうです。考えられる原因の一つとして、親や学校、社会が子どもたちに何もかも与えすぎてしまっていることが挙げられます。言われたことはできるし、動くことはできる、でも自ら考えて行動できない。そんな子どもたちにとって大切なのが、心が動く瞬間を感じ、自分で考え行動できる力を身に付けることです。

親子関係がその子の対人関係を基礎づける

松原先生は、人間関係の礎として、特に親子の関係を重視されます。自分の中に解消されていない思いがあると、様々な現象が現れます。その現象の中で、特に多いのが親子間に現れるものです。たとえば、母親の心の中で、中学校時代にいじめを経験した自分に対する思いが解消されていないと、自分の子どもを心から愛することができない場合があります。ある母親は、松原先生とお話をする前は、単純に子どもに対する嫌悪感から虐待をしてしまうのだと考えていました。しかし、実は、自分と性格のよく似た子どもが、自分と同じようにいじめられるのではないかという不安から、我が子を遠ざけようとしていたのです。この不安感は、母親が普段、ふたをしていた感情でした。こうした、今までは見て見ぬふりをしていた感情と向き合うことで、行動が変わると松原先生はおっしゃいます。 

3 自分の心と向き合うきっかけを作る出前授業

以上のような現状を踏まえ、松原先生は、大人や子ども、教師、生徒といった立場とは無関係に、今日を生きるすべての人に自分の心と向き合える人になってほしいと願っています。松原先生は、幼児、小学校低学年、小学校高学年、中学生以上の4つの段階用の絵本を作り、現在、出前授業を行っておられます。

そこで今回は、中学生以上を対象にした『母なる木』を使用した授業の一部をご紹介します。

教材:母なる木(Cambodia Joho Service inc 出版)

特徴:主人公の少年の心が揺れ動くさまを感じ、自分に投影することで、自分の本当の気持ちと自然に向き合うことを狙いとしています。『母なる木』は絵本ですが、普段の授業では物語(朗読)と絵と音楽で構成された映像を使用しています。

映像の一部はこちら↓
http://youtu.be/lTByGbvnAhE

本時の目標

自分とゆっくり向き合う

学習内容

映像鑑賞(約25分)

絵と音声で自分について考える時間にする

ワークシート記入(約10分)

【発問1】

あなたは自分の嫌いなところと現在どのように付き合っていますか。多くの人は本当の自分をごまかし、冗談を言ったり、話題をそらしたりして、自分の嫌いなところを見ないように心にブレーキをかけてはいませんか。本当に自分のことをしっかりと見つめられているか。改めて考えてみてほしいです。

  1. それでは自分の嫌いなところはどこですか。また、自分では直したいと思っていることを、見て見ぬふりしている自分はいますか。
  2. 自分の嫌いなところ(見て見ぬふりをしているところ)をそのままにしていたら、1年後、2年後、3年後のあなたはどのようになっていると考えますか?

【発問2】

自分の嫌いなところを意識して変えるためには、どうすればよいでしょうか。

【発問3】

変わった自分の未来はどうなっていると考えますか?

感想(約10分)

(生徒たちの実際の感想)

  • いつも、まわりでおこっていることを見て見ぬふりをしている。まわりのことを、いつも気にしている自分がいる。人に流されている自分がいる。そんな自分が大人になったら、きっと信頼されない人間になっていると思う。今日の授業で自分のことを見つめて、少し自分のことが分かった。自分と向き合う時間は、今までもったことがなかった。これからは、自分と向き合う時間をもちたい。
  • いつもオドオドしている。自分の意見を伝えることができない。たとえ間違っていると思うことでも、自分の意見を言わずに、そのままでいる。こんな自分が大人になったら、もしかしたら引きこもってしまっているのではないかと思う。これからは、少しでも自分の意見を伝えていきたい。自分の心を見つめて思った。自分は自分のことをわかっていなかったことを。

この授業で留意すること

子どもたちを決して誘導しないこと。子どもたちが、自分の心に触れる瞬間を届ける。

4 編集後記

自分が本当にしたいことが何なのかわからない、そんな経験が確かに私にもあります。自分の心と向き合うだけのゆっくりとした時間を作れない、時間があったとしても方法が分からない、そんな方が多いのではないしょうか。小さいころから自分の心と向き合うことが習慣化すると、主体的に自分の未来を創っていけると思います。取材時に、「母なる木」の一部を鑑賞しましたが、自然と物語の主人公に自分を投影し、ワークシートに今まで見て見ぬふりをしていた自分の姿を記入できました。このような時間を授業で体験できる子どもたちは、よりよい未来を創り出せるチャンスを得られるはずです。

(編集・文責 EDUPEDIA編集部 小屋松ちひろ)

実践者プロフィール

松原あけ美先生
絵本セラピストであり、一般社団法人こころ館の代表理事。心理セラピストの体験を活かして絵本を製作し、自作の物語を用いて「自分の心と向き合う体験」を届ける。子育て相談や個人セラピー、小・中学校では絵本を使った道徳授業を、大人向けには絵本を使った朗読講演などを行い、自分の本当の心と共に生きることの大切さを伝えている。
http://rainbow.holy.jp/

18

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA