【教育技術×EDUPEDIA】特別活動で人の役に立つ喜びを知る (スペシャル・インタビュー第2回 清水弘美先生)

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目次

1 はじめに

特別活動において国内外の教育関係者から注目される八王子市立弐分方小学校。
校長の清水弘美先生に、特別活動が豊かにする子どもの心や、学校全体で取り組む特活体制の秘密についてお話を伺いました。

なお、本企画は小学館発行の教育誌『教育技術』とのコラボ企画となっております。『小一教育技術』~『小六教育技術』11月号にもインタビュー記事が載っていますので、そちらも合わせてご覧ください。
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2 インタビュー

○弐分方小学校の特別活動が世界から注目されるわけ 

「子どもが変わる、弐分方方式の特活」 

——特別活動に力を入れている学校は他にも多々あると思うのですが、弐分方小学校が注目されることには、どのような理由があるのでしょうか。

多くの場合、特別活動(以下、特活)は学級活動にのみ力を入れています。しかし、弐分方小学校は学校まるごと特活として、特活の全部に力を入れています。また、多くの学校において特活の指導力に長けた先生は一部しかおらず、初任の先生は指導が出来なかったり、年配の先生は「特活の指導法なんて示される必要はない」と言って自己流でやるケースがあるのですが、弐分方小学校は、特活に関しては自己流禁止です。「このやり方を学んでください」というように弐分方方式を示して、全教員がそこに向かって足並みを揃えています。

今年(平成28年度)の研究テーマは、「自己を見つめ、友と考え、たくましくやり抜く子の育成」ですが、実はこれは特活の究極なのです。そして学校教育目標は「役に立つ喜びを知る」です。それで私は「役に立つ喜びを知る子を育てます」と言って徹底的にやっています。高学年の子で教育目標を言えない子はいません。1年生も3月ぐらいになったらみんな言えています。これは、人生の指針になると思います。

——特活に力を入れたことで、児童や学校にどのような変化がありましたか。

私が赴任する前の弐分方小は、落ち着かない学級がいくつもありました。近隣の小学校と中学校と弐分方小の3校で小中一貫の研究をしたのですが、その中で「自尊感情」というアンケートを取ったとき、弐分方小が一番低い結果でした。しかし、特活の研究を2年間行った結果、子どもの自尊感情がものすごく上がったのです。

「自分には良いところがある」の【とてもそう思う】の回答
  平成25年度16%
  平成26年度42%(前年度比26%増)

「自分には良いところがない」の【そう思わない】の回答
  平成25年度18%
  平成26年度4%(前年度比14%減)

平成25年から平成26年の研究なのですが、「自分には良いところがあるか」という校内アンケートに対して、「良いところがある」の回答が42%になりました。「ややある」、「どちらかといえばある」を含めても約86%になります。また、「将来の夢を持っているか」、「人の役に立つ人間になりたいか」なども軒並み上がりました。この平成26年度の数値は、東京都や日本全国の平均をはるかに超えています。

なおかつ学力も上がりました。昨年から今年にかけては運動能力も上がっています。体育研究校ではないので体育をバリバリやっているわけではないし、勉強ドリルをいっぱいやっているわけでもありません。特活をやっているだけで学力も体力も上がるし学級崩壊はなくなる。当然保護者からの苦情も激減しますし、地域からも「頑張ってるね」と評価されるようになります。

——特活を実践する上での大変だったことはありますか。

特別活動は教科書がないですから、先生方の意識や力量を整えるのが難しいです。なので、職員会議で、「校内研究として、校内全体で特活を研究します」と伝えました。私が赴任する前に、校内研究は国語だと決まっていましたが、押し切って特活に変えたのです。「(周りの先生方は)今度新しく来た校長、ちょっと大変だな。」という感じでしたが、特活を研究する中で子どもが変わっていく姿を見て、 「やっぱり特活やってみたいな。」となりましたね。


 (校長室の壁に掲示されている、清水先生自作の学校目標)

運動会に登場!「NBK410」

——特活に取り組むにあたり、まずは先生方に特活を知ってもらうことから始めたのですね。

そうですね、「特活はこうやるんです」というのを私が先生方に見せました。例えば、私が校長として本校に来て2年目に、東京多摩国体が開催され、「ゆりーと」というマスコットキャラクターを中心とした「ゆりーとダンス」が国体で作られました。

そこで、休み時間に「踊りたい子、ちょっと集まって」と声をかけて、「N(弐)B(分)K(方)410(人の子ども達)」っていうチームのもと、そのゆりーとダンスを踊ったのです。インターネットで踊りの動画をダウンロードして、体育館でプロジェクターに映して、それを見て子どもたちが練習しました。最初は10名ほどでしたが、子ども達はどんどん集まってきました。休み時間だから外で元気に遊びたい子もいます。そういう子がいてもOKです。自主的に集まるのが特活なので。そして、どんどん集まるうちに上手くなるので、左右反対に踊れる子はダンスリーダーという名前を付けて舞台の上で踊らせます。みんなダンスリーダーになりたいので、どんどん舞台に上がってくるから、その都度下手な子は降ろしてプレッシャーをかけ、子どもの意欲を掻き立てましたね。

そしてこのダンスを児童会主催で運動会の全校種目に入れたのです。種目が決まったら、児童会の子たちを呼んで、「秋の運動会では全校ダンスをしたいから、君たちがその全体のリーダーになって頂戴ね」と言って、それで児童会主催の種目として進めていきました。それから、彼らが休み時間にビデオやプロジェクターを準備したり、「今、体育館でダンスやってます」って放送してくれたり、子ども達が中心になって活動を盛り上げていくわけです。

そして、本番は弐分方小の子ども410人と先生、保護者の他に、中学校の部活動や保育園、老人会など約800人が参加しました。老人会は、シッティングバージョンとして座りながら踊るのですが、夏休み何度も老人会に行って、子どもがおじいちゃんやおばあちゃんに踊りを教えました。他にも市長や当然ゆりーとも来て、地域のありとあらゆる人が皆で踊って、凄い勢いで盛り上がりましたよ。特活は多くの人に努力を認めてもらうことが大事で、校内で先生たちから褒められるより、地域の人に「凄いね」と言ってもらう方が、子ども達のモチベーションは上がります。


 (運動会に贈られた市長からの感謝状やメディア掲載記事)

○弐分方特活の秘密

「自分事」

——特活を学校全体で行うにあたり、根底にある髄みたいなものはありますか。

キーワードは「自分事」です。だから、活動をしていて「自分は関係ない」って蚊帳の外にいる子はいません。それぞれ自分ができることを、自分のこととして考えて参加するようにします。自分事の反対は他人事。他人事ってするなら人の不幸も蜜の味になってしまいます。反対に、他人のことも自分のことって思って一つのことに向かっていれば、人の痛みも分かる人間になれると思っています。

——特活に進んで取り組む子と内気に取り組む子がいると思うのですが、内気な子へのアプローチはどのようにしていますか。

内気でも全然問題ないですよ。特活は差異を受け入れるものですから、内気な子は内気なまま、出っ張る子は出っ張ったままでいいのです。例えば、何かクラスで目標を作った時に、その目標を達成するために自分には何ができるかを考えます。内気な子はプログラムを書くとか、出っ張りの子は司会をやるとか。そういう自分でできることは自分で決めて、それを実践するのです。

「乗り越えるべき壁」

——目標に向かって、しかも自分の関わり方で参加できるっていう安心感というのも、子どもの中にあるのでしょうか。

そういうことを学ばせるために、乗り越えるべき壁を作らせるわけですよ。そこが特活の仕掛けです。そのままやりなさい、だったら壁でもなんでもないです。唯一の壁はつまらないという壁。つまらなさをどう我慢するか、みたいな。それではだめです。「こういうふうにやりたいなら、どうすればいいかまず考えなさい」と言います。それから、そのアイデアを実現するためにはどうしたらいいか考えて、でもそれはあなただけの意見でしょ、周りの人はどう思っているかっていうことも考えて、となる。いつも、考えて考えて考えて。そういうことを学級会や班、委員会の単位で何回も繰り返します。

弐分方小ではかなり苦しい壁を立てますが、そのような壁をちゃんと作ってあげることで壁を乗り越えた時に達成感があります。だから泣いちゃうんです。苦しいより楽しい気持ちが大きいです。教師のいろいろな仕掛けの中で、子どもに成功体験や感動を味わわせる。仲間と、本物と、感動。これがなかったら特活になりません。その仕掛けを作るのが、特別活動の教材研究です。

「異年齢活動」

それと、弐分方小のウリは縦割り班。この異年齢交流の班で運動会の席も座っています。自分の縦割り班の中には1年から6年までいるので、全ての競技に自分のお姉ちゃん、お兄ちゃん、もしくは自分の弟や妹たちが出てる。だから、全ての競技が自分事です。自分の出番が終わってもずっと応援してますよ。「頑張れ~、頑張れ~!」って。

それから5、6年生は毎年、集団行動という演技をします。これは一見全員が同じ動きをしているように見えますが、実は全然違うんです。1人ずつ体の大きさが違いますよね。だから、大股で歩かなきゃいけない子、小股で歩かなきゃいけない子、それぞれがみんな違う動きを考えてやってるわけですよ。これも1人でも欠けたら、1人でもずれたら集団行動にならない。1人1人がみんなの「役に立つように」ですね。


(昇降口に掲示されている縦割り班の掲示物)
 6年間同じ班に所属することで、仲間との絆を深める

「振り返りをぎっちり書かせる」

——特活の評価はレポートなどで行うのですか?

そうです。弐分方小の特活は、振り返りをぎっちり書かせます。全てのことに振り返りを書かせているので、たくさん書くことによって、学力も伸びている気がします。

例えば学芸会だったら、振り返りはリーフレットを作ります。〝自分たちはこの活動を通してどんなクラスを作りたいのか、どんな自分になりたいのか″ということを教師は熱く語り、なおかつ子どもは自分の自己決定をしていくわけです。子どもたちは、〝自分たちは学芸会を通して何を学ぶのか″〝学芸会が終わったときにどんな自分になっていたいのか″それをリーフレットの中に書いていくのです。また、〈友達や他学年の良かったところを見つけよう〉など、毎回の練習で自分の振り返りをしっかり入れます。「~ちゃんへ」というように、保護者が子どもに充てて書く欄もあって、保護者も巻き込んで一緒に学芸会を作っています。

——友達の良いところを書くことは、他人事にせずに自分事にするということですよね。

そうです。それで、同じ価値観を持っているから、友達もそこに向かって頑張っているんだなって思います。例えば学芸会での発表は、自分だけでなく友達も恥ずかしいはずですよね。でも、恥ずかしいのを我慢して声を振り絞っている友達の姿を見た時に、「ああ自分も頑張らなきゃ」って、お互いに刺激を受ける。だから、学芸会は、自分はこんなに頑張れたっていう自分の良さもあるけど、友達の良さにも気付くわけです。

そして同時に、みんなで作り上げたその感動は、日常にもたくさんあります。だから、学芸会という大きいところで「仲間と創り上げる喜び・協力」というものをバーンと教えて、日常的な生活においても実践できるような汎用的な能力として落としていくわけですね。

——1回そういう体験を体と心で感じることで、そこにみんなで向かっていくっていうのが日常になっていくのですね。学校の教育目標ってただあるだけじゃなくて、達成するためにあるとうことを感じました。

その通りです。学校教育目標はあるだけでは意味がない。弐分方小はもう合言葉ですから。合言葉でなおかつ自分を鼓舞する。だから、「役に立ったね」っていうのが私の最高の褒め言葉です。「うまいじゃん。」より、「役に立ってるじゃん。」って言われると子どもはすごく嬉しい。

——「うまいじゃん」よりも「役に立ってるじゃん」の方が「生きてていいんだ」って思える気がします。

○特活への思い

——特別活動をしていて、一番の喜びは何ですか?

子どもが学校が楽しいと感じるということ、「自分はやればできる。だからやってみる」と前向きに思ってくれることの2つです。

特別活動の成果が大きく表れるのは卒業式です。小学校の卒業式では「1年生、初めての入学式」などと時系列であったことを語るという呼びかけをするのですが、私はあれが大嫌い。卒業式で言うべきなのは、〝自分がこの学校で何を学んで、どういう自分になって、未来をどう考えているか″その1点に尽きる。だから、やってきたことを時系列で並べる必要はないと思います。「友達と」じゃなくて、「〇〇ちゃんと。」というふうに自分事として喋らせます。だから喋っているうちに子どもたちが感動して泣いてしまう。卒業式はアドリブあり。「こんな学校つまらなかった」と言われたら、儀式が台無しになってしまうけど、事前に子どもたちが何を言うかを教員が点検しなくても、子どもたちは外れたことは言いません。そこまで指導してあるという自信のもとで、アドリブをやらせる。それを任せられるのは、卒業式を自分事として捉えている子どもたちを信じているからです。

他にも、6年生に必死で呼び掛ける5年生が呼び掛けるセリフもとても良いんです。5年生にも、自分たちが場の空気を作っているという自覚を持たせて自分事として参加させます。

「人生を楽しむ特活脳」

——先生の発想はどこから来るのですか。

私は自分のライフワークとして特別活動をやっているのですが、私の人生の中で特別活動が自分に合うなって思っているのは、面白いことが好きだからでしょうね。「楽しい」ということが何より大事です。子どもはみんなで楽しいことをしていれば脳が伸びます。反対に、楽しいことをしている時でないと伸びない。

それで、私は「特活脳」と言っているのですが、脳が特別活動の思考回路になったら人生もっと楽しくなるし、学校が抱えるトラブルはほとんどなくなるでしょう。特活脳を持つためには、特活を本気でやることです。そうすると自然と特活脳になる。

——今後の先生の展望など教えていただければと思います。

特別活動を全国の先生方に理解してもらいたい。つまり、先生方に特活脳を身につけてもらいたいですね。特活脳で考えて、苦しむ先生を減らしたいと思います。特活をやっていて思いますが、こんな楽しい仕事ないです。

〇教員は「未来と交信する」仕事

——最後に現場の先生方や、これから先生を目指す方へ向けてメッセージをお願いします。

これから教員を目指す方には、特活についてしっかり勉強してほしいと思います。どうやって集団をつくるのか、楽しいことをどうやって企画するのか、苦しいことがあったらどう乗り越えさせていくのか、子どもをその気にさせる技術、そういうことが特活の1つだから、それを大学で学んでもらいたいですね。

それと、教員の仕事は「未来と交信する仕事」です。だから、私が死んだ後も私が教えたものの考え方は、子どもたちの中でまた繋がっていきます。例えば「人の役に立つってことは素晴らしい」と教えられた子どもは、自分が大人になった時に自分の子どもに「人の役に立つことが大事だよ」と教えるようになる。そうやって、今に生きていながら未来を作っていくことができるのです。それが教師の仕事の醍醐味だと思います。

(取材/編集:大山瑞稀、大和信治)

3 清水弘美先生の紹介

東京都八王子市立弐分方小学校校長(2016年10月現在)
 保護者や地域を巻き込み、学校全体で特別指導を柱にした教育活動に取り組み、校内の学力・体力向上、学級崩壊のない学校づくりを実現。多くの子に「人の役に立つ喜び」を知ってもらいたいという思いで、校外でも特別活動の普及に努める。
 また、日本の特別活動を発信するため、エジプトやモンゴル、インドなど世界からの視察を受け入れている。

4 清水先生・弐分方小学校の著書

台本選びから演技指導・演出法まで 学芸会の指導~成功への道筋~

学芸会の指導~成功への道筋~

学芸会の指導を通して、子どもたちの「想像力」「表現力」「コミュニケーション力」を育み人間性を育てる方法など、指導のポイントが豊富な図版で解説されています。

(清水弘美「学芸会の指導 ~成功への道筋~」|ウチノヨメ)

みんなでできる!心がまとまる!集団行動の指導法

みんなでできる!心がまとまる!集団行動の指導法

集団での隊列、行進、交差など、運動会で指導がすぐにできる指導の内容が連続写真で丁寧に解説されています。

5 関連ページ

教育技術.net

『小一教育技術』~『小六教育技術』11月号に掲載の清水先生インタビュー記事も合わせてご覧ください。

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