1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
http://homepage1.nifty.com/morita
2 実践内容
「ちいちゃんのかげおくり」は、あまんきみこ作の戦争文学である。空襲で家族4人がバラバラになり、ちいちゃんも平和だったころ家族でやっていた、かげおくりを思い出しながら、天に昇っていくお話である。今の時代、戦争の悲惨さを伝えることは難しいが必要なことだと思う。
さて授業では、物語を一通り読んだあと感想を書いた。
- 読んでいたらすごく哀しいお話だと思いました。だから自分の命も人の命も大切にしたいと思います。
- いくさをして、ちいちゃんがお母さんと離れてしまってかわいそうでした。ちいちゃんはお母さんと離れ離れになってかわいそうでした。
- 戦争がなければかわいそうなことがなかった。そのかわいそうなことは、死んでしまったこと、かげおくりの空が戦争の空に変わってしまったこと、お母さんとお兄ちゃんが見つからなかったこと
子どもたちは、かわいそうなお話ということを感じたようだ。
次に場面ごと話の概略をつかんでいった。話の変わり目に数字を入れていくと全部で5つの段落になる。
[1]ちいちゃんがお父さん、お母さん、お兄さんでかげおくりした。
[2]ちいちゃんがお母さんと離れて一人ぼっちになった。
[3]ちいちゃんが壊れかかった防空壕の中で眠った。
[4]ちいちゃんが一人でかげおくりして、命が空に消えた。
[5]ちいちゃん位の子どもたちが笑い声を上げて遊んでいる。
各段落の要旨をつかむために空の色とちいちゃんの言葉に注目させた。
色というのは物語の状況を象徴的に表す。この物語もちいちゃんの心の変化と重なるように空の色が変わっていく。子どもたちはすぐに空の色を見つけることができた。空の色は次のように変化していく。
[1]青 [2]赤 [3]暗い夜(黒) [4]青 [5]青
空の色を確かめたあと、ちいちゃんの話した言葉に着目した。
この物語はちいちゃんの話し言葉がたくさん出てくる。上の色の問いと同じように話す言葉の変化を追ってみた。
[1]では「すごうい」で全員一致した。
[2]では意見が分かれた。
- 「お母ちゃん、お母ちゃん」
- 「お母ちゃん」
である。
〈お母ちゃん。お母ちゃん〉
- お母ちゃんとはぐれてしまったし、“叫んだ”と書いてあるから。
- はぐれて探したときには必死で探すから心をこめていっていると思う。
〈お母ちゃん〉
- はぐれたあとに見つかったから。
- お母ちゃんらしい人が見つかったから。
- はくれたあと、お母さんが見つかったとき一番心がこもると思うから。
〈お母ちゃん〉派のいうことはよく分かるのだが、文をよく読むと“お母さんらしい人”とあり、お母さんが見つかったわけではない。人違いであるのだ。結局人違いでは気持ちが強まらないから〈お母ちゃん。お母ちゃん〉になった。
3段落ではすぐに意見が一致した。4段落では二つ出された。
[3]「お母ちゃんとお兄ちゃんはきっと帰ってくるよ」
[4]「お母ちゃん、お兄ちゃん」
「なぁんだ。みんなこんな所にいたから来なかったのね」
検討するとすぐに「なぁんだ。~」で一致した。5段落は何十年後なので
[5]なし
である。こうして空の色とちいちゃんの言葉を一覧にまとめた。
段落 空の色 ちいちゃんの気持ちが一番強く込められた言葉
[1]青 「すごうい」
[2]赤 「お母ちゃん。お母ちゃん。」
[3]暗い夜(黒)「お母ちゃんとお兄ちゃんはきっと帰ってくるよ。」
[4]青 「なぁんだ。みんなこんな所にいたから来なかったのね」
[5]青 なし
この表を眺めているだけでも物語が大きく変化していることが分かる。さて次にこの物語は何日間のことが書かれているのかを検討した。
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4 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
5 書籍のご紹介
「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)
「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)
「係活動システム&アイデア事典」(2015/2/27発売)
「学級開きルール&アイデア事典」(2015/3/12発売)
6 編集後記
この作品は、小学校で長い間とりあげられ続けています。記憶に残っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。私も校庭に出て、クラスのみんなでかげおくりをした思い出があります。「戦争」という難しい題材ですが、しっかりと向き合う機会を大切にしていきたいと思いました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 樋口由惟)
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