オンライン授業での著作権について―「授業目的公衆送信補償金制度」をわかりやすく解説【コロナと向き合う】

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目次

1 はじめに

本記事では、教育機関が著作物を公衆送信(≒インターネット送信)できる「授業目的公衆送信補償金制度」についてわかりやすくご紹介します。

新型コロナウイルスの感染拡大は教育現場にも大きな影響を与えており、対応に追われている先生も多いのではないでしょうか。EDUPEDIAでは、必要な情報が教育関係者に届くように、【コロナと向き合う】特集をはじめました。

2020年4月28日に施行された制度「授業目的公衆送信補償金制度」により、教育機関が個々に著作権者の許可を得ることなくインターネット等を用いて著作物を送信することが認められるようになりました。しかし、この制度があるからといってオンライン授業においてすべての著作物の利用が無制限に許可されるわけではありません。

そこで本記事では、この「授業目的公衆送信補償金制度」の概要とその適用例についてわかりやすくご説明します。突然のオンライン授業づくりに困惑していらっしゃる先生方の一助となれば幸いです。

なお、本記事はあくまで「授業目的公衆送信補償金制度」をはじめて知る先生に向けた簡単な説明を目的として執筆しています。詳細な説明を省いている関係でもしかしたら多少の語弊があるかもしれません。また、本記事に掲載しているのは基本的なルールであり、実際にはたくさんの例外が存在します。詳しく勉強なさる方は必ず「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会 SARTRAS」HP等をお読みください。
(最終更新:2020/5/23)

2 「授業目的公衆送信補償金制度」の内容をわかりやすく

ここからは、「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会 SARTRAS」HPに掲載されている「授業目的公衆送信補償金制度」の概要(以下「概要資料」)をもとにご説明します(最終閲覧:2020/4/28)。

 

 「授業目的公衆送信補償金制度」って何?

「授業目的公衆送信補償金制度」とは、営利目的でない教育機関において、補償金を支払う代わりに著作物を公衆送信(≒インターネット送信)できることを定めた制度です。「教育のICT化が進む中で著作物の円滑な利活用を促し、教育の質の向上を図ること」を目的としています(概要資料より抜粋)。2018年の著作権法改正に伴い創設され、2020年4月28日に当初の予定を繰り上げて早期施行されました。
※著作権法改正の内容については文化庁の資料をご覧ください。

この制度の開始により、新聞・小説・辞書・写真・絵画・地図・楽譜などといったさまざまな著作物を教員が学校の授業の中で教材として利用する際、それをインターネットで送信することが可能になりました。つまり、オンライン授業で子どもに向けて著作物を送信することが容易になったのです。

 

 「授業目的公衆送信補償金制度」で今までと何が変わるの?

改正前の著作権法においても、教育機関が授業に使用するためであれば、紙媒体での著作物の配布は無許諾で認められていました。しかし、同じ著作物でもインターネットを通して送信するとなると、個別に著作権者の許諾を得なければならなかったのです。オンライン授業でインターネット送信をするたびに著作権者を見つけ、交渉し、許諾を得ることは非常に困難でした。

しかし、この制度の施行によって、著作権者の団体に補償金をまとめて支払う代わりに、紙媒体だけでなくインターネットを通して送信する場合においても、著作権者への個別の許諾を得ることが不要になりました。

 

 「授業目的公衆送信補償金制度」を使うために必要なことは?

 ①補償金の支払い

「授業目的公衆送信補償金制度」を適用するためには、教育委員会や学校法人など教育機関の設置者から一般社団法人「授業目的公衆送信補償金等管理協会 SARTRAS」(著作権者の団体)に対して、著作権者の権利を守るための一定額の補償金を支払う必要があります。

ただし、新型コロナウイルス感染症対応を鑑みた特例により、2020年度に関しては補償金が無償とされることになりました。

■2021年2月追記■

2021年度の補償金の金額については、以下のように規定されています。

「授業目的公衆送信補償金の額の認可について」文化庁。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/92728101.html>(最終アクセス日:2021/2/12)。
 

 ②所定の届け出

また、教育機関の設置者は制度の利用前に、SARTRASに所定のファイルにて届け出をする必要があります。届け出る必要があるのは、在学者の人数など補償金額算定にかかわる情報です。
※届け出に必要な情報はSARTRASのHPからご覧ください。

本来は制度利用前に届けを提出することが望ましいですが、制度開始の決定が急であったため、SARTRASは後日の届け出を認めています。可能な範囲での速やかな届け出が推奨されます。

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「授業目的公衆送信補償金制度」の大まかな内容について知っていただけましたでしょうか。次は「授業目的公衆送信補償金制度」が具体的にどんなときに適用され、どんなときに適用されないのかご説明します。

3 「授業目的公衆送信補償金制度」の適用例をわかりやすく

ここからは、「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会 SARTRAS」HPに掲載されている改正著作権法第35条運用指針 令和2年度版(著作物の教育利用に関する関係者フォーラム)(以下「運用指針」)をもとにご説明します(最終閲覧:2020/4/28)。

 

 「授業目的公衆送信補償金制度」にかかわる条文

ここからは、「授業目的公衆送信補償金制度」が適用される例・されない例について、運用指針に掲載されている条文の言葉の定義から確認していきます。

前の章でも述べた通り、2018年の著作権法改正により「授業目的公衆送信補償金制度」が創設されました。ここでは、この制度にとくに関連する第35条を取り上げてご紹介します。

第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

3 前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない。

※条文はe-Govより引用。

以上を簡単に要約すると、「授業目的公衆送信補償金制度」とは

  • 営利を目的としない教育機関で
  • 教育を担任する者・授業を受ける者は
  • 授業の過程で利用する場合には
  • 必要と認められる限度において
  • 著作物を公衆送信できる。
  • ただし、著作権者の利益を不当に害する場合は適用されない。

という内容になります。

ここからは、具体的にこの条文が適用される場面について、条文の言葉を少しわかりやすくかみ砕きながらご説明します。

 

 「授業目的公衆送信補償金制度」の定義

 「授業」とは

「授業目的公衆送信補償金制度」の適用が認められているのは、学校にかかわる活動すべてというわけではありません。あくまで「授業」の過程で利用する著作物に限って適用される制度です。では、この「授業目的公衆送信補償金制度」が適用される「授業」とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。

運用指針によると、ここで「授業」に該当するのは、通常「授業」と聞いて想像するような教室での教科の授業に加え、以下のような場面も含まれます。

<「授業」に該当する例>

  • 初等中等教育の特別活動(学級活動、クラブ活動、児童・生徒会活動、学校行事など)
  • 初等中等教育の部活動
  • メディア授業(インターネットを通した授業)
  • 子どもの予習復習

しかし、以下のような場面は「授業」ではありませんので、この制度の適用はなされません。

<「授業」に該当しない例>

  • 教職員会議
  • 入学志願者への学校説明会
  • 保護者会


※「授業」に該当する例・しない例については、運用指針に詳しく記載されています。

 

 「公衆送信」とは

「授業目的公衆送信補償金制度」という名称にも用いられている「公衆送信」という言葉は、普段あまりなじみのない言葉かもしれません。この制度が想定している「公衆送信」とはどのような場面を指すのでしょうか。

運用指針によると、公衆送信とは、有線放送やインターネットを通じて、不特定または特定多数の者に送信することを指します。学校における具体的な場面としては、以下のようなものが想定されます。

<「公衆送信」の例>

  • 学外に設置されているサーバーに保存された著作物を、児童・生徒からの求めに応じて送信すること
  • 多数の児童・生徒(公衆)へ著作物をメール送信すること
  • 学校のホームページへ著作物を掲載すること

※学校のホームページへの著作物の掲載については、児童・生徒だけでなく不特定多数の者が閲覧できるような形にした場合、次項の「著作権者の利益を不当に害する」例に該当すると考えられます。

※「公衆送信」に該当する例については、運用指針に詳しく記載されています。

 

 「著作権者の利益を不当に害する」とは

「授業目的公衆送信補償金制度」の適用下で授業に使用する目的であったとしても、必ずしもすべての著作物の利用が無制限に認められるわけではありません。著作権者の利益を不当に害することのない、授業に必要と認められる限度での使用のみが認められています。では、ここで「著作権者の利益を不当に害する」ことのない利用とはどのように定められているのでしょうか。

運用指針によると、著作権者の利益を不当に害するか否かについては、学校の公衆送信によって市販の著作物の売れ行きが低下したり、将来における著作物の潜在的販路を阻害したりするかどうかという観点から判断されます。そのうえで、「複製する部数」「複製する範囲」の2点において著作権者の利益を害さないための基本的な考え方が提示されています。

  • 原則として、複製部数あるいは公衆送信の受信者の数は、授業を担当する教員等及び当該授業の履修者等の数を超えないこと。
  • 原則として、著作物の(全部ではなく)小部分の利用であること。

※写真や新聞記事等、著作物の種類によっては全部の利用が認められる場合もあります。

この考え方に基づいて、運用指針では以下のようなケースは著作権者の利益を不当に害する可能性が高いとしています。

<著作権者の利益を不当に害する可能性高>

  • 一人の教員が授業のたびに同じ著作物の異なる部分を利用することで、その授業全体での著作物の利用が「小部分」ではなくなること
  • 通常は購入して利用する教師用指導書や参考書、一人一人が学習のために直接記入する問題集やテストぺーパー(過去問題集を含む)等について、もとの資料を買わなくてもよい形で複製し公衆送信すること
  • 組織的に著作物をストックし、データベース化すること

※著作権者の利益を不当に害する可能性が高い例については、運用指針にとくに詳しく記載されています。

4 「授業目的公衆送信補償金制度」にまつわるFAQ

ここからは、「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会 SARTRAS」HP内の2020年度補償金制度利用に関するFAQに掲載されているFAQのうち、とくに先生方にお伝えしたいポイントを抜粋してご紹介します(最終閲覧:2020/5/14)。

 教科書についてのFAQ

Q.教科書や指導用教材を用いた授業を撮影し配信する場合、「授業目的公衆送信補償金制度」の対象になるか? 指導用デジタル教科書の場合は?

A.オンライン授業が行われる単位の児童生徒への配信であれば制度の対象になります。

撮影した動画の中に教科書に掲載された著作物が映ったり、指導用教材の音声や映像等などが入ったりしても、通常は問題ありません。指導者用デジタル教科書や指導者用デジタル教材も同様です。
 

Q.教科書の教師用指導書中の提示用資料や児童生徒配布用資料を用いた授業をオンライン配信する場合、「授業目的公衆送信補償金制度」の対象になるか?

A.制度の対象になります。扱いは教科書と同様です。

※教師用指導書(付属ディスクを含む)掲載の資料のうち、何が児童生徒配布用のものであるかについては、利用規約・使用許諾書等をご確認ください。

※音楽の教師用指導書に付属するCDの音源やDVDの動画の利用にあたっては、著作隣接権の利用許諾が必要である場合があります。発行会社のHP等の確認や発行会社へのお問い合わせを行ってください。
 

 動画配信についてのFAQ

Q.オンライン授業用の動画をYouTubeで配信する場合、「授業目的公衆送信補償金制度」の対象になるか?

A.当該授業用動画をアップした先生が担当または担任する授業の子どもに公開先が限定される場合、制度の対象になります。

<例>

〇当該動画を「限定公開」または「非公開」に設定した場合は制度の対象。

×当該動画を「一般公開」に設定した場合は制度の対象外。
 

Q.学校のホームページでオンライン授業用の動画を配信する場合、「授業目的公衆送信補償金制度」の対象になるか?

A.担当または担任する授業の子どもに公開先が限定される場合、制度の対象になります。

<例>

〇閲覧権限をID・パスワード管理によって付与した場合は制度の対象。

〇ファイルを暗号化、当該授業を受ける子どもにのみパスワードを教示した場合は制度の対象。

×学校のホームページに単にアップロードするだけで、誰でもダウンロードや視聴ができる場合は制度の対象外。
 

※その他のFAQについては2020年度補償金制度利用に関するFAQをご覧ください。

5 「授業目的公衆送信補償金制度」のまとめ

最後に、「授業目的公衆送信補償金制度」の内容をもう一度簡単にまとめます。

「授業目的公衆送信補償金制度」とは、営利目的でない教育機関において著作物を授業に利用する場合、補償金をまとめて支払う代わりに著作物を公衆送信(≒インターネット送信)できる制度です。

ただし、著作権者の利益を不当に害する場合、「授業目的公衆送信補償金制度」は適用されません。

この制度についてもっと詳しく知りたい方は、以下の参考リンクをご覧ください。

また、公衆送信以外の学校での著作権の扱いについての記事もぜひ併せてご覧ください。
今さら聞けない! 学校で著作権侵害にならない4つのパターンとは?

6 「授業目的公衆送信補償金制度」に関する参考リンク

「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会 SARTRAS」。<https://sartras.or.jp/>(最終アクセス日:2021/2/12)。

「令和2年度における授業目的公衆送信補償金の無償認可について」文化庁。<https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/2020042401.html>(最終アクセス日:2021/2/12)。

「平成30年著作権法改正による「授業目的公衆送信補償金制度」に関するQ&A」文化庁。<https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/2020042401_04.pdf>(最終アクセス日:2021/2/12)。

「教育の情報化の推進のための著作権法改正の概要」文化庁。<https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_14.pdf>(最終アクセス日:2021/2/12)。

「著作権法」e-Gov法令検索。<https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048>(最終アクセス日:2021/2/12)。

7 編集後記

「授業目的公衆送信補償金制度」についてご紹介しました。本記事はあくまではじめてこの制度を知る方へ向けた簡単な説明を目的とした記事であることをご理解ください。本記事が突然のオンライン授業づくりに困惑していらっしゃる先生方の一助となれば幸いです。
(文責・編集:EDUPEDIA編集部 津田)

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